ナレッジ

イギリスのEU離脱が及ぼす
欧州VAT上の影響について

税務研究会『国際税務』2016年Vol.36 No.8

先般イギリスの国民投票によって可決されたイギリスの欧州連合(EU)離脱は、ドイツからマルタまで経済規模が著しく異なる28加盟国の中でも、第二の経済大国が離脱するという、ヨーロッパの政治、経済、社会に大きく影響を及ぼす事象である。(『国際税務』2016年Vol.36 No.8)

1. はじめに

先般イギリスの国民投票によって可決されたイギリスの欧州連合(EU)離脱は、ドイツからマルタまで経済規模が著しく異なる28加盟国の中でも、第二の経済大国が離脱するという、ヨーロッパの政治、経済、社会に大きく影響を及ぼす事象である。現段階で何らかの影響を特定することは困難であるが、本稿では、間接税という、税の中では最も大きな影響を受けるとされる分野の付加価値税(Value Added Tax:以下「VAT」)に特化して、イギリスが完全離脱した場合に想定される影響を分析する。欧州連合では、VAT指令(Council Directive 2006/112/EC of 28 November 2006 on the common system of value added tax)を制度の根幹として、数本のEU規則(regulation)とEU指令(directive)に基づき、共通のVAT制度が導入されている。イギリスのEU離脱により、イギリスは指令、規則の適用を受けなくなる。イギリスは今後、離脱申請を行い二年間の離脱交渉に入り、その過程で具体的な離脱条件を合意する。本稿ではあくまで、VATに影響を及ぼす特殊な合意がなされず、イギリスがVAT上の取扱いにおいてEU第三国と同等の立場に立ったと仮定して、その影響を分析する。

2. 離脱のタイミング

2016年6月23日の国民投票で表明された民意を受けて、イギリスはリスボン条約第50条の規定に基づき、今後離脱申請を行い、二年間の離脱交渉に入ることが予想される。二年間の離脱交渉期間は全加盟国の合意を得られれば延長も可能であるが、全加盟国から延長の合意を得ることは困難であるといわれており、延長がされない場合には離脱申請から二年を経過した時点で、欧州連合が締結している条約、EU規則、EU指令の効力は自動的にイギリスに及ばなくなる。元残留派であったメイ新首相は、所信表明演説において「Brexit means Brexit」と述べ、EU離脱を実行することを明確にした。離脱申請は2017年に入ってから提出するとしているため、イギリスの離脱は2019年1月1日以降となるといわれている。

3. 欧州連合におけるVAT制度の法的仕組み

欧州連合は28加盟国から国家主権の一部を譲り受け、様々な分野における独自の立法権を有している。EU法の体系は、三段階構成となっており、最上位に位置する条約(例 リスボン条約(Treaty on the Functioning of the European Union))、協定(例 欧州連合がEU第三国と締結する貿易協定)はすべての加盟国を一様に拘束する。次のレベルとして、EU規則と呼ばれるRegulation、EU指令と呼ばれるDirectiveがあり、前者は加盟国に対して直接効を有し、国内法化されることなく全加盟国で法的拘束力を有する。一方、後者は直接効を持たず、全加盟国に対して制度の枠組みと制度が達成すべき政策目的を示し、各加盟国に立法措置を講じることを求めるものであり、国内法化により初めて法的拘束力を有する。この他に、欧州司法裁判所(European Court of Justice)の判例があり、EU法の解釈について全加盟国の裁判所に対して同種の事案に関する拘束力を有している。税法の領域では、欧州統一市場の機能を担保するため、税制の調和が政策的に推進されてきたが、調和の度合いは税目によって異なる。最も調和が進んでいるのは関税であり、欧州連合関税法典(Union's Customs Code、「UCC」)を規定する2013年10月9日付欧州議会・理事会規則952/2013(2016年5月1日から主要規定が発効)が根幹を成す法令であり、いずれも直接効を有するEU法令によって定められている。これに対して、VAT税制の根幹となる規定は、VAT指令(Council Directive 2006/112/EC of 28 November 2006 on the common system of value added tax)他、主としてEU指令によって定められているため、各加盟国は、指令とパラレルの各国VAT法を有している。VATの分野では、近年、EU規則による制度化と欧州委員会によるガイドラインの公表により、各加盟国による立法の際に生じる相違や各国による解釈・運用の違いをなくす努力がされているが、EU規則で規定されている内容も各国のVAT法に何らかの形で取り込まれており、欧州委員会が発表するガイドラインは参考にすぎず、最終的には各加盟国が自国のVAT法に基づき課税を行っている。

