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CRS制度が個人富裕層の税務に与える影響

税務研究会『国際税務』2017年Vol.37 No.7

本稿では、経済取引のグローバル化が進展する中で、外国の金融口座を利用した国際的な脱税及び租税回避に対処するために、OECDが近年策定した「共通報告基準(CRS)」について、解説する。(『国際税務』2017年Vol.37 No.7)

1. はじめに

経済取引のグローバル化が進展する中で、外国の金融口座を利用した国際的な脱税及び租税回避に対処するために、OECDは近年「共通報告基準(Common Reporting Standard:CRS)」を策定した。これに従って、金融機関が非居住者に係る金融口座情報を税務当局に報告し、これを各国の税務当局間で互いに提供することとなった。

従来であれば、海外に保有する金融資産は税務当局による捕捉が困難であるため、納税者による自主的な申告がない限り、これらの財産につき本来生じるべき所得税や相続税などの税の徴収漏れが生じていた。日本においては平成26年(2014年)1月1日から国外財産調書制度が開始された結果、これらの国外資産の情報も一定程度は税務当局において把握可能となったものの、国外財産調書を提出しない納税者が有する国外財産の情報は依然として限定的であった。

しかしながら、CRS制度導入後は日本居住者の海外金融資産の情報は日本の税務当局に捕捉されることとなる。仮に税務調査により所得税や相続税等の追徴が生じる場合、国外財産調書等を提出していない納税者についてはペナルティである加算税の加重措置が適用される。

従って、富裕層やそのアドバイザーは、CRS制度の内容を熟知したうえで、既存の税務ポリシーの妥当性や今後の国内外の財産のアセットマネジメントの方針変更の要否を検討することが重要となると考えられる。

なお、記事の意見にわたる部分は筆者の私見であり、所属する組織の公式見解ではない。

2. CRS制度の概要

(1) 導入の背景

CRS制度はOECD加盟国により合意された国際的な租税回避防止制度であり、日本独自の制度ではない。

制度導入に関する最初の合意形成は平成25年(2013年)であり、同年のG20の首脳会議で海外の金融機関を利用した国際的な脱税・租税回避に対処するため、税務当局間で非居住者に係る金融口座情報の自動交換を実施することが合意された。

これを受け、OECDは、各国税務当局が自国の金融機関から報告される非居住者の口座情報(氏名・住所、外国の納税者番号、口座残高、利子・配当等の年間受取総額等)を租税条約等に基づいて税務当局間で自動的に交換するための国際基準(共通報告基準)を策定し、平成26年(2014年)7月に公表。G20は、共通報告基準を承認し、所要の法制手続の完了を条件として、平成29年(2017年)又は平成30年(2018年)末までに、自動的情報交換を開始することに合意した。

我が国においては、平成30年(2018年)4月30日までに国内金融機関等から初回の報告が行われ、同年9月30日までに各国との間で自動情報交換を行うことが予定されている。

なお、国税庁では、国際課税への取組みを重要な課題と位置付け、平成28年(2016年)10月、「国際戦略トータルプラン‐国際課税の取組の現状と今後の方向‐」を発表し、国際課税の取組みの現状と今後の方向を示している。

(2) 制度概要

各国の金融機関等は上述した口座情報等を収集の上、その国の税務当局に報告を行う。税務当局は口座情報に基づき口座保有者の居住地国の税務当局へ共通のフォーマットにより共有する。

居住地国の税務当局は共有された口座情報と実際の税務申告情報とを照合し、何らかの非違があれば必要に応じて調査を行い、増額更正等による是正措置をとる。

上記を日本とシンガポールを例に図示すると下表のとおりとなる。

パターン
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なお、2017年5月5日時点において我が国との間で情報交換が予定されている国又は地域は下記のとおりである。税務執行共助条約に基づく多国間合意と、既存の租税条約等に基づく二国間合意(シンガポールと香港が確定している)がある。なお、我が国の情報交換は平成30年(2018年)から開始されるため表中の平成29年(2017年)の初回交換実施国も我が国との情報交換は平成30年(2018年)に実施される。

