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【国際税務の相談室】所得税・日米租税条約 米国居住者が内国法人のみなし役員に該当する場合の課税関係

税務研究会『国際税務』2016年Vol.36 No.7

米国と日本の役員の定義が異なることから、日米条約を適用しても、米国における外国税額控除の限度計算等において、日本で課税した所得を国外源泉所得に置き換えることができず、二重課税の調整ができないと考えられます。(『国際税務』2016年Vol.36 No.7)

Question & Answer

 Q 

弊社(内国法人)ではグローバル化の一環として、優秀な経営能力を有する者X氏を弊社の執行役員として招へいし、経営に当たらせることを検討しています。X氏は米国市民であり現在米国に居住していますが、執行役員就任後も引き続き米国に居住し、原則的に役員会等にはテレビ会議などで参加をすることとし、必要がある場合にのみ来日して業務を行う予定です。このような形をとった場合に、X氏個人の課税で留意すべき点があればご教示願います。

 A 

X氏は貴社執行役員に就任後、日本では非居住者として国内源泉所得に対して課税を受け、米国では米国市民として全世界所得に対して課税されることになると考えられます。日本と米国で同一の所得に対して課税を受けることになり、原則的には居住地国である米国において二重課税の調整を行うことになりますが、X氏は貴社の経営に参画することから、貴社の役員として登記されていない場合であっても、日本では役員として課税される一方、米国では従業員として課税され、所得源泉地のとらえ方が異なることとなるため、二重課税の調整ができないことが考えられます。

1. X氏の居住形態等

X氏は貴社の執行役員に就任するものの、引き続き米国に居住し必要がある場合にのみ来日するというのですから、生活の本拠は引き続き米国にあり、日本では非居住者として扱われることになると考えられます。一方、米国では米国市民に対しては居住地に関わらず市民権課税が行われますので、X氏は米国において米国市民としての課税を受けることになります。

2. 国内法を適用した場合の課税関係


X氏が就任する執行役員という職責は、一般的には取締役会が行う企業の意思決定を実行するための職責で、取締役など会社法上の役員とは異なります。しかし、法人税法上、役員とは法人の取締役、執行役(委員会設置会社に置かれる会社法上の機関)、会計参与、監査役、理事、監事、清算人のほか、職制上使用人としての地位のみを有する者以外の者でその法人の経営に従事しているものなど(みなし役員)が含まれます(法法2十五、法令7一)。したがって、執行役員として会社の経営に参画するX氏は、法人税法上の役員に該当すると考えられます。

この場合、貴社がX氏に支給する報酬はX氏が日本において役務を提供するか否かに関わらず国内源泉所得に該当(所法161十二イ)し、貴社は支払額に対して20.42%の税率で源泉徴収を行う必要があります(所法169、170、212①、復興財源確保法28)。

一方、X氏は米国において米国市民として全世界所得に対して課税され、日本との間で生じる二重課税については、一般的には米国で外国税額控除を適用し調整することになりますが、米国で外国税額控除の計算を行う際には、所得金額を一定のカテゴリーに分類したうえで、そのカテゴリーごとに課された外国税額のうち以下の金額を限度として控除額を計算することになります。

この場合に、貴社がX氏に支給する報酬については、米国外における役務提供に対応する金額が国外源泉所得となるため、X氏の日本(米国外)における役務提供日数が少ない場合などには、上記の限度額が日本で納付した源泉税額より少なくなり、二重課税を完全に調整することができないことになります。

3. 租税条約の適用

次に、X氏の課税関係について、日米租税条約の適用を検討する必要があります。

日米租税条約は、この条約に別段の定めがある場合を除き、一方又は双方の締約国の居住者である者にのみ適用する(日米条約1①)とされていますが、米国市民については、以下の要件を満たす場合に限り米国の居住者とされます(日米条約4②)。

(i) その個人が日本の法令の下で、住所、居所などの基準により日本の居住者ではないこと
(ii) その個人が、米国内に実質的に所在し、又は恒久的住居若しくは常用の住居を有すること
(iii) その個人が日米条約以外の租税条約の適用上、米国以外の居住者とされないこと

X氏は、貴社の執行役員就任後も引続き米国に居住するというのですから、以上(i)~(iii)の要件を満たしており日米条約の適用上米国の居住者に該当すると考えられ、X氏の課税関係には日米条約の規定が適用されます。

