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個人が海外の資産管理会社を保有している場合の留意点 ー 外国子会社合算税制による雑所得課税

ファミリーコンサルティングニュースレター 2022年7月号

はじめに

個人が海外の財産を保有している場合には、保有期間中や後継者への承継時における所得税・贈与税・相続税・出国税等、税務の観点から各種の論点を確認する必要があります。

例えば、日本居住者である個人が海外の資産管理会社を設立し、その株式を保有する場合、日本の外国子会社合算税制の適用を受ける可能性があります。今月号では、個人における外国子会社合算税制の留意点等についてご紹介します。


 

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個人への外国子会社合算税制

1. 海外の資産管理会社

(1) 個人が海外の資産管理会社を有する場合

日本居住者である個人が、海外の資産管理会社を有している場合には、外国子会社合算税制が適用され、その資産管理会社の現地所得が、日本居住者である個人の所得に合算される可能性があります。合算所得が生じる場合、日本居住者である個人は、当該合算所得を雑所得(最高税率:約55%)として所得税申告を行う必要があります。
 

(2) 具体例

個人が海外の資産管理会社経由で日本法人株式を有する場合、どのようなときに合算課税を受ける可能性があるかを確認します。

① 前提

  • 株主:個人A(日本国籍・日本居住者)
  • 資産管理会社:B国に所在する法人で、実体がなく、ペーパーカンパニーに該当、毎年の収益は事業会社からの配当のみ
  • 事業会社:資産管理会社の子会社である日本法人
  • B国の実効税率:25.5%

② 租税負担割合が30%を下回る場合
B国における実効税率25.5%であるため、特殊な状況下である場合を除き、一般的には租税負担割合は、30%を下回るものと考えられます。そのため、事業会社から資産管理会社が受ける配当は、日本の合算課税制度の適用により日本居住者の個人所得とみなされ、雑所得課税(最高税率:約55%)が適用される可能性があります。

 

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2. 外国子会社合算税制の概要

外国子会社合算税制では、外国法人が現地で獲得した所得につき、その株主である内国法人や日本居住者の所得とみなして、日本において合算課税が行われます。

(1) 租税負担割合

租税負担割合は次のように計算されます。

本店所在地や他国において課される法人税等
(非課税国外配当にかかる源泉税等を除く)+その他調整
本店所在地の税法により計算した所得+非課税所得
(受取配当等を除く)+その他調整

なお、分母がゼロ以下の場合、原則としてその国の実効税率が租税負担割合とみなされます(若干の調整が行われます)。
 

(2) 対象となる外国法人

内国法人や日本居住者により50%超保有されている等の外国法人は、外国関係会社といい、外国子会社合算税制の適用の対象となる可能性があります。

① 租税負担割合が30%未満の外国に所在するペーパーカンパニー等の場合
租税負担割合が30%未満で、一定の基準を充足しない等のペーパーカンパニーや実質的なキャッシュボックスである外国関係会社は、特定外国関係会社といい、会社単位の合算課税の対象となります。

そのため、個人が有する海外の会社がペーパーカンパニー等である場合、ペーパーカンパニー等で生ずる所得のすべてが、その株主である日本居住者個人の所得として課税されることとなります。

ペーパーカンパニー等には、後述する経済活動基準における実体基準及び管理支配基準をいずれも充足しない法人などが該当します。
 

② 租税負担割合が20%以上の場合(ペーパーカンパニー等以外の場合)
外国子会社合算税制の適用はありません。

③ 租税負担割合が20%未満の外国関係会社で経済活動基準を満たさない場合
租税負担割合が20%未満の外国関係会社は経済活動基準を充足しない場合、能動的所得を得る上で必要な経済活動の実体を備えていないと判断され、会社単位の合算課税の対象となります。

経済活動基準は以下の4つの基準があり、いずれかを充足しない場合には経済活動基準を充足しないものとされます。

(ア) 事業基準:主たる事業が、株式等の保有、工業所有権・著作権等の提供又は船舶・航空機の貸付けでないこと
(イ) 実体基準:本店所在地国に主たる事業に必要な事務所等を有していること
(ウ) 管理支配基準:本店所在地国において事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること
(エ) 非関連者基準/所在地国基準
非関連者基準:主として関連者以外の者と取引を行っていること(主たる事業が卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業、航空運送業又は航空機貸付業である場合)
所在地国基準:主として本店所在地国で主たる事業を行っていること(非関連者基準が適用される業種以外)

そのため、個人が有する外国法人の租税負担割合が20%未満で経済活動基準を満たさない場合、原則として、外国法人で生ずる所得のすべてが、その株主である日本居住者個人の所得として課税されることとなります。

(3) 租税負担割合が20%未満の外国関係会社で経済活動基準を満たす場合

租税負担割合が20%未満の外国関係会社で経済活動基準を充足する場合、一定の受動的所得(一定の配当、利子、為替差益等)のみ合算課税の対象となります。
 

3. 法人株主と個人株主に対する二重課税の調整の差異

外国子会社合算税制は、内国法人及び日本居住者である個人に対して適用される制度です。外国関係会社の所得が、日本において合算課税の適用を受ける場合、同一の所得に対して、外国関係会社の所在する国及び日本の両国において課税され、二重課税が生ずることとなります。この二重課税を排除するための制度がありますが、法人と個人では、相違点があります。

(1) 外国関係会社への配当等の控除の不適用

外国関係会社の株主が日本法人である場合、当該外国関係会社がその子会社等からの配当で、一定の要件を満たすもの(その子会社の発行済み株式等の25%以上を配当等の支払い義務が確定する日以前6月以上保有)については、合算所得の計算上、除外されます。

しかしながら、外国関係会社の株主が個人の日本居住者である場合については、そのような規定は存在しないため、事業会社からの配当の受け皿として設立された海外資産管理会社については留意が必要となります。

(2) 外国税額控除の不適用

外国関係会社の所得につき日本において合算課税の適用を受ける場合、二重課税を排除するため、外国関係会社の課税対象金額に対応する現地法人税等は、その株主である日本法人において外国税額控除の適用を受けることができます。

しかしながら、日本居住者である個人株主においては、雑所得として課税されたとしても、外国関係会社の現地法人税等は、日本での外国税額控除の対象外となります。

 

まとめ

日本居住者である個人が海外の資産管理会社を設立する場合、外国子会社合算税制の適用の可能性があるため、設立予定国の法定税率や租税負担割合の計算に影響を与える非課税所得等の調整項目に関連する取扱いを、事前に確認することが推奨されます。

また、既に海外資産管理会社がある場合には、合算課税の影響を試算するともに、その影響緩和策を検討することも選択肢となります。

※本記事は、掲載日時点で有効な日本国あるいは当該国の税法令等に基づくものです。掲載日以降に法令等が変更される可能性がありますが、これに対応して本記事が更新されるものではない点につきご留意ください。

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