イギリスに対してEU規則およびEU指令が適用されなくなることによって、離脱以降のEUレベルでのVAT法の改正の動きはイギリスVAT法には反映されなくなる。離脱時点までのイギリスVAT法は存続するため、イギリスが積極的に全く新しいVAT制度を導入するといったことがない限り、離脱時点の欧州連合の制度に沿ったVAT制度が離脱後も適用される。イギリスが望めば、既存のVAT法を廃止し、全く新しいVATに代わる税金を導入することも可能となるが、離脱に絡み緊急に必要となる立法措置の多さにかんがみれば、当面の間、必要最低限の改正にとどまると予想する。離脱後は、欧州連合に拘束されることなくイギリスVAT法を一国の判断で改正することが可能になるため、例えば、VAT指令では限定されている軽減税率適用または免税となる取引に関して、イギリスが独自に免税取引、軽減税率対象品目などを拡大することが可能となる。

4. VAT指令の地理的適用範囲

離脱後のシナリオとして、イギリスが現在のノルウェー、リヒテンシュタイン、アイスランドと同様に欧州経済領域(European Economic Area:以下「EEA」)にとどまる可能性が指摘されている。イギリスが、EEAにとどまった場合であっても、これによってVAT指令上イギリスが加盟国として取り扱われるということはない。加盟国とは、VAT指令5条2項により、欧州連合条約(Treaty of the European Union)の52条およびリスボン条約の355条に定める欧州連合の加盟国であり、イギリスは離脱によってこれらの条約上の加盟国でなくなるため、VAT指令上の加盟国にも該当しない。現在、モナコ公国、マン島、キプロス共和国のための特例(VAT指令7条)により、地理的にはそれぞれフランス、イギリス、キプロスの一部のように見える、モナコ公国、マン島、イギリス主権基地領域アクロティリおよびデケリアは、欧州連合条約上の加盟国ではないにもかかわらず、VAT指令上は欧州連合域内として扱われている例がある。これに類する何らかの特例が入らない限り、イギリスはVAT指令上は 5条4項に定めるEU第三国(third country)として取り扱われることとなる。

5. 具体的な制度上の影響

イギリスがVAT指令5条4項に定めるEU第三国(third country)となる場合、網羅的列挙ではないが、次のようなVAT上の影響があると考えられる。

(1) 事業者間における、EU加盟国からイギリスへの資産の譲渡が、現在はEU域内非課税納品として免税とされているが、離脱後は欧州連合からの輸出として免税規定の対象となる。イギリスから他のEU加盟国に出荷された場合も、輸出免税規定の適用が今後は問題となる

(2) 事業者間における、イギリスから他のEU加盟国への出荷が、着荷地である加盟国において現在はEU域内取得として課税されているが、離脱後は着荷国での輸入となる。EU加盟国からイギリスへの出荷は、イギリスで輸入となる

(3) 個人によるイギリスからの個人資産の持ち込みが、他のEU加盟国で輸入となる。他のEU加盟国からイギリスへの個人資産の持ち込みも輸入となる

(4) 事業者によるイギリスへの資産(在庫)の移動、イギリスから他のEU加盟国への資産(在庫)の移動が、現在はEU域内移送とされているが、離脱後は、輸入となる。EU域内でのコンサインメントストックの特例が利用できなくなる。イギリス法人がEU非居住者となるため、原則的に欧州連合で自らが輸入者となることができなくなる

(5) 同一の商品の販売に関して複数の事業者が関与し、商品は第一事業者から最終事業者に直送されるいわゆるチェーン取引について、イギリスが出荷地または着荷地として介在している場合、チェーン取引に含まれる取引の課税地が影響を受ける。EU域内三角取引に参加する課税事業者の登録国としてイギリスが利用できなくなる

(6) 2010年から段階的に導入されてきたテレコミュニケーション、放送、電気通信利用役務を対象とするミニ ワンストップ ショップ制度(Mini One Stop Shop制度:以下「MOSS制度」)の登録加盟国(Member State of registration)としてイギリスが利用できなくなる。MOSS制度による申告でイギリスの課税売上がカバーされなくなる

