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資産税に関する令和5年度税制改正について

ファミリーコンサルティングニュースレター 2023年1月

令和4年12月16日、「令和5年度税制改正大綱」が公表されました。今回は、その中から資産税、個人所得課税等に関して重要性が高い下記項目について解説を行います。

  • 相続時精算課税制度の見直し
  • 相続開始前に贈与があった場合の相続税の課税価格への加算期間等の見直し
  • 教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の見直し
  • 結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の見直し
  • 極めて高い水準の所得に対する負担の適正化
  • 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例がある場合の納税猶予の見直し
  • 株式交付についての特例の見直し
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資産税に関する令和5年度税制改正の概要

1. 相続時精算課税制度の見直し

(1) 制度の概要

60歳以上の父母・祖父母などから、18歳以上の子・孫などに対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。
贈与者1人につき累積2,500万円までは贈与税が非課税となり、2,500万円を超過する贈与財産については贈与税が一律20%課税され、贈与者の相続時に贈与財産の価額を相続財産の価額に加算して、相続税額が計算されます。

(2) 税制改正の背景・目的

当該制度は、高齢化の進展に伴って、相続による資産移転の時期が遅れてきていることを踏まえ、次世代への早期の資産移転と有効活用を通じた経済社会の活性化の観点から、平成15年度に導入されました。また、当該制度は生前贈与か相続かによって税負担が変わらない、資産移転の時期に中立的な仕組みとして位置づけられています。近年、当該制度の利用件数が減少している状況を踏まえ、使い勝手を向上させ、少額贈与に係る申告や記録管理の事務負担を軽減する観点から、以下のとおり見直しが行われます。

(3) 税制改正の概要

① 年間110万円の基礎控除の導入

  • 暦年課税の基礎控除110万円とは別に、相続時精算課税制度についても基礎控除110万円が導入されます。
  • 贈与者の相続時に相続財産に加算される贈与財産は、当該110万円を控除した後の残額とされます。
  • 年間110万円の基礎控除について、複数の特定贈与者(相続時精算課税適用財産を贈与した者)から贈与を受けた場合は、それぞれの贈与額に応じて按分されます。
  • 上記は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税について適用されます。
 

現行

改正案

贈与税の控除枠

贈与者1人につき、累積2,500万円

左記+年間110万円

相続財産への加算対象

相続時精算課税制度の適用を受けたすべての贈与財産の価額

左記から年間110万円以下の贈与財産を除いた価額

 

(基礎控除・相続財産への加算に関するイメージ)

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② 贈与財産が災害を受けた場合の再計算

  • 土地又は建物が贈与日から贈与者に係る相続税の申告期限までの間に災害によって一定の被害を受けた場合には、相続財産に加算する当該土地・建物の価額が再計算され、相続税額が計算されます。
  • 上記は、令和6年1月1日以後に生ずる災害により被害を受ける場合について適用されます。

相続時精算課税の適用により取得した財産

現行

改正案

土地・建物

贈与時の価額が相続財産の価額に加算される

災害で一定の被害を受けた場合は相続時に再計算される

上記以外の財産

同左

2. 相続開始前に贈与があった場合の相続税の課税価格への加算期間等の見直し

(1) 制度の概要

相続又は遺贈により財産を取得した者が、当該相続の開始前に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合には、当該贈与財産の価額を相続財産の価額に加算して、相続税が計算されます。

(2) 税制改正の背景・目的

当該制度は、生前における分割贈与による相続税負担の軽減を図ることを防止する観点から、昭和33年度に導入されました。当時は、一生を通じて贈与財産を累積して相続財産に加算することがよいとしながらも、現実の問題として困難であることから、3年間という期間が設けられました。当時と比べ、近年は税務行政のデジタル化が進み、相続税・贈与税の分野でもe-Taxが導入され、納税者も過去の申告情報をデータで管理することができるようになっています。このような状況を踏まえ、暦年贈与においても、資産移転の時期に対する中立性を高めていく観点から、以下のとおり加算期間等の見直しが行われます。

(3) 税制改正の概要
  • 暦年課税による贈与を受けた場合の相続財産への加算期間を相続の開始前3年間から7年間に延長されます。
  • 延長した4年間に受けた贈与財産について総額100万円までは相続財産の価額に加算されません。
  • 上記は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税について適用されます。
 

現行

改正案

贈与財産の加算期間

相続の開始前3年間

相続の開始前7年間

相続財産に加算される贈与財産に対する控除の有無

無し

100万円の控除有り
(相続の開始前3年超~7年間の贈与財産が加算される場合に限る)

