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第4章 無形資産

The new transfer pricing landscape
新たな移転価格の展望(全9章)
-BEPSに伴う変化への実務ガイダンス-

OECD移転価格ガイドライン第6章の改訂案は、リスクに関する新たな指針を含むもので、OECD移転価格ガイドライン第1章における投下資本に対するリターンの考え方に関する変更と整合的な内容となっており、中でも無形資産の開発、改良、維持、保護、活用に関連する重要な機能に対するリターンに特に重きを置いている。(The new transfer pricing landscape:第4章)

はじめに

OECD移転価格ガイドライン第6章の改訂案には、移転価格上の結果と価値創造の一致を確保するためのBEPSに対する取組みの中でOECDおよびG20によって採用された最も重要な変更事項のいくつかが含まれている。改訂案はリスクに関する新たな指針を含むもので、OECD移転価格ガイドライン第1章における投下資本に対するリターンの考え方に関する変更と整合的な内容となっており、中でも無形資産の開発、改良、維持、保護、活用(以下「DEMPE1」)に関連する重要な機能に対するリターンに特に重きを置いている。新ガイドラインは、現在の実務に著しい変化をもたらすものと考えられる。なお、今回の公表内容に利益分割法に関する新たな指針は含まれておらず、この点に関する指針の公表は2016年または2017年まで延期されている。

 

1 Development, Enhancement, Maintenance, Protection and Exploitationの頭文字を取ったものである。

無形資産の定義

新ガイドラインの内容は前回のドラフトからほぼ変更されていない。新ガイドラインでは、価値あるものが無形資産の範囲に含まれないとする主張を避けるために無形資産を広範に定義している。このような拡張的なアプローチは、多くの国々における近年の国内法整備の動きと軌を一にするものであるといえよう。

また、新ガイドラインは、無形資産を以下のように定義している。

(1)有形資産にも金融資産にも該当しないものであること、(2)商業活動において使用するために所有や支配が可能なものであること、(3)比較可能な条件下で行われる独立企業間の取引であれば、その使用や移転について対価性が生じるものであること。なお、無形資産は、商業用語でいう「知的財産」を含むものの、これに限定されるものではないと解される。

新ガイドラインは、移転価格の観点から無形資産を特定するに当たって、非関連者間の比較対象取引であればどのような内容で合意が形成されるかという点に着目している。無形資産の広範な定義は、会計上もしくは法律上の定義や性質に依存するものでもなければ、移転価格税制以外の税務に依存するものでも、そこへの適用を意図したものでもない。新ガイドラインは、移転価格分析において、無形資産の存在や無形資産の使用もしくは移転の有無を注意深く検討するべきとしており、結果、例えば、必ずしもすべての研究開発費用やすべてのマーケティング活動が無形資産を構築・改良するわけではないということになる。

法律や契約、その他形式での保護の有無や程度は、通常、無形資産の価値に影響を与えるが、定義上、それは問われない。同様に、単独で譲渡できることも、ある特定のものを移転価格上の無形資産と位置付けるための必要条件ではない。この点は、新ガイドラインの「Goodwill(のれん)」の性質に関する検討において言及されている。また、新ガイドラインは、移転価格上の無形資産に位置付けられるものとそうでないものについて検討を行っている。

税務上の無形資産

税務上の無形資産でないもの
(ある特定の1社に所有・支配されていないもの)

  • Ÿ特許
  • ノウハウ、企業秘密
  • 商標、商号、ブランド
  • 契約や政府の許認可の権利(労働力の提供に関する契約責任を含む)
  • 無形資産に関するライセンスおよびそれと類似する限定的権利
  • のれん、継続企業価値
  • Ÿグループシナジー
  • 市場固有の特性(例:現地消費者の購買力、
    ロケーションセービング)
  • 集合労働力

 

新ガイドラインは、移転価格分析の実施では、関連する無形資産を明確に特定することが重要であり、曖昧に把握された無形資産や特異性のない無形資産を認識するだけでは不十分だとしている。また、機能分析においては、論点となる関連する無形資産の特定とともに、当該無形資産が検証対象取引においてどのように価値創造へ貢献し、価値創造の過程で他の無形資産、有形資産、事業活動とどのような相互関係があるのかといった点についても特定しなければならない。

無形資産の開発および活用に対応するリターンに関する権利

新ガイドラインのB節では、ある無形資産から生じた利益全体を、当該無形資産に関連して果たされた機能、使用された資産、DEMPE機能に伴うリスクの間でどう配分するのかという困難な問題を扱っている。B節は、OECD移転価格ガイドライン第1章の改訂案として、契約期間、リスクおよびリスク管理に関する新たな指針を含んでいる。本節の優れた点は、OECD移転価格ガイドラインの第1章から第3章に従って独立企業原則を適用するという方向性を示しているところであろう。そのため、B節の分析は、実際のリターンでなく、予測リターンに基づくものである。実際のリターンを考慮することが適切となる場合に関しては、評価困難な無形資産(Hard to Value Intangibles)を対象とする第6章で別途検討されている。

