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第2章 地域固有の優位性

The new transfer pricing landscape
新たな移転価格の展望(全9章)
-BEPSに伴う変化への実務ガイダンス-

第2章では、新ガイドラインにおける地域固有の優位性(Location-Specific Advantages:LSA)に関連した主要論点を取りまとめ、中国およびインドの税務当局の見解と比較する。(The new transfer pricing landscape:第2章)

はじめに

地域固有の優位性(Location-Specific Advantages:以下「LSA」)とは、それによって企業が別の地域に同様の商品やサービスを投入するよりもより良い財務結果を達成できる、地域固有の市場の特徴および生産要素を指す。当該概念として、熟練した労働力へのアクセス、インセンティブ、マーケットプレミアム、成長市場への参入機会、優れたインフラ、コスト節減があるだろう。新ガイドラインは次の二つのLSAについて言及している。

  • ロケーションセービング:低コストな税務管轄地と高コストな税務管轄地との間での営業費用(低水準の人件費、不動産関係費用等)の差異から得られるコスト削減を指す。
  • その他のローカル市場の特徴:企業が自らの商品に関して価格プレミアムを獲得したり、その土地および地域の成長市場へ参入、接近したりすることを可能にし、販売または生産における規模の経済による競争優位の取得を可能とする、ローカル市場の特性(一般消費者の購買力および商品嗜好、商品需要の増加を後押しする市場成長率、市場での競争の程度等)を指す。

これらの要素は、国によって需給のパラメーターが大幅に異なることを物語っている。MNEは、これらの差異により、コストや需要の好条件を有効に利用することで、競争力を保持する、またはライバル企業を押しのけることが可能になるだろう。

なお、新ガイドラインにおいて、LSAは正式に定義されていない。しかし、同ガイドラインはロケーションセービングの概念について指針を示し、LSAの概念と同義であるその他のローカル市場の特徴についても言及している。同ガイドラインによれば、ロケーションセービングの原則は、旧ガイドラインのように事業再編に限定せず、ロケーションセービングの存在するすべての場面に適用されるとしている。また、ロケーションセービングに加えて、市場における優位性や劣位性など、市場において実際に得られる価格や利益率に影響を及ぼすその他のローカル市場の特徴まで議論を発展させている。新ガイドラインに示された例として、一般消費者の購買力と商品嗜好、市場の伸縮性、競争の程度が挙げられる。

本稿は、新ガイドラインにおけるLSAに関連した主要論点を取りまとめ、中国およびインドの税務当局の見解と比較する。

LSAに関連する移転価格上の課題

LSAは無形資産と見なされるか

OECDは当初、OECD移転価格ガイドラインの事業再編に関連した移転価格の課題を議論する第9章にてロケーションセービングの存在を扱っていた。

独立企業間で合意されたと思われる[重大なロケーションセービングの分配条件]は、通常、各当事者の機能、資産及びリスク、並びにそれぞれの交渉力によって決まるであろう。(第9章、事業再編、パラグラフ9.149)

新ガイドラインの第1章では、ロケーションセービングに関連するどの場面にも適用される一般的な原則として第9章での議論を言及している。また、LSAに関するさまざまな議論および移転価格上の無形資産の定義からも明らかなように、LSAはMNEが所有も管理もできるものではなく、利用することのみができる市場の特徴であるため、新ガイドラインにおいてLSAは無形資産とは見なされていない。さらに、新ガイドラインは、無形資産に該当しないローカル市場の特徴と、無形資産に該当するかもしれない契約上の権利、政府から許諾されたライセンス、当該市場を開拓するために必要とされるノウハウ等を識別している。LSAを有効に活用できる状況というのは、LSAに結びついて追加的な価値を生じさせるかもしれない補完的かつ希少な「権利」を得る過程を通じてのみである。

LSAの属性は、追加コスト負担を必要とせずにその便益を享受できるすべての市場参加者にとって共通して利用可能であるため、単にLSAが市場において形式的に存在するだけでは、MNEにとっての経済的な価値はなくなる可能性がある。

