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事業買収時における事業譲渡と会社分割の比較

『国税速報』平成29年5月29日号

本稿では、資本関係のない内国法人間で金銭を対価とする事業譲渡および吸収分社型分割が行われた場合の各再編当事者の課税関係について解説します。(『国税速報』平成 29年5月29日号)

【疑問相談】法人税・地方税・消費税等

「事業買収時における事業譲渡と会社分割の比較」

Question:
内国法人(3月決算、資本金1億円以下)である当社は、同業の内国法人A社(3月決算、資本金1億円以下、当社との間に資本関係はない)から工業用精機の製造・開発に係る事業すべて(国内に所在する資産および負債、その他に事業に従事する従業員・関連する契約等を含む)を5億円の金銭対価により譲り受けること(以下「本件買収」)を予定しております。本件買収の方法として事業譲渡または会社法上の会社分割のいずれかを考えていますが、それぞれの課税関係の違いについて教えてください。

なお、当社およびA社ともに連結納税グループには加入しておらず、買収対象事業に関連して登記の変更が必要な権利・資産としては不動産(土地・建物)が挙げられます。また、一連の取引は適法かつ適正な取引条件の下に実施される予定です。

Answer:
金銭対価を前提とする場合、原則として会社分割および事業譲渡のいずれの場合でも法人税、住民税および事業税並びに不動産の流通税(登録免許税および不動産取得税)に係る課税関係は同じとなります。

一方で、消費税の観点からは会社分割は不課税取引、事業譲渡は課税取引として取り扱われる点、また、印紙税の観点からは作成される会社分割契約書1通につき4万円、事業譲渡契約書1通につき10万円が発生する点で異なります。

【解説】

1 概要

資本関係のない内国法人間で一方の内国法人が営む一部の事業を買収する場合は、買収方法として金銭を対価とする事業譲渡契約および会社法上の吸収分割契約が考えられます。

以下では、資本関係のない内国法人間で金銭を対価とする事業譲渡および吸収分社型分割が行われた場合の各再編当事者の課税関係について解説します。

2 事業譲渡および吸収分割に係る課税関係

(1) 法人税、住民税および事業税

イ)事業譲渡

  • 事業譲渡法人

事業譲渡法人は、移転する資産または負債を事業譲渡時または分割時の時価で譲渡をしたものとして取り扱われ、移転する資産または負債に係る譲渡損益は課税所得の計算上損金または益金に算入されます。

  • 事業譲受法人

事業譲受法人は時価で移転を受けた資産または負債を認識します。

また、交付した金銭等の額が、当該移転を受けた資産または負債の時価純資産額を超えるときは、原則としてその超える部分の金額は資産調整勘定(または満たないときは差額負債調整勘定)とされ注1、5年間で月割償却され課税所得の計算上損金(または益金)の額に算入されます(法法62の8)。

ロ)吸収分割

原則として事業譲渡時の課税関係と同じ取扱いになります。

(2)消費税(地方消費税含む)

イ)事業譲渡

国内における事業譲渡による資産の移転は消費税法上課税取引注2として取り扱われ(消法2①八、4①)、再編当事者の課税関係は以下のとおりとなります。

  • 事業譲渡法人

事業譲渡法人は、移転する課税資産(営業権含む)の対価に対する消費税(現行税率8%)を事業譲受法人から徴収し、消費税申告時に納付する必要注3があります。

また、移転する課税資産および非課税資産(土地、有価証券、貸付金等(消法6①))に係る課税売上高および非課税売上高が認識されることにより、消費税申告時に未払消費税から控除される仕入控除税額に影響を与える可能性があります注4

  • 事業譲受法人

事業譲受法人は、移転を受けた課税資産の対価に対する消費税(現行税率8%)を事業譲渡法人に支払う必要があります。

なお、事業譲渡法人に支払った消費税のうち、仕入控除税額として認識される部分については、消費税申告時に未払消費税から控除(または還付)できる可能性注5があります。

ロ)吸収分割

分割は消費税法上不課税取引とされているため、取引時の課税関係は生じません(消法2①八、消令2①)。

(3)不動産に係る流通税

イ)事業譲渡

事業譲渡により不動産を取得した場合、事業譲受法人には、原則として固定資産課税台帳に登録されている価格に対して土地注6および家屋(住宅)は3%(平成30年3月31日までの税率)、家屋(非住宅)は4%の不動産取得税が課されます(地法73の15、地法附則11の2①)。

また、事業譲渡により取得した不動産について所有権移転登記を行う場合注7、原則として固定資産課税台帳に登録されている価格に対して2%の登録免許税が課されます(登録免許税法9・別表第一の一(二)ハ)。

ロ)吸収分割

原則として事業譲渡時の課税関係と同じ取扱いになります。

(4)印紙税

イ)事業譲渡

本事例における事業譲渡契約書は「営業の譲渡に関する契約書」として、印紙税の課税文書に該当するとえられ、契約書1通につき10万円注8の印紙を貼付する必要があります(印法2・別表第一の物件名欄1)。

