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2017年QI契約の重要点

米国税務 QI/FATCA関連情報/2017年1月16日

2016年12月30日、米国財務省と米国内国歳入庁(Internal Revenue Service:IRS)はRevenue Procedure(歳入手続)2017-15を公表した。当該歳入手続は2017年1月から有効となる適格仲介人(Qualified Intermediary:QI)契約の最終版である。(米国税務 QI/FATCA関連情報/2017年1月16日)

はじめに

2016年12月30日、米国財務省と米国内国歳入庁(Internal Revenue Service:以下「IRS」)はRevenue Procedure(歳入手続)2017-15を公表した。当該歳入手続は2017年1月から有効となる適格仲介人(Qualified Intermediary:以下「QI」)契約の最終版である。昨年夏のQI契約ドラフト版(Notice 2016-42)公表後に世界中から多数のコメントを受け、また内国歳入法第3章 および第4章 の修正により、IRSは契約内容の一部改定を行った。昨年までのQI契約は2016年12月31日をもって契約期間が終了しているため、QIである金融機関にとっては、2017年QI契約の公表が待ち望まれていた。本ニュースレターでは2017年QI契約にて変更となったルールを中心に重要点を速報ベースでまとめている。なお、当該歳入手続は下記サイトにて原文を確認することができる。
Rev. Proc. 2017-15(IRSウェブサイト(英語、PDF))

1. 定期検証と内部統制の有効性についての宣誓

2014年に公表されたQI契約では、QI責任者は遵守体制を確保するためQIコンプラインスプログラムを構築の上、宣誓対象期間内に一度検証を行い、検証結果等に基づき内部統制の有効性につきIRSへ宣誓することが求められている。2017年QI契約には、検証プロセスや文書作成等に関する詳細についての記載はなく、IRSは今後も公表予定はないとコメントしている。そのため、宣誓を行うに際し必要となる、検証の実施方法ついてQI責任者に裁量の余地が与えられた。例えば検証の実施者として、QIの従業員(内部)または会計士や弁護士等(外部)のいずれを指名することも可能とされている。また、外部に委託する場合にも委託対象範囲を自由に決定することができる。

宣誓においては、QI責任者は検証結果に加えて、その他手続やレビューまたは特定の専門分野に対して知識を持つ他の役員や従業員による宣誓に依拠をすることが認められる。具体例としては、QIはFATCA(Foreign Account Tax Compliance Act:外国口座税務コンプライアンス法)への遵守が前提であるがFATCA遵守体制に関してはFATCA責任者の宣誓に依拠することができるということになる。ただし、QI責任者はIRSへ宣誓をする上で、自身が何に依拠したかを記録・保管することが求められる。

その他検証および宣誓に関するポイントは以下のとおり。なお、具体的な宣誓方法については、今回公表はなく、今後、IRSから公表予定とされていた。

(1) 宣誓対象期間

QI契約が有効となる年から完全な3暦年目の末日までが宣誓対象期間となる。したがって、2014年7月以前よりQI資格を持つ場合、最初の宣誓対象期間は2014年7月1日から2017年12月31日となる。一方、2015年中にQI資格を取得している場合には、QI資格取得日から2018年12月31日が、宣誓対象期間となる。

(2) 検証対象年度

上記宣誓対象期間のうちいずれか1暦年をQIが選択可能。宣誓対象期間が2017年12月31日までとなるQIの場合、2015、2016、2017年のうちいずれかを検証対象年度とすることになる。

(3) 宣誓期限

宣誓期限は宣誓対象期間の翌年7月1日となる。ただし、宣誓対象期間の最後の暦年を検証対象年度として選択する場合に限り、6カ月の延長が与えられる。したがって、宣誓対象期間が2017年12月31日までとなるQIが2017年を検証対象年度と選択する場合、2018年12月31日が宣誓期限となる。

(4) 検証人の独立性

検証人は、内部または外部のいずれの場合でも、客観的に検証を実施するための十分な独立性を持ち、QI遵守体制においても必要であればマイナス評価を行うことができる立場でなければならない。また、検証人自身が行った作業(例えば、検証人が設計したシステムや検証人が口座開設において顧客本人確認の有効性を確認した書類等)を検証することは認められない。