(7) 旅行代理店のマージン課税制度(Tour Operator Margin Scheme:「TOMS」)の見直しが行われる可能性がある

(8) イギリス法人は他のEU加盟国で発生した前段階税の控除を受けるために、欧州連合域内に設立された課税事業者に対する還付制度(指令2008/9/EC、以前の第八号指令)に基づくオンライン申請ではなく、EU非居住者のためのVAT還付申請を提出しなければならなくなる。他のEU加盟国の法人は、イギリスで発生する前段階税は上記のオンライン申請でカバーされなくなるため、別途還付申請をイギリス政府に対して可能であれば提出する。日本の内国法人が行うイギリスでのVAT還付申請手続も改正される可能性がある

それぞれの項目について以下に具体例を挙げて、影響を解説したい。

(1) イギリスと他のEU加盟国間のEU域内非課税納品が輸出となる

現在、事業者間における他のEU加盟国からイギリスへの出荷、イギリスから他のEU加盟国への出荷は、VAT指令138条により、EU域内非課税納品(Intra‐Community supply of goods)として非課税となっている。169条により対応する仕入税額控除が認められることから、免税取引である。将来的には、資産が加盟国間を移動するのではなく、EU第三国へと運ばれる取引となることから、輸出免税取引(146条)に該当し得る取引となる。ともに免税取引ではあるが、免税となるための要件が異なることに留意を要する。例えば、輸出免税特有の実体的要件として、資産の取得者がEU第三国への輸送を手配する場合には、資産の取得者は原則として国外事業者でなくてはならないとされている。EU域内非課税納品の場合は、資産の取得者が資産の譲渡者と同じ加盟国に設立された事業者であっても、他のEU加盟国(着荷国)のVAT登録番号(以下:「VAT ID」)を示せば非課税とすることができるが、輸出免税の場合は、資産の取得者が譲渡者と同じ出荷地に設立された事業者の場合、取得者が輸送を手配してしまうと免税とはならない。また、免税適用を受けるために必要な保管帳票類も異なることに注意を要する。EU域内非課税納品を行う場合に必要となるEC(European Commission)セールスリストによる申告が不要となり、インボイスに記載する非課税となる根拠に関する記載が、EU域内非課税納品(VAT指令138条)から、輸出免税(VAT指令146条)へと変化するため、ERPシステムの改修が必要となる。

1) 具体的に影響を受ける例

A社(ドイツ)がB社(ドイツ)に商品を販売、B社はC社(イギリス)に同じ商品を転売し、商品はA社からC社に直送される。B社がドイツからイギリスへの輸送手配を行っており、B社はイギリスにVAT登録を行い、A社からB社への第一取引をEU域内非課税納品として取り扱っている。B社はイギリスでEU域内取得を課税申告し、B社からC社への販売はイギリス国内取引としてイギリスVATを課税している。

2) 離脱後に予想される取扱い

A社とB社の間で行われる第一取引は、着荷地であるイギリスがEU第三国となるため、EU域内非課税納品の免税規定の適用はない。B社がA社と同じドイツの会社であり、資産の取得者であるB社が輸送を手配していることから、輸出免税とすることもできない。結果として、ドイツ国内の課税資産の譲渡となり、A社はドイツVATを課税しなければならない。B社からC社への販売は輸出免税取引となる。C社はイギリスにおいて輸入通関手続を行い、輸入VATを納付する。A社はイギリスの離脱前と同様に、EU域内非課税納品に関する免税規定を適用することはできず、輸出免税規定の適用もないため、ドイツVATの徴収義務を負う。この取扱いの変化に対応することを怠ると、後日税務調査において追徴課税を受けるリスクが生じる。