報告対象となる金融資産は、預金や有価証券はもちろんのこと、一定の保険契約や信託契約、組合契約といった契約に基づく出資が含まれており、これらの投資からもたらされる分配金等の運用収益も報告対象に含まれる。

2017年までに初回交換を実施予定

(50か国・地域)

2018年までに初回交換を実施予定

(50か国・地域)

アイスランド

アイルランド

アルゼンチン

イギリス

(英)アンギラ

(英)英領バージン諸島※

(英)ガーンジー

(英)ケイマン諸島※

(英)ジブラルタル

(英)ジャージー

(英)ターコス・カイコス諸島※

(英)バミューダ※

(英)マン島

(英)モントセラト※

イタリア

インド

エストニア

オランダ

韓国

キプロス※

ギリシャ

クロアチア※

コロンビア

サンマリノ

スウェーデン

スペイン

スロバキア

スロベニア

セーシェル

チェコ

デンマーク

(丁)グリーンランド

(丁)フェロー諸島

ドイツ

ノルウェー

ハンガリー

フィンランド

フランス

ブルガリア

ベルギー

ポーランド

ポルトガル

マルタ

南アフリカ

メキシコ

ラトビア

リトアニア

リヒテンシュタイン

ルーマニア※

ルクセンブルク

アラブ首長国連邦

アンティグア・バーブーダ

アンドラ

イスラエル

インドネシア

ウルグアイ

オーストラリア

オーストリア

(蘭)アルバ

(蘭)キュラソー

(蘭)セント・マーティン

ガーナ

カタール

カナダ

クウェート

クック諸島

グレナダ

コスタリカ

サウジアラビア

サモア

シンガポール

スイス

セントクリストファー・ネーヴィス

セントビンセント及びグレナディーン諸島※

セントルシア

中国

(中)香港

(中)マカオ

チリ

ドミニカ

トリニダード・トバゴ

トルコ

ナウル

ニウエ

日本

ニュージーランド

パナマ

バヌアツ

バハマ

バルバドス

バーレーン

ブラジル

ブルネイ

ベリーズ

マーシャル諸島

マレーシア

モナコ

モーリシャス

レバノン

ロシア

※現時点で日本からの金融口座情報の提供を行わない予定の国・地域 (出典:国税庁ウェブサイト)

(3) 日本における国外財産や非居住者への課税制度との関連性

近年、日本の税務当局は国外への課税ベースの流出に対し様々な対策を講じている。CRS制度の導入はこの流れと密接な関連性を有するため、以下に近年導入された代表的な施策を記載する。

① 国外財産調書制度、財産債務調書制度

国外財産調書の提出制度は、国外財産に係る課税の適正化を図るため、国外財産を保有する者からその保有する国外財産について申告させる仕組みとして、平成24年度の税制改正により導入され、平成26年(2014年)1月から施行されている。具体的には、その年の12月31日においてその価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を保有する日本居住者(非永住者を除く)は、その年の翌年の3月15日までに当該国外財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した「国外財産調書」を、所轄税務署長に提出しなければならないこととされている。

財産債務調書制度は、平成27年(2015年)分の所得税の確定申告書の提出義務者が、その年の総所得金額及び山林所得金額の合計額が2,000万円を超え、かつ、その年の12月31日において価額の合計額が3億円以上の財産又は価額の合計額が1億円以上である国外転出特例対象財産(国外転出時課税の対象となる一定の財産)を有する場合に、財産の種類、数量及び価額並びに債務の金額などを記載した「財産債務調書」を、翌年の3月15日までに所得税の納税地の所轄税務署長に提出する制度である。

いずれも提出義務を果たさない場合や、記載に誤りがある場合には、過少申告加算税及び無申告加算税(過少申告加算税等)の加重制度(追徴本税の5%相当の加重)が存在する。逆に提出義務を履行している場合には、過少申告加算税等について5%の軽減措置が設けられている。

これらの調書は、平成29年(2018年)以降(実際には平成30年(2019年)以降に行われる調査からと想定)は、CRSで入手した海外の口座情報との照合を行うことが可能になり、さらに積極的に活用することが考えられる。

