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家屋の固定資産評価の仕組みと問題点について

ファミリーコンサルティングニュースレター 2022年5月

近年、固定資産税の課税誤りに関する報道や記事が多く見受けられます。固定資産税は土地、家屋及び償却資産に対して課される税金ですが、このうち家屋に対する固定資産税は、その評価基準の曖昧さや、家屋評価担当者の建築に関する専門知識不足等が要因になり、特に誤りが多い資産です。今月号では、家屋の固定資産評価方法と問題点、誤りが多いポイント等についてご紹介します。

家屋の固定資産評価の仕組み

1. 家屋の固定資産評価額

(1) 新築家屋の固定資産評価

地方自治体の家屋評価担当者は、固定資産評価基準に基づいて、家屋取得者から借りた見積書や設計図書等の資料から数字等を拾っていき、家屋の固定資産税額算定の基礎となる固定資産評価額を算定していきます。

家屋の評価体系は、家屋の建築部分(おもに主体構造部分)と、設備部分の2つに大きく分かれます。家屋の主体構造部分については、鉄骨、コンクリートなどの資材数量に対して、その資材ごとに定められている評点数を乗じることで算定していきます。

一方で、設備部分は、例えば、下の表のように各設備の標準となる評点数が設定されており、設備の実情に合わせて各種の補正を施すことで評価が行われます。この補正のなかには、「施工の程度」項目など、評価担当者の裁量で決められる補正項目も含まれています。

令和3年度固定資産評価基準 第105表から一部抜粋 

評点項目及び標準点数

標準量

補正項目及び補正係数

ユニットバス

391,420

 

1個

型式

1.30
シャワーほか洗面器、
便器付のもの

1.0
シャワー付のもの

 

大きさ

1.25
240cm×160cmのもの

1.0
180cm×140cmのもの

0.90
160cm×120cmのもの

施工の程度

1.20
程度の良いもの

1.0
普通のもの

0.90
程度の悪いもの

システムキッチン

331,670

1個

間口寸法

1.15
300cmのもの

1.0
255cmのもの

0.80
180cmのもの

施工の程度

1.5
程度の良いもの

1.0
普通のもの

0.50
程度の悪いもの

 

各部分の評点数を合計したものが、その家屋の「再建築費評点数」となります。再建築費評点数とは、評価対象家屋と同一のものを、現時点で、その場所に新築するとした場合に、必要とされる建築費を点数に置き換えたものです。新築時点で算定した再建築費評点数は、以後の家屋評価の基礎となります。

(2) 在来家屋の固定資産評価額

家屋の固定資産評価は3年ごとに評価替えが行われます。

ただし、評価替えとはいっても、(1)で算定した「再建築評点数」を基にして、3年ごとの建物の劣化度合い(経年減点補正率)や、建築資材価額等の変動率(再建築費評点補正率)を乗じる程度の調整です。

何度評価替えされても、参照されるのは常に新築時の再建築費評点数になります。

 

家屋の固定資産評価額算定式

(785KB, PDF)

2. 家屋の固定資産評価等の問題点

家屋に対する固定資産税については課税誤りの問題だけではなく、その評価構造上、評価額が下がりにくい問題等があることも指摘されています。ここでは評価担当者の問題、評価構造上の問題、評価確認上の問題の3つを取り上げてご紹介していますが、いずれも根深い問題があり、その解消のためには抜本的な是正が必要なものといえます。