日米条約には、米国の居住者が内国(日本)法人の役員の資格で受取る報酬については、日本において課税することができる旨規定されています(日米条約15)。日米条約上に「役員」という用語の定義は設けられていませんが、一方の締約国における条約の適用に際し、定義されていない用語については、文脈により別に解釈すべき場合等を除き、条約の適用を受ける租税に関するその締約国の法令の意義を有する(日米条約3②)とされており、日本における日米条約の適用上、役員とは我が国の法人税法における役員の意義を有し、みなし役員に対する報酬を含め日本に課税権があることになります。

次に、租税条約には、租税条約に別段の定めがない限り、自国の居住者に国内法に従って課税する権利を留保するとの原則(セービングクローズ)があり、日米条約でもこの原則が規定されています(日米条約1④⑤)。したがって、X氏は米国においても貴社が支給する報酬について、米国国内法にしたがって課税されることになります。

また、日米条約には二重課税の排除に関する規定が設けられており、米国市民に対して課される日本の租税について米国の法令に従い米国の租税から控除することが認められると規定され、さらに、米国の居住者が取得する所得で米国の法令に基づき総所得の項目とされる所得について、日米条約の規定に従って日本で課されるものは米国における外国税額控除等の適用上、日本国内に源泉があるものとすると規定されています(日米条約23②)。

つまり、米国の国内法上国内源泉所得に該当するものであっても、日米条約の規定に従って日本で所得税が課される所得については日本源泉所得(米国からみた国外源泉所得)に置き換えて外国税額控除等が適用されます。

ところが、米国では役員とは取締役会メンバーに相当するもの(“Board of Directors”)とされており、日米条約の適用上、米国ではみなし役員に対する報酬は第15条(役員報酬)ではなく、第14条(給与所得)が適用されると解される1ため、日本源泉所得はあくまでも日本における役務提供部分に限られ、日米租税条約23条による所得源泉地の置換えは行われないことになります。

(新旧日米条約及びその適用関係)

 

改正前

改正後

日米条約14条
(給与所得)

一方の締約国の居住者がその勤務について所得する給料、賃金その他これらに類する報酬に対しては、勤務が他方の締約国で行われない限り、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる。

改正なし

日米条約15条
(役員報酬)

一方の締約国の居住者が他方の締約国の居住者である法人の役員の資格で取得する役員報酬その他これに類する支払金に対しては・・・・・・

一方の締約国の居住者が他方の締約国の居住者である法人の取締役会の構成員の資格で取得する役員報酬その他これに類する支払金に対しては・・・・・・

みなし役員に対する
適用条文<日本>

日米条約15条
(役員報酬)

日米条約14条
(給与所得)


1. 日米租税条約には日本語のものと英語のものがありますが、いずれも正文とされており、日米条約15条の英文では“Directors' fee and other similar payments derived by a resident of a Contracting State in his capacity as a member of the board of directors of a company...”とされています。

4. 課税関係のまとめ

以上のとおり、米国と日本の役員の定義が異なることから、日米条約を適用しても、米国における外国税額控除の限度計算等において、日本で課税した所得を国外源泉所得に置き換えることができず、二重課税の調整ができないと考えられます。

結局、それぞれの国内法による課税関係と同じとなります。

5. 租税条約の改正

このような問題に対処するため、平成25年1月25日に署名された日米租税条約を改正する議定書では、日米条約第15条(役員報酬)の規定が上記の表(新旧日米条約及びその適用関係)のとおり改正され、日米条約第15条は取締役会の構成員のみに適用され、みなし役員の報酬については日米条約第14条(給与所得)が適用されることになります。

この改正により、X氏は日本において、日本における役務提供部分にのみ20.42%の税率で課税され、米国においてはこの所得を国外源泉所得として外国税額控除等の計算を行うことになり、二重課税の調整が行われることになりますが、条約の発効には両国議会の承認が必要とされています。2016年5月末現在、議会の承認が未了であるため、改正議定書は未発効となっており、改正議定書の発効を待って、これまでの役員の定義の相違に基づく二重課税が排除されることになります。

なお、日本が締結している各国等との租税条約における役員報酬の規定は、多くの場合日米条約の規定(改正前)と同じ2であり、他国との間でも同様の問題が生じることがあるので、留意する必要があります。

2. OECD条約モデルの第16条(役員報酬)においても、日本語、英語とも日米条約と同じ規定となっています。

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