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平成29年度税制改正が株式交付信託に与える影響

『国税速報』平成29年9月11日号

本稿では、「退任時交付型の株式交付信託」を導入している会社に対する税務上の取扱いで、平成29年度税制改正による影響を受ける点について解説する。(『国税速報』平成29年9月11日号)

【疑問相談】法人税

「平成29年度税制改正が株式交付信託に与える影響」

Question:
上場会社である当社では、従来より役員らの士気向上・中長期的な業績向上を視野に入れたインセンティブプランとして、株式交付信託を導入しています。当該株式交付信託は当社を委託者、信託銀行を受託者として、当社のすべての役員に対しその在任期間の業績の達成度等に応じてポイントを付与し、役員の退任時にそのポイントに応じた数の当社株式を交付する仕組みの信託です。また、当該株式交付信託は税法上、当社の役員株式給付規程や信託契約の内容より、委託者である当社を唯一のみなし受益者とする受益者等課税信託と判断しています。

このたびの平成29年度税制改正により、このような株式交付信託に係る税務上の取扱いについて、影響を受ける点があれば教えてください。

Answer:
貴社の導入している株式交付信託は、いわゆる「退任時交付型の株式交付信託」であり、その交付される株式の権利確定日の時価に交付株式数を乗じた金額がその役員に対する退職給与として取り扱われ、不相当に高額な部分の金額を除き損金算入が可能となるものです。税制改正後は業績連動給与に該当する退職給与は、損金算入要件を満たす場合についてのみ損金算入が認められることとなりました。また、役員の在任期間中に株式を交付する「在任時交付型の株式交付信託」については、改正前は損金算入が認められる規定がなかったところ、業績連動給与若しくは事前確定届出給与の要件を満たすものについては、損金算入が認められることとなりました。

【解説】

1 株式交付信託の概要

「株式交付信託」とは、信託を通じて役員又は従業員に自社株式を付与する目的で締結される信託契約のことで、次ページに図示したように会社を委託者、信託会社を受託者、役員等を株式の給付を受ける者(受給予定者)とし、①から④の流れで役員等に株式が付与される仕組みです。税法上は委託者である会社をみなし受益者とする受益者等課税信託となるように設計され、受益者等課税信託に該当する場合には、信託財産に属する資産及び負債はその受益者が有するものとみなし、かつ、その信託財産に帰せられる収益及び費用については、その受益者の収益及び費用とみなして課税が行われます(法法12①)。つまり、受益者等課税信託の受益者はその信託で生じる取引をあたかも自身の取引とみなして、法人税法上の取扱いを判断する必要があります。より具体的には、本件のように、委託者である会社がみなし受益者である受益者等課税信託に該当する株式交付信託に係る主な取引ごとの税務上の取扱いは次のようになるものと考えられます。これらの取扱いのうち、このたびの平成29年度改正を受けて「信託から役員への株式給付(※)」時における「法人税法上の損金算入要件を満たすもの」であるか否かの判断につき、今後新たに検討を要することとなりました。

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2 税制改正の影響(退任時交付型)

ご質問のケースのように、役員の退任時にその業績への達成度に応じたポイントに相当する株式を交付するいわゆる退任時交付型の場合、改正前は交付される株式の権利確定日の時価に交付株式数を乗じた金額がその役員に対する退職給与として取り扱われ、不相当に高額な部分を除き損金算入が認められていました。しかしながら、平成29年度税制改正により「退職給与で業績連動給与に該当するもの」については、業績連動給与に係る損金算入要件(法法34①三)を満たすものについてのみ、損金算入が認められることとなりました。つまり、役員に対して業績に連動して株式を交付する場合には、以下の要件のすべてを満たすことで損金算入が可能となります(法法34①三、法令69⑨~⑲等)。

  • 内国法人(同族会社にあっては、同族会社以外の法人との間にその法人による完全支配関係があるものに限ります)が業務執行役員に対して支給する業績連動給与であること
  • 交付する株式が市場価格のある株式等(適格株式)であること
  • 他の業務執行役員のすべてに対して下記の要件を満たす業績連動給与を支給するものであること
  • 交付される株式の数の算定方法が、利益、株価、売上高等一定の指標を基礎とした客観的なものであること
  • 確定した数を限度としているものであり、他の業務執行役員に対して支給する業績連動給与に係る算定方法と同様のものであること
  • 一定の日までに報酬委員会が決定をしていることその他の適正な手続を経ているものであること
  • その内容が遅滞なく有価証券報告書に記載されていること
  • 算定の指標とした数値が確定した日から2月を経過する日までに交付されるものであること
  • 損金経理をしているものであること

