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スピンオフ税制創設が与える実務への影響等

『国税速報』平成29年6月26日号

本稿では、平成29年度税制改正において、組織再編税制に関する大幅な改正が行われた中で、スピンオフ税制が創設された背景および制度の概要について解説する。(『国税速報』平成 29年6月26日号)

【疑問相談】法人税

「スピンオフ税制創設が与える実務への影響等」

Question:
当社(P社)は日本で上場している内国法人ですが、当社が行う複数の事業のうちS事業については今後持続安定的な成長が見込まれています。ただし、S事業を取り巻く状況は楽観視できず、複数の世界的な競合企業が存在しています。当社は激化する市場環境に迅速かつ柔軟な意思決定で対応できる経営体制の整備・構築および効率的な資源の投資の実現が急務と考え、S事業をいったん100%子会社として分社化した後、最終的にはその株式を上場したいと考えています。

平成29年度税制改正においてスピンオフ税制が創設されたと聞きましたが、制度の概要およびこのS事業の独立分離に関して手当された税制上のメリットを教えてください。また、今後想定される影響等で実務上留意すべき事項があれば併せて教えてください。

Answer:
平成29年度税制改正(以下:「本税制改正」)において、組織再編税制に関する大幅な改正が行われた中で、スピンオフ税制が創設されました。

本税制改正では、企業の機動的な事業再編の促進を目的として、一定の要件を満たすスピンオフが適格組織再編成に追加されました。これは従来の組織再編税制の枠組みで認められていた課税繰延べの要件に関して、その基本的なえ方の見直しが行われた特筆すべき税制改正といえます。

貴社S事業の一連の分離独立行為が、本税制改正で新たに定められた適格要件を満たすことができれば、スピンオフに伴う移転資産の譲渡損益の繰延べと、株主への配当非課税の適用を受けることができるものと考えられます。

なお、本税制改正は平成29年4月1日以後に行われる分割型分割および株式分配、単独新設分社型分割および単独新設現物出資について適用されています。

【解説】

1 改正の背景

スピンオフとは特定事業を分離し独立会社とすることであり、海外、特に米国では繁に見られる組織再編成の手法です。従前より日本における組織再編税制は、原則として移転資産等に対する支配継続が認められる場合に限り、課税繰延べを容認してきましたが、スピンオフ税制においてはその基本的な考え方の見直しが図られています。

スピンオフによる効果として「経営の独立」、「資本の独立」、「上場の独立」などがあり、企業グループの「攻めの経営」を経営資源の効率化を通じて実現し、事業の「選択と集中」によりコングロマリット・ディスカウント注1の状態を解消し、分離企業のみならず分離元企業までを対象とした価値向上が期待されます。これは、特定事業の独立分離により、事業規模の縮小に伴う経営に関する意思決定の迅速化・柔軟化や、より明確にされた事業戦略による経営の効率化、経営者や従業員のモチベーション向上等が可能となるからと考えられます。

注1 複数の事業を営む多角化企業において、各事業の潜在的価値が市場において適正に評価されていない状態

2 制度の概要

スピンオフのゴールは特定事業の独立分離ですが、その類型としては、(1)スピンオフの目的となる特定事業(S事業)がP社の一事業として行われているケース、(2)P社の既存100%子会社(S社)において行われているケース、さらに(1)と(2)の組合せとして、(3)P社の一事業であるS事業を切り出して子会社化し一定期間経過後にS社株式を分配するケースが考えられます。いずれも本税制改正により、一定の適格要件を満たせば、各当事者は課税繰延とされました。

(1) 単独新設分割型分割によるスピンオフ
単独新設分割型分割によるスピンオフ
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分割法人(P社)はP社の分割前に行うS事業を新たに設立する分割承継法人(S社)において行うため、適格分割型分割により設立新会社(S社)にS事業を移転します。S社は分割対価としてS社株式を交付し、P社は分割の日にP社株主に対してS社株式の交付を行います。

(2) 株式分配によるスピンオフ
株式分配によるスピンオフ
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完全子法人(S社)と現物分配法人(P社)とがそれぞれ独立して事業を行うため、P社はS社株式を適格株式分配により剰余金の配当等としてP社株主に分配します注2

注2 株式分配とは、現物分配のうち、その現物分配直前において現物分配法人(P社)にその発行済株式等の全部を保有されていた法人(S社)の当該発行済株式等の全部が移転するものをいう(法法2十二の十五の二)。

(3) 単独新設分社型分割(または単独新設現物出資)+適格株式分配
単独新設分社型分割(または単独新設現物出資)+適格株式分配
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S事業がP社の複数ある事業の一事業として行われており、P社はS事業を単独新設分社型分割または単独新設現物出資(以下:「単独新設分社型分割等」)により設立新会社S社に移転します。その後、上記(2)の適格株式分配を行います。この場合も、最終的な資本関係は(1)および(2)と同様となります。

貴社においては上記(3)のケース(単独新設分社型分割等+適格株式分配)が想定されますので、以下において株式分配を中心に説明します。なお、P社の株主は内国法人および居住者のみであり、再編前のP社と支配関係を有しておらず、再編後のS社と支配関係を有しないことが見込まれているものとします。

