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BEPS最終報告書と間接税

中央経済社『税務弘報』 2016年5月号

本稿では、BEPS最終報告書に含まれている間接税に関連する提言を概観するとともに、報告書が多くの箇所において依拠している2015年11月に採択されたOECDの国際的VAT/GSTガイドラインに言及しながら、今後のVAT/GST課税の世界的潮流と、日本企業の海外ビジネスに与える影響を分析したい。(『税務弘報』2016年5月号)

はじめに

2015年10月にOECDが発表したBEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転:以下、「BEPS」という)最終報告書は、複数の国家経済と市場の融和を背景に現在の国際課税制度の見直しを検討した報告書であり、法人税と移転価格税制の枠組みを中心に取り扱っている。

VAT(付加価値税:Value Added Tax:以下、「VAT」という)/GST(物品・サービス税:Goods and Services Tax:以下、「GST」という)に関する政策提言は、15の行動のうち行動1の「デジタル経済の税制への挑戦」で行われているのみである。しかしながら、その内容は、グローバル化する経済における間接税のあり方について多くの示唆を含んでいる。

本稿では、BEPS最終報告書に含まれている間接税に関連する提言を概観するとともに、報告書が多くの箇所において依拠している2015年11月に採択されたOECDの国際的VAT/GSTガイドラインに言及しながら、今後のVAT/GST課税の世界的潮流と、日本企業の海外ビジネスに与える影響を分析したい。

1. 間接税領域での税源浸食と利益移転

(1) 税源浸食のケース

BEPS最終報告書行動1では、VATの分野における税源の浸食の機会に触れ、政策提言を行っている。

5.3章において、銀行、病院等の課税売上割合の低い事業者(以下、「非課税事業者」という)に対する国境を越えた役務の提供を取り上げ、課税地の判断ルールとして役務の提供を行う者の事業地を採用している場合、役務の提供を受ける非課税事業者は、自らが居住する国の税率より低い税率若しくはゼロ税率の恩恵を受ける可能性があり、国内で同様の役務を調達するよりも海外から調達したほうが控除対象外仕入税額が減少し、有利となるケースを問題視している。

課税事業者が受益者であれば中立性の原則に従い仕入税額控除を受けられることから、仮にクロスボーダーで行われるB2B(Business-to-Business:企業間)取引で課税の空白、若しくは国内と国外で税率差異があっても税収に影響はなく、市場の競争環境をゆがめる結果にもならないが、非課税事業者が役務の提供を受ける場合には、税負担となる控除対象外仕入税額が生じることから、より低い税率で課税される取引パターンを採用しようというインセンティブが働き、結果として市場の競争をゆがめ、税源の浸食につながる。

もう1つの税源の浸食の機会として、調達の一元化が国際的なレベルで行われる近年、本店の他に国外にも事業所を有している非課税事業者が、グループ全体で利用する役務の調達について、同様の役務の提供に適用される税率が最も低い、若しくはVATが存在しない地域の事業所で役務の提供を受けることにより控除対象外仕入税額を抑制する可能性について言及している。

法人税上のルールに従い、応益割合に応じてその費用を本店及びその他の事業所に付け替える場合には、同一法人の内部取引であることからコストの転嫁にはVATが課税されず、結果としてグループ全体の控除対象外仕入税額の負担を軽減できると述べている。

(2) 「利用地」における課税

このような税源の浸食に対する対抗策として、6.3章において、2015年11月に採択されたOECDの国際的VAT/GSTガイドライン3.2に提言されているように、B2B取引では顧客所在地課税を導入し、リバースチャージ制度により顧客に納税債務を転嫁しつつ、複数の国に事業所を有する顧客については、実際に知的財産権や役務を利用する事業所の所在地国で課税が行われるべきであり、この目標を達成するためには、役務等の調達が行われた取引構造にかかわらず、実際に役務等を利用する事業所の所在地を課税地とすることが望ましいとしている。

役務の提供の課税地につき、国際的VAT/GSTガイドラインでは、B2B取引における課税地は原則として契約書(business agreement)の顧客所在地とするとしながらも、顧客が複数の国に所在地を有している場合には、役務や知的財産権を実際に利用している国に課税権を認めるべきであるとしている。

