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国外転出時課税制度の導入の影響

『国税速報』平成28年1月18日号

平成27年度税制改正で導入された、いわゆる出国税制度により、保有する株式を含む有価証券等の時価が1億円以上となるのであれば、原則としてその含み益に対し譲渡所得税が課されます。ただし、国外転出等を行った後、5年以内に再び日本居住者となった等の場合には、更正の請求等の一定手続を要件に課税が取り消され、納税額は還付されます。(『国税速報』平成28年1月18日号)

【疑問相談】資産税(譲渡所得)

「国外転出時課税制度の導入の影響」

Question:

私は非上場会社であるA社の役員であり、一定数のA社株式を有しております。父はA社の創業者で代表取締役の地位についておりますが高齢であり、自身に万が一の事態が生じた場合には、自身の保有するA社株式の全てを私に承継する予定です。
このたび、私はB国に所在するA社の海外子会社に駐在することとなりました。駐在期間は少なくとも数年以上にわたります。平成27年度税制改正により、海外へ出国した場合には株式などの資産の含み益に課税がされる制度が導入されたと聞きましたが、私の場合でも出国に伴い、日本で何らかの課税が生じる可能性があるのでしょうか。

Answer:

平成27年度税制改正で導入された、いわゆる出国税制度により、その保有するA社株式を含む有価証券等の時価が1億円以上となるのであれば、原則としてその含み益に対し譲渡所得税が課されます。
ただし、国外転出等を行った後、5年以内に再び日本居住者となった等の場合には、更正の請求等の一定手続を要件に課税が取り消され、納税額は還付されます。また、一定の手続を条件に、一定期間に限り納税猶予の選択を行うこともできます。
なお、あなたの駐在中に相続・贈与によりあなたの父が保有するA社株式をあなたが取得する場合には、相続税・贈与税とは別に、新たに出国税が課せられる可能性があります。

【解説】

1. 背景

近年、日本居住者が有価証券を保有したまま株式譲渡益に課税しない国へ出国した上で、当該有価証券を譲渡することにより所得税の課税を回避するケースが増加しています。

そのような租税回避行為を防止するため、日本からの出国時にその含み益につき所得税を課税する制度(出国税制度)が導入されました。

具体的には、次のイからハまでに掲げる時において、一定の居住者が1億円以上の有価証券や未決済の信用取引など(以下「対象資産」といいます。)を所有等している場合(この場合の居住者を「対象者」といいます。以下同じです。)に、それぞれの時に対象資産の譲渡等があったものとみなし、その含み益に対して所得税が課税される制度です。

当該制度は平成27年7月1日より適用されています。
(イ) 対象者が国外転出をする時
(ロ) 対象者が非居住者へ対象資産の一部または全部を贈与する時
(ハ) 対象者が亡くなり、相続または遺贈により国外に居住する相続人または受遺者が対象資産の一部または全部を取得する時

前記ロおよびハの場合には、原則として贈与税・相続税が課せられますが、それに加えて出国税が課せられることになります。

なお、前記イにおける「国外転出」とは「国内に住所および居所を有しなくなること」をいい、原則として所得税法上の日本の居住者から非居住者となることを指します。

2. 納税義務者

日本国籍者の場合、国外転出、贈与、相続時の対象資産の価額等が1億円以上の者で、その日前10年以内に国内に住所または居所を有していた期間(納税猶予期間(後述)を含みます。)の合計が5年を超える者が納税義務者となります。出国税の対象者は、国外転出や相続・贈与時に対象資産を譲渡したものとみなして、特例的に譲渡所得等として課税されることとなります。

3. 課税対象および課税標準

(1) 課税対象

課税対象となるのは、所得税法に規定する有価証券、匿名組合契約の出資の持分、未決済デリバティブ取引等となります。所得税法に規定する有価証券には、金融商品取引法に規定される有価証券のほか、新株予約権等の一定資産が含まれます。

(2) 課税標準

出国税の課税標準は、その有価証券等の時価となりますが、その算定時期についてはケースごとに異なります。

この場合の「価額」(時価)の算定方法は、個人が有価証券を譲渡する際の所得税法上の時価のえ方と同様に(すなわち、原則として、所得税基本通達23~35共―9および59―6に基づき)算定されます。

なお、国外転出後5年以内に帰国する場合で、対象資産を引き続き有しているときは、帰国した日から4か月以内に更正の請求により課税を取り消すことが可能となります。また、納税猶予を受ける場合には生じる利子税についても、課されません。

また、相続・贈与により出国税が課された場合には、財産を取得した全ての非居住者が当該贈与等の日から5年以内に帰国することを条件に、国外転出の場合と同様、課税の取消しが行われます。

(3) 税率

その保有する対象資産を譲渡等した場合と同じ税率が適用されます。したがって、対象資産が株式であれば、株式に係る譲渡所得等となり申告分離課税(税率15.315%(復興特別所得税を含みます。))が適用されます。

4. 申告・納期限の原則と納税猶予

(1) 申告・納付期限の原則

出国税は所得税の特例措置であるため、申告期限や原則的な納期限は所得税と同様となります。すなわち、納税管理人の届出を行い国外転出する場合は、国外転出の日の翌年3月15日となります。一方、納税管理人の届出を行わずに国外転出する場合には、国外転出の時までとなります。

また、贈与の場合にはその翌年の3月15日、相続の場合には相続人が相続開始を知った日から4か月以内となります。

(2) 納税猶予

一定の手続を行うことにより、対象者は納期限の延長等の措置を受けることができます(あくまで納期限の特例であり、申告期限の延長制度ではありません)。

(イ) 必要な手続

納税猶予の適用を受けるためには、下記の手続を行う必要があります。

i  担保の提供
ii 納税管理人の届出
iii 確定申告書に納税猶予を受けようとする旨
iv 継続適用届出書の提出(毎年度)

なお、提供できる担保は金銭や換価性の高い財産(国債等の一定の有価証券、不動産など)に限られますが、下記のいずれかの要件を満たす場合には納税者が保有する非上場株式も担保として認められる余地があります。

  • 財産のほとんどが非上場株式であり、かつ、その株式以外に所得税に係る納税猶予の担保として適当な財産がないと認められること
  • 非上場株式以外にも財産はあるものの、その財産が他の債務の担保となっており、納税猶予の担保として提供することが適当ではないと認められること

(ロ) 減額措置等

納税猶予の適用を受けることにより、対象者が受けられる措置は記事の全文(PDF)をご覧ください。

納税猶予の適用要件を猶予期間の中途において充足しなくなる場合には、その納税猶予期間はこれらの事実があった日から4か月を経過する日に繰り上がります。

ただし、届出の未提出等により猶予期間が繰り上がる場合、上記の対象資産の価額が下落した場合の特例等は適用できない点に留意が必要となります。

なお、上記は国外転出の場合について記載していますが、相続・贈与の場合にも納税猶予制度が存在します。

ただし、例えば納税管理人の届出書や納税猶予期間中に継続適用届出書を提出する場合において、相続対象資産を取得した非居住者である相続人等が2人以上いるときは、一定の場合を除き非居住者である相続人等が連署による一の書面で提出しなければならないなど、特有の取扱いもあることから留意が必要です。

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※本記事は、一般財団法人大蔵財務協会の許可を得て当法人のウェブサイトに掲載したものにつき、無断転載を禁じます。

 

 

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