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“6つのテスト”で否認リスクの把握を「中国国内から国外関連者への費用支払に係る新税務規定のポイント」

『旬刊経理情報』 2015年7月20日号

2015年3月、中国の国家税務総局は中国国内の企業が国外関連者に支払う費用の管理に係る新しい税務通達を公布した。これは、サービス費およびロイヤルティーを含む国外関連者への各種費用の支払に対する徴税管理の強化を意図したものであり、世界的な租税回避防止への取組みに合わせて中国が講じた措置の1つといえる。本稿では、この新しい税務通達が公布された背景および要点を紹介するとともに、企業のとるべき対応策について解説する。(中央経済社『旬刊 経理情報』 2015年7月20日号)

16号公告の背景

(1) 概要

2015年3月に中国の国家税務総局は「企業の国外関連者への費用支払に係る企業所得税問題に関する公告」(国家税務総局公告2015年16号)(以下、「16号公告」という)および当該公告に係る解釈を公布した。16号公告は、国外関連者への費用支払を通じた利益移転または租税回避を防止するという観点から、中国国内の企業が国外関連者にサービス費およびロイヤルティーを含む各種費用を支払う取引に対する管理を強化することを目的としている。

16号公告では、企業が国外関連者に支払う各種費用の損金算入の可否を判断する際の基本原則として、当該取引は独立取引の原則(arm‘s length principle)に従ったものでなければならないことを確認するとともに、当該原則に従っていない場合、税務機関は調整する権限を有する旨を明らかにしている。

(2) 背景

現在、世界的な租税回避防止への取組みとして、経済協力開発機構(以下、「OECD」という)が「税源浸食と利益移転(Base Erosion and Profit Shifting)」(以下、「BEPS」という)プロジェクトを進め、2013年に策定されたBEPS行動計画に沿った成果物の一部もすでに公表されている。中国はOECD加盟国ではないが、G20のメンバー国として当該プロジェクトに関与し、BEPS行動計画への積極的な支持を表明している。16号公告の公布は、このような世界的な動きのなかで中国が講じた租税回避防止措置の1つと見ることができる。

中国の国家税務総局は近年、特に企業が国外関連者にサービス費およびロイヤルティーを支払う取引に着目し、これまでに国際連合の「発展途上国のための移転価格マニュアル」の「中国実務編」(2012年10月公布)、2014年4月に国際連合の移転価格マニュアル作成チームに提出したサービス費および管理費に関するコメントレター(以下、「2014年のコメントレター」という)等において、当該取引に対する自らの見解を明らかにしてきた。また、BEPSプロジェクトの動きを受けて2014年4月に江蘇省国家税務局が公布した「2014-2015年度国際租税コンプライアンス管理計画」でも、企業が留意すべき税務リスク事項の1つとして、“関連者への費用支払による利益移転”が挙げられている。16号公告は、そのような中国の税務当局の見解を正式な文書の形にしたものといえる。

2014年7月には、国家税務総局から「高額費用の対外送金に対する租税回避防止調査に関する通知」(税総弁発[2014]146号)という内部通達が出された。これは、企業が2004年から2013年までの期間に国外関連者へ支払ったサービス費およびロイヤルティーの状況を詳細に調査するよう各地の税務機関に対して指示したものであり、当該通達を受けて、全国で情報収集のための調査が実施された。16号公告の規定はこの調査の結果も踏まえたものである。

16号公告の要点

(1) 損金算入できない費用

16号公告では、企業が国外関連者に支払う費用は独立取引の原則に従ったものでなければならないという基本原則を確認したうえで、課税所得の計算上、損金に算入できない4類型の費用の支払について説明している。それらは、添付PDF P3 図表1のようにまとめられる。

16号公告によれば、企業が国外関連者からサービスの提供を受ける場合、そのサービスが企業に直接または間接の経済的利益をもたらすものでなければ、対価として支払うサービス費を損金に算入することはできない。すなわち、国外関連者に支払うサービス費については、“受益者テスト”により、その支払の合理性を判断しなければならない。

また、国外関連者の提供する無形資産の使用に対してロイヤルティーを支払う場合は、当該無形資産の価値創造に対する各関連者の貢献度を考慮しなければならないとされている。すなわち、国外関連者に支払うロイヤルティーについては、“価値貢献テスト”に基づき、その合理性を判断することが必要になる。

