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インド税制-1-
過少資本税制―インド

税務研究会『国際税務』2017年Vol.37 No.6

インドでは、2017年3月31日まで過少資本税制が規定されていなかったため、納税者が資金調達の手段として借入と出資の割合を自由に設定することが可能であった。また、過去の判決においても、インドにおいては過少資本税制がないため、株主の負債に対する支払利子を否認することはできないとし、納税者に有利な判決を下した。しかし、2017年2月1日のインド予算案にてインド財務大臣が2017年4月1日よりインドにおいても過少資本税制を導入することを発表した。(『国際税務』2017年Vol.37 No.6)

1. 過少資本税制の概要

過少資本税制の概念を理解するためにまず以下の例を見てみる。ABCグループという多国籍企業がインドにおいて低額の資本金で会社を設立した場合、インド法人が会社の運営上、さらに資金が必要である。ABCグループは以下3つの選択肢で資金調達を行うことが可能である。

① 普通株式または優先株式の新規発行

② ABCグループからの直接借入

③ 銀行・金融機関からの借入(ABCグループより保証、あるいはABCグループのいずれかの会社からの預金をデポジットする)

 

オプション①
株式による出資

オプション②
親会社からの借入

オプション③
銀行からの借入

1

配当は、株主に対し課税されないが、配当を分配する法人に対しインドで配当分配税が20.36%で課税される

一定の条件または租税条約の規定により受取利子は、5%、10%か20%で課税される(別途、付加税および教育税が課される)

受取利子は銀行側で課税される。

2

配当は損金算入不可

支払利子は損金算入可

支払利子は損金算入可


上記3つの選択肢を検討する限りでは、ABCグループにおいてインド法人の資金調達方法として借入金が最も効率的であることがわかる。すなわち、支払利子は損金算入が可能なため、インド法人の課税所得を圧縮することになる。さらに、インド国内税法上、原則として利子にかかる源泉税は低い税率で課税され、ABCグループの所在地国で外国税額控除が可能である。一方で、配当の支払は損金不算入であり、20.36%の配当分配税が課税される。配当受取側の多くの国において、配当分配税について外国税額控除を適用することはできないため、オプション①の株式による出資は望ましい資金調達方法ではないといえる。

以上を踏まえ、ABCグループはオプション②か③について、さらに検討を行う。

過少資本とは、インド国内法人が資金調達をする際に株式出資に代えて過大な借入金を受け入れることをいう。ABCグループと同様に多くの多国籍企業が、税率の低い国に所在する法人から税率の高い国に所在する法人に貸付を行うことで、グループ全体の税コストの軽減を図っている。

借入を国内の金融機関より行う場合、同一国内の取引であるため、受取利子と支払利子が同一国内で完結し、課税が国外に流出することはない。しかし、貸手が国外に所在する法人の場合、国外に利益が移転するリスクがあり、問題視されている。多くの国の税務当局は、一定の金額を超える借入を過少資本とみなすことで通常の借入と区別している。過少資本と特定された借入に係る支払利子は、支払利子ではなく配当の支払とみなされる。配当は損金不算入であるため、支払利子は課税所得の計算上、損金に含まれないことになる。このように借入を出資とみなすことで租税回避を防止することが可能となる。

利益の移転を防止するためにオーストラリア、ドイツ、フランス、日本、英国、中国と米国等のような国は既に過少資本税制を導入している。一方で、国外からの投資が減ることを恐れて、いくつかの国では導入されていない。

2. インドの過少資本税制

インドでは、2017年3月31日まで過少資本税制が規定されていなかったため、納税者が資金調達の手段として借入と出資の割合を自由に設定することが可能であった。また、過去の判決においても、インドにおいては過少資本税制がないため、株主の負債に対する支払利子を否認することはできないとし、納税者に有利な判決を下した。しかし、2017年2月1日のインド予算案にてインド財務大臣が2017年4月1日よりインドにおいても過少資本税制を導入することを発表した。

(1) インド過少資本税制の概要

インド予算案の詳細な説明では、過少資本税制の導入目的は過大な支払利子による利益の国外への移転を防止するためであることが記載されている。

過少資本税制は、インド所得税法に新たなセクション(第94条B)を設けることにより設定された。これは、インド国内法人または外国法人のインド国内の恒久的施設がインド課税対象所得における支払利子の損金算入額を規定している。この規定の主な内容は以下のとおりである。

  • 支払利子が1,000万ルピーを超える場合のみ適用
  • 支払利子の損金算入を制限
  • 非居住者からの負債1に対する利子または準ずるものを支払う場合に適用
  • 非居住者は借手の関連企業であること
  • 利子その他これに準ずるものについてEBITDAの30%までに損金算入を制限
  • 30%を超える利子は損金不算入とし、翌期以降8年間繰越し可能
  • 銀行または保険業を事業とする一定のインド法人等には適用されない

ここで注意すべき点としては、第三者からの借入が関連企業からの借入とみなされる「推定規定」も存在する。その例として、関連企業が第三者からの借入金に対して明示的もしくは非明示的な保証を与えるケースと関連企業が第三者からの借入金に対して預金をデポジットするケースがある。

