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平成28年度税制改正と注目の判決
~M&Aの観点から見た主な税制改正点等~

M&A Tax Newsletter:2016年4月号

平成27年12月16日に与党より平成28年度与党税制改正大綱(大綱)が公表され、所得税法等の一部を改正する法律および地方税法等の一部を改正する等の法律が平成28年3月29日付で参議院本会議にて賛成多数により可決、成立し、改正税法が関連する政省令とともに、一部の規定を除き、平成28年4月1日から施行された。(M&A Tax Newsletter:2016年4月号)

1. 平成28年度税制改正

(1) 概要

平成27年12月16日に与党より平成28年度与党税制改正大綱(以下「大綱」)が公表され、所得税法等の一部を改正する法律および地方税法等の一部を改正する等の法律が平成28年3月29日付で参議院本会議にて賛成多数により可決、成立し、改正税法が関連する政省令とともに、一部の規定を除き、平成28年4月1日から施行された。本ニュースレターではこのうちM&Aの観点から重要性が高いと考えられる項目を解説する。

(2) 法人税率等の引下げ

平成27年度税制改正により25.5%から23.9%に引き下げられた法人税率であるが、成長志向の法人税改革を推進するため、段階的にさらに引き下げられ、法人実効税率の20%台への引下げが実現された。なお、いわゆる外形標準課税対象外法人についての税率については、外形標準課税対象法人に比べて税率引下げ幅は小幅なものにとどまっている。

外形標準課税対象法人(標準税率による)

事業年度

法人税率

地方法人
税率

(参考)
法人税と地方法人税率の計

住民税率

法人事業税所得割(※)

法定実効
税率

平成27年4月1日
以後開始事業年度

23.9%

4.4%

24.95%

12.9%

6.0%

32.11%

平成28年4月1日
以後開始事業年度

23.4%

4.4%

24.43%

12.9%

3.6%

29.97%

平成29年4月1日
以後開始事業年度

23.4%

10.3%

25.81%

7.0%

3.6%

29.97%

平成30年4月1日
以後開始事業年度

23.2%

10.3%

25.59%

7.0%

3.6%

29.74%

(※) 外形標準課税対象法人の年800万円超所得分の標準税率。平成29年3月31日以前開始事業年度までは地方法人特別税を含む。

外形標準課税対象外法人(標準税率による)

事業年度

法人税率

地方法人
税率

(参考)
法人税と地方法人税率の計

住民税率

法人事業税所得割(※)

法定実効
税率

平成27年4月1日
以後開始事業年度

23.9%

4.4%

24.95% 

12.9%

9.59%

34.33%

平成28年4月1日
以後開始事業年度

23.4%

4.4%

24.43%

12.9%

9.59%

33.80%

平成29年4月1日
以後開始事業年度

23.4%

10.3%

25.81%

7.0%

9.59%

33.80%

平成30年4月1日
以後開始事業年度

23.2%

10.3%

25.59%

7.0%

9.59%

33.58%

(※) 外形標準課税対象外法人の年800万円超所得分の標準税率。平成29年3月31日以前開始事業年度までは地方法人特別税を含む。

(3) 外形標準課税における付加価値割・資本割の税率引上げ

財源確保措置として、法人事業税の外形標準課税の付加価値割・資本割(以下「外形部分」)の税率引上げが行われることとなった。激変緩和や雇用促進への悪影響を避けるための様々な経過措置・優遇措置は行われるものの、外形部分だけをみると1.67倍程度に引上げが行われることになる。外形部分については会計上営業費用として取り扱われ、企業価値評価において重要な指標とされることが多いEBIT/EBITDA(earnings before interrest and taxes/earnings before interest, taxes, depreciation and amotisation)の減少項目となるため、事業計画策定や企業価値評価上注意が必要となる。

事業年度

資本割

付加価値割

平成27年4月1日以後
開始事業年度

0.3%

0.72%

平成28年4月1日以後
開始事業年度

0.5%

1.2%


(4) 欠損金の繰越控除制度等の見直し

財源確保措置として、欠損金の控除制限割合についての平成27年度税制改正について、さらに控除割合・繰越期間の見直しが行われた。依然として中小法人については控除制限の対象外(常に欠損金を100%利用可能)である点は変わっていない。