B節における新たな指針は、無形資産の使用対価は、当該無形資産の法的権利を有する者に対して支払われるべきとしている。しかし、無形資産の法的所有者以外の者がDEMPE活動に関与し、資金を提供し、さまざまなリスクを負う場合は、当該活動を対象とする別個の取引を検討する必要がある。新ガイドラインは、このような場合に、無形資産の使用により生じた所得をその法的所有者に帰属させないことを示唆しているわけではなく、移転価格上、自ら行っていない活動に関しては法的所有者が対価を支払うべきという認識を示しているといえる。新ガイドラインは、知的財産の法的所有者であっても、単に無形資産を保有しているだけでは、他の関連者にその貢献に応じた対価を支払った後、利益が得られない可能性も明示している。

新ガイドラインは、契約について、各関連者の役割、責任および権利に関する説明に有用であり、関連者間取引を特定・分析する際の参照先になり得るものとしている。したがって、関連企業は、契約の中で自らの意思表示を行うことが推奨される。一方で、新ガイドラインは、実際の想定、リスク管理、DEMPE機能の実施が、契約上の合意によって取り決められたものと異なる場合は、活動の実態に基づいて移転価格分析が行われるべきということを明確化している。

新ガイドラインは、無形資産の法的所有者がDEMPE機能すべてを自ら実施する者である必要はないとしており、独立企業であっても、時として当該機能を他社に委託することを認識している。したがって、独立企業原則を前提にすれば、関連者が類似の行動をとることが許容される。新ガイドラインによれば、外部委託される活動について「外部委託サービス」対価を設定するためには、当該活動は当該サービス提供者以外の者に管理されるべきだとしている。この場合、実施される機能の内容を理解でき、機能が適切に実施されているか否かを見極めることができ、かつ、当該機能の重要な側面に関して最終意思決定者となり得る事業体であれば、外部委託される活動の管理を行っていると認められるであろう。新ガイドラインは、無形資産の法的所有者が外部委託した活動を十分に管理していない場合には、当該活動の受託者であろうとなかろうと、実際に当該活動を管理している者に対して適切な対価を支払うべきことを明らかにしている。

新ガイドラインでは、果たされる機能に対して支払われるべき対価を決定する際、一定の状況下では、ある「重要な機能」が「特別な意義」を持つとされている。それは、通常、重要な機能が無形資産の価値に重要な貢献をするからである。下記のリストは包括的なものではなく、あくまでイメージとして挙げたものである。そのため、場合によっては、リストに挙げたどの項目も特別な意義を持たないこと、また、リストに挙げていない項目が特別な意義を持つこともあるといえる。

  • 研究やマーケティングに関するプログラムの策定および管理
  • 漠然とした研究に関する方向性の決定等、創造的な活動の方向性および優先順位の決定
  • 無形資産開発計画に関する戦略的決定の統制
  • 予算の運用および管理
  • 無形資産の防衛および保護に関する重要な決定
  • 無形資産の価値に重要な影響を与え得る独立企業もしくは関連会社が果たす機能に関する継続的な品質管理

実際、非関連者間でもそうであるように、他者が専門知識を有している場合には、そのような者の判断にゆだねることがビジネスの観点から合理的となることから、上記の活動はいずれも他者が実施することも考えられる。移転価格の実務者は、「極めて重要」な活動を調べて特定した上で、実際の取決めが独立企業原則に沿ったものであることを示さなければならない。新ガイドラインは、重要な機能のうち極めて主要な部分を担う者が検証対象企業となる場合には、片面検証の移転価格算定方法の信頼性が著しく低下するという点について注意喚起している。無形資産の法的所有者は、極めて重要な機能の実施・管理を行わない場合、実際に担う他の機能に係るわずかなリターンしか得ることができないだろう。仮にこれらの極めて重要な機能が非関連者間では外部委託される性質のものでなければ、移転価格分析において適切な比較対象取引を見つけることはできず、結果的に利益分割法を適用するか、場合によっては、取引の再構築が必要となる。

新ガイドラインの新たな側面の一つとして、DEMPE機能の実施に係る資金を提供する企業を認識し、その資金提供に見合った対価を支払うべきとしている点が挙げられる。新ガイドラインは、プロジェクトへの資金提供に伴う財務リスクや新たな無形資産の開発への資金投入に伴う開発リスク等について、提供された資金が投入される事業活動に伴う事業リスクとは区別している。新ガイドラインは、資金提供する企業が、事業リスクの負担・管理を行わずに財務リスクのみを管理する場合は一般的に、当該資金提供者については資本コストや現実的な代替投資等といったリスク負担を勘案したリターン(Risk-adjusted return)のみが期待されるとしている。また、新ガイドラインは、財務リスクの管理にあたって、資金提供する企業は、開発プロジェクトが収益予測に与える影響や追加的な資金提供の必要性の判断等、リスクを伴う事業機会に関する意思決定を行うとともに、当該事業機会に伴うリスクにも対応しなければならない。さらに、資金提供者は、財務リスクの管理に当たり、リスク低減を図るための日常的な活動を行うべきであり、活動を外部委託する場合においても、当該活動を適切に管理しなければならないとされている。なお、財務リスクを管理しない資金提供者は、リスク フリー リターンのみを享受することとなる。