国外財産調書に偽りの記載をして提出した場合又は国外財産調書を正当な理由がなく提出期限内に提出しなかった場合等には、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されることがあるとされている。
なお、上記制度の他に、所得税・法人税・相続税等の適正な確保を図ることを目的として、平成10年(1998年)4月に国外送金等調書制度が施行され、国外への送金及び国外からの送金を受領した金額のうち一回の金額が200万円(平成21年(2009年)4月に100万円に改正)を超えるものについては、取引した者や取引内容の情報が金融機関から税務当局に報告されることとなっている。

また、国外証券移管や国外証券受入れに関し、国外証券移管等調書制度が設けられており、国外送金等調書制度と異なり、金額基準がなく全てが対象とされる。これについても、調書等の不提出や偽りの記載の場合には、1年以下の懲役又は50万円の罰金が科される。

② 国外転出時課税制度

日本の非居住者が株式等を譲渡する場合、一定の場合を除き日本では課税されないため、下記のようなケースではキャピタルゲイン課税に対して、課税逃れが可能であった。

(ⅰ) 含み益を有する株式等を保有したまま、キャピタルゲイン非課税国に出国
(ⅱ) 相続や贈与によりキャピタルゲイン非課税国の非居住者へ株式等が移転

こうした課税逃れに対応するため、日本での課税機会を確保する目的で、一定要件を満たす特定資産を有する者に対し課税する制度(「国外転出時課税制度」)が導入され、平成27年(2015年)7月1日以降の国外転出より適用されている。

国外転出時課税制度の対象資産は幅広く、国内の上場、非上場の有価証券はもちろんのこと、外国株式や匿名組合への出資金、未決済デリバティブ取引なども含まれる。ただし合計の時価1億円を下回る場合には、課税は生じないこととされている。

CRS制度や国外財産調書制度は海外に所在する財産についての課税強化を目的としてはいるものの、あくまで居住者に対する効果に限定されるため、個人の「非居住者化」による課税機会の逸失を防ぐ目的としては、国外転出時課税がその役割を果たすこととなる。

また、CRS制度により居住者の国外財産が適切に把握されていれば、その居住者が非居住者となった際の国外転出時課税の徴収漏れが防がれるといった効果が想定される。

③ 相続・贈与税

日本国籍を有する相続人等の住所が国内にない場合、被相続人等及び相続人等の双方が一定期間を超えて国内に住所を有しないときは、相続税・贈与税の課税対象は国内財産に限るものとされているが、平成29年度税制改正により、当該一定期間が従来の5年から10年に延長されている。

これにより非居住者の国外財産の相続税等課税が当該改正の影響で強化されている。従来であれば非居住者の国外財産の捕捉は難しいものではあったが、CRS制度や国外転出時課税時の申告情報に基づき、少なくともこれら非居住者が日本に居住していた期間に保有していた国外財産については把握が進むことになると考えられ、課税強化の実効性の担保にCRS制度等が一役買うこととなると考えられる。

(4) 居住地国の判定

日本国籍を有する個人で国内外に恒久的な住居がある場合には、その居住地国がいずれになるか判断が難しい。一般的には日本と当該国の国内税法や租税条約に基づき決定される。

なお、外国におけるそれぞれの国内法上の居住地の判定方法についてはOECDのウェブサイトにて概要が公表されている。(http://www.oecd.org/tax/automatic‐exchange/crs‐implementation‐and‐assistance/tax‐residency/

日本の国内法の場合、「居住者」とは、国内に「住所」を有し、又は、現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人をいい、「居住者」以外の個人を「非居住者」と規定している。

「住所」は、「個人の生活の本拠」をいい、「生活の本拠」かどうかは「客観的事実によって判定する」ことになる。

一方、租税条約では、一般的には、個人の場合には「恒久的住居」、「利害関係の中心的場所」、「常用の住居」、そして「国籍」の順に考えて、どちらの国の「居住者」となるかを決めることが多い。ただし実際には個々の租税条約をそれぞれ確認する必要がある。

