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台湾居住者の税制適格ストックオプションに係る課税関係~日台民間租税取決めの締結および平成28年度改正を受けて~

『国税速報』平成28年7月11日号

台湾子会社従業員が税制適格ストックオプションを行使して取得した株式を売却した場合、租税取決めおよび関連法規の規定に基づき、売却益(売却価額-権利行使価額)のうち権利行使益(=給与所得)部分については、当該従業員は台湾でのみ勤務し日本における勤務期間がなく、国内源泉所得がないことから、日本では課税されず全額が台湾において台湾国内法に基づき課税されることとなります。(『国税速報』平成28年7月11日号)

【疑問相談】国際課税

「台湾居住者の税制適格ストックオプションに係る課税関係~日台民間租税取決めの締結および平成28年度改正を受けて~」

Question:
当社(内国法人)はグループ業績の向上を目的として、国内外子会社の役員および従業員にもいわゆる税制適格ストックオプションを付与しています。ストックオプションの割当てを受けた者の中には当社の台湾子会社の現地従業員も含まれています。当該従業員は採用から今日に至るまで台湾子会社でのみで勤務しており、日本における勤務等の予定は今後も一切ありません。今般、日台民間租税取決めが両国関係団体の間で署名されたと聞きましたが、これによりこの台湾子会社従業員が台湾においてストックオプションを行使したことにより取得した当社株式を譲渡した場合の日本における課税関係はどのような影響を受けるのでしょうか。

※本文中における日台民間租税取決めの適用時期は未定となっていますが、本記事の執筆後、2016年7月1日に「所得税法等の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令」が公布され、当該政令によって、施行期日が2017年1月1日とされています。詳しくは、Global Tax Update:2016年7月号/台湾 をご覧ください。

Answer:
日台民間租税取決めおよびこれを実施するための国内法等の施行前においては、所得税法等の規定により株式売却益の全額が国内源泉所得とされ、15.315%(復興特別所得税を含む)の税率により申告分離課税が行われます。

一方、日台民間租税取決めおよび関連国内法等の施行以後は、株式売却益のうち権利行使益部分(権利行使時の株式の価額-権利行使価額)については当該従業員の日本における勤務がないため日本には課税権が生じず、株式譲渡益部分(売却価額-権利行使時の株式価額)についても、居住地国でのみ課税されます。よって、台湾でのみ課税が行われ日本では課税が生じません。

【解説】

1. 日台民間租税取決めの発効について

租税条約は関係国等の代表による署名の後、一般的には、双方の議会等による批准手続を経て発効し、日本の場合は、国会両院による議決が必要とされています。

これに対して、2015年11月26日に署名された日台民間租税取決め(以下「租税取決め」)は、国家間の国際約束である租税条約としてではなく、双方の民間団体により署名が行われたもので、この内容を実施するための国内法を別途整備し租税条約に相当する枠組みを構築することとなりました。具体的には平成28年度改正により「外国人等の国際運輸業に係る所得に対する相互主義による所得税等の非課税に関する法律」が「外国居住者等の所得に対する相互主義による所得税等の非課税等に関する法律」(以下「外国居住者等の所得の非課税等に関する法律」)に改組され平成28年3月31日に公布されていますが、5月25日公布の同法施行令第2条において台湾が同法の対象地域と定められました。なお、台湾においては、租税取決めの承認が既に行政府により行われています。

この改正は、2016年3月31日から起算して1年以内に施行され、施行日の属する年の翌年分以後の所得税について適用される予定です(改正法附則1、56)。

2. 租税取決め適用開始前の課税関係

(1) 国内法上の税制適格ストックオプションの課税関係

租税特別措置法第29条の2に規定する税制適格ストックオプションの行使があった場合、その権利行使益については、権利行使時の課税は行われず(措法29の2①)、取得した株式を売却した時点で売却益(売却時の株価-権利行使価額)に対し譲渡所得の課税が行われます。