 

(加算期間の見直しのイメージ)

 

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  • 例えば、相続開始日が次の日である場合の加算対象期間は次のようになります。
    ・令和8.10.1に相続が開始した場合、令和5.10.1以後の贈与財産が加算(∴3年間)⇒現行どおり
    ・令和9.10.1に相続が開始した場合、令和6.1.1以後の贈与財産が加算(∴3年9カ月)⇒経過措置期間
     ※令和6.1.1~令和6.9.30までの贈与財産が加算される場合には100万円の控除有り
    ・令和13.10.1に相続が開始した場合、令和6.10.1以後の贈与財産が加算(∴7年間)⇒完全移行
     ※令和6.10.1~令和10.9.30までの贈与財産が加算される場合には100万円の控除有り

3. 教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の見直し

(1) 制度の概要

父母・祖父母などの直系尊属から贈与により、教育に充てるための資金を信託受益権等として取得した場合、1,500万円までは贈与税が非課税となる制度です。

(2) 税制改正の背景・目的

当該制度は、資産を多く保有する者による利用が多く、資産移転に対して税負担を求めない制度となっているため、格差の固定化防止等の観点も踏まえながら、節税目的での利用につながらないよう、以下のとおり一部要件の見直しが行われた上で、3年延長されます。

(3) 税制改正の概要

① 適用期間の延長

  • 令和8年3月31日まで3年延長されます(現行は令和5年3月31日まで)。

② 相続税の課税範囲の拡大

  • 教育資金に係る信託等があった日から教育資金口座に係る契約終了日までの間に贈与者が死亡した場合において、当該贈与者の相続税の課税価格の合計額が5億円を超えるときは、非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額が相続税の課税対象となります。
  • 上記は、令和5年4月1日以後に取得する信託受益権等に係る相続税について適用されます。
 

現行

改正案

残額に対する相続財産への加算の有無

残額に対する相続財産への加算の有無 受贈者が23歳未満等である場合には相続財産への加算無し

受贈者の年齢にかかわらず、贈与者の相続税の課税価格の合計額が5億円を超える場合は、相続財産への加算有り


③ 教育資金口座に係る契約終了時の税率等の見直し

  • 受贈者が30歳に達するなどにより教育資金口座に係る契約が終了した場合に、非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額に贈与税が課されるときは、一般税率が適用されます。
  • 教育資金の対象範囲に、都道府県知事等から国家戦略特別区域内に所在する場合の外国の保育士資格を有する者の人員配置基準等の一定の基準を満たす旨の証明書の交付を受けた認可外保育施設に支払われる保育料等が追加されます。
  • 上記は、令和5年4月1日以後に取得する信託受益権等に係る贈与税又は同日以後に支払われる教育資金について適用されます。

(教育資金の一括贈与に関するイメージ)

 

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4. 結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の見直し

(1) 制度の概要

父母・祖父母などの直系尊属からの贈与により、結婚・子育てに充てるための資金を信託受益権等として取得した場合、1,000万円までは贈与税が非課税となる制度です。

(2) 税制改正の背景・目的

前述の教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置と同様に、当該制度も、節税目的での利用につながらないよう、以下のとおり一部要件の見直しが行われた上で、2年延長されます。

(3) 税制改正の概要

① 適用期間の延長

  • 令和7年3月31日まで2年延長されます(現行は令和5年3月31日まで)。

② 結婚・子育て資金口座に係る契約終了時の税率の見直し

  • 受贈者が50歳に達するなどにより結婚・子育て資金口座に係る契約が終了した場合に、非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を控除した残額に贈与税が課されるときは、一般税率が適用されます。
  • 上記は、令和5年4月1日以後に取得する信託受益権等に係る贈与税について適用されます。

5. 極めて高い水準の所得に対する負担の適正化

(1) 税制改正の背景・目的

所得税は、基本的に総合課税による超過累進税率が適用されるため、本来は高所得者ほど所得税の負担率が高くなります。しかし、株式等の譲渡所得等は分離課税で一律の税率が適用され、高所得者層ほど所得に占める株式等の譲渡所得の割合が高いことから、高所得者層の所得税の負担率が低下するという逆転現象が生じています。このような状況を踏まえ、税負担の公平性の観点から極めて高い水準の所得について最低限の負担を求める以下の措置が導入されます。