LSAから生じる所得

LSAの移転価格分析では、その存在の有無を特定することが出発点となる。MNEがLSAを享受しているという単純な認識は根拠に欠ける場合がしばしばあることに留意する必要がある。なぜなら、とりわけ、MNEが製造やサービス事業を特定の地域に設置するのは、ビジネス環境に単に適応するため、コスト削減を強いるマーケットの競争圧力による場合があるからである。このような場合は明らかに、ロケーションセービングの恩恵は当該企業の最終顧客がすべてまたは部分的に享受することとなる。この点は新ガイドラインと整合しており、新ガイドラインはLSAと関連したロケーションセービングの利益配分は、「ロケーションセービングがMNEグループに所属する企業によって保持されている、もしくは独立した顧客またはサプライヤに転嫁されている程度」を判断してから決定するよう推奨している。

新ガイドラインによれば、ロケーションセービングの測定には、ローカル市場の特徴に関連した便益とコストの両面の検討が必要であり、移転価格分析の対象となるのはロケーションセービングの「ネット」金額のみとしている。ロケーションセービングの文脈では、特定地域から得られる便益(メリット)は、費用増額につながる経済的な負担(デメリット)によって相殺され得る。デメリットには、運搬費用、保証費用、資本費用の増加や、遠方に所在する事業を管理するための経済的コストおよび間接費用の増大が挙げられる。コストセービングの一部について、電力源の品質や信頼性、運搬費用の増加、品質管理など、不十分なインフラを原因とするデメリットによって相殺されるということが時に起き得る。したがって、ロケーションセービングのネット金額(節約されたコストから増加したコストを引いた差額)のみが高コストの税務管轄地から低コストの税務管轄地に事業を移転することで生じる超過利益をMNEに対して生じさせることになろう。

新ガイドラインは、LSAによってロケーションセービングのネット金額がプラスであるという前提の上で、以下を明確に確認して、LSAをとりまく事実関係と状況を把握するための十分な機能分析を行うことを推奨している。

  • LSAが存在するか否か
  • LSAのネット金額
  • LSAがMNEグループに所属する企業に保持されている、または独立の顧客あるいはサプライヤーに転嫁されている程度
  • LSAが完全に独立の顧客あるいはサプライヤーに転嫁されていない場合、類似の状況において事業を行う独立企業が、保持されたネットのロケーションセービングをどのように配分するか

新ガイドラインはさらに、比較可能性の向上につながる信頼性のある調整方法がある場合、MNEにロケーションセービングをもたらす「LSAを説明し得る適切な比較可能性の調整を加えるべき」ことを述べている。

ここで重要なのは、MNEグループに所属する二つ(あるいはそれ以上)の企業の間で、ロケーションセービングを信頼性のある方法で配分することが可能な現地の適切な比較対象企業を特定することができるかどうかである。移転価格の観点から厳密にいうと、LSAが存在している場合、LSAの配分は各当事者の機能、資産、リスクおよび各自の交渉能力によって決定される。完全競争市場の下で競争と価格圧力にさらされた企業は、競争力を維持するために追加的な便益を最終顧客に転嫁しようとするものだ。したがって、そのような企業は、同じ地域で類似の機能とリスクを有する第三者の比較対象企業が獲得する利益を上回る利益を得ることはできない。このため、ある特定の地域において提供されるLSAがある場合は、すべての地元企業が同様に享受することが可能といえる。独立企業間においては、どの企業もその市場において他の比較対象企業の獲得している利益を超える利益を得ることを期待することができない。これらは、LSAによる収益が存在する場合、それは比較対象企業の利益率に織り込み済みであることの論理的な説明となる。

このような考え方は一般的ではあるものの、信頼性のある比較対象企業と、所与の状況において価格の均衡を保つ市場要因があって初めて成立する。完全競争市場でない場合や、市場が不完全で独占が生じている場合においては、比較可能性そのものが損なわれ、利益率の比較は妥当でないと判断され得る。

ロケーションセービングが存在し、適切な比較対象企業が特定されない場合、どのように当該便益を分割するかという問いが生じるが、新ガイドラインはその答えを示していない。経済的な観点からいうと、ロケーションセービングの配分は、相対的に高い交渉能力を発揮した取引当事者の方に多く配分されるべきと考えられる。これは、交渉と経済的に優れた能力に基づいてしばしば価格が決定されるという独立企業間における交渉のシナリオに似ている。独立企業原則にのっとった移転価格は、まさにこうした独立企業の行動を関連者間取引の結果に反映させようとするものである。

