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事業承継税制の活用における実務上の留意点
ファミリーコンサルティングニュースレター 2021年3月
平成21年度に創設された事業承継税制は、その後数度にわたって税制改正が行われ、平成30年度には非上場株式に係る贈与税・相続税の全額が猶予される特例措置が定められました。また、令和3年度税制改正においても、後継者の役員要件が緩和されるなど活用促進が図られています。今回は、制度の概要と共に、対象会社が外国子会社を有する場合の事例を中心に、実務上の留意点について触れていきます。
事業承継税制に関するポイント
1. 制度の概要
- 後継者が先代経営者から円滑化法(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律)の認定を受けた非上場株式を贈与又は相続により取得した場合において、一定の要件の下、その非上場株式に係る贈与税・相続税が猶予され、後継者の死亡等により、納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度です。
- 「一般措置」と「特例措置」の2つの制度があり、実務的には、非上場株式に係る贈与税・相続税の全額が猶予される「特例措置」の適用が中心となります。
(参考)一般措置と特例措置の主な比較
一般措置 |
特例措置 |
|
---|---|---|
事前の計画策定の要否 |
不要 |
令和5年3月31日までに本店所在地の都道府県知事に特例承継計画の提出が必要 |
適用期限 |
なし |
令和9年12月31日まで |
対象株式 |
総株式数の最大3分の2まで |
全株式 |
納税猶予割合 |
贈与:100%、相続:80% |
100% |
雇用確保要件 |
承継後5年間平均8割の雇用維持が必要 |
実質的撤廃 |
対象後継者の数 |
後継者1人に限定 |
後継者最大3名まで可 |
2. 対象会社が外国子会社を保有する場合の留意点
(1) 要件の厳格化及び納税猶予の縮減
事業承継税制は、「中小企業の事業承継の円滑化を通じた国内の雇用の確保や地域経済活力の維持を図る」観点から、平成21年度税制改正で創設されたものです。中小企業が外国子会社を有する場合がありますが、外国子会社は国内雇用に直接貢献しないものと考えられることから、外国子会社株式の価値相当についてまで納税猶予を認めることは、この制度の政策目的に照らせば適当ではないとして、下記取扱が適用されます。つまり、「特例措置」を適用した場合でも、外国子会社株式の価値相当については、後継者に税負担が生じることとなります。
- 要件の厳格化:対象会社の常時使用従業員が5人以上であることを追加(外国子会社を保有しない場合、1人以上)
- 納税猶予の縮減:対象会社の株価から外国子会社株式の価値相当を除外して納税猶予を算定
(2) 外国子会社の範囲
すべての外国子会社が対象になるのではなく、外国子会社が対象会社の「特別関係会社」に該当する場合に上記(1)の取扱が適用されます。「特別関係会社」とは、対象会社、対象会社の代表者、その親族等で議決権の過半数を保有される会社をいい、具体的には、対象会社が支配する子会社、孫会社等が該当します。
(参考)特別関係会社の範囲
(3) 具体的な計算方法
先代経営者から後継者が非上場株式を贈与により取得し、特例措置の適用を受ける場合を例に影響額を確認します。
【対象会社が外国子会社を保有しない場合】
(前提)
- 対象会社の評価方式:純資産価額
- 先代経営者から後継者への贈与時の対象会社の株価:10億円
- 先代経営者の相続時の対象会社の株価:20億円
- 税率:贈与税・相続税ともに55%(基礎控除等は考慮しない)
(株式に係る後継者の税負担)
① 贈与時:ゼロ(10億円×55%=5.5億円の贈与税が猶予される)※1
② 相続時:ゼロ(10億円×55%=5.5億円の相続税が猶予される)※2
③ 合計:ゼロ
【対象会社が外国子会社を保有する場合(直接保有を前提)】
(前提)
- 対象会社の評価方式:純資産価額
- 先代経営者から後継者への贈与時の対象会社の株価:10億円(うち、外国子会社株式の価値1億円)
- 先代経営者の相続時の対象会社の株価:20億円(うち、外国子会社株式の価値4億円)
- 税率:贈与税・相続税ともに55%(基礎控除等は考慮しない)
(株式に係る後継者の税負担)
① 贈与時:0.55億円(9億円×55%=4.95億円の贈与税が猶予される)※1
② 相続時:0.55億円(8億円×55%=4.4億円の相続税が猶予される)※2
③ 合計:1.1億円
(縮減計算のイメージ)
※1 先代経営者の相続により猶予された贈与税は免除されます。外国子会社を保有する対象会社の評価方式が類似業種比準価額の場合は、別途異なる計算式により縮減計算を行います。
※2 後継者は、先代経営者から対象会社の非上場株式を相続により取得したものとみなされ、贈与時の株価により他の相続財産と合算して相続税が課税されます。その際、一定の要件を満たす場合には、対象会社の非上場株式について、相続税の納税猶予を適用することができます。対象会社が外国子会社株式を保有する場合は、贈与時の株価を基礎として、相続時の外国子会社の価値を除外した株価に基づき猶予税額を再計算することになるため、外国子会社の価値が上昇する場合には、相続時における後継者の税負担が増加することも想定されます。
3. まとめ
事業承継税制の活用を検討する場合には、外国子会社の保有状況等グループの資本構成によって納税猶予額に影響が生じる可能性があるため、事前にシミュレーションをした上で効果を確認することが重要です。
その他、今回は割愛した適用要件の詳細確認、対象会社が一定数の上場株式又は医療法人株式を保有する場合の納税猶予の計算方法や適用後に組織再編を行う場合の納税猶予の取消事由の該当性など、複雑なルールも存在するため、事前に論点の洗出しを行い、慎重な検討が必要です。
※本記事は、掲載日時点で有効な日本国あるいは当該国の税法令等に基づくものです。掲載日以降に法令等が変更される可能性がありますが、これに対応して本記事が更新されるものではない点につきご留意ください。
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