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【国際税務の相談室】所得税・個人所得税課税における帰属主義への改正と非永住者の課税範囲の改正

税務研究会『国際税務』2017年Vol.37 No.2

平成29年分から、個人の課税においても非居住者が国内に有する恒久的施設(PE)に帰属する所得を外国法人の課税に準じて国内源泉所得として課税することとされ、国内源泉所得及び国外源泉所得の定義等について所要の改正が行われました。また、この国内源泉所得、国外源泉所得の定義の見直しに併せて、個人(居住者を含む)の外国税額控除についても、内国法人の取扱い等に準じた改正が行われています。(『国際税務』2017年Vol.37 No.2)

Question & Answer

 Q 

平成29年分から、個人所得税の課税においても帰属主義(AOA)への改正が行われると聞きましたが、個人で恒久的施設(PE)を有する者は限られた者であるため、その影響は限定的ではないかと考えています。個人の課税に具体的にどのような影響があるか概要をご教示願います。

 A 

平成29年分から、個人の課税においても非居住者が国内に有するPEに帰属する所得を外国法人の課税に準じて国内源泉所得として課税することとされ、国内源泉所得及び国外源泉所得の定義等について所要の改正が行われました。また、この国内源泉所得、国外源泉所得の定義の見直しに併せて、個人(居住者を含む)の外国税額控除についても、内国法人の取扱い等に準じた改正が行われています。このように、個人の課税においても、法人課税に準じた帰属主義への改正が行われましたが、これに併せて以下のとおり非永住者1の課税範囲も改正されているので、この点に留意する必要があります。

なお、この非永住者の課税範囲については、平成29年度の税制改正大綱においてさらに見直しの措置が盛り込まれています。

1 非永住者とは、居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去十年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人をいい、一般的には、外国人派遣社員などがこれに該当します。

1. 国内源泉所得と国外源泉所得の定義等

(1) 改正の概要

改正前の所得税法では、「国内源泉所得」のみについて定義が行われ、国内源泉所得に該当しない所得が一般的には国外源泉所得として扱われていましたが、所得税法上では「国内源泉所得以外の所得」あるいは、「その年において生じた所得でその源泉が国外にあるもの」などと規定され、特に「国外源泉所得」の定義は設けられていませんでした。改正後の所得税法では、国内源泉所得に関する定義(所法161条①)のほか、国外源泉所得に関する定義(所法95④)が設けられ、従来の国内源泉所得及び国外源泉所得として取り扱われていた所得と比較すると、その範囲が変更されています。特に、株式等の譲渡に係る所得については、次頁の表のとおり、改正後は同一銘柄の株式等の買い集めを行いその地位を利用して内国法人に売却することによる所得や不動産関連法人の株式の譲渡による所得など特殊な場合の譲渡に係る所得のみについて規定され、一般的な取引所金融市場で株式を売却する場合等の譲渡所得等は、原則的に国内源泉所得・国外源泉所得のいずれにも区分されないこととなりました。

なお、国外源泉所得に該当しない所得(一般的な株式の譲渡など)であっても、租税条約の規定により相手国で租税を課すことができる所得とされ、相手国で所得税が課されるものについては、国外源泉所得に置き換えが行われることとされました(所法95④十六、所令225の13)。

◆ 株式等の譲渡所得等に関する国内源泉所得・国外源泉所得(改正前/改正後)

改正前

改正後

国内源泉所得

国内源泉所得

国外源泉所得

以下の一般的な株式の譲渡所得等

  • 金商法に規定される取引所金融商品市場で譲渡されるもの
  • 国内にある営業所等を通じて譲渡されるもの など

(規定なし)
国外源泉所得以外の所得

(規定なし)
国外源泉所得以外の所得

内国法人等の発行する株式等の譲渡による以下の所得

  • 内国法人の株式等の買い集めをし、所有者の地位を利用し内国法人等に株式等を譲渡することによる所得
  • 不動産関連法人の株式の譲渡による所得
  • ゴルフ会員権の譲渡による所得など

(左記と同様)
国外源泉所得以外の所得

外国法人の発行する株式等の譲渡による以下の所得

  • その発行済株式の総数などの一定割合以上を保有する場合に、法人の本店等の所在地で、その譲渡による所得に外国所得税が課されるもの
  • 不動産関連法人の株式の譲渡による所得
  • 国外のゴルフ会員権の譲渡による所得 など

