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組織再編が行われた場合における所得拡大促進税制の適用について

『国税速報』平成29年10月9日号

本稿では、所得拡大促進税制の概要および組織再編が行われた場合における取り扱いや適用条件について、解説する。(『国税速報』平成29年10月9日号)

【疑問相談】法人税

「組織再編が行われた場合における所得拡大促進税制の適用について」

Question:
P社の100%子会社であるS1社が保有するA社株式を、同じくP社の100%子会社であるS2社に移転させることを検討しています(P社、S1社、S2社はいずれも3月決算法人)。移転の方法は、①S1社が保有するA社株式をP社に現物分配し、②P社はS2社に対してA社株式を分割(又は現物出資)することを予定しており、①、②共に同日に効力が生じる予定です(PDF図ケース1を参照)。また、当該移転と同時に、S1社の社員(国内雇用者)のうちA社の管理に関連する者は、S2社に転籍する予定です(いずれも×年10月1日に実施を予定)。

この場合、各社(P社、S1社、S2社)における所得拡大促進税制の適用にあたって留意すべき点はあるでしょうか。また、仮にS1社からS2社への分割によってA社株式を移転させた場合(PDF図ケース2を参照)には取扱いは異なるのでしょうか。

Answer:
ケース1の場合には、組織再編に係る一定の調整計算は不要とえられます。

一方で、ケース2の場合には、S1社及びS2社において一定の調整計算が必要になります。

【解説】

1 所得拡大促進税制の概要

(1) 適用要件

青色申告書を提出する法人が、平成25年4月1日から平成30年3月31日までの間に開始する各事業年度において、下記イ及びロを満たし、かつ、雇用者給与等支給増加額(注)の基準雇用者給与等支給額に対する割合が増加促進割合(下表1参照)以上である場合には、その事業年度の法人税の額から一定の金額を控除することができることとされています(措法42の12の5①②)。

イ 雇用者給与等支給額 ≧ 比較雇用者給与等支給額

(*) 平均給与等支給額(A) ≧ 比較平均給与等支給額(B)

(*) 中小企業者等以外の法人の場合賃上げ率((A - B)/B)≧2%

(注)雇用者給与等支給額から基準雇用者給与等支給額を控除した金額をいいます。

(表1)

法人区分

開始事業年度

増加促
進割合

中小企業者等

H28.4.1~H30.3.31

3%

上記以外

H28.4.1~H29.3.31

4%

H29.4.1~H30.3.31

5%


(2) 税額控除額

上記(1)の適用要件を満たす場合には、下表2の金額をその事業年度の法人税の額から控除することができます。ただし、税額控除額が調整前法人税額の10%(中小企業者等の場合には20%)を超えるときは、当該10%に相当する金額が限度となります(措法42の12の5①)。

(表2)

法人
区分

賃上げ率

税額控除額

中小企
業者等

2%未満

雇用者給与等支給増加額 × 10%⒜

2%以上

⒜ + ⒝ × 12%

上記
以外

2%以上

⒜ + ⒝ × 2%


(b) 前年度からの増加額:雇用者給与等支給額- 比較雇用者給与等支給額(雇用者給与等支給増加額を限度)

2 組織再編における調整計算

合併又は分割等(分割、現物出資、現物分配)といった組織再編行為が行われた場合には、基準雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額について、一定の調整を行うこととされています。

適用年度において分割等(分割、現物出資及び現物分配)が行われた場合には、具体的には以下のような調整を行う必要があります。

(1) 基準雇用者給与等支給額

適用年度において分割等が行われた場合には、それぞれ以下の金額を当該適用年度の基準雇用者給与等支給額とすることとされています(措令27の12の5⑧一イ・二イ)。

  • 分割法人等(分割法人、現物出資法人又は現物分配法人)

基準事業年度の給与等支給額から以下の金額を控除した金額

基準事業年度に係る移転給与等支給額

×

分割等の日から適用年度終了の日までの月数


 

適用年度の月数

 

  • 分割承継法人等(分割承継法人、被現物出資法人又は被現物分配法人)

基準事業年度の給与等支給額と以下の金額との合計額

基準事業年度に対応する月の分割法人等の月別移転給与等支給額の合計額

×

分割等の日から適用年度終了の日までの月数


 

適用年度の月数


上記でいう「移転給与等支給額」とは、分割法人等の給与等支給額に、その分割等の直後の分割承継法人等の国内雇用者で分割等の直前において分割法人等の国内雇用者であった者の数を乗じて、これをその分割等の直前の分割法人等の国内雇用者の数で除して計算した金額をいいます(措令27の12の5⑩)。

また、「月別移転給与等支給額」とは、分割法人等の各事業年度の移転給与支給額を各事業年度の月数で除して計算した金額を各事業年度に含まれる月に係るものとみなしたものをいうこととされています(措令27の12の5⑨)。

つまり、本税制の適用上、分割等により移転した者に係る給与等支給額を個別に把握するのではなく、分割法人等の基準事業年度等における雇用者給与等支給額を基礎として、簡便的に移転した者の給与等とみなす金額を算定し、これを調整するという方法が採られています。

(2) 比較雇用者給与等支給額

上記(1)と同様に、適用年度において分割等が行われた場合には、それぞれ以下の金額を当該適用年度の比較雇用者給与等支給額とすることとされています(措令27の12の5⑬一イ・二イ)。

  • 分割法人等

前年度における給与等支給額から以下の金額を控除した金額

前年度に係る移転給与等支給額

×

分割等の日から適用年度終了の日までの月数


 

適用年度の月数

 

  • 分割承継法人等

前年度における給与等支給額と以下の金額との合計額

前年度に対応する月の分割法人等の月別移転給与等支給額の合計額

×

分割等の日から適用年度終了の日までの月数


 

適用年度の月数

 

3 本件における取扱い

(1) ケース1(現物分配→分割又は現物出資)

上記2の調整計算は、分割等の当事者間(本件においては、「S1社とP社」及び「P社とS2社」)において当該分割等の直後における分割承継法人等(本件では、現物分配はP社、分割又は現物出資はS2社)の国内雇用者のうち、当該分割等の直前において分割法人等(本件では、現物分配はS1社、分割又は現物出資はP社)の国内雇用者であった者がいる場合に必要となります。

ケース1においては、S1社からP社に対する現物分配及びP社からS2社への分割又は現物出資と同時に、S1社からS2社に国内雇用者が移転していますが、本件においてS1社とS2社は組織再編の直接的な当事者とはなっていません。

したがって、本ケースでは、S1社からS2社に移転する国内雇用者については、S1社及びS2社において上記2に記載した基準雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額の調整計算は生じないもの考えられます。

(2) ケース2(分割)

上記(1)とは異なり、ケース2ではS1社とS2社は組織再編の当事者となっており(分割法人:S1社、分割承継法人:S2社)、かつ、分割と同日にS1
社からS2社に国内雇用者が転籍しています。

したがって、この場合には、S1社及びS2社において上記2に記載した基準雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額の調整計算が必要になります。

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※本記事は、一般財団法人大蔵財務協会の許可を得て当法人のウェブサイトに掲載したものにつき、無断転載を禁じます。

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