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上場準備会社におけるインセンティブプランの検討
~特定譲渡制限付株式・ストックオプションを交付した場合の課税関係~

『国税速報』平成28年10月10日号

平成27年7月に経済産業省の「コーポレートガバナンスシステムの在り方に関する研究会」報告において、会社法上の論点や手続の整理が行われました。これを踏まえ今後我が国においても現物株式を報酬として付与するケースが見込まれることから、平成28年度税制改正において、個人が報酬として特定譲渡制限付株式を交付された場合の課税関係の取扱いが明確化されました。(『国税速報』平成28年10月10日号)

【疑問相談】法人税・所得税

「上場準備会社におけるインセンティブプランの検討 ~特定譲渡制限付株式・ストックオプションを交付した場合の課税関係~」

Question:
内国法人であり、非公開会社である当社は事業が軌道に乗ってきたため、2年後に株式上場を見据えております。このタイミングで人材流出は防ぎたいと考えており、かつ役員(日本居住者)のモチベーションを上げるために報酬を付与することを考えていますが、当社には資金がありませんので現物給与を考えています。当初はストックオプション(Stock Option、以下「SO」)の付与時に役員にオプション時価相当額を支出してもらう、いわゆる有償SOの発行を考えておりました。しかしその後、平成27年7月に経済産業省の「コーポレートガバナンスシステムの在り方に関する研究会」報告で会社法上の論点や手続の整理が行われ、内国法人においても譲渡制限付株式の発行が可能となり、平成28年度税制改正により特定譲渡制限付株式(Restricted Stock、以下「RS」)に係る法人税および所得税の整備が行われたと聞きました。

RSの概要と、RS、SO(税制非適格・税制適格)、有償SOの法人・役員への課税関係がどのように異なるのか、①付与時、②譲渡制限解消時またはSO行使時、③株式譲渡時、
時系列別に教えてください。

Answer:
1 RS の概要

RS とは、法人が個人から受ける役務提供対価として個人に生ずる債権の給付と引換えに個人に交付され、無償取得事由その他一定の要件を満たす譲渡制限付株式をいいます。
RS の付与時に個人・法人において課税関係は生じません。個人はRS の制限解除時に初めて所得課税が行われ、役務の提供を受ける法人では、その個人の給与等課税事由が生じた日(制限解除時)に役務提供の額を損金算入します。また役務の提供を行う個人が役員である場合、一定の決議要件や交付要件を満たし、将来の役務提供対価としてRS を付与する場合には、届出不要の事前確定届出給与に該当するものとして損金算入されます。

2 課税関係の比較

課税関係として、RS と税制非適格SO(「非適格SO」)、そして、税制適格SO(「適格SO」)と有償SOには類似性がありますが、それぞれ課税事由は異なっています。それぞれの時系列ごとの課税関係は下記のとおりとなります。

(1) 付与時

RS、SO(非適格・適格)および有償SOのいずれも、付与時に役員および法人において課税は生じません。

(2)  譲渡制限解除時・権利行使時

  • RS・非適格SO

役員は、譲渡制限解除時の株式時価、権利行使時の株式時価から行使価額を控除した金額相当額が給与所得課税されます。法人では、給与等課税事由が発生した時に役員から役務提供を受けたものとして、付与時の役務提供対価相当額を損金算入します。

  • 適格SO・有償SO

給与等課税事由が生じないため、役員および法人において課税は認識されません。

(3) 株式譲渡時

役員は株式譲渡時に譲渡所得課税されます。法人は単なる株主の変更であることから課税関係は生じません。

【解説】

1 特定譲渡制限付株式の定義

平成27年7月に経済産業省の「コーポレートガバナンスシステムの在り方に関する研究会」報告において、会社法上の論点や手続の整理が行われました。これを踏まえ今後我が国においても現物株式を報酬として付与するケースが見込まれることから、平成28年度税制改正において、個人が報酬としてRS を交付された場合の課税関係の取扱いが明確化されました。一定期間の譲渡制限を付すことによって、当該期間中は役員が株主になることからも、その他の株主との利害関係が一致することで、役員による攻めの経営を促すことができると期待されています。

ここで、RS とは、役務提供の対価として個人に生ずる報酬債権の給付と引換えに交付されるもの、またはその給付に伴い報酬債権が消滅するもので、役務の提供を受けた法人またはその法人の直接100%親法人の株式であり、かつ下記の条件を備えるものをいいます(法法54①、法令111の2①②)。

  • 譲渡についての制限がされており、かつ当該譲渡についての制限に係る期間が設けられていること。
  • 個人から役務の提供を受ける法人等がその株式を無償で取得することとなる事由が定められていること。