特に外部検証人に対する独立性の定義を求める声が多数IRSへ寄せられたようだが、IRSは特定の事実と状況により判断する必要があるため、明確な定義の記載を見送っている。なお、QI年次報告における電子報告代行が独立性に違反するかとのコメントに対しては、IRSはなぜ独立性の違反になるのか不明瞭と回答している。IRSは、「監査人(Auditor)」を「検証人(Reviewer)」に置き換え、定期検証を客観的に実施するための十分な独立性が存在する限り、定期検証を内部または外部の検証人が実施するようQI責任者が準備することができると定めることで、定期検証において財務監査またはその他の監査証明契約の基準を満たす必要がないことを明確化している。

(5) 口座の検証

米国証券を購入する顧客の口座(QI対象口座)が60以上ある場合、QIは2017年QI契約の付属文書IIに記載のサンプリング手法に基づき、検証対象口座をサンプル抽出することができる。またサンプリル抽出された口座の中で過小源泉徴収が発覚した場合には、QIは当該過少源泉徴収額を確認の上、納付および報告することが求められる。

(6) 事実情報の報告

QIは、内部統制の宣誓を行う際に、QI契約に基づく本人確認、源泉徴収、報告、および適格デリバティブディーラー(Quarified Derivative Dearer:以下「QDD」)(該当する場合)の義務に関する一定の事実情報(factual information)を報告しなければならない。この事実情報については、2017年QI契約付属文書Iに規定されており、これらの情報の一部は、定期検証の一環として口座および取引のテストを通じて収集される。なお、事実情報の一部において、QIは、宣誓の時点および宣誓対象期間に有効なQIコンプライアンスプログラムを構築していることが求められているので、未構築の場合には早急な対応が必要となるので留意されたい。

(7) 検証の免除

QI契約ドラフト版で既に公表されたとおり、以下のすべての要件を満たすQIは検証の免除をIRSへの宣誓時に申請することができる。ただし、検証の免除を受けるには、IRSの承認が必要となる。

  • QIが、FFI(Foreign Financial Institution:外国金融機関)であり、QDDを選択していない
  • QI連結コンプライアンスプログラム(Consolidated Compliance Program)の一員でない
  • 宣誓対象期間内の各暦年について、報告対象金額が500万ドル(5,000,000 USD)を超えていない
  • 宣誓対象期間内の各暦年について、期限内に様式1042、1042-S、945、1099および8966を提出済みである
  • 2017年QI契約のセクション10.02および10.03に基づきすべての定期的な宣誓および定期検証に加えて、FATCAに従い義務付けられるすべての宣誓を完了している

免除申請は検証のみの免除であり、QI責任者による内部統制の有効性に関する宣誓は行わなければならない。また免除申請時には、2017年QI契約付属文書IのPart IからPart IIIに記載されている一定の事実情報の提出が求められいるが、IRSはこの事実情報の提出のために検証を実施する必要はないとコメントしている。なお、この場合も、事実情報の一部において、QIは、宣誓の時点および宣誓対象期間に有効なQIコンプライアンスプログラムを構築していることが求められているので、コンプライアンスプログラムを構築していない場合には、免除の申請ができないこととなる。

2. 租税条約表明文書の改定

現状多くの日本のQIはQI上の本人確認書類として、顧客から様式W-8の代わりに、IRS承認済みのKYCルールに基づく本人確認書類(運転免許証や登記簿謄本等)の徴求を行っている。加えて、米国源泉の配当を受領する等の日米租税条約に基づく軽減税率を適用する法人顧客については、租税条約を適用できる事業体であるという宣誓をするための租税条約表明文書の徴求も求められている。

しかし、内国歳入法第3章の修正に伴い、法人顧客からは、今後源泉徴収義務者は受益者の租税条約の適用に係る詳細な情報の入手が必要となった。2016年4月版として改定された様式W-8BEN-Eは、租税条約に基づく軽減税率を適用する際の恩典制限(Limitation on Benefits Article:以下「LOB」)条項への受益者の宣誓チェックボックスが設けられている。既に旧W-8BEN-Eを徴求済みの場合、当該様式の有効期限までQIはこれに依拠することができるが、有効期限後はLOB条項に関する宣誓を含む新しいW-8BEN-Eの提出を依頼する必要がある。

一方、KYCルールに基づく本人確認書類により本人確認を行っているQIは、2017年1月1日以降の新規口座開設時に、法人顧客からLOB条項に関する宣誓文言を追加した新しい租税条約表明文書を徴求しなければならない。さらに、2016年12月31日までに既に本人確認済みであり租税条約表明文書を一旦徴求済みの既存顧客については、状況の変化が発生しない限り、2019年1月1日までにLOB条項に関する宣誓を入手することが求められる。