独立企業間では、取引当事者間におけるロケーションセービングの配分は、相対的な交渉ポジションにのっとって行われる。その相対的な交渉ポジションは各当事者の経営目的、リソース、阻害要因に基づくものである。その配分は、各当事者の市場における存在感、無形資産の所有権、相対的な競争力、機能リスクと資産、そして最も重要な要因である、現実的に利用可能な別の選択肢の有無に基づく可能性がある。

また、シャープレイ値に基づくアプローチ(Shapley Value-based approach)の利用といった経済学的な手法からも、適切な比較対象企業が存在しない場合においてロケーションセービングを分配する方法の目安を得られるかもしれない。シャープレイ値は、分析上の仮定に基づいて、複数の企業間で報酬を公正に配分する方法を検討するための概念である。仮定は「グループの複数企業が協力し、その協力の結果として全体の報酬を獲得するとする」である。

このとき企業間でグループへの貢献度が異なるかもしれず、どのようにして公平に報酬を配分するか、という課題が生じる。言い換えれば、各企業は事業全体に対してどれほど重要であり、どれほどの報酬を合理的に期待できるか、という問題が生じる。このアプローチの下では、あるグループの全体での成果のうち、個々のメンバーに帰属する配分は、当該メンバーが加入する前のグループに対して当該メンバーが果たす貢献に依存する(つまり、新しいメンバーがその努力に基づいて自身が得るべきと考える配分ではない)。

中国およびインドにおける考え方

LSA、特にロケーションセービングの考え方は発展途上国の間で少しずつ注目を集めてきたが、とりわけインドと中国においては、税務当局がこの概念を法令と税務調査の両方に取り入れてきた。

中国

2012年、中国国家税務総局(State Administration of Taxation:以下「SAT」)は、国連移転価格マニュアルにおいて「China Country Practices」の章をリリースし、中国の移転価格実務上の見解を発表した。当章によると、ロケーションセービングとは「低コストの税務管轄区域にて事業を起こす際にMNEによって生み出されるネットの費用削減」である。マーケットプレミアムは「サービスや商品の販売および需要に影響を与える固有な資質の存する税務管轄区域内で営業することによりMNEが享受する追加的利益に関係する」とされた。

国連マニュアルの中国に関する章の中で、SATは自動車産業を具体的な例として挙げ、LSAとして、“技術のためのマーケット(market-for-technology)”産業政策、地元消費者の嗜好と需要、関税負荷の節減、現地生産規制、および低コストサプライヤーを挙げた。

2015年9月17日、SATは改訂版特別納税調整実施弁法のディスカッションドラフトを公表した。当該ディスカッションドラフトでは、はじめて中国の移転価格規定の中にLSAの概念が導入された。当該ドラフトは、移転価格算定方法を決定したり、比較対象企業を選定に当たって比較可能性を検討する際には、現地の経済的要因を考慮することを中国納税者に要請するとともに、無形資産の存在およびそれらの価値を決定する際にはLSAを考慮することを要請している。SATは最終規定を2015年末までに公表する予定である。

SATは、概して中国市場には適切な比較対象企業が存在しないとの立場をとっている。税務当局は、LSAを評価および配分することは、適切な比較対象企業が不在の前提においては困難であることを認めている。そのため、当局は中国に所在する企業が適正な利益を得ているかを検討するに当たり、納税者のバリューチェーンを理解し、LSAを含む中国法人の貢献要素に関する分析において実用的なアプローチをとる傾向にある。

以下の例のとおり、多くのケースにおいて、LSAから生じる経済的貢献を測定するために、SATはLSAを定量化する数学的手法を適用する。

  • 委託研究開発のケースについて(国連マニュアルのChina Country Practicesの章に記載されているとおり)、SATは中国納税者のコストベースを先進国の親会社のコストベースと比較している。そしてSATは、ロケーションセービングにより中国に帰属する追加的な利益を計算するために、コストベースの差異を参照して、フル コスト マークアップの調整を行うとしている。
  • 他のケースにおいて、SATは中国納税者の売上単位毎の販売費用を海外親会社の売上単位毎の販売費用と比較し、その結果として、同じ売上単位を得るために、中国納税者はより少ない販売費用を負担することを示した。費用水準の差異は、中国市場におけるLSAの証拠とされ、その便益は製造およびマーケティングの無形資産のような他の要因とともに、残余利益分割を通じて補償されるべきとしている。