 

(2) 改正の影響

この改正により、永住者である居住者(日本国籍を有する者を含む)が国外の取引所金融商品市場で一般的な株式の譲渡等を行った場合、その所得は原則的に国外源泉所得に該当しないことになり、外国税額控除の対象になりません。一般的な株式の譲渡に係る所得については、多くの租税条約では居住地国にのみ課税権を認めることとしているため二重課税が生じることはありませんが、一般的な株式の譲渡に係る所得について所得源泉地国にも課税権を認める条約(下表参照)の相手国の取引所金融商品市場で売却を行った場合には、居住地国、所得源泉地国の双方で課税が行われることになります。この場合には、日本における課税上、その譲渡による所得が国外源泉所得に置き換えられ、外国税額控除が適用され、二重課税を調整することができます。

しかし、その取引所金融商品市場が租税条約を締結していない国にある場合には、その所在地国で所得税が課されたとしても、譲渡に係る所得の国外源泉所得への置き換えが行われないため、外国税額控除が適用されず、二重課税の調整が行えないと考えられますので、この点に留意する必要があります。

一般的な株式の譲渡所得に源泉地国課税を認める条約(平成28年4月1日現在)

イスラエル、インド、エジプト、カナダ、スリ・ランカ、ロシア他旧ソ連邦諸国、タイ、中国、トルコ、ノールウェー、バングラデシュ、ブルガリア、マレーシア、南アフリカ、ルクセンブルグ

2. 非永住者の課税範囲の改正

非永住者の課税範囲は「国内源泉所得及びこれ以外の所得で国内で支払われ、又は国外から送金されたもの」(改正前所法7①二)と規定されていましたが、改正後の所得税法では「国外源泉所得以外の所得及び国外源泉所得で国内で支払われ、又は国外から送金されたもの」(改正後所法7①二)とされています。

これまで、国外の取引所金融商品市場や国外の営業所等を通じて売却した株式等の譲渡所得等については、国内源泉所得以外の所得として原則的に課税対象の範囲外でしたが、改正後は国外源泉所得以外の所得として課税対象に含まれることになりました。

なお、一般的な株式の譲渡所得については、所得源泉地国に課税権を認める条約の相手国の国の取引所金融商品市場等を通じて株式の売却が行われるなどの場合には、その譲渡に係る所得が国外源泉所得に置き換えられるため、非永住者の課税所得から原則的には除外されるものと考えられます。

また、例えば米国市民で非永住者に該当する者の場合、米国においても市民課税の対象となり、米国の取引所金融商品市場等における株式の譲渡等による所得も課税されることになりますが、日米条約は対イスラエル条約のように株式の譲渡所得について所得源泉地国に課税権を認めるものではないため、その株式の譲渡所得等が国外源泉所得へ置き換えられるものではないと考えられます。

3. 平成29年度税制改正

平成28年12月22日に閣議決定された税制改正大綱には、非永住者に係る課税所得の範囲見直しの措置が盛り込まれており、非永住者が平成29年4月1日以降に、国外の取引所金融商品市場や国外の営業所等を通じて有価証券を売却した場合等において、その有価証券が以下の要件を満たす場合にのみ、その譲渡に係る所得が課税所得となることとされました2

(i) 平成29年4月1日以降に取得したものであり、かつ
(ii) 過去10年以内において非永住者期間に取得したものであること

したがって、平成29年4月1日以降に非永住者が有価証券の売却を行う場合には売却する有価証券等がいつ取得されたものかによって課税対象であるか否かが異なることとなるので、有価証券等の取得日を記録しておく必要があります。

実際の改正法がどのような規定となるか確認する必要がありますが、非永住者の国外市場等を通じた有価証券の譲渡等による所得については、譲渡の時期等によって、また、どの国・地域の取引所金融商品市場を通じて売却を行うかによっても課税関係が異なることになると考えられますので、これらのことに留意する必要があります。
(文中、意見にわたる部分は筆者個人の見解であり、所属する組織の見解ではないことを申し添えます。)

2 いわゆる送金課税の対象となる場合には、これまでどおり課税対象と考えられます。

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