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国外転出時課税制度に関する改正~「所得税基本通達」の解説

中央経済社『税務弘報』 2015年8月号

平成27年度税制改正においては、いわゆる「出国税」制度が創設された。これに対応して、このほど所得税基本通達の改正が行われ、発遣された。また、本制度に係る申告書付表等の各種様式についても、国税庁ホームページにおいて公表された。本稿では、新設通達を俯瞰した後に、実務上特に重要と思われる通達について、その概要を解説するとともに、付表の記入方法について簡単な事例をもとに説明を行う。(『税務弘報』2015年8月号)

はじめに

平成27年度税制改正においては、いわゆる「出国税」制度(国外転出をする場合の譲渡所得税等の課税の特例、贈与等により非居住者に資産が移転した場合の課税の特例等。以下、「国外転出時課税制度」という)が創設された。これに対応して、このほど所得税基本通達の改正が行われ、発遣された(「所得税基本通達の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)」(課個2-7ほか、平成27年4月23日発遣))。

また、本制度に係る申告書付表等の各種様式についても、国税庁ホームページにおいて公表された。

本稿では、(a)新設通達を俯瞰した後に、(b)実務上特に重要と思われる通達について、その概要を解説するとともに、(c)付表の記入方法について簡単な事例をもとに説明を行う。

1. 新設通達一覧

国外転出時課税制度とは、国外転出をする場合、あるいは贈与等により非居住者に資産を移転した場合、当該時点において対象資産の譲渡があったものとみなして所得税を課税するというものである。本制度に関連する所得税法上の規定としては、(a)みなし譲渡に係る規定(所法60の2、3)、(b)納税猶予に関する規定(所法137の2、3)、(c)外国税額控除に関する規定(所法95の2、153の5)、(e)海外で「出国税」と同等の制度の適用を受けた場合の取扱規定(所法60の4)、がある。

今回の所得税基本通達の改正では、これらの規定に関連して、次頁の合計31本の通達が新設された。

2. 解説

(1) 国外転出時に譲渡又は決済があったものとみなされた対象資産の収入すべき時期(所基通60の2-1)

納税管理人の届出を行わずに国外転出する場合、本特例に係るみなし譲渡の譲渡収入金額は国外転出予定日から起算して3か月前の日(同日後に取得した有価証券等にあっては取得時)の対象資産の時価を基礎として計算する(所法60の2①二)。このため、譲渡収入の測定日と国外転出した日のいずれを、譲渡所得所等の収入すべき時期とすべきか疑問が生ずるところである。この点、本通達において、「収入すべき時期」は、あくまで国外転出をした日である旨が明らかにされた。

■国外転出時課税制度に関連する新設通達一覧

法60条の2 ≪国外転出をする場合の譲渡所得等の特例≫ 関係

本稿における解説 

60の2-1

国外転出時に譲渡又は決済があったものとみなされた対象資産の収入すべき時期

2(1)

60の2-2

国外転出直前に譲渡した有価証券等の取扱い

 

60の2-3

有価証券等の範囲

2(2)

60の2-4

デリバティブ取引等の範囲

 

60の2-5

非課税有価証券の取扱い

2(2)

60の2-6

国外転出の時における有価証券等の価額

2(3)

60の2-7

外貨建ての対象資産の円換算

 

60の2-8

修正申告等をする場合における対象資産の国外転出時の価額等

 

60の2-9

対象資産を贈与により居住者に移転した場合の課税取消しと価額下落との関係

 

60の2-10

国外転出後に譲渡又は決済をした際の譲渡費用等の取扱い

2(4)

60の2-11

納税猶予期限が繰り上げられた場合等の価額下落の適用除外

 

法60条の3 ≪贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例≫ 関係

 

60の3-1

非居住者である相続人等が限定承認をした場合

 

60の3-2

贈与等の時に有している対象資産の範囲

 

60の3-3

非居住者からの譲渡等をした旨の通知がなかった場合

 

60の3-4

国外転出をする場合の譲渡所得等の特例に関する取扱いの準用

 

