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「タックス・コンプライアンス」が生き残りのカギ
大手税理士法人がいま税務戦略で考えていること
タックス・コンプライアンス推進の方策と課題

中央経済社『税務弘報』 2016年8月号

本稿ではタックス・コンプライアンスの重要性について改めて考えてみるとともに、それを推進するための方策と課題、さらに取り組む企業の事例について述べていく。(『税務弘報』2016年8月号)

はじめに

今ほど「タックス・コンプライアンス」が注目される時代はかつてなかったであろう。日々新聞雑誌をにぎわす租税回避のニュースを見るにつけ、税務についても法令順守がいかに重要な時代になってきたかが感じられる。しかもそれは世界各国で高まる潮流である。

本稿ではタックス・コンプライアンスの重要性について改めて考えてみるとともに、それを推進するための方策と課題、さらに取り組む企業の事例について述べていく。

1. 税務を取り巻く環境の変化

近年、適切な租税負担という一見当たり前のように思われることが、改めてクローズアップされてきている。背景には、この数年の間に法人におけるタックス・コンプライアンスを取り巻く環境が大きく変化したことがある。図表1(下記参照)は日本に関連する近年の環境変化のうち主要なものである。

日本以外でも、世界各国で税務コンプライアンス強化の動きが拡大している。アメリカではFATCAによる課税強化、イギリスでは大企業の税務コンプライアンス向上の強化、オランダでは税務監督の枠組み導入による企業の自主的法令順守の促進、ドイツでは電子データの標準化による電子税務調査の強化、フランスでは会計帳簿の電子化(FEC)による税務調査の義務化、豪州では税務当局による大規模ビジネスのリスクレーティング、ブラジルでは会計財務データそのものを税務当局が管理する、と言った取組みがすでに実施されている。

また、近年話題となっている「パナマ文書」は、租税回避を目的としない経済活動であっても、租税回避を行っていると糾弾を受ける可能性(レピュテーション・リスク)を示唆していると言えるだろう。

さて、日本のコーポレートガバナンス・コードに基づき整理してみよう。企業が株主価値を増加させようと考える場合、一義的にはコスト削減はその一環の行動であることから、税コストも削減対象と考えられる。

しかしながら、一方で、株主以外のステークホルダーたる国などの税の納入先との適切な協働、ひいては納税による社会全体への貢献(すべてのステークホルダーへの直接的又は間接的な貢献)を考慮すると、納税は、企業が果たすべき重要な社会的使命の1つとも言えるだろう。したがい、企業においては、これら相反する課題を調和させることが求められる。

当該調和は、タックス・コンプライアンス(法令順守)を維持し、適切な租税負担を行い続けることにより実施されるべきと考えられる。しかしながら、グローバルに活動する企業においては、世界各国の税務法令を順守しつつ、国際的二重課税の発生を予防することも適切な租税負担と言えるだろう。また、タックス・コンプライアンスと一口に言っても税務法令の法解釈は困難を伴うことも多く、またBEPS行動計画に基づく今後の世界各国の税制改正や租税条約の改正を踏まえた上で、タックス・コンプライアンスを維持していくということは、実際には容易ではないと考えられる。

【図表1】 法人税務を取り巻く環境の変化

年 月

主宰者

項 目

趣 旨

2011年
5月~

国税庁

税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組み

税務調査以外の方法で企業の税務コンプライアンスの維持・向上を促すことによる税務行政の効率化を目指す。状況が良好の大規模法人に対しては税務調査実施頻度を軽減する1

2013年
7月~

OECD

税源浸食と利益移転(BEPS:Base Erosion and Profit Shifting)行動計画

グローバルな経済活動の構造変化に各国の税制や既存の国際課税ルールが追いつかず、多国籍企業がその活動実態とルールの間のずれを利用することで、課税所得を人為的に操作し、課税逃れを行うことを防ぐべく、世界各国が協調して対応していく2

2015年
6月~

東証

コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中期的な企業価値の向上のために~

上場企業のステークホルダーの主要な起点を株主としつつも、株主以外のステークホルダー(明示されていないが国などの税の納入先を含むと理解される)との適切な協働に努めるべきことが示されている3