業績に連動して支給される退職給与で業績連動給与の損金算入要件を満たすもののみにつき損金算入が認められることとなる当該改正は、平成29年10月1日以後にその支給に係る決議等をする給与について適用されます(29年改正法附則14②)(注1)

なお、貴社の従来の株式交付信託の制度に拠るものであっても、平成29年10月1日以後新たに就任する役員に対するものについては、業績連動給与の損金算入要件を満たしているか否かの判断が必要になるものと考えられます(注2)

取引

税務上の取扱い

信託の設定
(金銭信託時)

同一法人内の資金移動であり、課税関係は生じない。

信託における株式の取得

【市場における購入の場合】

自己株式の取得とみなされる。

【委託者による自己株式処分の引受の場合】

同一法人内の株式の移動であり、課税関係は生じない。

信託に対する剰余金の配当

同一法人内の資金移動であり、その剰余金の配当はなかったものとされる。

信託で発生する収益

委託者(受益者)の収益とみなされる。

信託で発生する信託報酬その他の事務費用等

委託者(受益者)の費用とみなされる。

信託から役員への株式給付(※)

受益権確定時に法人から役員への株式の交付があったものとされる。

【改正前】

退職時に支給が確定するものについては、退職給与として損金算入(不相当に高額な部分を除く)。

【改正後】

・事前確定届出給与・業績連動給与(業績連動型の役員退職給与を含む)として、法人税法上の損金算入要件を満たすものに限り、損金算入。

・業績に連動しない役員退職給与は退職給与として損金算入。
(不相当に高額な部分を除く)

(注1) 退任時交付型の株式交付信託(業績連動給与に該当するもの)については、平成29年9月30日までに支給の決議等をしたものは、その決議等に基づき設定した信託が終了するまでは旧法が適用され損金算入が可能であると考えられます(平成29年10月1日以後に追加拠出する部分を除きます)。平成29年10月1日以後に取締役会等において役員報酬の内容を決定する決議又は決定したものは、業績連動給与の損金算入要件を充足すれば損金算入が可能であると考えられます(経済産業省産業組織課『「攻めの経営」を促す役員報酬~企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引~(平成29年4月28日時点版)』、27ページ)。

(注2) 既に給与の支給に係る決議が行われているもの(退職給与であれば、平成29年10月1日前の決議)に基づく新たな役員(平成29年10月1日以後選任)の取扱いについて、次の解説があります。「(前略)その決議の内容が具体的な個別の者の給与額を定めず役位等により定められているものである場合において、これらの日以後に新たに役員に就任した者があるときは、その者の給与の支給に係る決議が形式的には一切されないことも考えられますが、その選任の決議がされたことをもってその者の給与の支給に係る決議がされたといえるため、改正後の制度が適用されると考えられます。(大蔵財務協会『平成29年版改正税法のすべて』、315ページ)」

3 税制改正の影響(在任時交付型)

改正前は、役員の在任期間中に株式を交付する株式交付信託については、損金算入が認められる規定が存在しなかったものの、平成29年度改正後においては、制度設計次第で、役員の在任期間中において交付する株式についても、損金算入が認められることとなりました。つまり従来の法人税法上、株式交付信託により株式を交付する場合において損金算入が認められるのは、退職給与として取り扱われる場合のみであったところ、在任時に給与として交付する場合であっても、損金算入要件を満たす事前確定届出給与または業績連動給与に該当するときは、損金算入が認められることとなりました。これは、事前確定届出給与にあっては、その損金算入要件を定めている法人税法第34条第1項第2号において「確定した数の株式」等の文言が追加されたことによります。なお、業績連動給与に係る損金算入要件と同様に、交付される株式は適格株式に限られる点、その他の要件を満たす必要がある点につき留意が必要です。

損金算入が認められることとなる事前確定届出給与または業績連動給与に係る改正は、平成29年4月1日以後にその支給に係る決議等をする給与について適用されます(29年改正法附則14①)。

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※本記事は、一般財団法人大蔵財務協会の許可を得て当法人のウェブサイトに掲載したものにつき、無断転載を禁じます。

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