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タックス ポリシー ~日系多国籍企業の外部開示事例を踏まえて~

Japan Tax Newsletter:2017年10月1日号

2015年12月1日号「タックス コーポレートガバナンス」(以下「前稿」)において、「タックス ポリシーの制定をはじめとする、タックス コーポレートガバナンスに係る適切な施策、実行および改善が行われている常態が今後わが国においてスタンダードとなっていくのではないかと思われる。」と筆者は述べた。その後日系多国籍企業においてタックス ポリシーの外部開示事例が見受けられるようになった。そこで本稿では、日系多国籍企業による外部開示の動向を踏まえてタックス ポリシーの内容について考察してみたい。(Japan Tax Newsletter:2017年10月1日号)

1 はじめに

タックス ポリシー(税務ポリシー、Global Tax Management 基本方針など、わが国の実務上ではその呼称が様々となっているのが実情であるが、本稿では便宜上「タックス ポリシー」とする)について、日系多国籍企業の外部開示事例が増加傾向にある。本稿ではこれらの外部開示事例を念頭に置きながら、タックス ポリシーの内容に関する考察をしていくこととする。なお、本稿は特定の企業のタックス ポリシーの批評を行うことを目的とするものではなく外部開示事例は考察の材料として参照しているに過ぎないこと、英国での大企業の税務戦略公表義務に関しては考察の対象外となっていること、並びに、本文中の意見にかかわる部分は筆者の私見であり、デロイト トーマツ税理士法人を含むデロイト トーマツ グループによる公式見解ではないことに留意されたい。

2 タックス ポリシーの位置付け

前稿で筆者はタックス ポリシーについて次のように述べたが、外部開示という目線での考察はしていなかった。

「タックス コーポレートガバナンスを強化・改善する上で重要なことはタックス ポリシーを定めることである。勿論、組織や人材も重要であるが、いかに優れた組織構造を有し、適切な人材配置を行っていたとしても、彼らの行動規範・判断基準となるべきものがなければ企業グループが租税に関して一貫した取組みを実施することはできない。そのため、タックス ポリシーには、自社にとっての納税を定義することは勿論、自グループに属する法人および個人が組織としてタックス コーポレートガバナンスを遂行する上で必要となる、行動規範の原則が示されている、言い換えれば、適切な租税負担に関する一種の憲法とでもいうべき役割が求められるのである。」

そこで本稿では、まず、外部開示の観点も踏まえながらタックス ポリシーの位置付けについて考察していく。タックス ポリシーにおける大前提といえる適切な租税負担が企業にとって一種の公的な義務であることに異論を唱える向きは少ないであろう。だとすれば、適切な租税負担とは企業理念に含まれていくべき事項といえる。しかしながら一方で、企業理念とは、通常あるべき企業文化を極めて簡潔かつ観念的に示す内容とされていることがほとんどであり、社会貢献や法規遵守などの用語の中に適切な租税負担が含まれると読み取ることはできても、企業理念そのものに直接的に適切な租税負担に言及している事例は極めて例外的であると思われる。

このため実情としては、企業理念そのものではなく、CSR(Corporate Social Responsibility)の一要素、コーポレート ガバナンスのための行動規範(Code of conduct)などの企業理念をより具体的に示している規定として、適切な租税負担を含むタックス ポリシーが開示される傾向となっている。

3 タックス ポリシーの読み手は誰か

タックス ポリシーを外部開示するからには、その読み手が想定されている必要がある。タックス ポリシーが企業のホームページ上で開示されていることからすると、読み手は広義には一般社会であると、狭義にはその企業あるいは企業グループ(以下「企業」)への関心を持つステークホルダー(潜在的な者を含む)であると考えられる。

なお、タックス ポリシーには、当然のことながら企業内利用として期待される役割もあり、外部に公表していないが既にタックス ポリシーを定めている企業や、外部にタックス ポリシーを公表している場合であっても概略的な記載に留め、企業内で共有する指針やマニュアルなどは別途作成している場合もある。企業内利用用と外部開示用のタックス ポリシーを統一することも当然可能であるが、その想定する読み手が外部に限定されるのであれば、タックス ポリシーの内容を外部目線に揃えるということも起こり得る。

4 タックス ポリシーで定義すべき事項と外部開示の範囲

(1) タックス ポリシーで定義すべき事項(例)