1. 鈴木孝直、伏見俊之「「税務通信 誌上対談」≪特別企画≫税務コンプライアンスの維持・向上のための国税庁の取組と今後の方向性」税務通信3387号(2015)。
2. 財務省HP「BEPS行動計画に関する最終報告書の公表についての財務大臣談話」(2015)。
3. 株式会社東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード ~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」基本原則1~2(2015)。

2. 方策と課題

前述のとおり、タックス・コンプライアンス推進は、特にグローバルという視点で考えると容易ではない。しかしながら、日本企業はいまや海外売上高がその連結売上高の半分以上を占める例もめずらしくなく、今後もグローバル化が続くことは間違いない。したがって、グローバルも含めた視点で方策を考えるべきである。ここでは、いくつか考えられる方策を検討してみたい。

方策1 税務に対するポリシーの決定と開示

BEPSやパナマ文書がもたらすグローバルの変化も踏まえた上で対応する必要がある。まずは世界各国での法制度の変化をモニター・予測し、それが自社に与える影響を分析する必要があるだろう。それを踏まえ、自社の企業理念とも調和した税務に対するポリシーをグローバルベースで決める必要がある。税務ポリシーを決めれば、それに従った税務プロセスの整備など、次のステップへ向けた基礎ができると考えられる。

イギリスでは一定の企業は税務ポリシーなどの策定とその公開が義務付けられるようになるなど、国ごとのコンプライアンスとして、税務ポリシー策定が求められる場面も今後増えてくると思われる。企業として税にどう向き合うのかという基本原則を定め、それに従ったガバナンスを行うことが、グローバルレベルでもローカルレベルでも、企業の税務対応の基礎となるだろう。

最近、日本企業でも、自社の税務コンプライアンスポリシーをコーポレートガバナンスに関する基本的考え方とともに、各分野の基本方針の1つとして外部公開をしている例が出てきている。税務ポリシーの外部公表は、現在の日本の法令上求められているものではないが、コーポレートガバナンスの取組みを対外的に公表する際に、税務ポリシーも同時に公表する事例は今後増えていくものと思われる。

方策2 税務組織、税務部門の改革

企業として税務ポリシーを策定した後には、それを推進、モニタリングする仕組みを構築する必要がある。その1つはシステムであるがそれは後述するとして、まずはもう1つの組織について述べる。

(1) 税務組織の課題

日本企業は相対的に税務組織が脆弱で、人員も限られており、その役割と権限も弱い場合が多い。しかし、タックス・コンプライアンスを推進するためには、適切な指揮命令系統の確立をし、責任範囲の明確化を行い、属人的対応ではなく組織的対応を行えるような体制を構築する必要がある。

(2) 税務部門の課題

税務部門は伝統的なコンプライアンス推進部門であるが、その専門性、属人性の高さゆえに、組織的な変化の中に置かれた経験が少ない場合が多い。 このため、マネジメント層による指示、自主的な変革案の策定に困難を伴うと見込まれるため、社内におけるディスカッションの時間を多く持つ、スケジュール作成を行うといったことの他、外資系企業を含めた他社の事例を参考にする、KPIなどの数値目標を取り入れることによる行動の活性化などの対応を進め、組織の変革を進める必要があると考える。

(3) 税務組織、税務部門変革のためにとるべきステップ

ステップ1:まずは、社内外の主要な利害関係者のニーズに応えられる組織として、目指す姿を明確にし、役割と責任について合意を得ることから始めるべきである。その際トップダウンの指示がある方が望ましいことは言うまでもない。

ステップ2:次に、税目や部門や機能ごとに税務に関するプロセスと管理・レポート体制を構築し、コアとなる税務プロセスの指揮命令系統と責任範囲を明確化する。

ステップ3:最後にそのプロセスを支えるインフラの整備である。

すべての税務業務にかかるモニタリング機能と支援体制を構築できるインフラの整備、例えばリソースの確保、システムの導入、データ形式の統一などを行い、グループ全体の税務組織の透明性を高め、管理を強化することが求められる。さらに、組織に常時適用されるKPIを導入することも検討の余地がある。実効税率、ビジネス貢献、オペレーション効率化などである。