この際の利用地の判定基準として、次のとおり3つの方法があるとしている。

  • 利用の実態が明らかな場合は利用を基準とすること(direct use)
  • ケータリングサービスや研修の実施等物理的な役務の提供地が明らかな場合には役務の提供地(direct delivery)
  • 法人税や会計基準等によりコストが配分される場合にはコスト配分を基準とすること(recharge method)

この際の利用とは、所在地(establishment)があることを前提とした利用であり、所在地を問わない「実際の便益の享受地(place of effective use and enjoyment)」とは異なる1

欧州では実際の便益の享受地課税(VAT Directive 2006/112第59a条)が導入されており、課税地に関する原則規定が適用される役務(すなわちB2Bの役務の提供では受益者事業地課税)で、原則規定に従えば課税地がEU第三国となるケースで、実際の便益の享受が特定のEU加盟国内で行われている場合には、その加盟国を課税地とみなすことができると規定されている。

例えば、より付加価値税率の低い日本に本店があり欧州に支店がある銀行が、本店を発注者としてグループ全体が利用するソフトウエアプログラムの使用許諾を受けた場合、加盟国が国内法令で実際の便益の享受地課税に則り課税権を行使すれば、当該加盟国が課税地となり、ソフトウエアプログラムの使用料に対して欧州加盟国で課税することが可能である。

この際、リバースチャージが適用になるため、支店は現地のVAT申告書でリバースチャージに係る売上を申告し、自らの課税売上割合に応じた仕入税額控除を受けることにより、控除対象外仕入税額から生じる税収が利用地で捕捉できる。

ただし、現状ではEU加盟国のほとんどは特定の取引のみを実際の便益の享受地課税の対象としており、欧州域外で行われる取引一般に実際の便益の享受地課税を導入していない。しかしながら、今後各国が課税権を行使することも考えられ、その法的仕組みは設けられている。

これに対して、日本の消費税法では実際の便益の享受地課税という考え方はまだ導入されておらず、B2B取引の課税地原則が役務の提供を行うもののその役務の提供に係る事務所等の所在地であることから、役務が実質的には日本国内で利用される多くの場合に、非課税事業者がより税率の低い国外で役務の提供を受ける可能性が残されている。

昨年10月1日から施行された国境を越えた役務の提供に係る課税の特例では、電気通信利用役務の提供に限り、B2B取引であるかB2C(Business to Consumer:企業対消費者間)取引であるかを問わず課税地を受益者の所在地とする改正が行われたが、法人が受益者となる場合に、当該役務の提供を受ける事務所ではなく、受益者の本店又は主たる事務所の所在地を課税地と定めている。このため、本店所在地である日本と役務の提供を受ける事務所の所在国での二重課税が起こることが今後予想される。

1 OECD international VAT/GST Guidelines P32 脚注25(OECDウェブサイト(英語))

2. デジタル経済とVAT/GST

BEPS最終報告書行動1では、税源浸食と利益移転には直接的には該当しないが、デジタル経済がVAT/GSTにもたらすより広範な課題を第8章で取り扱っている。オンラインで購入する少額輸入小包の免税措置と、個人消費者に対するクロスボーダーによる役務の提供に係るVAT/GSTの徴収の執行上の問題である。

(1) 少額輸入小包の免税制度

電子商取引の拡大によって、消費者が他国からオンラインで商品を購入する機会は急激に拡大しており、免税となる取引も増加している。報告書でも指摘されているように、この制度を利用する目的で国内に倉庫を持たず意図的に国外に倉庫を保有するストラクチャーを選択することが実際に行われている。

少額輸入小包の免税制度については、欧州では同一の荷受人に対する同日の課税価格(本体価格のみではなく送料等も含む)の合計額が22ユーロ未満の小包が輸入VATの免税となっている(関税免除は150ユーロ未満)。当該制度を悪用し、オンライン事業者が課税価格の虚偽申告を行ったり、実体的にはオンライン事業者が輸入者となっているにもかかわらず、個人の荷受人の代理人として少額輸入小包の免税を主張する等の事例が実際に問題となっている2