1) 控除限度割合の見直し

青色欠損金・災害欠損金・連結欠損金(以下「繰越欠損金」)の繰越控除額について、控除限度割合の見直しが行われる。当該上限となる一定割合は、平成27年度税制改正により80%から65%に引き下げられているが、これがさらに見直されるものである。

平成27年度税制改正後

平成28年度税制改正後

事業年度開始日

控除限度割合

事業年度開始日

控除限度割合

~平成27年3月

80%

~平成27年3月

80%

平成27年4月~29年3月

65%

平成27年4月~28年3月

65%

平成28年4月~29年3月

60%

平成29年4月~

50%

平成29年4月~30年3月

55%

平成30年4月~

50%


2) 繰越期間の延長の適用後倒し

繰越欠損金の繰越期間について以下の変更が行われ、平成27年度税制改正で予定されていた9年から10年への延長の適用が1年遅れることになる。

平成27年度税制改正後

平成28年度税制改正後

事業年度開始日

繰越期間

事業年度開始日

繰越期間

~平成29年3月

9年

~平成30年3月

9年

平成29年4月~

10年

平成30年4月~

10年


(5) 組織再編成

1) 株式交換等による子法人株式の取得価額の見直し

適格株式交換等により親法人が取得する子法人株式の取得価額について、株主が50人以上である子法人の場合には、従来はその子法人の当該適格株式交換等の直前の簿価純資産価額とされていたが、その子法人の直前の申告における簿価純資産価額にその後の資本金等の額等の増減を調整した価額とされた。

2) 株式交換等に係る適格要件の見直し

共同事業を行うための株式交換等に係る適格要件のうちの役員継続要件について、株式交換等前の特定役員のいずれかがその株式交換等に伴って退任をするものでないこととされていたが、特定役員のすべてがその株式交換等に伴って退任をするものでないことと緩和された。

3) その他適格要件

株式交換または株式移転が行われる場合において、その後に合併や分割等の二次再編が見込まれているときの事業継続要件については、二次再編のないケースと異なり、「親法人事業と関連する事業に限る。」等の限定がされておらず株式交換完全子法人等のすべての事業が継続する見込みであることが求められているとの解釈をするむきも見受けられたことから、株式交換完全子法人等において継続が求められるのは株式交換完全親法人の事業に関連する事業等であること等が明確化された。

(6) 移転価格税制に係る文書化

OECDによる「BEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクト」の行動13に対応して示された勧告を踏まえ、移転価格税制に係る文書化制度が導入された。これらはいずれも一定規模に満たない事業体・取引に関しては免除されることとなっており、中堅・中小企業者等の軽減負担が図られているが、買収・統合により事業規模が拡大した結果、新たに文書化が必要となる可能性があるため、M&Aにおいては留意が必要となる。

  • 国別報告事項(国別報告書)

平成28年4月1日以降に開始する最終親会計年度から適用される。直前会計年度の連結総収入金額が1,000億円未満の多国籍企業グループの場合は適用を免除される。

  • 事業概況報告事項(マスターファイル)

平成28年4月1日以降に開始する最終親会計年度から適用される。直前会計年度の連結総収入金額が1,000億円未満の多国籍企業グループの場合は適用を免除される。

  •  独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類(ローカルファイル)

平成29年4月1日以降に開始する事業年度から適用される。一の国外関連者との前事業年度の取引の合計額が50億円未満であり、かつ、前事業年度の無形資産の譲渡もしくは貸付またはこれらに類似する取引の合計額が3億円未満の場合は適用を免除される。

(7) 今後の税制改正の展望

大綱は今後の検討事項の一つとして中小法人課税の優遇税制のあり方について取り上げている。資本金以外の指標もしくは指標を組み合わせることによる新たな判定基準の創設等が予想される。中小法人優遇税制は欠損金の控除制限等事業計画策定等において重要な要素となる項目を含んでいるところから、今後の動向が注目される。

2.組織再編成をめ ぐる包括否認を争った事例に係る最高裁判決

企業が組織再編行為を実施した場合には、原則として、いわゆる「組織再編税制」と称される法人税法上の各個別規定に基づいて課税関係を把握すべきものとされているが、法人税法は、その第132条の2において、当該組織再編に係る行為または計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為または計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより更正または決定をすることができる旨を定めている。