開示先の内外を問わない場合、タックス ポリシーには、例えば、次のような事項が定められている必要があると考えられる。

  • 持続的成長と株主価値(企業価値)の最大化への貢献
  • 税務関連法規の遵守(コンプライアンス遵守)
  • 税務組織とその責任範囲
  • 税務ポジション決定に係る諸要素(例:事業目的優先)
  • 税務申告書提出期限・納税期限の順守
  • 適切な移転価格(企業内取引価格)の設定
  • 税務当局との誠実かつ良好な関係
  • 税務リスクマネジメントの管理体制・手法
  • 外部専門家の起用基準

(2) タックス ポリシーの外部開示の範囲

タックス ポリシーの外部開示の要否およびその範囲については、現状わが国では規定がない。すなわち、外部開示について義務や制限があるわけではない。よって、上述のとおり、その想定される読み手を念頭に置いて、企業として発信すべきと判断した事項に集約されていくと思われる。

企業として当然に記載せねばならないことは法令順守に基づく適切な租税負担であり、この点は日系多国籍企業の外部開示事例でも税務関連法規の遵守(コンプライアンス遵守)という観点を通じて必ず記載されている。税務申告書提出期限・納税期限の順守や、適切な移転価格(企業内取引価格)の設定についても外部開示されている事例が多いようである。

一方で、株主価値(企業価値)の最大化や各ステークホルダーとの利害調整に言及している事例や、税務当局との誠実かつ良好な関係について言及している事例は、比較的限定的である((注)記載をしていない=実施をしていない、との意図ではない)。その他の事項に関しては濃淡があり、比較的広範に記載している場合と、必要最小限の記載に留める場合の双方があると見受けられる。

タックス ポリシーの外部開示目的が、レピュテーション対策などの外部からの評価目線になる場合は、OECDを中心に世界各国が協調して対策を進めているBEPS(多国籍企業の活動実態とルールの間に生じたずれを利用することで、課税所得を人為的に操作し、課税逃れを行うこと)に該当する行為や、タックスヘイブンを利用した不法行為や租税回避行為に該当する行為に関与しないことなど、単純な法令順守以外の非倫理的とみなされ得る行為を実施しないと規定することにつながっていくと考えられる。BEPSとされる行為が生み出す結果(例:国際的二重非課税)や、パナマ文書において白日の下に照らされることとなったタックスヘイブンを利用した逸脱行為については、日系多国籍企業においては大よそ無縁のものであることは、わが国において国際税務に従事している者であれば当然のように理解できることであり、またさらにタックスヘイブンに関しては租税法上その定義の仕方が様々であり、先進主要国の中においても低税率国とされる国(タックスヘイブンとされ得る国)も複数存在することから、日系多国籍企業がこれらの国々に拠点を置かずに事業を遂行することもできないこともまた当然に理解できるわけであるが、このようなことはその企業への関心を持つステークホルダーであったとしても税務に関する専門的な知見がない限り容易には理解できないと考えられる。以上のような背景を想定すると、企業として従前より維持されている当然の行為であっても、外部向けにこれらを強調することに意義が生じるといえるだろう。

5 結び ~タックス ポリシーに基づくガバナンス強化~

タックス ポリシーに求められる役割が、企業に属する法人および個人が組織としてタックス コーポレートガバナンスを遂行する上で必要となる行動規範の原則が示されていることにあるとすれば、一般的には、幅広い事項が概念的に規定されていることが求められる。一方で、タックス ポリシーの外部開示に重きを置いた場合、前述のとおりその読み手の違いから記載内容が変わっていくことが起こり得る。この場合、外部開示の内容は必要最小限に留め、残りは別途内部用の税務指針を設けるなどの対応を取っていくことが一般的と考えられる。

ところで、外部開示とは別にタックス ポリシーに基づくガバナンス強化を考えた場合、企業内利用のものを定めたとしてもそれだけでは不十分である。税務は企業活動のあらゆる面で影響を与え、企業のあらゆる部署に関連する。ゆえに企業の税務グループが行動規範やマニュアルなどの実務指針に基づき適切に業務を実施していたとしてもまだ十分とはいえない。今後日系多国籍企業がタックス ポリシーを定め、開示する事例は更に増えていくと思われるが、同時にタックス ポリシーに基づく企業内部向けのより具体的な実務指針を、既存の税務以外の規程などとの調和を図りつつ制定した上で、企業内に横断的に根付かせるさらに踏み込んだ施策(PDCAを含む)が必要になっていくものと思われる。

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