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最低代替税:外国機関投資家、外国ポートフォリオ投資家およびインドに事業所を有しない外国法人には適用されず

税務研究会『国際税務』2016年Vol.36 No.1

インド政府は2015年9月1日と24日に発行したプレスリリースおよび最高裁判所が2015年10月に下した判例(Castleton Investment Limited社(Castleton社))により,「最低代替税(Minimum Alternate Tax(MAT))は,外国機関投資家(Foreign Institutional Investors (FII),外国ポートフォリオ投資家(Foreign Portfolio Investors (FPI))およびインドに事業所を有しない外国法人には適用されない」等を明確にした。(『国際税務』2016年Vol.36 No.1)

はじめに

インド政府は2015年9月1日と24日に発行したプレスリリースおよび最高裁判所が2015年10月に下した判例(Castleton Investment Limited社:以下「Castleton社」)により,「最低代替税(Minimum Alternate Tax:以下「MAT」)は,外国機関投資家(Foreign Institutional Investors:「FII」),外国ポートフォリオ投資家(Foreign Portfolio Investors:「FPI」)およびインドに事業所を有しない外国法人には適用されない」等を明確にした。

今回のプレスリリースにより,インド政府は,2012年に事前裁定当局(Authority for Advance Rulings:以下「AAR」)がCastelon社のケースで下したルーリング後における様々な議論等を払拭することとなる。そして今回の展開は,インド新政府が目指しているインドでのビジネス環境の簡素化を図ることになるとともに,将来,インド政府の訴訟を減少させるコミットメントにもつながる。

本稿では,MATに関する議論,概要,投資家からの反応,インド政府の取扱いについて簡単にまとめることにする。 

1. MAT規定の概要とそれに関する論点

インド税法上,法人は通常の法人規定による税率に基づき計算された税額,またはMATの規定による会計上の利益の18.5%(サーチャージおよび目的税も加算)の税率に基づき計算された税額のいずれか高い方の税額を支払う義務がある。MAT規定により税金を納税する場合,支払ったMATと計算上の法人税の差額はタックスクレジットの対象となる。当該タックスクレジットは10年間繰越し可能であり,法人税額がMAT額を上回る年度において,その上回る額の範囲で使用可能である。

上述したようにMATは会計上の利益に対し課せられる。ただし,ここで問題になるのが,「インドにおいて財務諸表等を作成する必要がない企業に対しMATの規定が適用されるのか?」である。

例えば,外国法人(日本法人)でインドにおいて固定的施設を有しないが,インドの子会社よりロイヤルティー,利子所得を受領しているケースを想定する。当該企業は,インド源泉所得がある場合においても,インドで財務諸表等の作成をする必要があるわけではないが,このような場合でも,当該企業に対しMATの規定が適用されるのかという点が問題となる。

MATの規定を読む限りでは,MATは法人に対して適用され,その法人の定義には外国法人も含まれる。インドにおいて財務諸表等を作成しない外国法人には,MATの規定が適用されるかに関する明確なガイダンスは定められていない。この点に関して,外国法人がインド法人の持株を売却する際に,租税条約上(例:インド・モーリシャス租税条約)の譲渡所得条項の恩典を受けることで通常の税法上キャピタルゲイン課税が免除される場合には,MATが適用される可能性があると解釈されている。

2012年におけるCastleton社に対するAARのルーリングでは,同様な疑問が投げかけられた。このルーリングでは,AARがMATはインドで事業所の有無またはインドで財務諸表等を作成しているかにかかわらず,すべての法人(外国法人を含む)に適用されることを主張した。このルーリング後,控訴裁判所/AARよりMATについて様々な判決が出された。いくつかの判決では,MATの規定は外国法人に適用されないものであった。一方,ある判決では,MATの規定はインドに事業所を有する外国法人のみ適用されるとし,また,別の判決では,MATの規定はすべての法人に適用される等,判断が分かれていた。

ここでMAT制度の概要を確認すると,MAT規定は1987~88年にインド法人に適用されることを目標に導入された。MAT規定の導入される背景としては,高配当を行っている企業がタックスホリデー等を利用して,税収への貢献はなかったためであるとされている。

MAT規定が導入される際の財務大臣のスピーチおよび発行された通知書は,MATは会計上の利益「インド法人税法により作成された損益計算書に記載の損益」に対しMAT税率をかけることにより計算されることが明確になっていた。