方策3 税務テクノロジー

(1) 税務分野での変化

テクノロジーの進化は目覚ましく、税務の世界でもコンプライアンス推進のために活用を急ぐべきである。

税務の世界ではテクノロジーはそれなりに使われているものの、他の分野の速度に比べると、その適用状況は遅れているといえるだろう。会計の世界では、ERPシステムとの連動等で決算早期化に取り組むなどそれなりのIT活用ができている例も多いが、税務の世界では、いまだ紙の資料に頼ったり、属人的な表計算の仕様に四苦八苦したりなどという例が非常に多い。IT化は各国レベルにおける申告書作成のソフトが中心といったところであろうか。

しかし、テクノロジー活用の巧拙が、作業効率や品質に大きな差を分ける時代が近づいてきている。例えば、「A社は国別報告書(CBCR)に必要な情報を4時間で収集完了したが、B社は数か月を要した。」という例も出てきている。この2つの企業の差は企業間の税に関する取組みの差を顕著に表す1つであろう。

また、海外では、電子申告が義務となる国も増えてきている。その結果として、税務当局が申告数値をより分析しやすくなるばかりでなく、誤りの抽出及び税務調査にも活用できることとなるため、企業側においても、同じレベルで対応できるように体制を整える必要性が高まっている。

(2) テクノロジー導入のメリット

テクノロジーの導入が進めば次のような改善が見込まれ、結果としてコンプライアンス推進の一助となるはずである。

目 的

現状の課題

あるべき姿

税務情報の一元化

情報が分散していて必要な時に集約ができない

集中した情報管理により一元化

プロセスの短縮とミス防止

エクセルの算式ミス、手作業による出戻り

自動化による作業の短期化とミス防止

申告、納税の遅延防止

自主性に任せたための知識不足やうっかりミス

システム上での期限とプロセスを管理

子会社管理、透明性確保

認識不足による報告遅れなどでの炎上化

事前対応が可能な管理体制を構築し、問題発生ごとの火消し処理防止

ルーティンワークからの脱却

付加価値の低い大量の業務に多大な時間を浪費

可能な限りの自動処理を進め、より付加価値の高い仕事に時間を費やす

 

(3) テクノロジー導入の分野

移転価格、法人税などで考えられるテクノロジーを例として掲げる。

税 目

分 野

考えられるテクノロジー

移転価格

1. 国別報告書データ収集、作成
2. 文書作成・管理
3. 利益率等管理、分析

社内外イントラネット、ドキュメント作成・管理ソフト、データアナリティクスソリューション

法人税等

未払税金計算試算
申告納付期限管理
申告書等資料管理
申告作成手続管理
欠損金残高管理など

税金引当金算定ツール、ワークフロー管理ツール、ドキュメント管理ソフト、税務データベース

税務調査

1. 税務調査結果、対応管理
2. 現行進行している調査プロセス管理

ワークフロー管理ツール
ドキュメント管理ソフト

 

(4) テクノロジー導入の方策とポイント

1) 目的の明確化とロードマップの策定

どの分野に何のためにテクノロジーを導入するか目的を明確にし、各関連者と認識を共有することが重要である。また、導入は2~3か月あるいはそれ以上の期間にわたるプロジェクトとなるため、しっかりとしたロードマップを策定する必要がある。

2) ERPなどの活用と連携

財務基盤として広く使われているERPシステムなどは会計データとして有効に活用されているものの、税務目的としては必ずしもシステムそのままでは活用されていないのが現状である。とるべき方法は2つあると考えられる。

1つ目の手法として、ERP等から取得したデータをエクセル等で加工し使用するものであり、ほとんどはこのアプローチである。しかし、問題が多い。最も単純かつ重大な問題は算式エラーによる計算間違いで、簡単に加工しやすいだけに人為的なミスも生じやすい。1つのエラーが重大なレピュテーションダメージにもつながりかねないリスクをはらんでいる。