(2) イギリスと他のEU加盟国間のEU域内取得が、着荷国での輸入となる

現在、事業者間での他のEU加盟国からイギリスへの着荷、イギリスから他のEU加盟国への着荷は、EU域内取得(Intra‐Community acquisition of goods)として課税されている(VAT指令20条)。EU域内取得の課税地は着荷地であり、取得者は、着荷地におけるVAT申告においてEU域内取得を着荷地国の税率で課税し、取得者が前段階税控除権のある課税事業者である場合には、同額を前段階税として控除する(VAT指令168条d)。同一の申告書上での相殺であるため、取得者にキャッシュフロー上の影響はない。これに対して、離脱後は、イギリスからの着荷は輸入となるため、取得者は原則として国境での輸入VATの納付義務を負う。輸入VATは、控除権者が輸入された資産を課税事業に利用する場合には、前段階税控除の対象となる(VAT指令168条e)。EU関税法224条に基づく関税の延納に準ずる輸入VATの30日までの納付の繰延制度は多くの加盟国で存在するが、納付債務と前段階税の申告書上での相殺を認める加盟国は少なく、離脱後はイギリスからの輸入にキャッシュフロー上のデメリットが生じることが予想される。また、EU域内取得にかかるVATは前段階税控除のために必要となる保管帳票類の要件が比較的緩やかであるが、輸入VATの前段階税控除を受けるためには輸入関連書類の保管が必要であり、輸入VATの控除権者の特定などの問題もあり、EU域内取得よりも実務上リスクは高い。EU加盟国からイギリスへの着荷も、現在はイギリスを課税地とするEU域内取得として課税されているが、離脱後は輸入となる。輸入課税制度については、イギリスが今後EU加盟国からの輸入に関してどのような制度を構築するかによって利便性が左右される。課税の繰延べ効果は保税措置でも得られるが、保税とするための申請はEU域内取得が自動的にキャッシュフローインパクトのない取扱いとなることに比べると、コンプライアンス負担の圧倒的な増加となる。

1) 具体的に影響を受ける例

A社(ドイツ)はB社(イギリス)から商品を購入している。商品はイギリスからドイツに発送される。現在はB社はこの取引をEU域内非課税納品として免税とし、それに対応してA社は着荷地であるドイツで自社のドイツVAT申告書上、EU域内取得を課税、同額を前段階税控除する申告を行っている。

2) 離脱後に予想される取扱い

A社はドイツで商品の輸入者となり、原則として逐次通関の際に輸入VATの納付を行わなければならない。EU関税法224条に基づく延納(Aufschubkonto)を担保を入れて申請し、輸入を行った月の翌月16日まで延納することも可能であるが、トリアの連邦出納局へ納付は必ず行わなければならない。前段階税控除は、月次または四半期で提出するドイツVAT申告内で行い、輸入VATの支払に関するキャッシュフローインパクトは、還付超過のタックスポジションにあるか、申告期限の延長を行っているか、税務当局の審査期間などの要素によって左右される。

(3) 個人によるイギリスと他のEU加盟国間での資産の移動

現在は、個人がイギリスと他のEU加盟国の間を移動する際に、個人の資産に対してVATが課税されることはないが、離脱後は、輸入として課税されるリスクが生じる。VAT指令30条により、資産の輸入はEU外貨物の欧州連合への資産の持ち込み、と定義されていることから、取引を伴う必要がなく、事業者ではない最終消費者が持ち込んだ場合も輸入となる。

1) 具体的に影響を受ける例

ドイツ在住の会社員がイギリス出張にパソコンを携帯し、イギリスからドイツへ帰国した際に、パソコンの原産地がEUであることを証明するか、欧州連合が原産地でない場合には欧州連合への初回輸入時に輸入VATが支払われたことを証明しない限り、ドイツで関税および輸入VATが課税される可能性がある。旅行者の携帯品は、空路、水路の場合は430ユーロまでが免税、その他の経路(陸路)では300ユーロまでが免税となる。

(4) 事業者によるイギリスと他のEU加盟国間での在庫の移動

EU加盟国間での所有権の移転を伴わない事業資産の移動は、最終消費に使われないことを管理するため、EU域内移送(Intra‐Community transport of goods)として申告の対象となっている。EU域内移送は、自社在庫の移動のため他社との取引が存在しないが、あたかも有償取引が行われたかと同様、EU域内非課税納品およびEU域内取得と同様の取扱いとなっている(VAT指令17条、21条)。離脱後は、イギリスとの間での在庫の移転は、EU域内移送ではなく、着荷地での輸入が申告対象となる。欧州連合域内で国境を越える時点で所有権の移転を伴わないコンサインメントストックの場合、原則的にはEU域内移送に続く着荷地での課税資産の譲渡となるが、多くのEU加盟国がコンサインメントストックの特例を設けており、コンサインメントストックの取得者がEU域内取得を申告することなどを条件として、譲渡者の着荷地での申告納税義務を免除している。離脱後は、イギリス法人がEU加盟国にコンサインメントストックを保有する場合、コンサインメントストックの特例は適用されず、原則としてコンサインメントストック保有国で、VATの徴収納付義務が生じる。イギリス法人はEU非居住者となるため、原則として、欧州連合への輸入の際に自らが輸入者となることができなくなることから、EUの居住者である税務代理人を擁立するか運送会社等のサービスプロバイダーに輸入者となる業務を委託することが必要となる。他のEU加盟国からイギリスへのコンサインメントストックの移動は、イギリスへの移動時点で輸入として取扱い、イギリスのコンサインメントストックからの出荷時にイギリスVAT課税取引となり、イギリスVATを請求し納付するコンプライアンス義務が生じると考えられる。

