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内国歳入法871条(m)の経過措置の延長に関するIRS通知2017-42の公表、及び機関投資家における871条(m)への対応

国際税務 QI/FATCA/CRS関連情報

本ニュースレターでは、米国内国歳入庁より2017年8月に公表された内国歳入法871条(m)と、適格デリバティブディーラー制度に関する規則を一部改正するIRS通知2017-42について記載する。(国際税務QI/FATCA/CRS関連情報/2017年8月18日)

1. はじめに

米国内国歳入庁(Internal Revenue Service:以下「IRS」)は2017年8月に米国内国歳入法871条(m)及び適格デリバティブディーラー(Qualified Derivatives Dealer:以下「QDD」)制度に関する規則を一部改正するIRS通知2017-42 (以下「本通知」)(IRSウェブサイト(英語、PDF))を公表した。本通知は、2017年1月1日より施行された871条(m)と2017年QI契約におけるQDD制度に関するものであり、米国財務省及びIRSはこれらの規則の一部の有効日及び適用開始日を延長するもの。また、本通知は通知2016-51及び通知2016-76にて公表された871条(m)の段階的導入期間についても延長を行うとしている。

871条(m)及びQDD制度は、米国原資産を参照し、一定の要件を満たす金融派生商品(以下「871条(m)取引」)から発生する支払(以下「配当同等物」)に関する規則である。当該規則の詳細な内容については、2016年12月15日付のニュースレター(デロイト トーマツ税理士法人ウェブサイト)を参照されたい。

また、弊社は871条(m)について金融派生商品をディーラーまたはブローカーとして取り扱う証券会社や投資銀行だけでなく、生命保険会社やアセットマネジメント会社といった機関投資家からも多数問い合わせを受けている。871条(m)によって新たに義務を課せられるのは、主にブローカーやディーラーであるが、機関投資家についても米国原資産の金融派生商品を取り組む際に検討すべき点が存在する。

本ニュースレターでは、本通知の概要及び機関投資家における871条(m)への対応について記載する。

 

2. 本通知の概要

(1) デルタワン取引及びノンデルタワン取引における経過措置の延長

通知2016-76において871条(m)の対象取引に関する段階的導入措置が公表され、2017年中はデルタが1の取引(デルタワン取引)のみが対象となり、デルタワン取引以外の取引(ノンデルタワン取引)については2018年以降871条(m)の対象となるとされていた。

本通知において、IRSはノンデルタワン取引について、源泉徴収義務者や納税者が871条(m)を遵守するため必要となるシステム及び業務構築にさらなる時間が必要であるとし、当該段階的導入措置を1年間延長する旨を公表した。これにより2017年及び2018年においてはデルタワン取引のみが871条(m)の対象となり、ノンデルタワン取引は2019年1月1日より871条(m)の対象となる。

また、IRSは通知2016-76において努力規定を公表しており、デルタワン取引については2017年を、ノンデルタワン取引については2018年を経過措置期間とし、納税者または源泉徴収義務者がそれぞれの取引における経過措置期間中において、871条(m)を遵守するため誠実な努力をどの程度行ったかを考慮するとしていた。

本通知において、当該努力規定についても整合する形で1年間の経過措置の延長が公表され、デルタワン取引については2017年及び2018年が、ノンデルタワン取引については2019年が経過措置期間となり、努力規定が適用されることとなる。

(2) 結合ルールに関する経過措置の延長

871条(m)では単一の取引を意図的に複数の取引に分割することで871条(m)の適用を免れることを阻止する結合ルールが存在する。通知2016-76においてIRSは結合ルールについての経過措置を公表し、2017年中については結合ルールの対象となる取引を店頭取引に限定し、上場している取引については結合ルールの対象外とすることとされていた。

本通知において、当該結合ルールの経過措置に関して1年間の経過措置の延長が公表され、2017年に加えて2018年においても、結合ルールの対象となるのは店頭取引のみとなる。2017年及び2018年において結合ルールが適用されなかった複数の取引に関しては、再発行等が行われない限り経過措置終了後の2019年以降に改めて結合ルールが適用されることはない。

(3) QDD制度に関する経過措置の延長

2017年QI契約において、QDDは各原資産毎のデルタのポジション(ネットデルタエクスポージャー)を算出し、当該ポジションに基づく871条(m)金額の算出及びQDD租税債務の納付が求められている。2017年においては当該義務における経過措置が公表されており、QDDはディーラーとして受け取る配当、みなし配当及び配当同等物については納税義務は生じず、また、ネットデルタエクスポージャーによる871条(m)金額の算出は不要とされていた。

本通知において、当該経過措置の1年間の経過措置の延長が公表され、QDDは、2017年に加えて2018年においても納税義務は生じず、また、ネットデルタエクスポージャーによる871条(m)金額の算出も不要となる。しかしながら、QDDは自己勘定取引等のディーラーとしての業務以外で受領した配当や配当同等物、また米国源泉FDAP所得に関しては引き続き租税債務を負うことになる。またQDDが米国非居住者に対して支払う配当同等物に関しても源泉徴収の義務が存在することに留意されたい。

また、2017年QI契約において、QDDは2017年のQDDとしての業務が適切に行われているかの検証と事実情報の提供は不要であるとされていた。本通知において、当該検証年度に関する経過措置が延長され、2017年に加えて2018年においてもQDDとしての業務に関する検証も不要であるとされた。ただし、QDDとしての検証年度は原則QIとしての検証年度と一致させなければならないため、QIとしての検証を2018年以前の年に行わない限り、QI及びQDDの検証年度については2019年以降の年を選ぶ必要がある。

加えて、2017年QI契約において、2017年はQDD制度の導入期間とされ、QDDは871条(m)及び2017年QI契約に関連規定を遵守するため誠実な努力をどの程度行ったかを考慮するとしていた。本通知において、当該経過措置についても2018年まで延長されることとなった。

3. 機関投資家における対応

871条(m)上で定義されているブローカーまたはディーラーに該当しない機関投資家は、ブローカーまたはディーラーに該当する証券会社や投資銀行と871条(m)取引に該当する可能性のある金融派生商品を締結する場合において、当該取引が871条(m)取引に該当するかの判定義務、配当同等物の金額及び支払日、記録の作成義務及び情報開示義務を負うことはない。ただし、機関投資家による配当同等物の支払が生じた際には、原則として配当同等物に関する源泉徴収義務が機関投資家に生じることとなる。ただし、当該源泉徴収義務は取引相手がQDDの場合には免除される。

また、機関投資家が上記の源泉徴収義務を負うか否かに関わらず、機関投資家が配当同等物を米国非居住者に支払う場合には米国税法に基づき様式1042、1042SによるIRSへの報告義務が生じることとなる。様式1042は郵送での提出が可能であるが、様式1042Sは電子申告が必要となるため、専門家のサポートが必要となる。したがって、米国証券を参照する金融派生商品を取り組む機関投資家は、当該商品が871条(m)取引に該当するかを事前に確認し、871条(m)施行以前には課せられなかった米国税法に基づいた対応が新たに求められる可能性があることを認識することが重要である。

 

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