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内国歳入法871条(m)の段階的導入を規定するNotice 2016-76を公表

米国税務 QI/FATCA関連情報/2016年12月15日

2016年12月2日、米国内国歳入庁(Internal Revenue Service:IRS)は通達2016-76(本通達)において、2017年1月1日からの施行が予定されていた米国内国歳入法871条(m)の一部ルールについて段階的な導入のガイダンスを公表した。(米国税務 QI/FATCA関連情報/2016年12月15日)

はじめに

2016年12月2日、米国内国歳入庁(Internal Revenue Service:以下「IRS」)は通達2016-76(以下「本通達」)において、2017年1月1日からの施行が予定されていた米国内国歳入法871条(m)の一部ルールについて段階的な導入のガイダンスを公表した。ここでは、まず関連するDividend Equivalent(配当同等物)、適格デリバティブディーラー(Qualified Delivertive Dealer:以下「QDD」)制度について簡単に触れた後、本通達の概要について解説する。

1. Dividend Equivalentについて

QI制度、FATCA(Foreign Account Tax Compliance Act:外国口座税務コンプライアンス法)制度等の米国税法においても所得の源泉地が米国となる場合、報告義務だけではなく、米国源泉徴収の対象となることがあり、注意を要する。所得の源泉地は、各国の税法において定められており、米国税法において配当は、支払う会社の設立地が源泉地ということとなる。例えば、日本人が、米国法人の株式を購入し、配当を受け取った場合には、当該配当の源泉地は、米国となり、米国税法において、本人確認、報告、源泉徴収等の対象となる。一方、デリバティブ等により、直接米国法人の株式を購入することなく、米国法人の配当を受け取るのと同様の利益を享受することができ、米国税法の抜け道となっていた。この対策としてIRSが導入したのが、内国歳入法871条(m)およびその関連規則(以下「871条(m)財務省規則」)であり、米国証券を原資産とする以下の取引に関する支払については、Dividend Equivalentとみなされ、米国源泉徴収の対象となる米国源泉所得として取り扱われることとなる。

  • 貸借取引および現先取引(Securities Lending and Sale-Repurchase Transaction)
  • 特定の想定元本取引(Specified Notional Principal Contract)

・2016年1月1日から12月31日までに発行された取引については経過措置により2018年1月1日以降の支払が対象

・2017年1月1日以降に発行された取引については2017年1月1日以降の支払が対象

  • 特定の株式関連商品(Specified Equity-Linked Instrument)

・2017年1月1日以降に新たに追加された先物取引、先渡取引、オプション、その他債権で米国証券を参照する取引

  • その他の実質的類似支払

上記において、特定の想定元本取引(2017年1月1日以降に発行されたもの)および特定の株式関連商品とは取引発行日にデルタが0.8以上の取引(Simple Contract1の場合)、もしくはSubstantial Equivalence Test2を満たした取引(Complex Contract3の場合)を指している。

1 Simple Contractとは各原資産について、以下の2条件を満たす取引。
 A)関連する全ての支払および受取金額が取引発行時に決定された単一の株式数によって計算されるもの
 B)関連する全ての支払および受取金額が単一の満期日または行使日を持つ(前払い金および定期的な支払いを除く)

2  Substantial Equivalence Testとは、Complex Contractの値動きを、Simple Contract Benchmarkの値動きと比較することによりComplex Contractが原資産を実質的に複製したものか判定するテストである。テストを満たせば871条(m)取引となる。

3 Complex Contractとは、Simple Contract以外の取引。

2. QDDについて

IRSは、米国証券を仲介する米国外の金融機関と、適格仲介人(Qualified Intermediary:以下「QI」)契約を締結し、米国源泉の配当、利子等を受け取る者の本人確認、適切な税率の適用、年次報告、定期的検証の義務等を課している。現在、おおよそ日本の金融機関では、証券会社、信託銀行、アセットマネジメント会社、カストディ業務を行う銀行等、約200社がQIとして活動している。本制度は、2001年から導入されており、2014年にFATCAの施行に伴い、大幅な変更があったが、2016年9月に公表された2017年以降のQI契約案では、コンプライアンス手続と租税条約適用方法の変更に加え、一定のQIが特定の要件および義務に従いQDDとしての役割を果たすことを認める新たな規定が含まれていた。

QDD制度では、QIが仲介人ではなく契約当事者として871条(m)取引に関する支払を受け取るか支払う場合に適用され、QDDであるQIはそれらの支払に対する第一義的源泉徴収義務、報告義務、みなし配当支払の支払金額に対する受取金額の超過分の納税義務等を負うこととなる。なお、QDD制度の導入によって適格証券貸付業者制度(QSL制度)は廃止されるため、QDD制度に置き換えられることとなる。