LOB条項に関する宣誓の徴求を行うQIは、その有効性の確認を行わなければならない。宣誓内容が信頼性または正確性にかけることをQIが実際に知っている、または知り得る場合、当該宣誓内容に依拠することができない。知り得る場合とは、例えば顧客の居住者であると宣誓する国と米国との間に租税条約が存在しないまたは有効でないことを、IRSが維持管理する米国が租税条約を締結している国のリストで確認した場合となる。

この有効性の確認は、以下のようなケースで適用しなければならない。

  • 有効な本人確認書類をQIが既に所有している既存口座については、原則的に状況の変化の発生時のみ
  • 既存事業体口座について、LOB条項を含む租税条約表明文書の取得時
  • すべての新規口座について、口座開設時

租税条約表明文書に関してさらに留意しなくてはならない点は、2017年QI契約において新たに有効期限が設けられたこととなる。様式W-8BEN-Eと同様に、租税条約表明文書の署名日から3年経過後の年末までの有効期限となるため、有効期限後は再徴求が必要となる。ただし、KYCルールに基づく本人確認書類についてはこれまでどおり、再徴求は不要となる。

3. 2017年QI契約への更新、契約手続

現在QI資格を既に取得済みの既存QIの場合、2017年3月31日までに契約更新手続を行うことにより、2017年1月1日にさかのぼってQI契約が有効となる。更新手続は下記サイトへのアクセスが必要となる。

QI/WP/WT Applocation and Account Management System(IRSウェブサイト(英語))

また、新たにQI資格を取得したい場合にも、これまでの紙ベースでの申請書類に変えて、上記サイトより申請を行うこととなる。新規QIにおける2017年QI契約の有効日は以下のとおり。

  • 3月31日以前に締結された場合、同年1月1日付
  • 3月31日より後に締結され、申請者がまだ報告対象となる支払を受け取っていない場合、同年1月1日付
  • 3月31日より後に締結され、申請者が報告対象となる支払を受け取っている場合、承認月の1日付

2017年QI契約の有効期限は有効日から完全な6暦年の末日までとなる。2017年1月1日が有効日となるQIの場合、2022年12月31日まで有効となる。

4. みなし利子における第一義的源泉徴収義務

2017年QI契約では、レポ取引または同様の契約、証券貸借取引、または証券ディーラーとしての業務活動に関して所有する担保に関連して受け取る利子、みなし利子の支払についての第3章、第4章源泉徴収の第一義的義務、第一義的様式1099報告、バックアップ源泉徴収義務を、QIが負うことを可能としている。これら源泉徴収義務はQIが当該利子やみなし利子の支払を受領する際に発生することとなる。したがって、QIは、様式W-8IMYを、当事者として受け取る利子およびみなし利子の支払と、仲介人として受け取る利子およびみなし利子の支払とを区別することを義務付けられることなく、当該QIが第一義的源泉徴収義務を負うQIであることを宣誓する源泉徴収義務者に提出することができる。

5. 適格デリバティブディーラー(QDD)

QDDに関しては、QI契約ドラフト版に、通達2016-76(配当同等物に関する規則である内国歳入法871条(m)についての経過措置)の内容が反映された。また、QI契約ドラフト版に関するパブリックコメントを勘案し、新たな緩和措置および変更点が盛り込まれた。ここではQI契約ドラフト版からの主要な変更点を中心に記載する。QDDおよび内国歳入法871条(m)制度そのものについての詳細は過去のニュースレターを参照されたい。

(1) 871条(m)金額の計算方法に関する簡略化

871条(m)金額の算出については、通達2016-76においてネットデルタアプローチによる算出方法の簡略化が公表され、2017年QI契約でも当該通達の内容が反映された。871条(m)金額の算出方法はある原資産の配当に対して、ネットデルタエクスポージャーに単位株当たりの配当金額を掛け合わせた金額となる。ここで、ネットデルタエクスポージャーとは、ある原資産に関して、QDDがディーラーとして保有するロングポジションのショートポジションに対する超過分である。簡略化前の871条(m)金額は複数の種類の受払いを相殺することによって算出される複雑なものであったが、今回の算出方法の簡略化によってQDDは保有ポジションのネットデルタエクスポージャーに配当金額を掛け合わせるだけで、容易に871条(m)金額を算出出来ることとなった。