(2) 税制改正の概要
  • 各種所得を合算した所得金額(基準所得金額)から特別控除額(3.3億円)を控除した金額に、22.5%の税率を乗じた金額が納めるべき所得税の金額を超過した場合に、その超過した差額を追加的に申告納税することとされます。
    ・(基準所得金額*1ー3億3,000万円)×22.5% > 基準所得税額*2
    ・追加納付する税額 → 基準所得税額との差額を申告納税
    (*1)基準所得金額の計算上、スタートアップに再投資する場合の優遇税制の適用を受けた株式譲渡益やNISA制度の非課税所得は対象から除外されるが、申告不要制度の対象となる配当や上場株式の譲渡所得等は合算した後の合計所得金額(政策的な観点から設けられている特別控除は控除後の金額)となります。
    (*2)基準所得税額は、外国税額控除を考慮しないで基準所得金額に対して計算した税額
  • 上記は、令和7年分以後の所得税について適用されます。

(例:所得の総額が株式の配当及び譲渡所得で分離課税(所得税15%)の対象となるケース)

  • 所得(株式の配当及び譲渡所得)が10億円の場合は以下のとおりです。
    ・(10億円ー3億3,000万円)×22.5%=1億5,075万円
    ・10億円×15%=1億5,000万円(基準所得税額)
  • 上記のとおり、この措置による税額と基準所得税額がほぼ同じとなることから、所得の総額が配当・譲渡所得などの分離課税の対象となる投資所得である場合には、所得金額10億円が適用の目安になると考えられます。

6. 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例がある場合の納税猶予の見直し

(1) 制度の概要

1億円以上の有価証券等を所有している一定の居住者が国外転出をする場合又は非居住者に対して贈与・相続等により有価証券等の移転があった場合には、有価証券等の対象資産の含み益に対して所得税が課税されます。この場合に、担保の提供など一定の手続きを行ったときは、納税猶予の適用を受けることができます。

(2) 税制改正の背景・目的

国外転出時課税の適用対象となる場合に、担保の提供等を要件として納税の猶予の適用が可能となりますが、これまで非上場株式を担保に提供するためには、株券が発行されている必要があり、このことが納税の猶予を適用するための阻害要因となる場合がありました。このような背景から、以下のとおり担保の要件について見直しが行われます。

(3) 税制改正の概要
  • 納税猶予の適用を受けようとする者が質権の設定がされていないこと等の要件を満たす非上場株式を担保として提供する場合において、その者が当該非上場株式を担保として提供することを約する書類その他の書類を税務署長に提出するときは、その株券を発行せずにその担保の提供ができることとされます。
  • 持分会社の持分についても上記と同様の取り扱いとなります。
  • 贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予についても同様の措置がとられます。

(担保提供有無のイメージ)

 

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7. 株式交付についての特例の見直し

(1) 制度の概要

株主が、会社法の株式交付により、その有する株式を譲渡し、株式交付親会社の株式等の一定の資産の交付を受けた場合には、株主における譲渡損益の課税が繰り延べられることとされています。

(2) 税制改正の背景・目的

令和3年度税制改正による当該制度の創設後、当該措置の制度趣旨(株式対価M&Aの促進)とは必ずしもそぐわない活用事例が確認されていたことを背景として、以下のとおり課税繰り延べ要件について一定の厳格化が行われます。

(3) 税制改正の概要
  • 当該措置の対象から、株式交付後に株式交付親会社が同族会社(非同族の同族会社を除く)に該当する場合は除外され、課税の繰り延べの対象外となります。
  • 上記は、令和5年10月1日以後に行われる株式交付について適用されます。
 

現行

改正案

株式交付親会社の要件

制限無し

株式交付後、同族会社(非同族の同族会社を除く)に該当する場合は適用対象外

 

(株式交付のイメージ)

 

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今後議論が進められるマンションの相続税評価について

マンションについては、市場での売買価格と通達に基づく路線価等による相続税評価額とが大きく乖離し、相続税負担が著しく軽減されるケースがあります。以下のとおり、実態を踏まえて適正化を検討する旨が明記されているため、評価に関する通達の見直しなどの動向を注視する必要があります。

<令和5年税制改正大綱の一部抜粋>

マンションについては、市場での売買価格と通達に基づく相続税評価額とが大きく乖離しているケースが見られる。現状を放置すれば、マンションの相続税評価額が個別に判断されることもあり、納税者の予見可能性を確保する必要もある。このため、相続税におけるマンションの評価方法については、相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ、適正化を検討する。

※本記事は、掲載日時点で有効な日本国あるいは当該国の税法令等に基づくものです。掲載日以降に法令等が変更される可能性がありますが、これに対応して本記事が更新されるものではない点につきご留意ください。

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