なお、QDDとなるには、以下の要件を満たすことが求められている。

i. 源泉徴収義務者に対して、QDDであるQIであることを表明する

ii. 源泉徴収義務の第一義的責任と報告義務を引き受ける

iii. Dividend Equivalentの受取人から自己宣誓書類、その他必要な書類意を徴求する

iv. Dividend Equivalentの該当有無を判定する

v. QDDとして受け取る金額と支払う金額の差額分について納税義務を負う

vi. コンプライアンスレビュー手続に従う

3. 本通達の概要

当初予定されたとおり、2017年1月1日から871条(m)が適用された場合、源泉徴収、報告その他の課題に直面するとのコメントが、世界各国の金融機関から多数提出されたことから、経過措置を設け、段階的な適用を行うこととした。

【2017年、2018年の経過措置】

  • 2017年1月1日以降に発行され、デルタが1である潜在的な871条(m)取引4に関し行われた支払について、§1.871-15(d)(2)および(e)が引き続き適用される
  • デルタが1以外の取引については、2018年1月1日以降に発行された取引が対象となる
  • 2017年、2018年の段階的導入年度については、871条(m)財務省規則を施行する際、IRSは、納税者または源泉徴収義務者が規則を順守するためどの程度誠実な努力を行ったかを考慮する。871条(m)財務省規則を順守するために誠実な努力を行わなかった者には、罰則規定において救済を受けることができない
  • 2017年中において、源泉徴収義務者は、Dividend Equivalentについて、源泉徴収額の納付を当該暦年四半期の末日までに行った場合、納付要件を満たしたものとする。なお、この規定を適用する場合には、様式1042の上部中央に”Notice 2016-76”と記載が必要となる
  • 取引が871条(m)取引か否かを判定する目的上、2個以上の取引で一定の要件を満たすものは、単一の取引として取り扱われるという複合ルールが存在する。この複合ルールは、取引の当事者であれば判断がつくが、源泉徴収義務者がこの複合ルールを順守するのは困難とのコメントがあり、2017年に行われる取引については、これらが互いに関連して値付け・マーケティング・販売された店頭取引の場合のみその統合を義務付けられるものとした。2017年に行う上場証券である取引は統合を義務付けられていない。なお、この簡便方法は、源泉徴収義務者にのみ適用され、潜在的な871条(m)取引の受取当事者(ロングパーティー)には適用されない

4 財務省規則§1.871-15(n)に基づく複合取引を含む

【QDDのための措置】

  • 2017年および以降の年について、QDDの871条(m)金額は、受取額と支払額の差額に対する源泉徴収税額を計算するNet Delta Exposureにて決定することができる。この規定は既に、2017年QI契約案に規定されていたが、財務省規則を今後改定することが予定されている
  • 2017年、2018年の段階的導入年度については、IRSは、QDDが871条(m)財務省規則およびQI契約の該当規定を遵守するためどの程度誠実な努力を行ったかを考慮する。一方、QDDの義務を遵守するため誠実な努力を行わなかった場合、罰則等について救済を受けることができなくなる
  • QI契約およびQDDステータスの承認前において、2017年3月31日以前にQDDステータスを申請した者は、申請書を提出した月から6カ月後の月末までは、QI-EINを受け取っていない場合も、様式W-8IMY上で「awaiting QI-EIN」(QI承認待ち)と表明することによりQDDとして活動できる。また、IRSが認めた場合には、2017年1月1日時点でQDDステータスを有するものとして取扱いを受ける

【一定の既存上場投資証券についての適用除外】

  • 米国証券を参照し、デルタ1取引である上場投資信託(Exchange Traded Note:以下「ETN」)は、原則、2017年1月1日より871条(m)の対象となる。財務省およびIRSは、これらのうち一定数が2015年最終規則の発行より前から存在し、継続的に販売されていたことを認識している。新たに作成されたETNは、以前に発行されたETNと同じ株式銘柄コードおよびCUSIP(Committee on Uniform Securities Identification Procedures)コードを有し、同じ目論見書等に基づき以前に発行されたETNを代替可能である。しかし、871条(m)財務省規則に基づくデルタ1取引であるが、2017年1月1日より前に発行されたETNは、871条(m)源泉徴収の対象とならない一方で、新たに作成された同一のETNで、2017年1月1日以降に発行されたものは、871条(m)源泉徴収の対象となる。この相違により、実務上の対応が困難となることから、871条(m)財務省規則は、下記にリストされているETNについて、2020年1月1日まで適用されない旨を規定することを予定している

おわりに

内国歳入法871条(m)に規定されるルールは、非常に複雑でわかりづらい内容となっている。今回、段階的な導入が正式に公表されたのは、日本の金融機関にとっても朗報となる。なお、概要をお知らせする目的でこのニュースレターを作成したが、あくまで、参考情報として、関係する場合には、必ず原文にて内容をご確認いただきたい。

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