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国際相続における留意点 ー 台湾と日本の相続税制度の違い
ファミリーコンサルティングニュースレター 2024年3月
国際相続が発生した場合、日本国内の法令だけではなく、現地の相続税法や相続制度等を把握し、申告、納税、遺産整理等などを行う必要があります。今月号では、台湾と日本の相続税の違い及び相続制度の留意点についてご紹介します。
はじめに
相続が発生すると、名義変更等の手続きや相続税の申告等が必要となりますが、昨今では被相続人や相続人が海外に居住しているケース、日本以外の国籍を有しているケース、日本だけではなく外国に相続財産があるケース等が増加しています。国境をまたぐ国際的な相続(以下、「国際相続」といいます。)に該当するときは、その対応に注意が必要です。
国際相続が発生した場合、日本国内の法令だけではなく、現地の相続税法や相続制度等を把握し、申告、納税、遺産整理などを行う必要があります。今月号では、台湾と日本の相続税の違い及び相続制度の留意点についてご紹介します。
台湾と日本の相続税制度や相続制度等の比較
1. 台湾と日本の相続税制度
台湾では相続税(遺産税)・贈与税の制度があり、2017年5月12日以降に死亡した被相続人の遺産については、遺産総額から各種控除額を差し引いた課税遺産純額に対して、10%、15%、20%の累進税率で課税されます。
被相続人が台湾国籍を有する場合、死亡前の2年間台湾に住所を有し、または住所を有しないが居所を有し、かつ、相続開始前の2年間のうち台湾に365日以上滞在していた場合、被相続人が所有する全世界の遺産が課税対象となります。一方、被相続人が台湾以外の外国籍のみを有する場合、台湾国内に所在する財産のみが課税対象となります。
申告期限は原則死亡の日から6カ月とされていますが、3カ月の延長が認められています。納税については、通常相続税申告後の2カ月内に、税務当局から納税通知書を受領し、定められた納付期限までに納税を行います。
■台湾相続税の速算表
課税遺産純額(台湾ドル) | 税率 | 累進差額(台湾ドル) |
---|---|---|
5,000万以下 | 10% | 0 |
5,000万超から1億以下 | 15% | 250万 |
1億超 | 20% | 750万 |
① 日本相続税の概要
日本では、被相続人及び相続人について、相続開始日または相続開始前10年以内に日本に住所を有するか、日本国籍があるか等の一定の要件を満たすか否かにより課税対象となる財産の範囲が異なります。日本以外の国に所在する財産を含めた全世界の財産が課税対象になる場合と、日本に所在する財産のみが課税対象となる場合があります。
日本の相続税額の算出方法は台湾とは異なり、財産に直接税率を乗じるものではありません。
正味の財産額から基礎控除額を差し引いた残額(課税遺産総額)を、民法に定める法定相続分により取得したものと仮定して、累進税率により相続人ごとの税額を計算します。その税額を合計した「相続税の総額」を、相続人の実際の相続割合に応じて按分します。
■日本相続税の速算表
法定相続分に応ずる取得金額(円) | 税率 | 控除額(円) |
---|---|---|
1,000万以下 | 10% | 0 |
1,000万超から3,000万以下 | 15% | 50万 |
3,000万超から5,000万以下 | 20% | 200万 |
5,000万超から1億以下 | 30% | 700万 |
1億超から2億以下 | 40% | 1,700万 |
2億超から3億以下 | 45% | 2,700万 |
3億超から6億以下 | 50% | 4,200万 |
6億超 | 55% | 7,200万 |
② 外国税額控除について
台湾と日本において相続税を申告した場合、一定の条件のもと、外国税額控除が適用できると思われます。
台湾において外国税額除控除を適用する場合、日本の相続税申告書を提出した後に、提出済み申告書の控え等を提出することにより外国税額控除が適用され、日本の相続税額を控除することができます。日本と台湾の申告期限と納税のタイミングの違いにより、一般的には台湾で期限内申告書を提出した後、更正の請求で外国税額控除を適用することが想定されます。
③ 外国税額控除適用のための書類準備について
台湾の税務当局に提出する日本の納税証明書は、台湾にとって外国で発行された書面であるため、原則、中国語への翻訳や認証等の手続きが求められます。日本の税務当局へ提出する場合も同様に、一定の書類については日本語の翻訳の添付や認証が要求されます。
2. 具体例:
- 被相続人:台湾で出生、日本に帰化、死亡前の20年間は台湾在住。死亡時において日本と台湾所在の資産を有している
- 相続人(配偶者、子供二人):台湾国籍、生まれてから日本に居住した事がない
上記の事例の場合、被相続人は相続開始前10年以内に日本国内に住所を有していたことがない、かつ、相続人は相続開始日において日本に住所がなく、日本国籍も有しないため、日本国内の財産のみが日本の相続税の課税対象となります。
日本の相続税申告及び相続手続きでは、相続人であること、および、他に相続人がいないことが確認できる書類を提出する必要があります。日本は戸籍の制度が確立されているため、一般的には、出生から日本国籍を有する者であれば、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本及び相続人の戸籍謄本を提出する事で被相続人と相続人の関係を証明することが可能ですが、戸籍の制度がない国の国籍を有する被相続人や相続人の場合、相続人である事実を証明する資料が不足するケースがあります。各国の相続法に違いがあることから、必要とされる書類も異なるため注意が必要です。
一方、上記の事例において、台湾相続税の申告上、被相続人は台湾国籍を有しており、死亡前の2年間台湾に住所を有しているため、台湾の相続税では全世界(日本、台湾)の財産が課税対象です。また、提出の終わった日本の相続税申告書の控え等を台湾の税務当局へ提出する事により、原則として外国税額控除が適用され、日本の相続税額を限度額の範囲内で控除することができます。
3. 台湾と日本の民法(相続法)
台湾の民法では、日本と同じように法定相続人、法定相続分、遺産分割等について定められていますが、法定相続人や法定相続分の規定が日本の民法とは異なるようです。
相続財産の承継方法は、包括承継主義と管理清算主義に大別されます。日本も台湾も包括承継主義が採用されているため、清算手続(プロベート制度)はありません。また、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。
今回の具体例の場合、台湾の民法では、法定相続人は配偶者と子供二人で、法定相続分はそれぞれ3分の1ずつとなります。一方、日本の民法では配偶者が2分の1、子供が4分の1ずつとなります。
被相続人は日本国籍を有しますが、生前に日本に帰化していることから、出生から死亡までの連続した日本の戸籍を取得することが困難です。また、相続人も台湾で出生しているため、日本の戸籍が存在しません。台湾では日本と似通っている戸籍制度があるため、被相続人及び相続人の台湾の戸籍資料を取得することで相続人であることを証明することが可能になります。
台湾の資料を日本の相続税申告や相続手続きに使用する場合、原則、資料の和訳と認証等が要求されます。円滑に手続きを進めるためには日本及び現地の知見のある専門家と連携することをお勧めします。
まとめ
国際相続が発生した際に、各国の相続税の有無や相続制度を確認することが重要です。国によって、相続手続きの流れ等が大きく異なる場合があるため、現地の法令等を確認するとともに、財産の所在の把握や専門家への相談等が必要になり、短い期間で多くの確認が必要になることから、生前に対応しておくことが推奨されます。
※本記事は、掲載日時点で有効な日本国あるいは当該国の税法令等に基づくものです。掲載日以降に法令等が変更される可能性がありますが、これに対応して本記事が更新されるものではない点につきご留意ください。
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