(1) 評価担当者の問題点
  • 家屋の固定資産評価には、高度な建築等に関する専門知識が求められるにも関わらず、実際には、たまたま家屋評価部門に配属され担当になった地方自治体の職員が評価しているケースもあります。さらに、担当は固定ではなく、多くの場合数年で配置転換されてしまいますので、担当者が経験を積んでいくことにも期待ができません。
  • 家屋の評価には前述の「施工の程度」のような、評価担当者の裁量で決められる項目が存在します。建築等の専門家であれば、その裁量が自らの知識や経験に基づいて適正になされることが期待できますが、評価担当者に専門知識がない場合は同様の裁量を求めることは難しいといえます。
  • 地方自治体のなかには家屋評価専門の部門を設けているところ(例えば東京都)もあります。しかしながら、多くの地方自治体は上記のような問題を抱えており、家屋評価の組織体系等を大きく変更しない限り問題の解消は困難な状況です。
  • 近年ではこの問題を受け、家屋評価の簡素化・合理化を図り、一部の項目について評価事務の手間を削減する内容に改定されつつあります。
(2) 評価構造上の問題点
  • 固定資産評価額の評価替えは、前述の通り、再建築費評点数を前提として、これに建築費の変動率(再建築費評点補正率)と家屋の用途、構造、経過年数から出される経年減点補正率を乗じることで行われています。
  • 近年の再建築評点補正率をみると、平成30年評価替え時には3年間で6%増加、令和3年評価替え時には3年間で7%増加となっています。これらの増加率は複利で評価に反映されるため、この補正率の影響は将来に及びます。
  • 家屋の固定資産評価には、減価償却と同様に、家屋の減耗を評価に組み込む係数(経年減点補正率)がありますが、近年は経年減点補正率よりも再建築評点補正率の方が高くなることがあります。このことが原因で、建築から年数が経過した家屋であったしても、なかなか評価が下がらない状況になっています。
  • 他にも評価構造上の問題点として、評価額に誤りがあったとしても評価替えで再建築費評点数自体の見直しは行われないことから、誤った評価額が引き継がれ家屋の滅失まで過大な納税になるという問題もあります。
(3) 評価確認上の問題点
  • 地方自治体からは、納税者に対して評価額のみが通知され、納税者側が請求しない限り、その評価の根拠を開示してくれません。評価の内容を確認するには、まずは地方自治体に対して新築時の評価根拠資料の開示請求をする必要があります。
  • 評価根拠資料は、通常は、納税者本人が家屋の所在する地方自治体に電話で問い合わせるか、直接窓口に出向くことで開示してくれます。しかしながら、一方で評価関係資料の開示を拒否し、開示しない地方自治体も少なからず存在します。また、一部の地方自治体では、竣工から10年以上経過している家屋について、地方自治体の文書保管規定により、既に評価根拠資料を破棄してしまっているケースなども見受けられます。
  • 東京都の一部の都税事務所では、平成9年までは新築から7年で資料を破棄していたようですが、現在では家屋の滅失から7年に変更されているようです。
  • 市区町村から評価根拠資料の開示を拒否等されたとしても、都道府県の県税事務所側に根拠資料が保管されていることがあり、その場合、県税事務所側への開示請求をすることで評価根拠資料を取得できるケースもあります。

3. 固定資産評価のチェックポイント

(1) 評価額のチェックポイント
  • 1) 計算自体の誤り
    上記のとおり、家屋評価の担当者は評価の専門家ではない場合が多いため、数字の取り違えで積算自体が誤っていること、評価担当者の裁量による評価が適正ではないこと等の誤りは見受けられます。例えば、無筋コンクリートを鉄筋コンクリートとして評価していた事例など、家屋評価の専門家が評価したのであれば間違えようがない箇所が誤っていた事例も見受けられました。

    家屋の使用状況に変更があった場合や、増改築があった場合など、家屋に変更があったときには、家屋評価が正しく反映されているか確認しておく必要があります。

    特に、一度家屋評価額が確定してしまうと、これを是正するためには、まずは地方自治体に誤りを認めさせる必要があり、適正化へのハードルも上がってしまいます。評価確定前の事前協議であれば柔軟に対応してくれるところも多いですので、、事前に家屋評価担当者とすり合わせを行っておくことをお勧めします。この点は、以降2)の3)も同様です。
  • 2) 償却資産との二重課税
    家屋評価に含まれない業務用資産は償却資産として計上する必要がありますが、その線引きは煩雑です。

    外構など償却資産に該当することが明確な資産であれば問題ないですが、受変電設備のような判断を誤りやすい資産や、さらには配線までは家屋評価、末端の器具(スピーカーやカメラなど)は償却資産といったように、同一用途の設備でも課税範囲が異なる資産などもあります。また専門家でも、家屋と償却資産のどちらに区分すべきか悩ましい項目も存在しています。

    家屋と償却資産を適正に区分して処理しないと、課税漏れや二重課税の問題が生じます。この問題解消には、家屋の評価根拠資料と償却資産台帳との突合が不可欠ですが、突合をするにしても、家屋評価の算定根拠は前述の通り、納税者側が請求しなければ取得できず、取得できても家屋の評価根拠資料読み取りには、専門知識が求められる状況です。