3 株式分配に係る適格要件

本税制改正において定められた株式分配に係る適格要件は下表のとおりです。これは上記2(2)のケースです。なお、単独新設分割型分割の適格要件はここでは割愛しますが、基本的に同様とされています。

適格要件
(法法2十二の十五の三、法令4の3⑯)

株式按分
交付要件

完全子法人注3(S社)の株式のみが各株主等の株式の数等の割合に応じて交付されること注4

非支配要件

・株式分配の直前に現物分配法人(P社)と他の者との間に当該他の者による支配関係がないこと

・株式分配後も他の者によりS社との間に支配関係があることとなることが見込まれていないこと

従業者継続
従事要件

S社の株式分配直前の従業者のうち、その総数のおおむね80/100以上に相当する数の者が、S社の業務に引き続き従事することが見込まれていること

事業継続
要件

S社の株式分配前に行う主要な事業が、S社において引き続き行われることが見込まれていること

役員継続
従事要件

S社の株式分配前の特定役員のすべてが当該株式分配に伴って退任をするものでないこと

注3 完全子法人とは、現物分配の直前において現物分配法人により発行済株式等の全部を保有されていた法人をいう(法法2十二の十五の二)。

注4 完全子法人株式に端数が生じその端数に対し金銭が交付される場合の当該金銭は交付要件に抵触しない(法令139の3の2③)。

また、適格株式分配制度の創設に伴い、上記2(3)のケースのように、単独新設分社型分割等に係る完全支配関係継続要件についても見直され、分割等後に適格株式分配が行われることが見込まれているときは、当該分割等時から適格株式分配の直前の時まで分割法人等(P社)と分割承継法人等(S社)との間に完全支配関係が継続すればよいこととされました(法令4の3⑥一ハ⑬一ロ)。

当該単独新設分社型分割等が適格分割等に該当する場合、分割法人等(P社)の移転事業に係る譲渡損益は繰り延べられ、分割承継法人等(S社)はその資産負債を直前の帳簿価額により引き継ぐこととなります(法法62の3、62の4)。

4 適格株式分配の課税関係

株式分配が税制適格に該当する場合の各当事者の課税関係は次のとおりとなります。

① 現物分配法人(P社)

  • 移転した完全子法人(S社)の株式を直前の帳簿価額により譲渡したものとされる(法法62の5③)
  • 原資にかかわらず、株主等に交付したS社株式の帳簿価額相当の資本金等の額を減少させる(法令8①十六)

② P社株主

  • 現物分配法人(P社)株式のうち完全子法人株式対応帳簿価額注5により譲渡したものとされ、譲渡損益および配当は認識しない(法法61の2⑧、法令24①五)
  • 交付された完全子法人(S社)株式の割合に応じたP社株式の簿価をS社株式簿価に付け替える(法令119①ハ)

③ 完全子法人(S社)

  • 課税関係は生じない

注5 現物分配法人の株式の株式分配の直前の帳簿価額を移転純資産割合で按分(法令119の8の2)
 

5 今後のスピンオフ税制に関する展望

スピンオフ税制の創設により、上述のような事例を含む再編等の選択肢が増えることとなりますが、現状においては限界または留意点もあると考えられます。

スピンオフ税制においては、株式継続保有要件が課されておらず、また非支配要件は分割または株式分配後において分割法人または現物分配法人との間の非支配関係は含まれていないことから、分割法人株式または現物分配法人株式の買収者への譲渡が見込まれている場合であっても、税制適格となり得ます。このため、スピンオフ税制を利用したM&Aや再生も可能となると考えられます。

また、株式分配において、完全子法人は外国法人も含まれることから、外国子会社株式を間接保有から直接保有とすることが可能となります。

スピンオフ税制の限界または留意点としては、適格株式分配を行う前の子会社設立は、単独新設分社型分割または単独新設現物出資によるもののみに限定がされていることが挙げられます。既存子会社への吸収分割または現物出資による特定事業の移転後に行う株式分配については、適格スピンオフには該当しないこととなるため、許認可を要する事業移転の場合には、スピンオフ税制では難しいと考えられます。

また、2次再編に関する特段の緩和措置が設けられていません。

適格スピンオフ後において、分離独立をした分割承継法人等が、合併などの2次再編を行うことが見込まれる場合、当該スピンオフの税制適格性について議論となり得る可能性があるものと考えられます。

この点、スピンオフ後に適格合併が見込まれており、分割承継法人等が合併法人となる場合において、スピンオフの適格要件を充足する場合には、当該スピンオフについて税制適格に該当することに合理性は存在するものと考えられます。ただし一方で、スピンオフ時においてすでに分割承継法人等が被合併法人として消滅することが見込まれているような場合には、分割承継法人等における分割事業等の継続が見込まれていないことから、当該スピンオフは税制非適格として取り扱われることになると考えられます。

この他、本税制改正において組織再編税制に新しい枠組みが追加され、スピンオフを含む新しい概念については、実例等の蓄積が今後必須と考えられます。それにより再編税制に更なる見直しや修正が加えられることになると考えられ、今後の改正等の動向について注視を続ける必要があると思料します。

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