このような行動は、税源の浸食と国内市場における公正な市場競争をゆがめるだけでなく、雇用と直接税の税収にも悪影響を及ぼすと述べられている。少額輸入小包の免税制度が導入された時点と現在では、オンラインで購入される商品量が圧倒的に異るため、今後、少額の基準は引下げの方向で全世界的に見直しが行われると見込まれる。

しかしながら、少額の基準の引下げは徴収コストの増大をもたらす。報告書では、その対策として、従前の税関が通関時に輸入VATを徴収する方法以外に、購入者が納付する方法、国外事業者である販売者が徴収納付する方法、国外事業者の代理人として介在する事業者が徴収納付する方法が検討されているが、中でも国外事業者の代理人を利用する方法が最も効率的であると評価されている。

国外事業者の代理人としては、郵便事業者、国際輸送物流会社、販売プラットフォーム提供者、決済にかかわるクレジットカード会社が考えられるが、国際輸送物流会社はすでに輸入VATの納税代行を行うシステムを運用しており、また、販売プラットフォーム提供者の一部はすでに出店者に対して税務コンプライアンス代行サービスを提供している実績もあることから、この両者を利用する方法が評価されており、各国はコンプライアンス負担を軽減するために十分に簡素で情報の追跡が容易な申告制度を用意することが提言されている。

(2) クロスボーダー取引のVAT/GSTの徴収

デジタル経済が間接税に及ぼすもう1つの課題として、個人消費者に対するクロスボーダーによる役務の提供に係るVAT/GSTの徴収の問題が挙げられている。

これは、デジタル経済の発展により、消費地に何らの固定的施設を有することなく消費者に対して知的財産権や役務の提供を行うことができるようになっていることから生じる問題である。

商取引のグローバル化への対応として、一方で上述のように少額輸入小包の免税の基準額を引き下げることにより消費地課税をより徹底し、所得税分野でも後述のように倉庫を恒久的施設と認定して課税強化を図ることで対策が講じられる。

他方で、クロスボーダーで行われる役務の提供の課税地は、消費地が物理的に明確なものを除き、消費時点での顧客の居所又は住所を消費地のプロキシとして課税権を顧客所在国に与えることが最も消費課税の趣旨にかなっており、公正な市場競争を阻害する影響も少ない。消費者に自ら申告することを求めることは現実的ではないため、国外の役務提供者に登録申告を求めることになるが、このためには、適正な徴収メカニズムを併せて導入することが不可欠である。

すでに欧州では、2010年から欧州第三国から欧州域内に居住する消費者向けの情報通信サービス及びテレビラジオ放送サービス(旧59b条)、電子的手段によって行われる役務の提供(旧58条)の課税地が実際の便益の享受地又は消費者の居住地とされており、ワンストップショップにより域外事業者に自らが選択する登録加盟国にオンライン登録をできる申告制度が運用されている。登録状況としては、電子商取引の主流を占める事業者は自らの社会的評価を維持するため税務コンプライアンスを遵守し登録申告義務を果たすか、現地に固定的施設を保有し国内課税事業者に昇華するケースがほとんどであると述べられている。

日本では、2015年10月から国境を越えた役務の提供に係る課税の特例が導入され、電気通信利用役務の提供は、提供を受ける者の住所、居所、本店、主たる事務所が課税地とされたが、新制度導入後の国外事業者の登録状況をモニターし、登録制度の利便性を高めるとともに、対象となる役務の範囲の拡大をしていくことが必要であろう。また、適正な執行を担保するため、積極的に税務当局間での国際的な情報交換の枠組みに参加していくことが不可欠である。

登録制度の利便性の観点から新制度を検証すると、いくつかの早急に改善すべき課題がある。2015年12月1日現在で45社の登録国外事業者が公表されているが、オンラインでの登録は受け付けておらず、登録申請書は印刷が必要である。国外事業者にも免税事業者制度を適用していることから、課税事業者であるかどうかの判定のために不必要に複雑な基準期間における課税売上高の判断が必要であり、不要なコンプライアンス負担となっている。日本に進出している国外事業者が小規模事業者であることは考えにくく、国外事業者は免税事業者の対象外とする制度改正が望ましい。

