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資産税に関する令和4年度税制改正について

ファミリーコンサルティングニュースレター 2022年1月

令和3年12月10日、「令和4年度税制改正大綱」が公表されました。今回は、その中から資産税に関して重要性が高い下記項目について解説を行います。また、税制改正大綱で見送られたものの今後議論が進められる項目についても、触れることとします。

  • 非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予の特例制度の見直し
  • 上場株式等に係る配当所得等の課税の特例に対する措置
  • 財産債務調書制度等の見直し
  • 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置の見直し
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資産税に関する令和4年度税制改正の概要

1. 非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予の特例措置の見直し

(1) 制度の概要

後継者が非上場株式を先代経営者から贈与・相続により取得した際、一定の要件を満たすことで、贈与税・相続税の納税が最大全額猶予される制度です。

(2) 税制改正の概要

新型コロナウイルス感染症の影響により次世代への事業承継の時期が後ろ倒しになっている傾向にあり、事業承継税制の特例承継計画の申請ペースが鈍化している状況を踏まえ、特例承継計画の提出期限が下記の通り1年延長されます。

現行

改正案

令和5年3月31日

令和6年3月31日

 

(3) 留意点

特例承継計画の提出期限は1年延長されたものの、特例制度自体は令和9年12月末までの時限措置とされており、今回の大綱において延長を行わない旨が明記されているため、適用を検討している企業に関しては早期に事業承継に取り組むことが期待されます。

 

2. 上場株式等に係る配当所得等の課税の特例に対する措置

(1) 制度の概要

配当所得は原則所得税率5.105%~45.945%で総合課税されますが、上場株式等の配当所得等については、申告分離課税や申告不要という課税方法の選択も可能とされています。ただし、上場株式等に係る持株割合が3%以上(いわゆる大口株主)の場合にはこの選択はできず、総合課税となります。

(2) 税制改正の概要

現行法では、対象となる上場会社の発行済株式等の3%以上を直接保有する者のみが大口株主として定義されており、同族会社等を通じて対象上場会社を間接的に支配している個人株主は申告分離課税等の選択が可能となっています。この大口株主の要件について以下のとおり見直しが行われます。

  • 対象上場会社の株式等保有割合(同族会社を通じた保有割合を含む保有割合)が3%以上の場合も大口株主として、その者が受け取る配当は総合課税となる。
  • この場合の株式等保有割合とは、個人及びその個人を判定の基礎となる株主とした場合に同族会社に該当する法人が保有する株式の発行済み株式の総数に対する割合をいう。
  • 上記は、令和5年10月1日以後に支払を受けるべき上場株式等の配当等について適用される。

(イメージ図)

3. 財産債務調書制度等の見直し

(1) 制度の概要

一定の個人が保有する財産の種類、数量及び価額並びに債務の金額その他必要な事項を記載した書類(財産債務調書)を所得税の納税地の所轄税務署長に提出する制度です。

(2) 税制改正の概要

財産債務調書の提出期限が緩和される一方で、提出義務者の範囲が拡大され、高額資産保有者の資産状況報告義務が強化されます。

内容

現行

改正案(*1)

財産債務調書の提出義務者
 

所得税等の確定申告書の提出義務者で下記に該当する者

・所得金額の合計額が2,000万円超

・保有財産が3億円(※2)以上又は、
 保有国外転出特例財産が1億円(※2)以上

現行に加え、以下も提出義務者とされる

・所得金額にかかわらず、保有財産が10億円(※2)以上

宥恕措置

提出期限後に財産債務調書等が提出されたが、調査があったことにより更正等があることを予知してされたものではないときは、その財産債務調書等は提出期限内に提出されたものとみなす(※3)

