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インド税制-3-
第二次調整の規定:インド移転価格税制における最近の動き

税務研究会『国際税務』2017年Vol.37 No.9

本稿では、インドに進出している若しくは今後進出予定の日系企業は留意すべき、新規ルールに係る法的背景、ルールの詳細、懸念事項等について記載する。(『国際税務』2017年Vol.37 No.9)

はじめに

インドは10年前に移転価格税制が導入されて以来、国際税務で採用されているベストプラクティス、OECD勧告を現実的に受け入れて対応してきている。インド政府は2017年度の財政法にて第二次調整ルールが導入されることを公表している。このような調整は、米国、南アフリカ、韓国やカナダ等のような国に既に認められている。

これらのルールはビジネスに対する影響が大きいため、インドに進出している若しくは今後進出予定の日系企業は留意しておくべきである。ここでは、新規ルールに係る法的背景、ルールの詳細、懸念事項等について記載する。

1. 第二次調整-概要

はじめに、第二次調整のビジネス等への影響を分析する前に、第二次調整とはどういうものなのかを理解する必要がある。第二次調整の概念を理解するために以下に例を記載する。

① 日本法人(JPN)がインドにおいてインド子会社(IND)を有している。

② JPN社がIND社との間で製品製造を目的としたライセンス契約を締結し、知的財産の提供を行っている。

③ IND社は、ライセンス契約に基づきJPN社に対し100百万ルピーを知的財産の使用料として支払っている。

④ JPN社とIND社は関連企業であるため移転価格文書を作成する義務がある。また、その文書にIND社がJPN社に支払う100百万ルピーの取引が独立企業間価格に基づいて行われていることを記載する必要がある。

⑤ IND社は、事業年度末に法人税の申告書を提出し、JPN社に支払った100百万ルピーを損金算入としている。会計上も税務上もこの100百万ルピーの支払が申告されているため、納税が完了されたと想定される。

2年後にインド税務当局がIND社に対し税務調査を開始した。インド税務当局がIND社とJPN社間の取引につきベンチマークを行い、IND社とJPN社が100百万ルピーで行っていた取引が実際は100百万ルピーではなく、80百万ルピーが適切であると判断を下した。したがって、税務当局は移転価格の調整を行い、100百万ルピーのうち20百万ルピーの損金算入額を否認した。この20百万ルピーの調整は第一次調整といわれている。

仮にIND社が税務当局の調整に合意した場合、追加で20百万ルピーの所得に対し法人税を支払うことになる。2017年4月1日以前、IND社は追加納税及び延滞税やペナリティーを払う必要があり、JPN社より超過で支払った20百万ルピーを返還することは必要でなかった。結果として、移転価格の調整による追加納税により会計上と税務上で損金算入額の不一致が起こっていた。これは、本来であればJPN社がIND社に返還すべき金額をJPN社が返済しないことで実際の資金がインドに還流されないことを意味する。同様に税務当局が税務調査の過程でIND社が国外関連企業より受領すべき所得を増額調整した場合にも発生する。

上記は、外貨準備高を継続的に増加しようとしているインドを含め、どの国の経済政策上においても適切ではない。このような状況に対応するため、インド政府は過去に事前確認制度(Advance Pricing Agreement:以下「APA」)に一定の条件を導入する際、または相互協議(Mutual Agreement Procedures:以下「MAP」)に外貨の流入を維持するために国外関連企業が保有する超過支払分の資金還流等の条件を設けた。一般的には、第二次調整を導入することにより、納税者を強制的に国外関連企業より超過支払分を返還してもらうよう促し、会計上帳簿と課税所得の間の不平衡が取り除かれる。これらの規定は資金が還流されない場合、ペナルティー等の規定を設けている。これらのルールは国際税務において第二次調整といわれている。