また、電気通信利用役務の提供者である国外事業者は本邦での仕入がほとんどないにもかかわらず、簡易課税制度を選択することができれば一定割合を仕入税額として控除することも可能となっており、国外事業者は簡易課税制度の適用対象外とすべきである。

欧州では原則として国外事業者に対しては免税事業者の制度の適用がなく、簡易課税制度の適用は一部の業種に限られている。電気通信利用役務の範囲が明確でないことから、登録の審査に数か月を要しており、また判断基準も明確とはいえない。

著作権法に定める著作権の使用許諾については、従前どおり譲渡又は貸付けを行う者の住所地という判断を示しているようであるが、取引当事者に高度に専門的な著作権法の適用範囲を判断させる制度は取引税たる消費税の制度としてふさわしくなく、またインターネットを介した国内での役務の利用を課税するという制度趣旨にそぐわない解釈であると思われる。

この点、ドイツでは、著作権等の使用許諾、譲渡、管理に対する軽減税率の適用を定める付加価値税法第12条2項7号c)では著作権法上の使用許諾と単なる利用を峻別するが3、電子的手段によって行われる役務の提供では、EU指令並びにEU法令(VAT Directive Annex II、Implementation regulation 282/2011 item 3 of Annex I)を受けたドイツ付加価値税施行規則3a.12第3項において著作権法での取扱いを問わない。これは軽減税率の適用範囲を限定的に解釈する必要がある一方、そのような制限的な解釈が不要な分野では、電子的手段によるという役務の提供手段に着目し、取引に参加する一般人にも適用範囲が容易に判断できるような制度となっており、合理的であると考える。

OECD国際VAT/GSTガイドライン第3章C3.3では、国外居住者のための簡素化された登録申告制度が備えるべき特徴を挙げている。「オンライン登録申請を税務当局のウエブサイトで可能にし、通商関係にある国で通用する言語での記載を行うことが望ましい(3.139)」とし、国外事業者のオンライン登録では租税回避行為の温床となりうる仕入税額控除を受けられない仕組みとし、仕入税額控除を受ける場合には国内事業者と同様の通常の申告手続が必要とすることで、オンライン登録の審査と申告を簡素化することが提案されている(C.3.3.2)。

申告内容も簡素化し、整理番号、課税期間、通貨単位と為替レート、税率別課税標準、納税額のみを電子申告できればより一層の簡素化につながる(C.3.3.3)。この提案を踏まえて、特定の取引以外日本に関係のない国外事業者が積極的に登録を行うよう、日本の制度は再評価され改善されるべきである。

OECDの国際VAT/GSTガイドライン第3章C3.4では、情報交換に関する既存の枠組みの積極的な活用を呼びかけるとともに、今後、租税委員会で間接税領域での効果的な情報交換と相互共助のためのより具体的なガイドラインを作成するとしている。

間接税領域での情報交換制度は、情報量を限って即時性を重視し、短期間で制度構築が可能であることが必要であると述べられている。このガイドラインを受けて、今後短期間で国際的に新たな情報交換システムが構築されることが予測され、海外の居住者に対する電子配信事業等を行っている日本企業は、利用者の住所、居所の把握方法の見直し、日本国外での納税義務者登録等の対策を早急に講じる必要がある。

2 スイスから輸入された少額小包につきオンライン事業者が消費者の代理人として通関していることを否認し、非課税適用を否認したドイツ連邦税務裁判所の判例(2015年6月16日付XI R 17/13)

3 多くの軽減税率の適用対象品目と同様、線引きが一般常識とそぐわないことから批判の対象となっている。

3. 海外保有在庫と恒久的施設課税

VAT/GSTに関する提言ではないが、BEPS最終報告書の行動7では、OECDモデル租税条約第5条4項の恒久的施設の定義の例外規定の見直しが提言されている。新しい第5条4項では、在庫の保有等が恒久的施設を構成しないためには、(a)から(f)に列挙された行為のすべてが準備的または補助的な性質のものでなければならない。当該改正は、日本企業の海外のサプライチェーンに大きな影響をもたらす可能性がある。