所得税法上、非居住者が株式の売却を行った場合の売却益については、いわゆる事業譲渡類似の株式の譲渡などを除き国内源泉所得に該当せず、日本において課税は発生しません(所法161三、所令281①四~八)が、税制適格ストックオプションの行使により取得した株式を非居住者が売却した場合にはその売却益は国内源泉所得として扱われ(措令19の3⑭)株式等の譲渡に係る譲渡所得等として15.315%(復興特別税を含む)の税率により申告分離課税が行われます(措法37の12①)。

(2)  従来の課税関係

租税取決め前においては日本と台湾との間で租税条約に相当するものは存在しなかったため、日本の課税関係は日本の国内法のみをもって決定されることとなります。したがって、本件台湾子会社従業員が税制適格ストックオプションの行使により取得した株式を売却した場合、日本国内法により、その売却益の全額に対し株式売却時に15.315%の税率により課税され、申告分離課税の対象となります。

3. 租税取決め適用開始以後の課税関係

(1)  権利行使益と株式譲渡益の区分

日本国内法では、以上のとおり実際に株式の譲渡が行われた時の売却益(売却時の株価-権利行使価額)が株式の譲渡による所得と認識されます。

これに対し、一般的に租税条約を適用する際には、この所得を権利行使益部分(権利行使時の株式価額-権利行使価額)と株式譲渡益部分(売却価額-権利行使時の株式価額)に区分し、それぞれ関連する租税条約の規定により課税関係を決定すると理解されています。これは、権利行使益の本質は勤務に対する対価、つまり給与所得等であり、その後の株式の売却による株式譲渡益は譲渡収益と考えられるためです。

例えば、日米租税条約議定書第10条(a)では「ストックオプション制度に基づき被用者が享受する利益でストックオプションの付与から行使までの期間に関連するもの」は給与所得条項を適用することとされています。

租税取決めおよび関連法規も同様の考え方に基づいて適用されるものと思われます。

(2)  租税取決めによる権利行使益(給与所得)課税

租税取決め第15条第1項では、いずれの地域において給与所得を課税すべきかについて、「…一方の地域の居住者がその勤務について取得する給料、賃金その他これらに類する報酬に対しては、勤務が他方の地域内において行われない限り、当該一方の地域においてのみ租税を
課することができる」と規定されています。

また、外国居住者等の所得の非課税等に関する法律では、国内勤務に基因しない使用人給与に関する規定は見当たりませんが(同法23①)、所得税法の規定により非課税とされるものと考えられます(所法161①十二)。

したがって、権利行使益のうちに日本での勤務に係るものが含まれない限り、日本における課税は発生しないと考えられます。

(3)  租税取決めによる株式譲渡益課税

通常の株式譲渡による売却益については、租税取決め第13条第5項において「譲渡者が居住者とされる地域においてのみ租税を課することができる」とされています。

また、外国居住者等の所得の非課税等に関する法律においても、第19条第1項第2号により外国居住者等に係る外国の法令により当該外国の所得として取り扱われる譲渡益については日本の所得税は課さないこととされています。

したがって、台湾居住者が税制適格ストックオプションの行使により取得した株式を譲渡した場合、その売却益は日本の所得税法上では国内源泉所得とされますが、台湾において所得として扱われる場合、租税取決めおよび関連法規の適用により台湾でのみ課税が行われることと
なります。

(4)  台湾子会社従業員に係る課税関係(まとめ)

以上のとおり、本件台湾子会社従業員が税制適格ストックオプションを行使して取得した株式を売却した場合、租税取決めおよび関連法規の規定に基づき、売却益(売却価額-権利行使価額)のうち権利行使益(=給与所得)部分については、当該従業員は台湾でのみ勤務し日本における勤務期間がなく、国内源泉所得がないことから、日本では課税されず全額が台湾において台湾国内法に基づき課税されることとなります。また、株式譲渡益(=譲渡収益)についても台湾でのみ課税されることとなると思われます。

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※本記事は、一般財団法人大蔵財務協会の許可を得て当法人のウェブサイトに掲載したものにつき、無断転載を禁じます。

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