平成28年2月29日付で当該組織再編成をめぐる包括否認を争った二つの事例(両事例は密接に関連しているため、添付PDF P4の取引ステップ図は両方の事実関係を一つにまとめている)につき、最高裁が上告を棄却する判決(納税者敗訴)を下したため、本事例の概要、事実関係およびその棄却理由について解説する。

(1) 大手検索サイト運営会社の事件

1) 事案の概要

本件は、平成21年2月24日にA社からB社の発行済株式全部を譲り受け、同年3月30日にB社を被合併法人とする吸収合併をした大手検索サイト運営会社である上告人X1社(納税者)が、当該合併によりB社の未処理欠損金額を引き継いで処理を行ったところ、税務当局が組織再編成に係る行為または計算の否認規定を適用して、欠損金の引継ぎを認めない旨の更正処分等をしたため、上告人X1社が当該処分の取消しを求めていた事案である。

2) 事実関係

当該合併に際し、甲氏(上告人X1社の取締役会長とA社の代表取締役社長を兼務)は乙氏(上告人X1社の代表取締役社長とA社の取締役を兼務)を含む上告人X1社の常勤取締役に対し、一連の組織再編成の手順等を示した書面をもってB社株式買収・(後述の事件にて問題となる)X2社株式買収等を提案しており、その提案内容には、当該合併がみなし共同事業要件(特定役員引継要件)を充足して上告人X1社がB社の未処理欠損金額を引き継ぐために乙氏がB社の取締役副社長に就任すること、および、B社株式の譲渡対価の算定に際してはB社が有する未処理欠損金額に係る税効果が考慮されていること等が含まれていた。

3) 判決:上告棄却(納税者敗訴)

最高裁は、本件乙氏のB社取締役副社長への就任を組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものとして、法人税法第132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たると解するのが相当であるとして、本件上告を棄却している。

ここで、「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、法人の行為または計算が組織再編成に係る税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうと解すべきであり、その濫用の有無の判断に当たっては、(i)当該法人の行為または計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とはかい離した形式を作出したりする等、不自然なものであるかどうか、(ii)税負担の減少以外にそのような行為または計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮した上で、当該行為または計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨および目的から逸脱する態様でその適用を受けるものまたは免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当であるとされている。

(2) データセンター運営会社の事件

1) 事案の概要

本件は、平成21年2月2日にデータセンター運営会社であるB社から新設分割により設立された上告人X2社(納税者)が、当該分割が税制上の非適格分割に該当するものとして資産調整勘定を認識し、その償却額を損金の額に算入させたところ、税務当局が組織再編成に係る行為または計算の否認規定を適用して、上告人X2社においては、当該分割により資産調整勘定の金額は生じていないものとして、償却額の損金算入を認めない更正処分等をしたため、上告人X2社が当該処分の取消しを求めていた事案である。

2) 事実関係

上記「大手検索サイト運営会社の事件」に記載のとおり、甲氏は乙氏を含むX1社の常勤取締役に対し、一連の組織再編成の手順等を示した書面をもって(前述の事件で問題になった)B社株式買収・X2社買収等を提案していた。B社の代表取締役である丙氏は甲氏から本件提案を実行する旨を告げられ、これを了承していた。

なお、B社とX1社の間では、当該分割の効力発生日である平成21年2月2日時点で、B社がX1社に対し上告人X2社の発行済株式全部を平成21年2月20日に譲渡すること(以下「本件譲渡」)が計画されていた(以下「本件計画」)。なお、本件譲渡の4日後にA社からX1社にB社の発行済株式全部が譲渡されている。

3) 判決:上告棄却(納税者敗訴)

最高裁は、本件計画を前提とする本件分割は、組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものとして、法人税法第132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たると解するのが相当であるものとして、上記大手検索サイト運営会社の事件同様の判断基準により、本件上告を棄却している。

(3) 今後の実務への影響

法人税法は企業の組織再編行為につき、各個別規定において明確な要件等を定めているが、当該組織再編成をめぐる包括否認を争った両事例につき最高裁が納税者を敗訴とする判決を下したことから、今後の組織再編行為については一連の組織再編行為の全体を俯瞰する観点からの慎重な検討がより求められることになるものと考えられる。

 

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