法60条の4 ≪外国転出時課税の規定の適用を受けた場合の譲渡所得等の特例≫ 関係

 

60の4-1

有価証券等の取得費とされる金額等の円換算

 

法95条の2 ≪国外転出をする場合の譲渡所得等の特例に係る外国税額控除の特例≫ 関係

 

95の2-1

納税猶予期限が繰り上げられた場合等の外国税額控除の適用除外

 

95の2-2

外国税額控除に関する取扱いの適用

 

法137条の2 ≪国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予≫
関係
 

 

137の2-1

修正申告等に係る所得税額の納税猶予

 

137の2-2

適用資産の譲渡又は贈与による移転をした日の意義

 

137の2-3

納税猶予分の所得税額の一部について納税猶予の期限が確定する場合の所得税の額の計算

 

137の2-4

納税猶予の任意の取りやめ

 

137の2-5

納税猶予適用者が死亡した場合の納税猶予分の所得税額に係る納付義務の承継

 

137の2-6

猶予承継相続人に確定事由が生じた場合

 

137の2-7

担保の提供等

2(5)

137の2-8

取引相場のない株式の納税猶予の担保

2(5)

137の2-9

納税猶予分の所得税額に相当する担保

 

137の2-10

増担保命令等に応じない場合の納税猶予の期限の繰上げ

 

法137条の3 ≪贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予≫ 関係

 

137の3-1

国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予に関する取扱いの準用

 

法153条の5 ≪国外転出をした者が外国所得税を納付する場合の更正の請求の特例≫ 関係

 

153の5-1

法第153条の2の更正の請求の適用がある場合の法第153条の5の更正の請求の取扱い

 

153の5-2

外国所得税を納付することとなる日の意義

 


■譲渡所得等の「収入すべき時期」(添付PDF P3参照)

(2) 有価証券の範囲(所基通60の2-3、60の22-5)

納税者が、受益者等課税信託や任意組合等を通じて有価証券を保有している場合、国外転出時課税制度の適用上、これを「有価証券」として取り扱うのか否かという疑問が生ずる。

この点、今回の通達改正により、受益者等課税信託の信託財産に属する有価証券や、任意組合等の組合財産である有価証券等、その譲渡による所得が居住者の譲渡所得等として課税されるものについては、所得税法60条の2及び60条の3の規定の上、有価証券として取り扱う旨が明らかにされた(所基通60の2-3、60の3-4)。

また、公社債や、NISA口座内の有価証券等、譲渡を行った場合に非課税とされる有価証券についても、本特例の適用上「有価証券」に含まれる(つまり、課税対象者の判定上、保有有価証券の時価の合計額に含める)旨が留意的に明らかにされている(所基通60の2-5、60の3-4)。

(3) 国外転出の時における有価証券等の価額(所基通60の2-6)

国外転出時課税制度においては、国外転出時(あるいは非居住者への贈与等による移転時)において、有価証券を時価にて譲渡したものとみなすわけであるが、ここで、譲渡所得等の計算上、有価証券の時価を具体的にどのように算定するかという疑問が生ずる。

今回の通達改正においては、有価証券等の「時価」について、有価証券等の区分に応じ、次の方法により算定することが示された(所基通60の2-6、60の3-4)。

■有価証券の「時価」の評価方法

区分

評価方法

(i)下記以外

所基通23~35共-9及び59-6の取扱いに準じて算定した価額

(ii)公社債、公社債投資信託

財産評価基本通達8章2節≪公社債≫の取扱いに準じて算定した価額

(注1)法60条の2第1項第2号の国外転出の予定日から起算して3月前の日後に取得をした有価証券等の当該取得時の価額については、原則として、当該有価証券等の取得価額による。
(注2)法60条の2第8項に規定する限定相続等による移転があった場合における当該限定相続等の時における当該有価証券等の価額についても、上記と同様に算定した価額による。