以下では、国外関連者に支払う費用を損金算入できるか否か、いい換えれば、費用支払の取引が独立取引の原則に従っているか否かを判断する際の基準となる“受益者テスト”および“価値貢献テスト”について説明する。ただし、16号公告においてこれらの用語が用いられているわけではない。

1. 受益者テスト

2014年6月に、国家税務総局国際税務司の司長・廖体忠氏は国際税務研修会において、中国は“6つのテスト”により、関連者間で支払われるサービス費の合理性を分析する旨の発言をしたとされる。ここでいう“6つのテスト”とは、受益者テスト、必要性テスト、価値創造テスト、重複性テスト、補償性テスト、真実性テストである。それぞれの概念は添付PDF P3 図表2のとおりであり、国家税務総局は2014年のコメントレターにおいても、一部のテストの内容に触れている。16号公告における“受益者テスト”は、全体としてこの“6つのテスト”の精神を反映しているといえる(添付PDF P3 図表1を参照)。

たとえば、自らのマネジメントチームを有する子会社の経営陣の意思決定に対して親会社が承認を与えるという場合、これは単に手続としてサービスを提供するものであり、何らかの価値を創造するものではなく、グループ内の重複する活動もしくは親会社の株主としての管理活動に該当する可能性が高い。ゆえに親会社は子会社に対して対価を請求すべきではないと国家税務総局は考えている。これは、価値創造テストと重複性テストもしくは受益者テストに関連するといえる。

受益者テストに関して、国家税務総局は2014年のコメントレターにおいて、サービスの受入側だけでなく、提供側の観点からも考察すべきであると述べている。たとえば、親会社が自らの戦略的マネジメントに関連するサービスを子会社に提供する場合、親会社は子会社よりも大きな利益を得ると考えられるため、親会社は子会社に対価を請求すべきではないとしている。このような例も含め、国家税務総局は、親会社が主な受益者と考えられる“株主活動”の範囲をできるだけ広く捉えようとしているようである。

なお、中国では、課税所得の計算上、企業間で支払われる管理費は損金に算入できないとされているが1、2014年のコメントレターによれば、ここでいう管理費とは、一般的に株主活動に関連し、出資者と被出資者の関連関係に基づき請求されるものを指す。

“受益者テスト”の導入により、中国の税務機関は今後、関連者間におけるサービス提供の取引に関して、対価設定に用いるマークアップ率の水準よりも、サービスの実質とサービス費を支払うこと自体の合理性により着目するようになるかもしれない。しかし、サービスの実質の認定は主観的なものとなる可能性もあり、“受益者テスト”の実務上の運用は必ずしも容易ではないと考えられる。

1 企業所得税法実施条例49条

2. 価値貢献テスト

16号公告によれば、技術、商標権等の無形資産の使用に対して国外関連者に支払われるロイヤルティーは、その国外関連者が無形資産の法的所有権を有していたとしても、無形資産の価値創造に貢献していなければ、損金算入することはできない。16号公告の解釈によれば、無形資産の開発、価値の増大、維持、保護、応用および普及において各関連者が担う機能とリスク、使用する資産を分析することにより、無形資産の価値創造に対する各関連者の貢献の程度を判断し、各自が享受すべき経済的利益を決定しなければならない。すなわち、国外関連者に対するロイヤルティーの支払については、この各関連者の貢献度の分析が重要となる。

たとえば、あるブランドに対するロイヤルティーの支払について、中国の税務機関は、そのブランドの中国国内での認知度の向上に誰が貢献したかということに着目するかもしれない。国外ではすでに有名なブランドであっても、中国国内での認知度の向上は中国子会社の宣伝努力によるものであると認められる場合、中国子会社もその貢献度に見合う利益を得るべきであると、中国の税務機関は考えるだろう。実際に、ロイヤルティー支払の対象となる無形資産の価値創造に対して重要な貢献をしたのは中国子会社であるとして、当該子会社が無形資産の法的所有者である国外関連者に支払ったロイヤルティーが全額否認されたという事例もある2

2 中国税務報 2014年5月14日

(2) 資料の提出要求

16号公告およびその解釈によれば、企業の国外関連者に対する費用の支払は通常の経営行為であり、税務機関の事前承認を得る必要はない。ただし、管轄税務機関は企業に対して、関連者と締結した契約書、およびその取引が真実なもので、独立取引の原則に従っていることを証明する関連資料を、定めた期限までに提出するよう求めることができる。税務機関は提出された資料に基づき、国外関連者に対する費用支払の取引が独立取引の原則に従っているか否かを判断することになる。