なお、日本の富裕層の中には、1年のうちの外国での滞在日数が183日を超える場合には、日本の居住者にはあたらないと誤解している向きもあるが、実際にはその滞在地が2か国以上にわたる場合に、その住所がどこにあるかを判定するためには、例えば、その者の国内外での①滞在日数、②生活場所及び同所での生活状況、③職業及び業務の内容・従事状況、④生計を一にする配偶者その他の親族の居住地、⑤資産の所在、⑥生活に関わる各種届出状況等の客観的諸事情を総合的に勘案して判断すべきである。国税庁によるタックスアンサーによれば、1年の間に居住地を数か国にわたって転々と移動する、いわゆる「永遠の旅人(Perpetual Traveler, Permanent Traveler)」の場合であっても、その人の生活の本拠がわが国にあれば、わが国の居住者となることが明記されているため、留意されたい。

3. 海外に金融口座を有する日本居住者への影響

(1) 日本の税務当局への海外口座情報の共有

日本居住者が海外に金融口座を有する場合、現地国から日本の税務当局に当該情報は共有されることになると考えられる。税務当局が申告等に基づき把握している情報と当該情報に差異がある場合、税務調査が実施される可能性があると考えられる。

(2) 申告漏れが指摘された場合の取扱い

仮に税務調査が実施された場合、過少であった所得に係る本税部分と併せて延滞税や過少申告加算税等の附帯税が課せられる。ただし、国外財産調書の提出の有無により、その取扱いが変わることとなる点に留意が必要である。詳細は下表を参照されたい。

項目

延滞税(H27‐28分の場合)

過少申告加算税等
(※1、2)

重加算税
(※3、4)

 

自主的修正申告

年2.8%。ただし修正申告後2ヶ月を超えた場合は14.6%

N/A

35%

税務調査実施に伴う修正申告(国外財産調書期限内提出)

年2.8%。ただし修正申告後2ヶ月を超えた場合は14.6%

5%(減免措置)

35%

税務調査実施に伴う修正申告(国外財産調書提出なし)

年2.8%。ただし修正申告後2ヶ月を超えた場合は14.6%

15%(加重措置)

35%

(※1)新たに納める税金が当初の申告納税額と50万円とのいずれか多い金額を超えている場合、その超えている部分の過少申告加算税は15%となるため、国外財産調書期限内提出有の場合は10%、提出無の場合は20%となる。なお、自主的な修正申告であったとしても税務調査の通知後になされた申告や更正等を予知して行われた申告については加算税が課せられる可能性がある。
(※2)無申告の場合は、過少申告加算税に代えて無申告加算税15%(追徴税額50万超部分は20%)が加算される。
(※3)隠蔽又は仮装の事実に基づく場合は、過少申告加算税に代えて課される。なお、無申告の場合は40%に加重される。
(※4)通常延滞税の計算期間は法定納期限後1年経過日の翌日から修正申告書提出日までは除斥期間となるが、重加算税が課される場合は、除斥期間の特例が認められない。

(3) 現地税制との関連

① 一般的な留意事項

CRS制度の適用対象国に金融資産等がある場合、現地金融機関等より口座情報等を求められると考えられる。報告すべき内容については、国ごとの大きな差異はないと考えられるが、各国の国内法に基づき、必要情報を報告する必要がある。
詳細は口座のある金融機関等に相談する必要があるが、必要に応じて現地の顧問税理士等への照会が必要となることも考えられる。

② シンガポールに金融資産を有する場合

日本の富裕層による金融資産投資が多い国の一つとしてはシンガポールがあげられる。参考までにシンガポールにおけるCRS制度の概要を以下に紹介する。

シンガポールでは2017年1月1日よりCRS規則が施行されており、同年4月4日には当該規則が修正され、若干の定義の修正や取扱いの明確化がなされた。またCRSに関する質疑応答も既に2016年12月に公開され、随時アップデートがなされており、本稿執筆時点では2017年4月10日が最終の更新日付となっている。

CRS制度に基づく実際の情報交換は2018年から開始される予定であるがそれに先立ち、シンガポールの金融機関等は2017年1月1日付以降の口座保有者の居住地その他の情報を特定し、税務当局に報告する必要がある。
具体的には、シンガポールの金融機関等はその保有者に主として下記の情報の提出を求めることとなる。