(2) 適格事業体の定義拡大

QDDになることが出来る適格事業体に銀行持株会社および銀行持株会社の子会社が追加され、適格事業体の定義が拡大された。これによってグループ会社のためにリスク管理を行う事業体がQDDになることが可能となった。また、QDDの申請は本店・支店毎に個別に行うことが必要となった。例えば本店とある支店がそれぞれQDDとして活動する場合、それぞれが独立した事業体とみなしてQDDとして活動要件を満たす必要があり、独立してQDDの申請を行う必要がある。

(3) QDD納税額に関する緩和措置

QDDはQDDとして受払いした特定の支払を記録した調整表を作成の上、調整表を基にQDD納税額を算出、IRSへ納付および報告することが求められている。QDD納税額の算出方法、納付方法および報告方法について緩和措置が公表された。

1) QDD納税額の算出方法

871条(m)金額の算出方法の変更に伴い、QDD納税額の算出方法についても変更が加えられた。新しいQDD納税額の算出方法は、ある原資産について、以下(A)~(C)の合計となる。

(A) 871条(m)金額からディーラーとして受け取った配当に対してQDDが納付した税額を差し引いた金額

(B) QDDがプロップとして受け取った配当同等物に関する納税額

(C) 潜在的871(m)取引または原資産に関して、QDDがプロップまたはディーラーとして受け取った配当同等物以外のすべての支払(配当や利子等)に関する納税額

また、QDD納税金額を計算するための猶予期間の確保のため、2017年中において、QDDはディーラーとして受け取った配当、みなし配当および配当同等物について納税義務は生じない。ただし、QDDがプロップとして受け取った配当、みなし配当および配当同等物、および、QDDがプロップまたはディーラーとして受け取った他のすべての米国源泉FDAP所得については納税義務が生じる。

2) QDD納税額の納付方法および報告方法

QI契約ドラフト版ではQDD納税額の納付は源泉徴収額の納付に関するルールが適用されていたが、2017年QI契約ではQDD納税額に対しては納税に関する他の一般原則(典型的には四半期毎に見積納税額を算出し、他の納税金額と合算して納付を行う)が適用され、QDD納税額の報告方法についても様式1042による報告から今後発表される適切な様式による報告に変更された。

(4) 証券貸借取引および現先取引に関する緩和措置

QI契約ドラフト版によると、適格証券貸付業者(Qualified Securities Lenders:以下「QSL」)の制度が廃止され、QSLのステータスを継続して証券貸借取引および現先取引を取り扱う場合にはQDDになる必要があった。この場合、QDDは証券貸借取引および現先取引を仲介人ではなく契約当事者として行うものとみなされることとなっていた。2017年QI契約では緩和措置が公表され、証券貸借取引および現先取引を仲介人として行う場合にはQIは当該取引においてQDDになる必要がない旨が公表された。また、通知2016-76に記載のとおり、2017年中は通知2010-46(QSLに関する通知)に依拠出来るため、2017年中はQSLのステータスが引き続き有効となることとなる。ただし、証券貸借取引および現先取引を契約当事者として行う場合にはQSLではなくQDDとして行う必要がある旨は注意が必要である。

(5) 1042S報告の個別報告

2017年版様式1042Sでは、Line 12bに源泉徴収義務者(Withholding Agenet)のChapter 3ステータスコードの記載が必要となるが、QDDとしての支払である場合には、35(QDD)、QIとしての支払である場合には12(QI)を入れる。したがって、QDDとして活動するQIは、QIおよびQDDとしての活動毎に個別に様式1042Sにより報告する必要がある。また、源泉徴収義務者がQDDに対して支払を行う場合はQDD毎に個別に1042S報告が必要となる。

おわりに

今回も2014年QI契約の期限切れぎりぎりになって、ようやく、2017年QI契約が公表された。デロイト トーマツでは、年始より資料の読み込みを行っており、ようやく、ここに速報版をお届けすることができたが、引き続き159ページにおよぶ契約内容の詳細の分析に加え、翻訳の作成を実施している。ニュースレター本文に記したとおり、既にQIとして活動している200社余りの日本の金融機関は、新しい、QI/WP/WT Application and Account Management Systemにおいて、更新手続が必要となる。

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