1) 具体的に影響を受ける例

日本の内国法人であるA社はイタリアに製品を輸出している。イタリアで欧州連合向けの製品は通関を行い、一部はイギリスにも出荷している。イギリス向けの製品はコンサインメントストックであり、イギリスの小売店の店頭で最終消費者に販売された時点で、小売店へ所有権が移転する。現在は、イタリア、イギリス両国のコンサインメントストックの特例を利用し、イタリアでEU域内非課税納品として課税し、イギリスの小売店がイギリスでのEU域内取得を課税し、A社はイギリスにおけるVATコンプライアンスは行っていない。

2) 離脱後に予想される取扱い

イギリス向けの製品に関しては、イタリアで通関をしてしまうとイギリスへの再輸出手続が煩雑なため、イタリアで輸入通関を行わず、保税倉庫から直接イギリスに転送することが考えられる。イギリスで輸入通関手続を行い、小売店の店頭販売時点でイギリスを課税地とする課税資産の譲渡となる。小売店に対してイギリスVATを請求し、イギリスで申告納付を行う義務が生じる。

(5) チェーン取引の課税地に対する影響

チェーン取引とは、同一の商品の販売に関して複数の事業者が関与し、商品は第一事業者から最終事業者に直送される一連の取引をいい、介在するすべての取引が出荷地または着荷地において課税となる。関与する事業者のうち、輸送手配者を基準として、輸送手配を行う事業者が資産を取得する取引までを出荷地で課税し、その後の取引を着荷地で課税する。最初の事業者が輸送を手配した場合には、第一取引のみが出荷地で課税となり、以降の取引は着荷地で課税となる。EU域内非課税納品を定める138条は、資産の加盟国間での移動を要件としているため、出荷地で課税となる最後の取引において資産は着荷地に移動したと考え、当該取引のみを免税とし、取得者はEU域内取得を着荷地国で課税する。現在は、イギリスが出荷地または着荷地となるチェーン取引は、介在するすべての取引の課税地をこの特殊な基準によって判定しているが、離脱後は、輸出入を基準とする全く異なる判定基準を適用しなければならない。イギリスが着荷地となる場合には、適切に輸出免税となる取引を特定し当該取引までを出荷地を課税地とする取引として申告することが必要となり、イギリスが出荷地となる場合には、輸入以降の取引を着荷地で課税することが必要となる。また、出荷地、着荷地とは異なるEU加盟国にVAT登録を有する中間事業者が、着荷地でのVATコンプライアンスを免れることを趣旨とするEU域内三角取引の簡素化規定は、イギリスが出荷地、着荷地である場合には適用がなくなる。またイギリス以外の異なる二つのEU加盟国を出荷地、着荷地とするEU域内三角取引の場合、中間事業者がイギリスのVAT IDを用いることはできなくなることにも留意が必要である。

1) 具体的に影響を受ける例

A社(ドイツ)がB社(フランス)に部品を発注、B社はメーカーであるC社(イギリス)に注文をした。C社はA社のドイツ国内の所在地にイギリスから部品を郵送した。この出荷地をイギリス、着荷地をドイツとする三つの事業者が関与するチェーン取引は、最初の事業者であるC社が輸送を手配していることから、C社とB社の間の取引がEU域内非課税納品となり、B社は原則として着荷地であるドイツでEU域内取得の申告を行い、B社からA社への転売は着荷地であるドイツでの課税取引となる。EU域内三角取引の簡素化規定を利用し、B社がフランスのVAT IDを他の事業者に提示することにより、B社のドイツにおけるEU域内取得はドイツで課税されたとみなされ、B社のドイツVATの納付債務はドイツの事業者であるA社に転嫁される。B社はフランスのVAT申告において、三角取引の事実を申告することでドイツのコンプライアンス義務を免れる。