(ⅰ) 氏名
(ⅱ) 住所
(ⅲ) 居住地国
(ⅳ) 納税者番号
(ⅴ) 出生日付

このほか、金融機関等はその口座番号や金融資産の残高、その運用収益を税務当局に報告する。運用収益は例えば預金であれば利息が該当するが、金融口座内で発生した利子配当、金融資産の譲渡収益なども含まれる。

法人が保有する口座でも類似の情報を報告する必要があるほか、その事業活動が受動的な一定の法人(Passive NFE)については、当該法人を支配する個人の情報についても提供する必要がある。

何をもって受動的と判断すべきかであるが、シンガポール税法上は非金融事業体のうち、能動的な活動を行うもの以外の事業体をPassive NFEに該当するものとして整理している。能動的な活動を行う事業体の定義としては多岐にわたるが、例えば全体の収益に占める受動的な収益の割合や総資産に占める受動的資産の割合が50%未満であること等の要件が課されている(CRS規則Schedule, section Ⅷ D(9))。受動的収益の例示としては、配当や利子、一定のロイヤリティー・賃貸収益・キャピタルゲインなどが挙げられている。ただしこれらの収益に該当する場合であったとしても通常の事業活動からもたらされる収益については、受動的収益とされない可能性がある。

上述の通り、法人を支配する個人の情報が提供範囲に含まれるべきか否か判断が分かれるところではあるが、例えばシンガポールにおける純粋な資産管理会社などは、Passive NFEに該当し、当該法人を支配する個人等の情報を提出するよう求められる可能性はあるものと考えられる(CRS FAQ D.1)。

また、納税者番号については各国でその呼称が異なるが、OECDが各国別の納税者番号制度の概要を整理しておりそのホームページ上で公開している。(http://www.oecd.org/tax/automatic‐exchange/crs‐implementation‐and‐assistance/tax‐identification‐numbers/#d.en.347759)日本の場合、マイナンバーが該当するとされている。ただし、実際の記載方法については口座のある金融機関等に照会する必要があると考えられる。

仮に虚偽の報告を行った場合には、10,000シンガポールドル以下の罰金、2年以下の禁固刑が科せられる可能性がある。(https://www.iras.gov.sg/IRASHome/Quick-Links/International-Tax/How-account-holders-of-FIs-will-be-affected/

4. 日本に金融口座を有する海外居住者への影響

(1) 海外の税務当局への日本の口座情報の共有

非居住者が日本国内に金融資産を有する場合には、日本の金融機関は当該保有者に関する一定の情報を税務当局に報告する必要がある。主な提供すべき情報は下表のとおりとなる。

平成29年(2017年)1月1日以降に新規口座開設等をする場合、日本居住者を含むすべての個人・法人がその届出をする義務を負う。それ以前の口座保有者の居住地国等の情報については金融機関等にその特定が求められている。

(2) その他の留意事項

日本国籍の海外居住者は、日本だけでなく居住地国の金融口座等を別途有していると考えられるが、その場合には、居住地国の金融機関にも同様の情報の提出義務が生じる。

一般的には日本と同様の情報提供が求められるものと思われるが、例えばシンガポールの場合、たとえ自国の居住者であったとしてもそのシンガポールにおける納税者番号の提出を義務付けている(IRAS‐FAQ E21, E22)。一方、日本の金融機関の場合には日本居住者に対しマイナンバーの提示をCRS制度に基づき要請することはないと考えられる。

項目

CRS(日本における届出)

・主な日本の根拠法

・租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する
法律

・提出者の居住形態

・金融機関に口座開設等する個人及び法人

・提出者の確定申告義務との関連

・確定申告義務がなくても提出義務あり

・報告対象

・非居住者が日本の金融機関に保有する金融資産の価額及び金融資産に係る利息収入等

・氏名、住所及び生年月日等

・居住地国名及び納税者番号

・マイナンバーは対象外

・提出がない場合の罰則

・提出義務者に対する6月以下の懲役又は50万円以下の罰金


(出典:国税庁公表資料)