前述した“受益者テスト”および“価値貢献テスト”に基づき、企業が国外関連者にサービス費を支払う場合であれば、そのサービスの受入による経済的利益の獲得を裏づける資料、ロイヤルティーを支払う場合であれば、無形資産の価値創造に対する国外関連者の貢献を証明する資料を求められる可能性がある。

(3) 特別納税調整

16号公告では、企業が国外関連者に支払う費用の取扱いおよび税務機関による資料の提出要求に関して、企業所得税法における“特別納税調整”の規定(41条3、43条)を参照している。“特別納税調整”は租税回避防止を目的とする各種税制を指し、中国の移転価格税制はこの“特別納税調整”に含まれる。すなわち、企業が国外関連者に支払う各種の費用は、移転価格調査の結果として損金算入を否認される可能性がある。正式な移転価格調査が実施される場合は、国家税務総局の承認も得たうえで調整が行われることになる。また、企業所得税法123条において、“特別納税調整”の遡及期限は10年とされているが、16号公告では、国外関連者に支払う費用の調整に関しても同条の規定が適用されることを確認している。

なお、「特別納税調整監視管理の関連問題に関する公告」(国家税務総局公告2014年54号)(以下、「54号公告」という)では、納税者が移転価格の合理性を分析したうえで、自ら調整を行い、追加納税できる旨を規定している。実務においても近年、移転価格調査の実施に代えて、税務機関が納税者に対して自主調整を求めるケースが増えていることから、国外関連者への費用支払についても、中国の税務機関は納税者に対して自主調整を行うよう求める可能性がある。

3 企業所得税法41条では、「企業とその関連者の間の取引が独立取引の原則に従っておらず、企業あるいは関連者の課税収入または所得額を減少させた場合、税務機関は合理的な方法により調整を行う権限を有する。」とされている。

留意点と対応策

(1) 移転価格調査の可能性

前述のとおり、16号公告は関連者間におけるサービス費およびロイヤルティーの支払取引に対する国家税務総局の従来からの立場を明文化したものであり、当該取引に対する徴税管理が強化される方向にあることは確かだろう。16号公告の実務上の運用に関してはまだ明らかでない部分もあるが、少なくとも今後の移転価格調査においては、国外関連者に対する費用支払の取引が重点項目の1つになると考えられる。

1. 調査に関する留意点

従来、移転価格調査の主な対象は赤字企業あるいは利益率の低い企業であると一般的に考えられてきた。しかし、今後は、国外関連者に種々の名目の費用あるいは多額の費用を支払っている場合、企業全体の利益水準にかかわらず、調査対象企業として選定される可能性がある。

おそらく現時点においてはなお、関連者との取引金額が大きく、利益率が低い企業に移転価格調査の重点が置かれているものと思われる。しかし、16号公告の公布後、全体の利益率は高いにもかかわらず、国外関連者への費用支払について税務機関の照会を受けたという企業もある。また、利益率の高い企業が調査対象となり、サービス費の全額または一部否認という形で調整が行われたという事例も報道されている4。これは、高い利益率に隠された形で、国外関連者へのサービス費の支払を通じて利益移転が行われていると認定されたものである。

今後の移転価格調査あるいは調査対象企業の選定においては、利益率の水準だけでなく、国外関連者へのサービス費およびロイヤルティーの支払という個別の取引にも焦点が当てられる可能性がある点に留意しなければならない。特に、赤字企業が国外関連者にロイヤルティーを支払っている状況に対しては、これまでの移転価格調査においても税務機関が疑問を呈するケースがあったが、今後、そのような企業はより厳しい調査を受けるようになるかもしれない。

そのほか、16号公告では、機能とリスクを担わない、経営実態のない国外関連者に支払う費用は損金算入できないとしていることから、タックスヘイブンや低税率国に所在する、実質的な機能を担わない国外関連者に対する費用の支払にも留意する必要がある。

4 中国税務報 2014年7月23日

2. 自主調整に関する留意点

前述のとおり、国外関連者に対する費用支払の取引に対しても、中国の税務機関は正式な移転価格調査を実施する代わりに、企業所得税の申告において自主調整を行うよう納税者に求める可能性がある。54号公告に基づき、納税者が規定に従って関連資料を提出した場合、自主調整した税額に係る延滞利息は軽減される5