1 負債とは、いかなる借入金、金融商品、ファイナンスリース、金融派生商品、その他事業所得において控除可能な利子、割引料、その他金融手数料が発生する取決めをいう。

(2) インド過少資本税制の今後注意すべき事項

過少資本税制はいくつかの解釈上の懸念事項が残る。また、予算案のメモランダムには新規ルールに関する必要なガイダンスが不十分であり、一定の判断を下すことは難しい。以下では日系企業にとってインドへの投資に関する重要となる過少資本税制に係る懸念事項について解説する。

a) 有限責任事業組合(LLP)への影響なし

過少資本税制は有限責任事業組合(Limited Liability Partnership:以下「LLP」)には適用されない。過少資本税制は、インド国内法人/外国法人の恒久的施設にのみ適用され、LLPに対し適用されない理由が不明である。LLPは外国直接投資(Foreign Direct Investment:以下「FDI」)の規定により、従来は外貨での借入は禁止されていたが、最近の対外商業借入(External Commercial Borrowing:「ECB」)の改正に伴い外貨での借入を行うことができるようになった。過少資本税制はLLPに適用されないため、インド国内法人/外国法人の恒久的施設に比較するとLLPのほうが有利であると言える。

b) 連結グループの概念がない

過少資本税制の検討は、連結グループ全体ではなく個社ごとに分析する必要がある。

c) 関連企業のみ対象

原則として第三者への支払利子は過少資本税制の対象とならない。

d) 複数の関連企業から借入をしている場合の合算規定

過少資本税制は、利子その他これに準ずるものが1,000万ルピーを超える場合に適用される。一つの関連企業からではなく複数の関連企業より借入をしている場合、1,000万ルピーの上限は、関連企業一社ごとに払われる利子のみで判断されるのか、それともすべての関連企業に払われる利子を合算の上判断されるのかが明確ではない。

予算案の説明では、複数の関連企業から借入がある場合、複数関連企業への支払利子を合算の上、過少資本税制の対象かどうかを検証するとしている。一方、改正される国内法の規定を確認する限りでは、一つの関連企業に支払われる場合に適用されると記載があり、不明確である。

e) 資産計上された利子は過少資本税制の対象となるか

資産取得を目的とした借入の場合、工場立上げ前または資産の利用開始前の期間に払われた利子は資産計上される。資産計上された支払利子は、減価償却として損金算入される。過少資本税制は、支払利子に対して損金算入の制限をかけることにより租税回避を防止することが目的である。資産計上された支払利子をどのように扱うかについて税務当局の見解が注目される。

インドの過少資本税制は、損金算入できる支払利子に対してのみ適用となる。減価償却として控除を受ける資産計上された利子はこの規定から除外されるという見方もあると考えられるが、税務当局と見解が相違する可能性もある。

f) 最低代替税(MAT)と過少資本税制

インド税法上、すべての法人(インドに恒久的施設を有しない外国法人を除く)は通常の法人規定による税率(30%/40%)に基づき計算された税額、または最低代替税(Minimum Alternate Tax:以下「MAT」)の規定による会計上の利益に基づき計算された税額(18.5%)のいずれか高い方の税額を支払う義務がある。通常の法人規定で損金不算入とされた支払利子は、MAT規定による税額を計算する際にも考慮して計算するかは不明確である。

インド過少資本税制上、事業所得(profits and gains of a business or profession)に対し調整が行われるものであり、MAT規定による会計上の利益に対しては調整が行われないと考えられるが、規定の明確化が必要である。

g) 移転価格税制と過少資本税制

移転価格税法上、関連企業と行ういかなる取引(利子を含む)は独立企業間価格(Arm's Length Price:以下「ALP」)により決定する必要がある。つまり、ALPを超える支払利子は損金算入不可であるが、EBITDAの30%以下である支払利子については損金算入できるかどうかが不明確である。

・ EBIDTAの30%がALPを超える場合:過少資本税制は事業所得の計算上、支払利子が損金算入できる場合に適用される。まず、ALPを超える支払利子は損金算入不可であるが、移転価格税制適用後の支払利子は過少資本税制の適用がない。
例えば、関連企業にのみ利子を払う法人が一年間で払った利子は1,100万ルピーで、移転価格税制のALPが900万ルピーの場合、ALPが1,000万ルピーを超えないので、移転価格税制の適用はあるが、過少資本税制の適用はないと考える。

・ ALPがEBIDTAの30%を超える場合:納税者が一年間で支払った利子の金額は5,000万ルピーで、移転価格税制のALPが3,000万ルピーの場合に、過少資本税制による利子の損金算入限度額は2,000万ルピーと仮定すると、1,000万ルピーの利子(3,000万-2,000万)が損金不算入とされるか否かは不明確である。しかし、翌期以降の繰越の規定を考慮すると、原則として1,000万ルピーの損金不算入の支払利子は翌年以降に繰越しが認められると考えられる。

h) 保証を受ける第三者(貸手)がインド居住者である必要か?