    二重課税が生じないようにするためには、どの部分を家屋評価に含める予定で、どの部分を償却資産として申告する必要があるのか、地方自治体との事前情報交換、交渉を行っておくことが肝要です。
  • 3) テナント持込資産との二重課税
    東京都と一部の地方自治体を除き、テナント持込資産は、不動産取得税評価上の取扱いと固定資産税の評価上の取扱いが異なります。不動産取得税計算上はテナント持込資産を含めて家屋を評価し、固定資産税計算上はテナント持込資産を除いて家屋を評価する必要があります。このようにテナント持込資産に対しては、通常の家屋評価とは異なる取扱いが求められています。

    このテナント持込資産の取扱いは、平成16年改正で定められたものですが、未だにこれらの評価を同一として評価してしまっている例が散見されます。この場合に、テナント持込資産に対して、家屋所有者側(家屋課税)とテナント側(償却資産課税)の両方に固定資産税が課税されることになり、二重課税の問題が生じます。

    この問題への対策としては、償却資産との二重課税と同様に、どの部分がテナント持込資産なのか、事前に地方自治体と事前情報交換、交渉を行っておくことが肝要です。
(2) 家屋タイプ独自のチェックポイント
  • 1) オフィスビル
    空調や換気設備の方式、設置部分、仕様の評価などに誤りが多く見受けられます。特に、近年の建物設備の複雑化に対して家屋評価が追い付いておらず、適切な評価補正項目が示されていない場合もあります。過大評価に繋がらないようにするためには、事前の家屋評価担当者とのすり合わせをお勧めします。
  • 2) 倉庫、工場
    一棟の倉庫の中に、複数の用途がある場合(例えば、冷凍倉庫等が中にある場合)には、その面積の大小で用途が決まる場合があります。用途変更があった場合には、評価方法を変更されているか確認が必要です。また、倉庫、工場は、特に家屋と償却資産の区分誤りが多く見受けられる家屋であるため注意が必要です。
  • 3) ホテル
    ホテルの経年減点補正率は、平成27年基準以降で取扱いが変わっています。以前はホテルと病院の耐用年数は同じでしたが、平成27年基準以降は耐用年数が短縮されています。変更後の耐用年数が正しく適用されているかは確認すべきポイントといえます。

4. 固定資産税課税誤りを見つけた場合の手続き

(1) 審査申出・審査請求
  • 固定資産税の納税者は、家屋の固定資産評価額に不服がある場合には、地方自治体の固定資産評価審査委員会に対して不服申し立て(審査申出)をすることができます。また評価額以外の項目で不服がある場合には審査庁に対して不服申し立て(審査請求)をすることができます。
  • ただし、審査申出の場合には、3年に一度の家屋評価替えの年度(直近だと令和3年)において、固定資産税の納税通知書を受け取ったときから3カ月以内に手続きを行わなければなりません。これに対して、審査請求の場合には、毎年度可能ですが、こちらも固定資産税の納税通知書を受け取った時から3カ月以内に手続きを行わなければならない点は同様です。
  • 審査申出や審査請求に対して、地方自治体側が誤りを認めればそれで解決ですが、誤りを認めずに反論(弁明)してくることもあります。これに対しては、反論、再弁明、再反論といった形で議論が続いていき、最終的に審査委員会や審査庁が決定を下します。
(2) 訴訟
  • 審査申出又は審査請求において下された決定に不服がある場合には、その決定の取消しを求める訴訟(行政訴訟)を起こすことができます。
  • 審査申出又は審査請求の手続きを経ていなかった場合であったとしても、国家賠償法に基づく賠償請求訴訟(民事訴訟)を起こすことが可能です。この場合には最大で過去20年間の課税誤りを遡及することができますが、行政訴訟の場合とは異なり、納税者側が地方自治体の過失を立証しなければならないというハードルが存在します。

固定資産税の課税誤りを見つけた場合の手続きについては、法的に整理すると上記のとおりですが、地方自治体によっては、審査申出等の手続期限を過ぎていたとしても、独自に対応してくれるケースがあります。また課税誤りがあった場合の遡及ついても、地方税法上は5年が遡及の限界であるところ、こちらも地方自治体独自の判断で、国家賠償法に基づく賠償請求と同様に20年遡及してくれたケースもあります。

審査申出等の期限が過ぎていた場合であったとしても、固定資産評価等に疑問がある場合には、新築時の評価根拠資料を取り寄せたうえで、地方自治体に対し、まずは相談ベースで交渉してみることをお勧めします。

※本記事は、掲載日時点で有効な日本国あるいは当該国の税法令等に基づくものです。掲載日以降に法令等が変更される可能性がありますが、これに対応して本記事が更新されるものではない点につきご留意ください。

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