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日本とタイの間で行う国際運輸業に係る法人所得税の取扱い

『国税速報』平成28年3月28日号

外国人等の国際運輸業に係る所得に対する相互主義による所得税等の非課税に関する法律第1条において、国際運輸業とは、国際航路又は国際航空路における船舶又は航空機の運航の事業を指すとされています(国際航路における船舶の運航の事業を「国際海上貨物運送」と、国際航空路における航空機の運航の事業を「国際航空貨物輸送」といいます。)。(『国税速報』平成28年3月28日号)

【疑問相談】国際課税

「日本とタイの間で行う国際運輸業に係る法人所得税の取扱い」

Question:
当社は内国法人で、国際海上貨物運送及び国際航空貨物輸送を営んでいます。このたび、東南アジアの高い経済成長率に着目し、新たに日本とタイ間の輸送ルート開設を検討していますが、新設する輸送ルートを海上貨物輸送とするか航空貨物輸送とするかによって法人税上の取扱いに差異はありますでしょうか。なお、当社は輸送ルートの新設に伴いタイ国内に営業所を新設する予定です。

Answer:
日本タイ租税条約第8条に基づくと、タイにおいては、国際海上貨物運送により貴社がタイ国内において稼得したとされる所得に係るタイの(法人)所得税についてはその50%が免税となると考えられます。国際航空貨物輸送により貴社がタイ国内において稼得したとされる所得に係るタイの(法人)所得税は免税となると考えられます。

一方で、わが国においては、貴社が国際海上貨物運送により稼得した所得は原則としてそのすべてが法人税の課税対象となります。ただし、トン数標準税制の適用船舶により国際海上貨物運送が運航されている場合は、その運航船舶のトン数に基づくみなし所得を課税所得とすることとなります。貴社が国際航空貨物輸送により稼得したすべての所得は法人税の課税対象となります。

なお、国際海上貨物運送から生じる所得の50%に対して課されたタイの(法人)所得税については、国際的二重課税を排除するために外国税額控除の適用を検討することとなります。

【解説】

1. 国際運輸業とは

外国人等の国際運輸業に係る所得に対する相互主義による所得税等の非課税に関する法律第1条において、国際運輸業とは、国際航路又は国際航空路における船舶又は航空機の運航の事業を指すとされています(以下、国際航路における船舶の運航の事業を「国際海上貨物運送」と、国際航空路における航空機の運航の事業を「国際航空貨物輸送」といいます。)。

2. 国際運輸業における国際税務上の課題

国際海上貨物運送及び国際航空貨物輸送は、国内及び国外にわたって多くの国や公海・空を通過することで運航されています。また、寄港地、空港所在地などに常時営業所などの拠点を置くことも多いと考えられ、当該寄港地又は空港所在地などにおいて、恒久的施設(Permanent Establishment、以下「PE」とします。)を有すると判断されるケースも多いと考えられます。国際税務上、PE 所在地国においては当該所在地国において課税権が認められることが原則のため、国際海上貨物運送又は国際航空貨物輸送を営む者の当該事業に係る所得(以下「国際運輸業所得」といいます。)については、当該者の居住地国(わが国の場合は本店所在地国となります。)と、PE 所在地国の双方においてどのように課税を行うかという課題が生じます。

3. 国際運輸業所得に係る国内法の基本的な考え方

わが国の内国法人に対しては国際運輸業所得について全世界所得課税が行われることが原則です。ただし、海上運送法の所定の要件を満たす内国法人の国際海上貨物運送に係る国際運輸業所得については、実際の損益に基づく所得ではなく、運航船舶の純トン数に基づいてみなし所得を算定する、いわゆるトン数標準税制の適用が認められています(租税特別措置法第59条の2)。

上記のほか、外国人等の国際運輸業に係る所得に対する相互主義による所得税等の非課税に関する法律において国内法の相互免除主義の取扱いが定められていますが、当該取扱いについては、説明の便宜上下記5で述べます。