インドに事業所(法人等)を設立した外国法人にはインド法人税法における規定が適用される。インドに事業所を有する外国法人は,インド法人と同様に損益計算書および貸借対照表のみを作成する必要がある。一方でインドに事業所を有しない外国法人は,インドにおいて財務諸表等を作成する必要がない。外国機関投資家および外国ポートフォリオ投資家はインドで物理的な場所を有しておらず,インドで銀行および証券会社に現金および証券口座等を開設し,海外からその証券会社等に売買の指示を行っているため,インドにおいて財務諸表等を作成する必要はない。

2. インドにおける外国ポートフォリオ投資家および外国法人への課税

インド市場への投資を増大させるルートとしては,外国直接投資,外国機関投資家・外国ポートフォリオ投資家による投資等があり,インドにおいてこれらは,どのように課税されているかは以下のとおりである。

  • 外国機関投資家は,20年以上前から特別な税制度(国内法第115条AD)により課税されている
  • 外国機関投資家は,国内法第115条ADにより課税されるため,通常の法人税の規定を選択することはできない
  • インドにおいて固定的施設を有しない外国法人の場合,特別な税率により課税される

外国法人,外国機関投資家,外国ポートフォリオ投資家のすべては,これらの特別な税制度によりインドで確定申告書の提出(MAT規定は適用なしで)を行っており,その申告書は2012年のCastletonルーリング前は問題なく認められていた。

3. 財政法2015年への改正

Castletonルーリングが公表されると,税務当局が過去の税務調査の再開や根拠のない追徴を求める結果となった。これは投資家の中で大きな課題となり,政府は2015年予算案の中で,MAT制度は外国機関投資家および外国ポートフォリオ投資家には2015年4月以降に稼得したキャピタルゲインおよび利子所得には適用されないことを明記した。当該修正予算案の効力が2015年4月1日以降であったため,インドの政務調査官は,過年度についてはMAT制度が適用されるべきであると解釈し,追加の課税を行った。投資家のインド市場を撤退する動きを危惧したインド政府は,2015年5月,2015年4月1日より前の期間についてMAT制度が外国機関投資家および外国ポートフォリオ投資家に適用されるか否かを検討し,かつ第三者からの迅速な提言を求めるため,A.P Shah委員会を設置した。

当該委員会は様々なインド税法,判例等の詳細な分析を行った後,2015年8月25日に以下のような提言を最終報告の形で提出した。

  • MAT規定における法人の定義は,インドにおいて事業所を有しない外国法人を含まず,狭義であると考えられる。MAT規定における法人の定義は,インド法人およびインドにおいて事業所を有する外国法人でインドにおいて財務諸表等の作成とそのほかのコンプライアンスを行う必要がある法人に限る
  • 租税条約の規定が国内法(MAT規定も含む)より優先される
  • Castleton社に対するAARのルーリングで出ていた「MATはインドで事業所の有無にかかわらず,すべての法人(外国法人を含む)に適用される」取扱いを覆すことになった

今回の提言は,税法における課税関係の安定性に即したものとなっている。

  • MAT制度は,2015年4月1日より前の期間についても,インドで固定的施設・事業所を有しない外国機関投資家および外国ポートフォリオ投資家に課税すべきではない
  • 外国機関投資家および外国ポートフォリオ投資家に対してすでに提起されている訴訟を取下げ,MAT課税の不適用を指示する通達を税務調査官に発行する

インド政府は,2015年9月1日および24日に発行したプレスリリースにより,外国機関投資家,外国ポートフォリオ投資家およびインドに固定的施設または事業所を有しない外国法人には,2015年4月1日より前の期間についてもMATを課税すべきではないとするA.P. Shah委員会の提言を受諾した。インド政府は,上記の改正について税法を修正する必要がある。さらに,2015年10月に最高裁判所がプレスリリースに基づき,インドで固定的施設および事業所を有しない外国法人(Castleton社)にはMATが適用されないことを判決を通して明確にした。

以上のことから,日本法人が,インドにおいて外国機関投資家および外国ポートフォリオ投資家として登録されている場合,またインドにおいて固定的施設(支店,駐在員事務所等)を有しない場合,インド税務当局よりMAT納税の通知書を受け取り,現在,訴訟を行っている日系企業は,2015年9月のインド政府のプレスリリースと10月の最高裁判所の判決をもって,納税額の追徴の取り消しおよび訴訟を終結することができる。

プレスリリースおよび最高裁判所の判決は,今後における取引の課税関係の安定性に寄与するものである。さらに将来,税法における課税関係を明確化する通達が発行され,インド投資における環境が整備されることが期待される。

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