過少資本税制が適用される条件としては、以下の2つがある。

① 一定のインド国内法人等の非居住関連企業からの負債である、または

② 関連企業が第三者の貸出人に対して保証を与える、または、第三者が行う貸付金に対応する預金をデポジットする

上記②では、関連企業と貸出人が非居住者であることは特定されていない。

過少資本税制は、利益の移転を防止するために導入されたものであり、規定が不明確である一方で上記②の場合、第三者である貸出人および関連企業がインドにある場合でも適用されると考えられる。税務当局は過少資本税制のこの規定をどのように判断するかはまだ不明である。

i) 租税条約の特典の有無

インド国内法上、インド所得税法または租税条約で納税者にとって有利な規定が優先される。インドが諸外国と締結している租税条約に無差別取扱条項がある。当該条項は、一方の締約国にある居住者を他方の締約国で不公平に扱われないよう規定されている。

OECDをベースとする租税条約における無差別取扱い(過少資本税制にも適用)の条文を以下のように引用する。

(一定の条件)の規定が適用される場合を除くほか、一方の締約国の企業が他方の締約国の居住者に支払った利子、使用料その他の支払金については、当該一方の締約国の企業の課税対象利得の決定に当たって、当該一方の締約国の居住者に支払われたとした場合における条件と同様の条件で控除するものとする。同様に、一方の締約国の企業が他方の締約国の居住者に対する債務については、当該企業の課税対象財産の決定に当たって、当該一方の締約国の居住者に対する債務であるとした場合における条件と同様の条件で控除するものとする。


上記の規定は日印租税条約にも規定されている。過少資本税制はインド国内法人が非居住者関連企業に対し利子を支払った場合に支払利子の損金不算入が適用される一方、インド国内法人が他のインド居住者に対し利子の支払いを行った場合、支払利息の損金不算入の適用はなく、この無差別取扱条項に抵触する可能性があると考えられる。過少資本税制は新しいルールであるため詳細な分析が必要である。

j) 既存の借入への適用有無

既存の借入については過少資本税制にて特別な経過措置等は設けていない。したがって過少資本税制は、2017年4月1日以前に発生した支払利子についても適用される。

k) EBIDTA:会計上EBIDTAか税務上EBIDTAか?

過少資本税制上、初めてEBIDTAという用語が用いられ、インド国内法の他セクション等にはこの用語が存在しない。この用語は監査済の財務諸表等によく用いられ、会社の財務指標を分析するための重要な要素である。

しかし、この用語はインド国内法に定義されていないため、税務専門家、納税者および税務当局が独自に解釈されて係争となる可能性がある。

l) 借入をしたビジネスが継続できなくなった場合

上述のように損金算入されない利子は8年繰越し可能である。ここで注目すべき点としては、繰越された利子はビジネスが継続できなくなった、または移転された場合、損金算入可能かどうかである。また、繰越された利子をその他ビジネスの利益等に対し損金算入できるのかが明確ではない。

過少資本税制の規定を確認する限りでは「ANY BUSINESS」という記載があり、借入をしたビジネスのみならず、他の事業に対しても控除可能であると考えられる。

m) 分割/統合の場合

過少資本税制の適用を受けて損金不算入とされた支払利子を翌年度以降に繰越した会社が他の会社と統合された場合、その統合前の会社で使いきれなかった支払利子の控除を受けられるかどうかが疑問である。インド国内法に一定の引継ぎ規定が導入されない限り、使い切れなかった支払利子の引継ぎ等は実務的に困難と考えられる。

n) 利子その他これに準ずるもの

この規定は、支払利子その他これに準ずるものに対し適用される。「その他これに準ずるもの」の定義は明確ではないが、支払利子に経済的に近いものが含まれる。

インド国内法では、利子の定義が規定されており、その支払がこれに準ずるものに該当するかどうかは検証する必要がある。

3. インド新規過少資本税制における日系企業の対応

a) インド法人に借入をしているすべての日系企業はまず過少資本税制の導入で支払利子が損金不算入され、税負担を増やすことにならないかを確認する必要がある。会社によっては影響が多額になる可能性もある。

b) 日系企業のインド子会社で営業損失が発生しているもしくは過大な営業損失が発生することが予測されるケースもあるだろう。その場合、キャッシュフロー・EBIDTAがマイナスになっても、過少資本税制が適用される。その場合には、借入があると詳細な検証が必要と考えられる。

c) インフラ関連、金融等の事業(銀行業または保険業を除く)を行っている企業は、この過少資本税制により最も影響を受けるであろう。

d) 上述のように企業は非明示的な保証につき真剣に考える必要がある。インド税務当局はアグレッシブなため、子会社の借入に対して非明示的な保証をされていると指摘する恐れがある。

e) 日印租税条約における無差別取扱条項の恩恵を受けることは可能である。損金不算入された金額が多額である場合、日印租税条約の規定の適用を検討することが考えられる。過少資本税制は新たに設けられた制度であるため、無差別取扱条項との関係について様々な解釈が行われる可能性がある。

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