一方で、外国法人については、わが国にPEを有する場合に、その事業所得に対して課税が行われることとなります(法人税法第141条)。わが国にPE を有する外国法人が国内及び国外にわたって船舶又は航空機による運送の事業を行う場合、船舶による運送の事業は国内において乗船し又は船積みをした旅客又は貨物に係る収入金額を基準とし、航空機による運送の事業はその国内業務に係る収入金額又は経費等の要因を基準として判定したその法人の国内業務につき生ずべき所得を、国内において行う事業から生じる所得とされます(法人税法施行令第176条第1項第四号)。すなわち、わが国法人税法では、国際税務上の標準原則の1つとされている、いわゆる「PE なければ課税なし」を国際運輸業所得に対して適用していると解されます。

4. 租税条約における国際運輸業所得の相互免除主義

租税条約における考え方は国内法とは異なっており、一般に相互免除主義と呼ばれる手法が用いられています。わが国が各国と締結している租税条約においては、わが国の居住者である内国法人の国際運輸業所得に対してわが国における法人所得税の課税権が認められる一方で、租税条約締結国の居住者である外国法人の国際運輸業所得のうち、わが国の国内源泉所得とされる部分に対してわが国は法人所得税の課税を行わないことが定められています。この背景には、国際運輸業所得について関係国間で統一した課税手法を構築・適用することが難しいと考えられることや、租税条約の本来の目的である国際的二重課税の排除という目的達成のための解決手段として特別な手立てが必要と考えられたことなどがあるものと推察されます。ただし、各国における船舶産業・航空機産業の規模の違いなどを考慮して、半額免税などの課税権の配分を図る例もあります。

5. 国際運輸業所得の国内法に基づく相互免除主義

上述のとおり、わが国国内法では、「外国人等の国際運輸業に係る所得に対する相互主義による所得税等の非課税に関する法律」が施行されています。本法により、わが国が租税条約を締結していないいくつかの国との間においても国際運輸業所得に対する相互免除主義の適用が可能となっています。また、国際運輸業所得の国内法による相互免除の非課税所得には、日本国が締結した租税条約に基づき免除される国際運輸業所得を含まないものとし、国内法と租税条約において免除される所得が重複しないようにされています(同法施行令別表(第2条関係)備1)。ただし、タイについては本法律の適用対象国とされていません。

6. 外国税額控除の適用

課税権の配分等により、わが国で法人所得税の課税対象となる国際運輸業所得につき、その全部又は一部について外国でもその国の法人所得税が課税される場合は国際的二重課税が生じるため、別途国内法によって一定のルールの下で外国法人税を税額控除(外国税額控除)することが認められています(法人税法第69条)。

7. 本事例への当てはめ

貴社がタイ国内にPEを有するものとして検討していきます。日本タイ租税条約第8条(国際運輸業所得)に基づくと、わが国の内国法人である貴社が日本とタイの間の国際航空貨物輸送によりタイ国内において稼得したとされるタイの法人所得に係るタイの(法人)所得税については免税となると考えられます。一方で、国際海上貨物運送から生じる所得は、その50%についてはタイで課税が行われることとなると考えられます。すなわち、タイにおいてはその課税の取扱いが異なることとなります。

一方のわが国においては、前述のとおり、その国際運輸業所得について全世界所得課税が行われることが原則です(ただし、トン数標準税制の適用船舶により国際海上貨物運送が運航されている場合は、その運航船舶のトン数に基づくみなし所得を課税所得とすることとなります)。

上述のとおり、国際航空貨物輸送から生じる所得は、わが国でのみ法人所得税の課税権が認められるため、わが国とタイの間で二重課税が生じないのに対し、国際海上貨物運送から生じる所得は、その所得の50%についてはタイで課税が行われ、かつ、わが国の法人所得税の課税対象にもなることから、国際的二重課税が生じます。当該国際的二重課税を排除するために、貴社の法人税申告における外国税額控除の適用を検討することとなります。

以上のとおり、国際運輸業所得に係る相互免除主義の基本は双方の国(又は地域)が相手国居住者の国際運輸業所得を免税として取り扱うことにありますが、租税条約ごとに免税の適用対象となる国際運輸業所得及び税目の範囲が異なる場合があるほか、租税条約締結国の現地税務当局の法令解釈により課税関係が決定されるため国際運輸業所得に対する国際的二重課税がすべて排除されない場合があることに留意が必要です。

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※本記事は、一般財団法人大蔵財務協会の許可を得て当法人のウェブサイトに掲載したものにつき、無断転載を禁じます。

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