(1)  法人の課税関係

平成28年度税制改正により、将来の役務提供対価としてRS を役員に付与する場合で、役員の職務執行開始日から1カ月経過日までに行われた株主総会等の決議により取締役個人別の確定額が決定され、その決議から1カ月経過日までにRS を交付する旨の定めを行い、その定めに従って交付される場合には、事前確定届出給与に該当するものとして、その個人の給与等課税事由が生じた日(制限
解除時)にRS 交付と引き換えに現物出資された報酬債権の額を原則損金算入することができるものと取り扱われることとなりました(法法34①②、法令69②)。

ここで留意が必要なのは、RS の諸条件については、付与時点で決定することが必要とされる点となります。職務状況や業績に応じて付与株式数が変動する場合には、その報酬額は事前確定していないとえられるため、当該報酬債権の額の全額が損金不算入として取り扱われる点に留意が必要です。

(2) 個人の課税関係

個人で認識される所得はRS の付与時ではなく、制限解除時に、原則給与所得として認識がされます(所令84①、所基通23~35共―5の2)。そしてその収入金額はRS の制限が解除された日における時価を認識し、同額を有価証券の取得価額として認識することとなります(所令84①、109① 二、所基通23~35共―5の3)。

なお、平成29年度税制改正要望(経済産業省)によると、今後は譲渡制限付株式の範囲について、取扱対象となる株式が拡大する案も提出されているため、今後の税制改正について留意が必要となります。

2 SOの課税関係

SOはその発行時に金銭等の払込みを要しないSOとその払込みを有する有償SOに区分され、さらに金銭等の払込みを要しないSOは非適格SOと、一定要件を満たした適格SOに区分することができます(法法54の2、措法29の2)。税務上、有償SOは個人が通常の新株予約権を金銭の払込みにより取得したものとして取り扱うこととされています(所令109①一)。

(1)  法人の課税関係

内国法人が役務の提供の対価として個人に生ずる債権を新株予約権と引換えにする払込みに代えて相殺すべきもので、譲渡制限等特別の条件が付されている非適格SOを発行している場合、付与対象者が給与等課税事由を認識する時においてその役務の提供を受けたものとして損金を認識します。他方、適格SOはその行使において給与等課税事由を認識しないことから、法人において損金算入等を行う余地はありません(法法54の2①②)。また有償SOの行使も、個人に給与等課税事由が生じないことから、法人において損金算入は行われないものと考えられます。

(2) 個人の課税関係

非適格SOはその権利行使時に原則として時価と権利行使価額との差額を給与所得として取り扱いますが、適格SOは権利行使時点では課税が繰り延べられます(措法29の2①、所基通23~35共―6、所基通23~35共―7)。有償SOの権利行使では給与等課税事由は生じないため、課税は生じませんが、付与時における当該オプション価額(払込金額)の時価や今後の会計基準の取扱いに関して留意が必要と考えられます。一般に有償SOは行使条件に業績達成条件等を付与してオプション価額(払込金額)を下げるケースが多くあります。しかし現状と将来予想の前提が大幅に異なることが見込まれる状況下で、当該前提情報がオプション価額に織り込まれていない等、その業績達成条件の設定に当たり必要となる前提情報に誤りがある場合やその他別目的で実施する場合等では、その時のオプション価額が時価と認められない可能性があります。仮に時価として認められない場合には、その権利行使時に個人へ所得課税が発生することもえられるため、その取扱いに留意が必要となります。

また有償SOの会計上の取扱いについては、現在ストックオプション会計基準の範囲外として取り扱う事例もありますが、今後は会計基準が整理されることもえられるため、その取扱いについても留意が必要と考えられます。

3 数値例を用いた課税関係のまとめ

SOの権利行使価額を300円、株式上場後に譲渡制限解除または権利行使を実施時点の株価を1,300円、株式売却時点の株価を1,500円とした場合の本件で取り上げたインセンティブプランの課税関係をまとめると下表に集約されます。

RS、SO、有償SOいずれの手法においても会社側でキャッシュアウトを伴わないインセンティブプランではありますが、個人所得税の所得区分や課税時期、法人への損金算入の余地においてそれぞれ税務上の特徴があります。

新たに税務上整備されたRS は、一定期間の譲渡制限を付すことで、株式上場後に株式を売り抜ける行為を抑止することができる点や、株式上場後の業績条件等の未達成・一定期間以下の勤務を無償取得事由と定めることで、株式上場後も引き続き業績を拡大させるインセンティブを持たせる点、重要な人材を会社に確保するリテンション効果を継続することができる点等がメリットとして挙げられます。そのため、株式上場後の業績や役員任期を見据えた業績達成条件・譲渡制限期間等を定めることによって、株式上場を目標とするためだけのインセンティブプランではなく、株式上場後の稼ぐ力の向上に向けた攻めの報酬としてのインセンティブプランとして活用されることが期待されています。

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※本記事は、一般財団法人大蔵財務協会の許可を得て当法人のウェブサイトに掲載したものにつき、無断転載を禁じます。

 

 

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