2) 離脱後に予想される取扱い

イギリスのEU離脱により、イギリスがEU第三国となるため、イギリスからドイツへの部品の供給はドイツで輸入として課税される。この取引では、C社が輸送手配をしていることから、第一の取引は出荷地であるイギリスが課税地となる輸出免税取引となる。B社からA社への販売は、着荷地であるドイツを課税地とする取引となるが、A社が郵便の受け取り時にドイツ輸入VATを支払うことが想定され、輸入に先立つ取引であるため、免税取引となる。B社はA社が輸入通関をしたことを証明することが免税要件とされているため、A社から輸入通関書類を入手しなければならず、通関を証明できない場合には、ドイツVATの納付債務を負う(同様の事例につきドイツ付加価値税施行規則3.14(16))。このように、EU域内三角取引の簡素化規定を利用していた従来と、輸出入が介在するチェーン取引では、いずれのインボイスにもVATが課税されないという点では同じ結果となるが、根拠が異なるため、保管しなければならない帳票類、申告記載内容が変化することに留意を要する。

(6) ミニ ワンストップ ショップ制度(MOSS制度)への影響

欧州連合では、2010年1月1日からテレコミュニケーション、放送、電気通信利用役務(Telecommunication services、Broadcasting services、Electronic services:以下「TBEサービス」)をEU第三国の事業者が欧州連合域内に居住する最終消費者に対して提供した場合、最終消費者の居住地を課税地とするルールを導入した。この課税地ルールの改正は、2015年1月1日から欧州連合域内の役務提供者にも拡大され、現在、最終消費者に対するTBEサービスの提供に関しては、受益者居住地課税が行われている(VAT指令58条)。この改正に伴い、国外事業者の納税申告義務の履行の簡素化のため、電子申告制度であるMOSS制度が導入されている(VAT指令357条以下)。TBEサービスを提供するMOSS制度の利用者は、登録加盟国を選定し、オンラインで登録することによって、登録加盟国を含むすべての課税地となる加盟国での申告を処理することが可能である。MOSS制度には欧州連合域内の事業者のためのスキーム(ユニオンスキーム)とEU第三国の事業者のためのスキーム(ノンユニオンスキーム)があり、欧州連合域内にVAT上の固定的施設がない日本の内国法人が役務提供者の場合は、ノンユニオンスキームを利用する。ノンユニオンスキームでは、登録加盟国が自由に選択できることから、英語圏であるイギリスは登録加盟国として好まれる傾向にある。離脱後は、MOSS制度を通じたオンライン申告からイギリスが除外されることが予想される。このため、既にイギリスを登録加盟国として登録をしている場合には、他のEU加盟国を登録加盟国として再登録する必要が生じる。また、他のEU加盟国を登録加盟国として選択し、申告にイギリス課税売上も含めている場合には、イギリスでの申告納付がMOSS制度でカバーされなくなることから、イギリスで別途VAT登録が必要となる。今後、MOSS制度での登録を検討する際には、将来的に再登録が必要となる恐れがあることから、原則としてイギリスは登録加盟国として推奨できないが、個別の事案の検討が必要である。

(7) 旅行代理店に対するマージン課税制度への影響

自社名義でツアー旅行を販売する旅行代理店に対するマージン課税制度(VAT指令306条以下)は、欧州連合域内で催行されるツアー旅行の最終消費に係る税収を、旅行先の加盟国に配分するための特殊な制度であり、欧州連合域内でツアー旅行を催行する日本の内国法人である旅行代理店にも適用されるため、留意が必要である。旅行代理店が消費者にツアー旅行を販売すると、その課税地は旅行代理店の設立地または役務の提供に係る固定的施設の所在地となるが(307条後段)、旅行代理店が手配するホテル、移動手段、食事等、実際は旅行者により旅行先で消費される。このため、旅行者が直接役務を享受する取引については、旅行代理店の課税標準を、旅行者から受け取る旅行代金(税抜き)と課税仕入れ(税込)の差額とし、マージンに対してのみ旅行代理店の設立地で課税を行う(308条)。旅行者が直接役務を享受する取引については、旅行先が課税地となる課税仕入に課された前段階税の控除・還付を旅行代理店は受けることができず(310条)、旅行先であるEU加盟国の税収となる。離脱後は、旅行先であるEU加盟国への税収の再配分をイギリスが政策的に終了する判断を採れば、イギリスを設立地または役務の提供に係る固定的施設とする旅行代理店に対してツアー旅行の販売価格の全額を課税標準とすることも考えられ、その場合、他のEU加盟国では引き続きイギリスの旅行代理店に対する前段課税の還付が否認されるため、ツアー代金に影響を与える。

