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企業買収に伴い生じる「のれん」は損金算入できるか

M&A Tax Newsletter:2016年6月号

近年、海外企業の買収等のクロスボーダーのM&Aや、国内の各業界内再編を企図した上場企業同士のM&A等が活発であるように思われる。このような大型案件のケースでは買収価額が純資産を大幅に上回ることが珍しくなく、その場合買収時に巨額の「のれん」が発生する。本稿では税務上におけるのれんの基本的な取扱いを具体例を交えながら確認することとする。(M&A Tax Newsletter:2016年6月号)

1. 基礎事項

(1) 背景

近年、海外企業の買収等のクロスボーダーのM&Aや、国内の各業界内再編を企図した上場企業同士のM&A等が活発であるように思われる。このような大型案件のケースでは買収価額が純資産を大幅に上回ることが珍しくなく、その場合買収時に巨額の「のれん」が発生する。会計上で発生したのれんについては新聞等で取り沙汰される機会が少なくないが、のれんの税務上の取扱いについては専門書を除いて一般のメディアではほとんど取り扱われていないように思われる。そこで本稿では税務上におけるのれんの基本的な取扱いを具体例を交えながら確認することとする。

(2) のれんの意義

のれんとは取得原価が受け入れた資産および引き受けた負債に配分された純額を上回る場合の、その超過額をいう(企業結合会計基準31項)。企業を買収する場合の買収価額(取得原価)が識別可能な資産負債の時価とイコールの場合には、基本的にのれんは生じない。しかし、買収時の価格決定には企業結合に当たって期待されるシナジー効果や、ノウハウ・ブランド等の超過収益力が含まれていることから、買収価額が識別可能な資産負債の時価を超過するケースが少なくない。これらのシナジーや超過収益力等のプレミアムを総称してのれんという。

(3) のれんの会計上の取扱い

現行の日本の会計基準上、原則として、のれんは資産に計上し、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却し、その償却額は販売費および一般管理費の区分に表示する。ただし、のれんの金額に重要性が乏しい場合には、当該のれんが生じた事業年度の費用として処理することができる(企業結合会計基準32項、47項)。一方で、負ののれんが発生した場合には、その発生した事業年度の利益として認識し、特別利益の区分に表示する。(企業結合会計基準33、48項)

(4) のれんの税務上の取扱い

1) 制度創設の経緯

税務上、のれんという資産分類は存在しないが、それに類似する概念として資産調整勘定、差額負債調整勘定というものがある。これは2006年度税制改正で創設されたものである。企業結合会計基準の導入により組織再編時ののれんの取扱いが明確化されたことから、企業会計との調和を図り、また実務上の不明確さを解消する目的で、会計上ののれんに類似する概念が税法においても導入されることとなった。

2) 税務上の処理方法

具体的には、法人が非適格合併等により交付した金銭等の価額が移転資産負債の時価純資産価額を超えるときは、その超える部分の金額を資産調整勘定として認識する(法62条の8①)。また、交付金銭等の額が移転資産負債の時価純資産価額に満たないときは、その満たない金額を差額負債調整勘定として認識する(法法62条の8③)。ここで非適格合併等とは、非適格合併のほか、非適格分割、非適格現物出資または事業の譲受けで、事業および事業に係る主要な資産負債のおおむね全部が移転するものとされており(法62の8①、法令123の10①)、事業の移転が前提とされている。事業の意義については旧商法・会社法の概念と基本的に同じと考えられており、「一定の営業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産」である。

この資産調整勘定・差額負債調整勘定は、個別資産負債に配分できない残余価値であり、それぞれ会計上の正ののれん・負ののれんに相当するものである。なお、資産調整勘定・差額負債調整勘定はあくまで差額概念であるため、承継資産の中に独立した資産として取引される慣習のある営業権が含まれる場合は、営業権(無形固定資産)として認識する必要がある。