ロ)吸収分割

吸収分割契約書は印紙税の課税文書に該当し、契約書1通につき4万円の印紙を貼付する必要があります(印法2・別表第一の五定義欄2)。

税目

事業譲渡

吸収分割

事業譲受者

事業譲渡者

事業譲受者

事業譲渡者

法人税、住民税および事業税

資産負債を時価
受入れ*1

譲渡損益課税

同左

消費税

課税取引*2

課税取引*3

不課税取引

不課税取引

不動産流通税

不動産取得税:3%または4%
登録免許税:2%

同左

印紙税

契約書1通につき10万円*4

契約書1通につき4万円

*1 資産調整勘定または負債調整勘定が認識される場合、5年間で月割償却し損金または益金に算入。
*2 課税資産に係る消費税額が発生する(事業譲渡者に支払)。なお、一括比例配分方式を採用しているまたは支出税額が個別対応方式における共通対応部分に該当する場合の支出税額×(1―課税売上割合)相当額および個別対応方式における非課税売上対応部分に相当する支出税額について仕入控除税額を認識できない可能性あり。
*3 課税売上高および非課税売上高が認識されることにより課税売上割合が増減する場合、仕入控除税額に影響する可能性あり(課税売上割合の影響については􌖭2を参照)。
*4 契約金額が「1億円を超え5億円以下」の場合の印紙税額。

3 最後に

これまでの解説を図表形式でまとめたものについては「図表」をご参照ください。

本項では、事業譲渡および吸収分割の2つの買収形態について、再編時における各再編当事者の課税関係を比較してきました。なお、誌面の都合上本稿では省略していますが、売却対象事業を新設会社化した上で売却するケース等他の手法も事例としては存在します。

また、一般的な課税関係について定性的な観点から記載していますが、実際には買手側または売手側の立場から、その会社固有の税務事情および税務以外の法務面等の影響などを慮した上で、定量的な視点も入れつつ比較・検討を行う必要があると考えられます。

 

注1 ただし、資産調整勘定または負債調整勘定が認識されるのは、事業譲渡法人または分割法人が直前において営む事業およびその事業に係る主要な資産または負債のおおむね全部が、事業譲受法人または分割承継法人に移転すると認められる場合に限られる(法令123の10①)。

注2 通常は個別の資産の譲渡に対して消費税が課されるが、事業譲渡の場合には課税資産および非課税資産をまとめて譲渡するため、譲渡資産の時価を課税資産と非課税資産とに合理的に区分し、課税資産に対応する部分についてのみ消費税が課されることとなる(消令45③、消基通10―1―5)。

注3 譲渡人の立場として課税資産の譲渡により消費税が発生することは好ましくないと盲目的に判断されるケースも少なからず存在すると考えられる。もちろん、注4で後述する仕入控除税額の問題や注2で前述しているような合理的な対価区分を行うための事務負担増加影響などもあるため有利・不利の判断は納税者の個別事情により異なるのであるが、担税者(本ケースにおける事業譲受法人)から支払うべき税金を預かり、代わりに納税義務者となって国庫に納めるという消費税(間接税)の納税手法(預かった消費税をそのまま代理納付する)に照らすと、消費税が発生することだけをもって直ちに不利と判断することはできないと考えられる(むしろ、例えば課税資産のみが譲渡されるのであれば、譲渡人の立場においては消費税相当の現金を譲渡時に前受することによるキャッシュフローへの影響および課税売上高のみが計上され、課税売上割合が増加することによる仕入控除税額への影響などから、消費税の税額だけを慮した場合は有利と判断される可能性もあり得ると考えられる)。

注4 仕入控除税額の計算上、一括比例配分方式を採用している、若しくは個別対応方式を採用しており、かつ『課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する(いわゆる共通対応)』支出税額がある場合には、一括比例配分方式による支出税額または共通対応部分の支出税額に対して課税売上割合《課税売上高÷(課税売上高+非課税売上高)》を乗じて控除税額が算定されるため、課税売上高および非課税売上高の計上により、仕入控除税額が増減する(課税売上割合が変動するため)可能性がある。その他、理論的には、個別対応方式における『非課税資産の譲渡等のみに要する』支出税額が発生する場合にはその全額について仕入税額控除が行えない可能性がある。

注5 注3の譲渡人の立場とは対照的に、一般的には譲受人の立場としてあえて消費税法上の課税取引を選択するインセンティブは少ないと考えられる(担税者となり消費税相当の現金支出が生じること、および注4に記載の支出税額に該当する場合には支出した消費税を仕入控除税額として全額未払消費税から控除できるとは限らないため、など)。

注6 平成30年3月31日までに宅地等(宅地および宅地評価された土地)を取得した場合は、取得した不動産の価格×1/2が課税標準額。

注7 不動産の所有権移転登記をする場合の登記権利者(事業譲渡法人)と登記義務者(事業譲受法人)は共同で登記申請を行うため、連帯して登録免許税の納税義務を負う(登録免許税法3)。実務上は、登録免許税などの移転コストについては契約書等で買主負担であることが明記されることが一般的と考えられる。

注8 契約金額に伴い段階的に納付税額が増加する累進税率となっている(最大税額は契約金額が50億円を超える場合の60万円)。

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※本記事は、一般財団法人大蔵財務協会の許可を得て当法人のウェブサイトに掲載したものにつき、無断転載を禁じます。

 

 

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