(8) 前段階税還付手続への影響

日本国内ではVATリファンドとして知られている、前段階税還付手続にはEU第三国の課税事業者に対する還付制度(指令86/560/EEC:以下「第十三号指令」)と、欧州連合域内に設立された課税事業者に対する還付制度(指令2008/9/EC、以前の第八号指令)があり、手続の詳細が異なる。欧州連合域内に設立された課税事業者に対する還付制度は、2010年1月1日からオンライン化され、オンライン化と同時に、手続の詳細が加盟国で統一されている。還付申請期限は翌年9月30日までであり、申請の提出先は還付加盟国ではなく、課税事業者の設立地がある加盟国(Member State of establishment)となっている。これに対して、日本企業も利用することの多いEU第三国の課税事業者に対する還付手続は、課税事業者の設立国との互恵性(reciprocity)を還付の条件としており、申請はオンライン化されておらず、申請期限も申請の提出先となる各加盟国によって、12月末日、翌年6月末日、翌年9月末日と統一されていない。離脱後は、イギリス法人は欧州連合域内に設立された課税事業者に対する還付制度を利用することができなくなり、EU第三国の課税事業者として、各EU加盟国に対して還付申請を書面で行わなければならない。イギリスの現地法人が他のEU加盟国でVATの還付を受けている場合には、他のEU加盟国で制定している申告期限や提出書類等を事前に調査し期限内に申告が提出できるように準備を進める必要がある。他のEU加盟国に設立された法人で、現在イギリスの前段階税をオンライン申請によって還付させている場合には、オンライン申請の対象外となるため、イギリスに直接申請を提出しなければならない。また、イギリスは第十三号指令の適用を受けなくなることから、離脱後も日本の内国法人がイギリスでVAT還付を受けられるかどうかは、イギリスが第十三号指令に相当する還付制度を維持するかに左右される。

1) 具体的に影響を受ける例

イギリス現地法人であるA社は、ドイツで行われるメッセに関連して発生するドイツ出張時のホテル費用、飲食代に係るドイツVATの還付を受けている。現在は、前段階税が発生した翌年の9月30日までにイギリス税務当局に対して他のEU加盟国で発生した前段階税と一緒に取りまとめて還付申請をオンラインで提出している。

2) 離脱後に予想される取扱い

A社は前段階税が記載された正式なインボイスを入手した翌年の6月末日までに、ドイツの税務当局に対してインボイスの原本等を添付して、書面での申請を提出しなければならない。また、ドイツがイギリスとの関係で互恵性を認めることが還付の前提条件となる。初年度の申告期限が、離脱前と比べて早まっていることに留意を要する。

6. おわりに

イギリスが欧州連合の市場に密接に組み込まれており、日常行われているすべての取引が欧州連合のVAT制度を前提として設計されているが故に、イギリスのEU離脱の影響は大きい。イギリスが今後、離脱申請を提出するかはイギリスの政治的判断にゆだねられているが、離脱申請が提出されればイギリスがEU第三国となる日は確実に訪れ、現在の欧州連合での議論の状況から判断するに、イギリスに認められているEU加盟国としての優遇された地位を他のEU加盟国が引き続き認める可能性は低い。本稿で明らかにしたように、イギリスのEU離脱は、大陸欧州とイギリスの間の資産取引が輸出入になり、輸出入手続が煩雑になるというだけではない様々な影響があり、上述した現在一般的に考え得る影響以上に個別具体的な事例によってさらに多くの影響が存在するはずである。離脱申請が提出されれば、離脱交渉が何らの合意に至らなくてもイギリスのEU離脱は実現する。欧州連合におけるビジネスに携わっている日本企業は、イギリスがEUを離脱するその日まで具体的な方向性が明らかにならない可能性もあり、確定情報を待つのではなく早い段階で影響の分析と対応の検討を行なわなければならない。VATの処理は企業の会計システムに組み込まれており、現状分析後、システムの改修、顧客への通知、インボイスシステムへの反映などに時間を要する。場合によっては、取引条件の変更、通関地の変更、在庫の保管場所の変更なども考えられるため、一層十分な余裕を持った対応が望まれる。

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