〈第5条4項改正案〉

前項の規定にかかわらず、次のことを行う場合は、「恒久的施設」に当たらないものとする。

(a) 企業に属する物品または商品の保管、展示または引渡しのためにのみ施設を使用すること

(b) 企業に属する物品または商品の在庫を保管、展示または引渡しのためにのみ保有すること

(c) 企業に属する物品または商品の在庫を他の企業による加工のためにのみ保有すること

(d) 企業のために物品もしくは商品を購入し、または情報を収集することのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること

(e) 企業のためにその他の活動を行うことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること

(f) (a)から(e)までに挙げる活動を組み合わせた活動を行うことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること

ただし、上記の活動または(f)における当該一定の場所における活動の全体が準備的または補助的な性格のものである場合に限る。


日本企業が現地法人を介さずに本社自ら海外に在庫を保有するケースは増加している。日本企業が海外に在庫を保有する事例として、DDP(Delivery Duty Paid:仕向地持込み渡し・関税込み)条件での納品のために国外にコンサインメント・ストックを保有する、国外で原材料を供給し生産委託加工により製品を生産する、国外製造子会社の製品を親会社が買い取る、移転価格等への配慮から国外取引に本社が介在する場合等が挙げられる。

また、日本国外で、スイスを中心としたプリンシパルモデルのようなストラクチャーでは、プリンシパルは自らの所在地以外で在庫を保有するケースがみられる。利益の最大化を至上命題とするサプライチェーンの簡素化に対する要請の高まりから、日本企業が海外に在庫を保有するストラクチャーは今後も主流となっていくことが予想される。

恒久的施設の定義の例外規定に関する改正が間接税に及ぼす影響とは、すでに在庫の保有等に起因して、間接税の納税義務者となっている本社が、間接税のみならず恒久的施設の認定を受けるリスクも発生すること、及び恒久的施設の認定リスクを回避するため、在庫の保有場所、主体等サプライチェーンの変更した場合に、VATのみならず関税を含む間接税の課税関係も影響を受けるということである。

今後、本社が日本国外で、倉庫等の施設の使用権を得る場合、商品自体の在庫を保有する場合、在庫を加工のために保有する場合において、その活動が準備的又は補助的活動に該当するかを検討しなければならず、「準備的または補助的」な活動の意味が重要となる。

この点について、報告書のコンメンタリー21.2では、準備的な性格を有する活動は、本質的で重要な活動の前に比較的短時間で行われるのが一般的としながらも、他の場所で活動の進行期間中に継続的に行われる準備的活動もあるため、この限りでないとしている。また、補助的な性格を有する活動は、企業の全体としての活動において本質的で重要な活動の一部となることなく、これを補助するために行われるもので、企業の相当の割合の資産又は従業員が費やされる場合には、補助的活動には当たらない可能性が高いと述べている。

実務では、引渡しのために倉庫等の施設の使用権を得る場合(第5条4項(a))が多く見られるが、コンメンタリー22において、当該場所で行われている活動が、企業の全体としての活動に照らして準備的又は補助的といえるかどうかを判断しなければならないと述べている。

オンラインで商品を販売する一方の締約国の企業が、他方の締約国に多数の従業員が働く大きな倉庫を商品の保管と引渡しのために利用している場合、倉庫で行われている保管と引渡しという活動は、企業の販売事業の本質的かつ重要な部分であり、準備的又は補助的な性格を有しないとする。

上述のコンメンタリーが示した、準備的活動における時間的要素、補助的活動における資産と従業員という要素並びに企業の全体としての活動において本質的で重要な活動は何かという基準を、個々の事例に当てはめ、企業の事業内容、資産規模、従業員数、事業特性に応じて、準備的又は補助的活動に該当するか否かを今後は検討していく必要がある。

恒久的施設の認定リスクを回避するために、今後、本社が利用権を得ている倉庫を現地法人の名義に切り替える、本社の現地保有在庫を子会社の在庫に移す、委託生産加工から加工者が自ら原材料を調達し製品を買い取るスキームに変更する際は、このようなサプライチェーンの変更によりVATの課税関係が変わることに留意し、課税関係の分析、社内システムへの反映、申告義務の順守を行わなければならない。