2. インド税法:主要な点

2017年度の財政法では、インド政府は第二次調整の規定を導入することを公表した。当該規定上、インド法人(納税者)とその国外関連者は第一次調整で確定された利益配分の調整を反映するために会計帳簿における第二次調整を行うことが必要であり、当該調整によりインド法人(納税者)の現金勘定(cash account(実際の受領額))と課税所得(利益配分)の間の不平衡が取り除かれることとなる。要するに、第一次調整で行われた調整(損金算入金額の減額若しくは課税所得の増加等)により、国外関連者にある超過額を期限内にインドに還流させる必要がある。期限内に超過額を還流させない場合、納税者から国外関連者への預け金とされ、利子が計算される。

本規定は、2016年4月1日以降から、第一次調整が1千万ルピーを超える場合に適用される。第一次調整は以下のものを含む。

① 自らの法人税申告書においてインド法人(納税者)が自主的に調整を行った

② 税務当局による調整を納税者が受け入れた

③ APAに基づく調整

④ MAPの手続上の解決に従う調整

⑤ セーフ ハーバー ルール(Safe Harbour Rules)の採用による調整

また、結果的にインドは第二次調整を導入することにより以下を可能にしている。

① 納税者(インド法人)は国外関連者にある超過額を還流することが求められ、結果としてはインド外貨準備高を増加させることになる。

② 法人のような形態の場合、国外関連者より返済された超過額を再度国外関連者へ送金される場合、インド法人からの配当と考えられ、配当分配税が20.4%にて課せられる。今まで全く配当分配税等が課されていないことから課税漏れが発生していたが、今回の規定の導入によりそれが解決できると考えられる。

3. 最新の通知書

インド政府は、2017年6月に通知書を発行することにより第二次調整の詳細なルールを公表している。今回の規定は2つの要素が含まれている。新規ルールには、超過額のインドへの送金期限、超過額にかかる利子等のような詳細は後日発表されることが記載されている。

  • 超過額のインドへの送金期限:当該規定上、超過額のインドへの送金期限は90日以内となっている。当該90日は以下のように決定される。

① 自主的に調整、MAPの手続上の解決に従う調整及びセーフ ハーバー ルールの採用による調整の場合、法人税の申告書の提出期限日からとなる。

② 税務当局による調整を納税者が受け入れた場合、当局より調整の通知を受けた日からとなる。

③ APAの場合、修正申告の提出期限日、若しくは申告書の提出期限日となる。

  • 利子料率:超過額にかかる年次利子を計算する際の規定は以下のとおりである。

① ルピー建て通貨の場合、4月1日付のインドステート銀行(State Bank of India)の1年間の限界資金コストの料率プラス325ベーシスポイントである。

② 外貨建ての場合、9月30日付の6カ月LIBORプラス300ベーシスポイントである。

4. 留意すべき事項

第二次調整の規定は、関連会社間でキャッシュフローや運転資金をどのように扱うか等の懸念事項があり、これ以外にもまだ明確でない部分が多数ある。以下に今後注意を払う必要があると考える。

(1) インドで合弁会社を持っている日系企業は注意が必要

日系企業がインド企業、若しくはその他日系企業と合弁でビジネスを行っている場合、前記ルールに従うことで合弁相手に間接的に利益をもたらすことになる。例えば、日系企業(JP1)がインド企業(IND Co)と合弁会社を設立し、第二次調整のルールに従い、第一次調整により発生した超過額をJP1がIND Coに支払うことになる。当該IND Coへの支払は、合弁相手であるインド企業の株主価値の増加等になるため、間接的に利益をもたらすことになるといえる。第二次調整によりJP1がIND Coに支払う超過額は、IND Coの株式保有割合に応じて株主間で配分される。したがって、IND Coの株主は間接的に有利になる。

上記の解決策としては、日系企業がインドにおいてAPAの締結、若しくは投資額所得の還流を確実に保証する代替案を考えたほうがいい。

(2) インド外国為替法の規定について

インド企業は国外関連者より期限内に超過額の送金を受ける必要がある。インドへの送金は、インド外国為替法に準拠する必要がある。インドへの送金が期限内に行われない、若しくは外国為替法によりインドへの送金が規制されている場合には、第二次調整は納税者(インド法人)がインド規制上の理由により、半永久的に負担することになる。このようなケースを避けるための追加規定は含まれるべきである。