SATは他のケースにおいても、他の数学的手法を適用している。

インド

インドにおける規制において、ロケーションセービングおよびLSA、ローカル市場の特徴に関する具体的な指針は示されていない。しかし、具体的な法令を欠く中でも、インド税務当局は国際的な指針に基づくロケーションセービングの概念を採用している。

近年の税務調査では、インド税務当局は、MNEが安価な熟練労働力、原材料、インフラ等の生産要素を容易に利用して大幅なコスト削減を享受していることを理由として、いくつかの移転価格更正を実施している。インド税務当局の見解は、高コストな税務管轄地からインドなどの低コストな税務管轄地に事業を移転したことにより生じる経済的な便益は、実際に事業活動が行われる国に帰属するべきというものである。インド税務当局は、ロケーションセービングが存在するとしても、現地の比較対象企業の利益率に組み込まれているというような納税者が主張する意見を受け入れていない。したがって、インド税務当局は比較可能性が十分ではないという姿勢をとっている。現地の比較対象企業を用いたベンチマーク分析はロケーションセービングによる便益を考慮していないとされ、当該便益はいくつかのケースにおいて、低コストの国と高コストの国の費用レベルの差異を考慮して算出された。このため、独立企業原則に則したコスト削減およびロケーションセービングの便益の配分は、取引当事者の両方が利益を得られる形で行われなければならない。さらに、配分するに当たっては、両当事者間のコストセービングに係る適切な割合を反映しなければならず、両当事者に半分ずつ配分されたケースもある。

インド税務当局の見解は、現地の比較対象企業が存在する場合、ロケーションセービングおよびLSAに対する別途の報酬は必要ないとするガイドラインおよびいくつかのインド裁判所の判決と相反する。Watson Pharma Pvt. Ltd.のケースにおけるムンバイ所得税審判所(Mumbai Income Tax Appellate Tribunal)による画期的な裁決では、審判所は、本件に関する要素、つまり、完全競争下におけるビジネス環境、当事者の交渉能力、両者にとっての現実的に利用可能な選択肢およびバリューチェーンにおける超過利益の不在を検討した上で、納税者の営業利益率が、納税者と同じような経済環境で運営する現地市場の比較対象企業を基に設定されているのであれば、ロケーションセービングによる利益は考慮する必要はないとしている。この裁決はGAP International Sourcing (India) Pvt. Ltdのケースのものと類似している。Watsonの裁決もまたセーフハーバーのルールに関する Rangachary Committee リポートに述べられた見解に沿ったものである。その他にも、Li Fungのケースでは、インド税務当局が納税者の経済分析を恣意的に却下する前に、インド子会社が地域固有の優位性からどの程度の便益を享受したかを証明することができなかったとして、デリー高等裁判所は移転価格更正を否認した。

最近では、その他の裁判でも類似した見解が受け入れられている。こうした結果はインドの裁判所のロケーションセービングおよびLSAに関する移転価格の考え方が成熟し、国際標準に近くなってきていることを示している。

結論

LSA、ローカル市場の特徴やロケーションセービングという概念は、途上国において重要な課題として浮上してきている。BEPSのガイドラインは、初めてLSAの存在と配分を分析するに当たり、共通の枠組みを設定した。新ガイドラインによると、LSA自体は無形資産には該当せず、一義的には比較可能性の調整要素として取り扱われるべきものであるとされている。今後重要となる問題は、ローカル市場の比較対象企業が、ロケーションセービングの妥当な配分を行うに当たり適切なものであるか、ということである。いくつかの国の税務当局、特に中国やインドの税務当局は、適切な比較対象企業は存在しないという立場を示してきた。BEPSガイドラインは、この状況について答えを明らかにしていないため、ロケーションセービングの配分を決定するための受入れ可能なアプローチに関する判断はMNEと税務当局に託されたことになる。

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