しかし、54号公告によれば、納税者が自主調整により税額を追加納付した場合であっても、税務機関はなお調査権限を有する。また、納税者が自ら行う調整は税務機関による調整とは異なるため、自主調整の結果、関連者間で二重課税が生じたとしても、相互協議手続によってその解消を図ることはできない。企業が税務機関から自主調整を行うよう求められた場合には、正式な移転価格調査となった場合のリスクの程度に加えて、このような点も勘案し、自主調整を行うか否かを判断することが必要になる。

5 “特別納税調整”に係る延滞利息の計算に用いられる利率は原則として、税額追徴期間と同期間の中国人民銀行の人民元貸付基準利率に5%を加えたものとされているが(企業所得税法実施条例122)、納税者が同期資料等の関連資料を提出した場合は5%部分が免除される(同条②)。54号公告では、納税者が自主調整を行う場合にも当該規定が適用されることを確認している。

(2) 企業の対応

中国子会社から国外関連者への費用支払の取引がある場合、企業は中国の税務機関からの照会あるいは調査に備えて、まず各取引のレビューを行い、現状におけるリスクの程度を把握するとともに、各取引に関する資料の整備を行っておく必要がある。

1. 取引のレビュー

取引をレビューする際、中国子会社が国外関連者に支払うサービス費については“受益者テスト”、より具体的には“6つのテスト”に照らして、そのサービス費を支払うことの合理性、すなわち、その取引が独立取引の原則に従っているとの主張が可能であるか否かを検討することになるだろう。たとえば、国外関連者の提供するサービスの受益者は誰であるか、中国子会社のビジネスにとって、そのサービスの提供を受けることが確かに必要であるか、関連者間における種々の取引を通じた実質的な重複支払の状況がないかということを確認する必要がある。また、中国子会社が国外関連者にサービス費を支払うこと自体の合理性とあわせて、当然に価格設定方針の妥当性も検証しなければならない。

一方、ロイヤルティーについては“価値貢献テスト”に照らし、無形資産の法的所有者と経済的所有者が誰であるか、無形資産の価値創造に対して各関連者がどの程度の貢献をしているかを分析しなければならない。しかし、実務的な問題として、そのような分析に用いるべき具体的な手法が現時点では明らかでない。

取引をレビューした結果、中国の税務機関から否認されるリスクが高いと判断される取引があれば、中国子会社の取引だけでなく、グループ内におけるサービス費あるいはロイヤルティーの徴収基準を見直すことも必要になるかもしれない。

2. 関連資料の整備

中国の税務機関に対して、中国子会社の国外関連者に対する費用支払の取引は独立取引の原則に従ったものであると主張するためには、そのことを裏付ける適切かつ十分な資料を準備しておくことが必要になる。

たとえば、サービス費の支払取引に関しては、関連者と締結した契約書、取引フロー、価格決定に関する資料のほか、中国子会社が国外関連者の提供するサービスにより経済的利益を得ていることの説明資料を求められる可能性がある。そのほか、サービス提供の真実性を裏づけるものとして、サービスの成果物、関連者との電子メール等のコミュニケーション記録、出張者の出入国記録、会議議事録等も整理しておくことが望ましいと考える。

まとめ

中国における国外関連者への費用支払に係る移転価格管理の強化は、いうまでもなく中国現地の子会社のみならず、多国籍企業のグループ全体に影響を与えるものである。もし移転価格調査により、中国子会社が国外関連者に支払う費用の損金算入が否認されれば、中国において追加的な税負担が生じるだけでなく、国家間の二重課税の問題も生じる可能性がある。

今後は、中国子会社およびグループの移転価格リスクを管理するうえで、中国子会社の利益水準を合理的なレンジに収め、毎年の移転価格同期資料を準備するだけでなく、中国子会社から国外関連者への費用支払の取引がある場合には、その取引の真実性および合理性についても、適切かつ十分な説明ができるようにしておくことが必要になる。

16号公告の公布に続き、今後も中国においては、BEPS行動計画の成果を反映した新たな税務法規が出され、あるいは既存の税務法規の改正が行われるものと見込まれる。たとえば、各種税金の徴税管理に関する「租税徴収管理法」や移転価格税制の執行に関わる「特別納税調整実施弁法(試行)」(国税発[2009]2号)等も近いうちに改正される予定である。BEPSプロジェクトの動向も踏まえた中国の税務当局の動きには、今後も十分な注意を払う必要がある。

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