(3) 外国の法律

さらに、外国の法律等により超過額のインドへの送金が認められない可能性もある。これも納税者が半永久的に利子相当額の納税を支払う状況になり、納税者にとっては不利益が生じる。インド政府は、誠実な納税者に対し何等かの解決策を講じる必要がある。

今回の規定は、第一次調整でインド法人にて所得増や損金の減少が発生する時のみに適用される。一方、逆方向の調整(外国の法律によりインド法人が国外関連者へ支払う)が行われた場合、インド政府はどのように反応するかを確認する必要がある。

(4) 利子の計算

利子の計算は単利なのか複利なのかについてはまだ明確なガイドラインがでていない。また、期限内に送金を受領できなかった場合、利子の計算は送金期限日からなのか、それともその前(第一次調整が行われた日)からなのかについても明確ではない。

(5) 関連企業間の取引の多さ

多くの場合、国外関連者と同一事業年度内に行う取引が多数にわたる可能性もあり、関連者間で資金の循環が行われる。このような状況では、税務当局としては、第一次調整時に発生した超過額等の精算が行われたかどうかを把握するのは困難であり、この状況に対応するためにインド政府より詳細なガイドラインが公表されることが期待される。

(6) 外国法人(関連企業)が合併・統合等により消滅

通常、税務調査、MAP解決若しくはAPA締結により第一次調整が行われるのは2年から4年程度の期間を要する。この間に、グローバルにて組織再編等(合併、買収等)が行われた場合、当該国外関連企業が既に消滅している可能性があり、このような場合超過額のインドへの還流は現実的に難しいケースがあると考えられる。また、グループ全体で大きな損失が発生した時に、上記と同様な状況になり、第二次調整の規定に準拠できなくなる。

上記のような状況では、第二次調整の負担は半永久的に納税者(インド法人)が負担することになる。インド政府はこのような状況にならないように政策を講じる必要がある。

(7) 恒久的施設(Permanent establishment:以下「PE」)への帰属

インドPEと他のインド法人の間で行われた取引に関し、超過額をインドPEから他のインド法人へ送金する必要がある。第二次調整の目的は、独立企業間価格に基づき外貨の流入を確保することである。インドPEと他のインド法人間の第二次調整の場合、インド国内取引であり、インドへの外貨の流入は影響されないが、追加でコンプライアンスを行う必要がある。特別な免除がない限り、インドPEと他のインド法人間の取引にかかる第一次調整はすべて第二次調整の対象となる。インド政府はこのようなケースの場合、第二次調整は適用されないことを明確にする必要がある。

(8) 二重課税のリスク

第二次調整の規定には二重課税のリスクがある。第一次調整で発生した超過額のインドへの送金を期限内に行われない場合、インド法人が利子に対し追加で税金を納めることになり、また国外関連者はその利子分に関して母国で外国税額控除が認められない可能性がある。結果的に二重課税が発生することになる。第二次調整により発生する二重課税については、その一方の国の権限ある当局がMAP若しくはAPAを通じてその他の国にも同じような調整を認める場合、二重課税が排除される。

この規定を導入する目的は、インド移転価格税法を国際税務のベストプラクティスに合わせることであり、当該規定は、二重課税のリスクを含め追加納税を発生させる可能性がある。第一次調整の対象となる納税者は、インドにおける移転価格のポリシーにつきこの規定の影響を分析する必要があり、また必要に応じてMAP、APA等のような対策を取ることも積極的に検討する。インドにおける合弁会社(日系企業とインド企業の間)はこの新規規定により大幅に影響され、また第二次調整の影響を回避するにはAPAやセーフハーバー等のオプションを利用することで移転価格の確実性を事前に求める必要があると考える。

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