調査通知前に提出されたものである場合に限り、現行の宥恕措置が適用される

提出期限

翌年の3月15日

翌年の6月30日

記載省略可能な家庭用動産の基準

取得価額100万円未満

取得価額300万円未満

(※1) 上記の改正は、いずれも令和5年分以降の財債務調書等に適用される。
(※2) その年の12月31日の価額で判定する。
(※3) 財産債務調書等に係る宥恕措置:財産債務調書等を提出期限内に提出した場合には、その財産債務に係る所得税等の申告漏れが 生じたときであっても、その申告漏れに係る部分の過少申告過少申告加算税等について、5%軽減される。逆に、財産債務調書等の期限内提出がない場合等は、その財産債務に係る所得税等の申告漏れに係る部分の過少申告加算税等について、5%加重される。

 

4. 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置の見直し

(1) 制度の概要

父母・祖父母など直系尊属からの贈与により、自己の居住の用に供する住宅用家屋を新築等するための資金を取得した場合に一定の要件を満たすことで、一定額まで贈与税が非課税になる制度です。

(2) 税制改正の概要

■ 適用期限が令和3年12月31日から令和5年12月31日まで2年延長される。
■ 非課税限度額が下記の通り縮減される。
 

 

令和3年1月1日~
令和3年12月31日

令和4年1月1日~
令和5年12月31日

省エネ住宅等

消費税率10% 1,500万円
上記以外の場合 1,000万円

1,000万円

上記以外

消費税率10% 1,000万円
上記以外の場合 500万円

500万円

(※) 住宅用家屋の取得等に係る契約の締結時期による非課税限度額の差異はない。
(※) 省エネ等住宅とは、耐震、省エネ又はバリアフリーの住宅用家屋を指す。

■ 既存住宅家屋の要件が下記の通り変更される。

 

現行

改正案

築年数
要件

原則、築年数が20年(耐火建築物の場合は25年)以内のもの
※一定の要件を満たす場合は、築年数20年超であっても可
 

築年数要件は廃止される

耐震基準
要件

築年数が20年(耐火建築物の場合は25年)超の場合は耐震基準の適合が必要
 

築年数にかかわらず、新耐震基準の適合が必要
(ただし、登記簿上の建築日付が昭和57年1月1日以降の家屋については、新耐震基準に適合しているものとみなされる)

 

■ 受贈者の適用年齢が20歳以上から、18歳以上に引き下げられる。
■ 上記の改正は、令和4年1月1日以後(受贈者の年齢の引下げは同年4月1日以後)の、当該制度に係る贈与税について適用される。
■ 上記(非課税限度額を除く)の改正は、住宅取得等資金の贈与に係る相続時精算課税制度の特例措置等についても同様に適用される。
 

(3) 留意点

令和3年12月31日までに住宅取得に係る契約を締結した場合でも、贈与が令和4年1月1日以後の場合の非課税限度額は改正後の最大1,000万円となります。
 

改正が見送られたものの、今後議論が進められる相続税・贈与税の課税方式の見直し

令和3年税制改正大綱にて、今後本格的な検討を進める旨が明記された相続税・贈与税一体化議論については、令和4年の改正が見送られたものの、引き続き検討を進める旨が明記されているため、今後も動向を注視する必要があります。

令和4年税制改正大綱の一部抜粋

我が国では、相続税と贈与税が別個の税体系として存在しており、贈与税は、相続税の累進回避を防止する観点から高い税率が設定されている。このため、将来の相続財産が比較的少ない層にとっては、生前贈与に対し抑制的に働いている面がある一方で、相当に高額な相続財産を有する層にとっては、財産の分割贈与を通じて相続税の累進負担を回避しながら多額の財産を移転することが可能となっている。

今後、諸外国の制度も参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化防止等の観点も踏まえながら、資産移転時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める。

あわせて、経済対策として現在講じられている贈与税の非課税措置は、限度額の範囲内では家庭内における資産の移転に対して何らの税負担も求めない制度となっていることから、そのあり方について、格差の固定化防止等の観点を踏まえ、不断の見直しを行っていく必要がある。
 

※本記事は、掲載日時点で有効な日本国あるいは当該国の税法令等に基づくものです。掲載日以降に法令等が変更される可能性がありますが、これに対応して本記事が更新されるものではない点につきご留意ください。

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