4. アンチ・フラグメンテーションルールの脅威

特に留意したい点として、第5条4.1項で提案されている以下のアンチ・フラグメンテーションルール(契約や行為の細分化により恒久的施設の認定を回避する行為への対抗策)のサプライチェーンに与える影響がある。

アンチ・フラグメンテーションルールは、企業又は企業グループが、本来的には一体的な事業活動を細分化することにより、個々の企業は単に準備的又は補助的活動を行っているにすぎないという抗弁をすることを阻止するために、準備的又は補助的活動の判断をする際に、同一締約国内での企業グループの活動を全体的に観察する規定である。

〈第5条4.1項改正案〉

第4項の規定は、当該企業又は当該企業に関連する企業が同じ場所又は同じ締約国の別の場所で活動を行い、以下の条件を満たす場合には、当該企業が保有する一定の場所には適用しない。

(a) 当該企業又は当該企業に関連する企業が活動を行う場所がこの条文の定める恒久的施設を構成すること

又は

(b) 2つの企業が同じ場所で行う活動、又は当該企業又は関連する企業が別の場所で行う活動を組み合わせた活動の全体が準備的又は補助的な性格のものでないこと

ただし、2つの企業が同じ場所で行う活動、当該企業又は関連する企業が別の場所で行う活動が、一体的な事業活動として相互に補完する機能を担っている場合に限る。


アンチ・フラグメンテーションルールが導入された場合、日本本社が現地に所在する製造子会社に供給するための部品を保管するケースや、子会社が製造した輸出するための完成品を現地で買い取るような事例において、意図的に細分化を行っているわけではないにもかかわらず、日本本社の恒久的施設の認定につながるリスクが発生する。

改正コンメンタリーの30.4 Example Bでは一方の締約国の居住者である電気製品の製造販売メーカーが、他方の締約国の居住者である完全販売子会社に供給する目的で、大型電気製品の在庫を他方の締約国に保管し、当該大型電気製品が親会社倉庫から顧客に直接出荷され、出荷時に初めて親会社から子会社に所有権が移転する事例を挙げ、相互に補完する機能を持った一体的事業活動であることから、親会社の他方の締約国での恒久的施設の存在を認めている。

この事例では、親会社が保管している製品が販売子会社が販売する商品と同一であること、販売子会社が自社倉庫を利用せず親会社倉庫を利用していること等、特に事業の一体性が認められやすい条件が含まれているが、事業の一体性の判断基準は明確でなく、本人又は関連者が、すでに子会社又は恒久的施設を有する国で、当該子会社又は恒久的施設と取引を行う場合には、恒久的施設の有無の判断に際して、両社の活動の全体を分析する必要があることに留意を要する。親会社が、単なるフラッシュ取引ではなく、自身の自由になる一定の広さの場所を確保して一定の期間在庫を保有する場合には、恒久的施設の有無を事前に検討すべきといえる。

なお、仮に恒久的施設が認定された場合に、帰属利益の計算が問題となるが、この点については行動7のセクションDで、現行のモデル条約第7条に関連するガイダンスに大きな変更は必要とされないながらも、2016年末までに追加的ガイダンスを作成する予定とされている。

5. おわりに

BEPS最終報告書と国際的VAT/GSTガイドラインで取り扱われている間接税分野における課題の背景は、経済のグローバル化である。消費税を含むVAT/GSTは取引税としての性質から、税の形骸化を回避するためには、この経済の急速な発展についていかなければならない宿命を背負っている。国際社会の中で、意図しない不課税や二重課税を排除するためには、迅速な法改正とより緊密な国際連携が不可欠である。この2つの文書が前提とする経済のグローバル化時代のVAT/GST制度は、個別の国の事情だけでなく、国際的なスタンダードも満たしたものでなければならない。

特にVAT/GSTの領域では租税条約によって二重課税を排除することができないため、企業に不要なコンプライアンス負担をかけることのないよう、制度間のすり合わせが必要である。また、誰にでもすぐにわかる制度の構築も重要である。取引税であるVAT/GSTは、課税判断が一般常識とかけ離れたものであってはならない。2つの文書が発信するグローバル化のメッセージを受け止め、すべての関係者に迅速な行動が求められている。

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