個別資産負債の時価が会計と税務で完全に一致する場合には資産調整勘定・差額負債調整勘定と会計上ののれんは原則として同額となるが、特に負債に関しては会計と税務が不一致となることがあるため(例:引当金等の未確定債務)、会計上ののれんの金額と同額になるとは限らないことに留意する必要がある。この点、短期重要負債調整勘定および退職給与負債調整勘定は負債に準じて取り扱うこととされており、一定の調和が図られている(詳細は紙幅の都合上省略)。

このようにして計算された資産調整勘定・差額負債調整勘定は、会社の会計処理にかかわらず、計上後5年間にわたって減額し、損金または益金の額に算入される。非適格合併等が期中に行われた場合であっても、計上初年度は1年分の減額を行うこととされている。
 

2. 事例編

(1) 連結財務諸表でのれんが生じた場合

1) テーマ

連結財務諸表上で生じたのれんを税務上損金算入できるか否か

2) 具体例

A社はZ社のB社株式を現金で買収することを検討している。B社株式の取得対価はB社の時価純資産を大幅に上回ることから、買収後の連結財務諸表でのれんが発生する。こののれんは税務上どのように取り扱われるか検討する。

3) 解説

連結財務諸表上で生じたのれんは一定の期間にわたって費用処理されるが、税務上は個別財務諸表を基礎に税額計算を行うため、連結財務諸表で生じたのれんは税額計算に影響を与えない。のれん相当額はA社が保有するB社株式の簿価に含まれているのみであり、B社自体の保有資産には何ら影響を及ぼさない。
ただし、A社が連結納税を採用している場合には、のれん相当額につき課税関係が発生する可能性がある。連結納税加入に伴いB社が保有する一定の資産を時価評価することになるが、この時価評価の対象となる資産の中には営業権も含まれる。自己創設営業権の評価方法について法令や通達に明確な定めはないが、仮にのれん相当額が営業権であると考えた場合には、B社の連結納税加入に伴ってB社において自己創設営業権の評価益課税が行われる。当該営業権はその後5年間にわたって損金算入されることとなる。

(2) 合併に伴いのれんが発生した場合

1) テーマ

合併により個別財務諸表上で発生したのれんを税務上損金に算入できるか否か

2) 具体例

(1)の事例(A社がB社を現金対価により買収)の後、A社を合併法人、B社を被合併法人とする合併を実施する予定である。A社はB社資産を連結財務諸表上の簿価(のれんを含む)で受け入れるため、合併後にA社の個別財務諸表上でのれんが発生する。こののれんは税務上どのように取り扱われるか検討する。

3) 解説

当該合併は100%支配関係にあるA社とB社との間の合併であるため、適格合併に該当する。適格合併に該当する場合には、資産負債を簿価で受け入れるため資産調整勘定は発生しない。また、B社株式の簿価に含まれているのれん相当額は、合併時に抱合株式の消却としてA社の資本金等のマイナスに振替えられることとなる。したがって、企業買収後に100%子会社を合併したというケースでは、のれん相当額を損金に算入できない。

(3) 事業譲渡があった場合

1) テーマ

事業譲渡に伴い発生したのれんが損金に算入できるかどうか

2) 具体例

A社はC社のc事業を現金により譲り受ける予定である。A社におけるc事業の買収価格は、c事業の時価純資産を大幅に上回ることから、事業譲受後にA社の個別財務諸表上でのれんが発生する。こののれんは税務上どのように取り扱われるか検討する。

3) 解説

前述のとおり、事業および事業に係る主要な資産負債のおおむね全部が移転する事業譲受については、買収対価と移転資産負債の時価との差額を資産調整勘定として認識する。したがって、A社はc事業の買収価格と時価純資産との差額につき資産調整勘定を認識し、当該金額を将来5年間にわたって損金に算入することになる。このように、事業譲受のケースでは買収企業側でのれん相当の損金算入メリットを享受することができる。

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