2つ目は、税務用のデータの取得やデータ管理、申告等まで一気通貫で可能とするシステムの開発または利用である。コストもかかるであろうし、難易度は高い。しかし、グローバルでのERPシステムの導入、サプライチェーンの改善、バックオフィス改革などの機会をとらえ、税務に関してもシステム導入を進め、リスクの低減を図るべきではないかと考える。

なお、1つのシステムですべてを解決できる仕組みは現状存在していないため、複数のシステムを組み合わせてプロセスを構築する必要がある。

(5) 導入後のデータ活用

システムを導入し、プロセス効率化、情報の可視化等が進めば、適切なタックス・コンプライアンス推進に大いに役立つことは間違いない。

そこまで進められることとなったら、その次のステップとして、税務データの活用も視野に入れるべきであろう。システムで集約できた税務データは、そのままでは価値には乏しい。データの真の価値は活用されてこそ生かされる。そのためには、企業内のデータの共通化を図り、部門横断的に一元管理する必要があるだろう。

この考えはEnterprise Data Managementといい、税務データも税務だけでの活用を考えるのではなく、ビジネス、ファイナンス、人事などとデータの共通化を図りデータ管理の質を高め、活用を検討することを指す。これにより他部署でも税務データの有効活用を素早く行うことができる。例えば移転価格税制対応を適用した利益率モニタリングや価格調整、関税におけるFTA適用検討、VAT効率化検討、M&Aを含む税務プランニングの機会の検討なども容易になる。また、過去に策定したプランニングのモニタリングも効率的に行えるようになるだろう。

3. 事例

ここで事例を紹介する。税務コンプライアンスを推進するため、具体的に対策を講じている企業の例である。

(事例1)
この事例では事業部ごとの会社管理を行っていたため、本社による税務マネジメントのための情報の集約化、指示系統の明確化ができず、結果として海外子会社の税務コンプライアンスが現地任せになっていた。そのため、税務調査対応などでの後手後手の対応が多く、また節税機会も見逃されていた。

この対策として、会社は海外子会社を含むグループ全社にわたる税務ポリシーおよびガイドラインを策定し、事業部と本社、および海外子会社におけるそれぞれの責任範囲を明確にした。また、本社は海外子会社の現地における税務調査の対応などに関するガイドラインも策定した。

本社が税務戦略やガイドラインを策定し実行することによって、各海外子会社の税務コンプライアンス状況の透明性が高まり、本社による各海外子会社における税務部門の統一した管理が実施され、税務リスクマネジメントを推進することができた。また、本社への情報集約化により、国レベルでの情報の共有も図れ、結果として各国において最適と考えられる組織再編や連結納税の導入による税コストの適正化を図ることもできた。

(事例2)
この事例では、決算時における納税充当金と税効果の計算のためのプロセスが整理されておらず、適切な計算ができているとは言えない状況であった。また、個々の担当者が作成した表計算ソフトによる計算プロセスとなっていたため、ミスが生じやすく、またミスが生じてもその発見が困難な状況であった。

この対策として、会社は全世界で共通の適切なソフトウェアを活用し、グループ全体で作業プロセスを見直すことによる合理化を進め、納税充当金と税効果の計算のみならず、税務申告作業の早期化を図った。この作業プロセスの見直しは、単年度の作業にとどまらず、工程表の策定とともに本社のIT部門等を巻き込んだプロジェクトとして進められた。申告調整にかかる情報は各事業部門からも収集する必要があるが、そのプロセスも共通のソフトウェアを使った一連のシステムで行うこととした。

決算と税務申告作業に適切な共通のテクノロジーの活用によって、作業プロセスを短縮することができたため、レビュープロセスにより多くの時間を割くことが可能となり、また、テクノロジーの活用によって手作業による部分が削減できたため単純ミスも減少し、税務申告の品質の向上にもつながった。

4. まとめ

税務を取り巻く環境の変化の中で、相対的に、適切なタックス・コンプライアンスの重要性は今後ますます高まっていくだろう。

このような状況だからこそ、一刻も早く、税務ポリシー導入、組織体制の整備、テクノロジー導入などによるタックスコンプライアンス推進体制の強化を図ることが、今の時代において、企業にとって価値のある取組みといえるのではないだろうか。

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