前表(i)の「所基通23~35共-9及び59-6により算定した価額」とはすなわち、所得税法59条1項の低額(無償)譲渡に係るみなし譲渡規定において、譲渡収入金額を算定する際の「時価」を指す。これは、ごくおおざっぱに言えば、上場株式については、公表された最終の価格をもって時価とし、非上場株式(売買実例なし、公開途上にない、類似する他の法人の株式の時価なし)については、「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」をもって時価とするというものである。この「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」とは、一定の条件のもと、「財産評価基本通達」178から189-7まで((取引相場のない株式の評価))の例により算定した価額とされている。

(4) 納税猶予に際しての担保の提供等 (所基通137の2-7、137の2-8)

国外転出時課税の適用により、所得税の納税額が生じた場合においても、担保提供等の一定の手続を行うことにより、最長5年(10年)間の納税猶予を適用することが可能である (所法137の2①、137の3①)。

今回の通達改正において、国外転出時課税に係る納税猶予の担保の提供に関して、国税通則法50条≪担保の種類≫から54条≪担保の提供等に関する細目≫までの規定の適用があることが留意的に明らかにされた(所基通137の2-7、137の3-1)。

また、一部実務家の間では、非上場株式が担保として認められるかという点が注目されていたが、今回の通達改正において、次のいずれかに該当する事由があるときは、非上場株式を納税猶予の担保として認められる旨が明らかにされた(所基通137の2-8、137の3-1)。

<非上場有価証券の担保提供の要件>

  • 法60条の2の規定により課税された財産のほとんどが取引相場のない株式であり、かつ、当該株式以外に納税猶予の担保として提供すべき適当な財産がないと認められること。
  • 取引相場のない株式以外に財産があるが、当該財産が他の債務の担保となっており、納税猶予の担保として提供することが適当でないと認められること。

(5) 実際の譲渡価額による場合の譲渡費用(所基通60の2-10)

国外転出時において譲渡(決済)があったものとみなした対象資産を、その後、実際に譲渡等した場合において*1、その譲渡収入金額が当初申告における収入金額より低い場合*2には、更正の請求を行うことにより、当初申告におけるみなし譲渡の収入を実際譲渡収入金額に引き直すことが可能である(所法60の2⑧、所法153の2②)。

ここで、実際の譲渡において発生した譲渡費用は、国外転出時課税の譲渡所得等の計算において控除することができるのかという疑問が生ずる。

この点について、今回の通達改正において、実際の譲渡において譲渡費用が発生したとしても、これを国外転出時課税における譲渡所得金額の計算上、控除することは認められない旨が明らかにされた(所基通60の2-10、60の3-4)。

*1 納税猶予適用期間中に限る。
*2 未決済デリバティブについては実際の決済利益金額が当初申告における決済利益金額を下回るとき。

3. 確定申告書付表*3の記入例

国外転出時課税制度の創設に伴い、このほど、これに関係する所得税申告書付表等の各種様式が国税庁ホームページで公表された*4

添付PDF P5~6では、このうち、「国外転出等の時に譲渡又は決済があったものとみなされる対象資産の明細書(兼納税猶予の特例の適用を受ける場合の対象資産の明細書)≪確定申告書付表≫」の様式を紹介する。

<事例>
1) 国外転出までに納税管理人の届出をし、平成27年8月22日に国外転出した(納税猶予適用)。
2) 国外転出時(平成27年8月22日)に所有等している対象資産は以下のとおり。

種類

銘柄

数量

国外転出時の価額

取得費

有価証券(株式)

X興産

5,000株

200,000,000

50,000,000

有価証券(株式)

Y電気

1,000株

30,000,000

25,000,000


*3 国外転出時課税制度の適用に際し、上記のほかに少なくとも以下の書類の提出が必要となる。
・国外転出時まで
納税管理人の届出書
・確定申告時
平成27年分所得税及び復興特別所得税の確定申告書B
株式に係る譲渡所得等の金額の計算明細書
なお、納税猶予を適用する場合、確定申告書に「国外転出する場合の譲渡所得等の特例に係る納税猶予分の所得税及び復興特別所得税額の計算書」の添付が必要であるほか、担保提供等の手続が必要。
*4 国税庁ホームページ:ホーム>申告・納税手続>国外転出時課税制度

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