5. CRS導入が日本の富裕層のアセットマネジメントに与える影響

(1) 海外で財産を保有する場合の留意事項

CRS制度の導入に伴い、日本居住者の海外の口座情報は原則として日本の税務当局に捕捉されることとなるため、その事実を念頭にいれたアセットマネジメントを行う必要がある。

その際、そもそも海外に金融資産を有することの是非を今一度検討すべきものと考えられる。一般的に、海外に金融資産を有する場合の留意点として挙げられる事項を以下に記載している。

① 相続時の財産承継時の問題点

個人の有する国外財産はその相続時の承継において現地の法制度の影響を受けることが多い。場合によっては相続人への承継が困難となることや、承継に際し多額のリーガルアドバイザー報酬が生じる可能性があるため、留意が必要である。

特にアメリカやイギリスといった国においては、被相続人の財産は相続後に原則として遺産財団へ移管され、一定の手続き(いわゆるプロベート)を経ないと相続人への承継がなされない可能性が高く、承継に時間やコストを要することが多い。

また、現地において相続税制度がある場合には、現地の相続税が別途課せられる可能性がある。現地相続税が日本の相続税から控除されるようであれば影響は限定的である可能性があるが、このような国をまたいだ相続税申告について深い知見を有する税務アドバイザーは、残念ながら我が国においては極めて限られている実情があり、適切な検討や申告がなされず、過大な負担が生じる可能性がある。

② 海外財産からもたらされる利息配当等の申告義務

日本においては特定口座内で運用する上場株式等から生じる配当や譲渡益、国内金融機関へ預け入れた預金にかかる利子等は原則として源泉分離課税が適用され、申告が不要となる。

一方、海外の金融機関を通じて得られるこれらの果実は原則として確定申告が必要となるほか、海外口座から生じる預金利子等は原則総合課税が適用されるため、富裕層の場合、税後の利回りは低下する。

一般的に、海外で金融資産を運用する場合、より高い利回りが期待できることも多いと考えられるが、上記のような申告の手間や税金控除後の手取り額等を総合的に勘案して国内外の金融資産のポートフォリオを検討すべきものと考えられる。

③ 国外財産調書

国外に財産がある場合には国外財産調書の提出が必要となる。たとえ提出を怠る意図がなかったとしても、各国にそれぞれ異なる財産を有する場合には、すべての情報を網羅的に把握しておく必要がある。仮に金融資産について国外財産調書への記載漏れがあり、かつCRS制度により当該情報が日本の税務当局に捕捉される場合には、所得税に関する税務調査の対象となる可能性をはらむ。

(2) CRS導入後に必要なアセットマネジメント

以前より日本の税務当局は海外の財産の捕捉のため、様々な施策を行ってきたが、CRSの導入により情報入手の障壁は著しく下がる可能性がある。また、昨今、富裕層に対する課税を強化すべく、その調査にあたるリソースを強化している。従って従来であれば重点調査の対象とされなかった財産規模の富裕層であったとしても今後は積極的な調査が行われる可能性が高い。

保有する海外財産について所得税や相続税等の申告を失念している富裕層は、いまだ数多く存在していると推察されるが、そのような富裕層について税務調査が実施された場合、本来であれば払う必要のない加算税等の附帯税の支払いを余儀なくされる可能性がある。

従って、今後は富裕層の財産運用において、各地に分散している金融資産の集約化や、運用方法の見直し、日本への全部又は一部還流といったアセットマネジメントの見直しの契機となる可能性がある。日本の富裕層は傾向として様々な金融機関を分散して活用するため、すべての財産情報を一括してアドバイザーに提供して最適なアドバイスを求めるといった進め方を採用していない富裕層もいると考えられるが、今後はそのような一元化のニーズが生じてくる可能性もある。
すなわちCRS制度の正確な知識を基に、様々な運用方法を提案できる金融機関やアドバイザーへのニーズが高まる可能性があるため、税務に関わる経理担当者やタックスアドバイザーはもちろんのこと、これらのアセットマネージャーにとってもCRS制度を正確に把握しつつ、最適なソリューションを富裕層に提供することが今後は求められると考えられる。

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