新ガイドラインは、無形資産を伴う取引において重要となり得るリスクをいくつか挙げている。

  • 無形資産の開発に関するリスク(開発が失敗するリスク等)
  • 競合他社の技術進歩や、その他の要因が製品を陳腐化させるリスク
  • 権利が侵害されるリスク
  • 製品保証リスク
  • 無形資産からが生み出されるリターンに関する活用におけるリスク

OECD移転価格ガイドライン第1章の規定に沿って、関連するリスクを実際に管理・負担している者は、このような活動に対して報酬を与える二次的な取引を通じて、当該リスクに伴う損益を計上することとなる。逆に、関連するリスクについて管理も負担もすることなく、重要な機能も担わない企業は、リターンの予測と実績が異なることにより生じた利益を得ることはなく、また損失を負担することもないと考えらえる。OECD移転価格ガイドライン第1章は、契約によって特定のリスクを割り当てられた企業が当該リスクを負担する財務的な能力を有するのであれば、たとえ他の企業も当該リスクを管理していたとしても、上記の契約によるリスク割り当てを認めることとしている。

無形資産の評価

新ガイドラインで、両当事者にとって現実的な選択肢の検討を求めることにより、今後納税者が無形資産の評価に当たって移転価格算定方法を選択する際に、取引単位利益分割法や割引現在価値法(以下「DCF法」)が「最適な移転価格算定方法」となる可能性はますます高まったといえる。また、新ガイドラインは、独立価格比準法(以下「CUP法」)の適用に耐え得る適切な比較対象取引を見つけることは、多くの場合において困難であるとの見解を明らかにしている。

現実的に利用可能な選択肢

新ガイドラインは、無形資産取引に係る比較分析において、取引の両当事者にとって現実的に利用可能な選択肢を考慮する必要があり、一面的な比較可能性分析は不適切であるとの考えを大いに強調している。さらに新ガイドラインは、一方の企業を取り巻く特定の事業環境は、他方の企業が実際に選択可能なオプションと矛盾するような帰結を裏付けるものとして使用されるべきではないとしている。新ガイドラインは、無形資産を移転する者は、移転者自身が移転される権利を有効に活用する能力がないというだけで、実際に他の選択可能なオプションよりも不利な価格を受け入れることにはならないことを示す事例を紹介している。また、その他の事例では、無形資産の譲受人は、買い取った無形資産の権利をその事業において利用したとしても利益の獲得を見込むことができなければ、そのような譲渡価格は受け入れられないことが示されている。

新ガイドラインでは、関連者間の無形資産取引における価格は、取引の各当事者が現実的に選択可能なオプションと整合的で、納税者は最適な資源配分を見出そうとするであろうという仮定にも矛盾しないものとして設定することができるとの立場をとっている。また、新ガイドラインは、双方にとって現実的に選択可能なオプションを考慮しても、各社にとって受入れ可能な価格が存在しない場合には、OECD移転価格ガイドライン第1章の新たな指針に従い、実際の取引が否認されるべきかどうかについて検討する必要が生じ得るということについても留意を促している。

比較可能性分析

新たに加えられた補足的な指針では、比較可能性分析に当たって、無形資産のユニークな特徴を評価することが不可欠であることを明らかにしている。これは、CUP法を適用する際に特に重要となるが、比較対象取引に依存する他の算定方法を用いる際にも関係してくる。比較可能性の決定において重要な要素として、移転された無形資産と比較した時の比較対象候補の実績上あるいは潜在的な収益性や、移転された無形資産が将来世代の製品の開発時間を削減させるような基盤として使用され得るのかといった点が挙げられる。なお、新ガイドラインは、公的あるいは民間のデータベースから取得された比較対象に係る情報が、新ガイドラインにおける比較可能性に関する基準を充足するに足るほどに十分詳細なものとなっているかという点には疑問を呈している。

新ガイドラインは、比較可能性を高めるための調整による調整金額が全体の評価額の大部分を占める場合、当該調整は信頼できるものではなく、そのような場合にはその比較対象とされた無形資産は、実務上有効な移転価格分析をサポートする上で十分な比較可能性を有していない可能性があると述べている。また、新ガイドラインは、無形資産移転時の評価にCUP法を適用する場合における高い比較可能性の基準を事実上要求しており、OECDも、多くの場合において、無形資産を伴う取引について信頼性の高い比較対象取引の特定は困難あるいは不可能であるとの見解を明確に示している。

移転価格算定方法

最適な移転価格算定方法の選定は、多国籍企業の国際的な事業のプロセスや、移転される無形資産が国際的な事業を構成するその他の機能、資産あるいはリスクとどのように影響しあうのかといった点に関する明確な理解を基礎とする機能分析に基づいて行われるべきである。機能分析では、負担するリスク、市場の特殊性、地理的要因、事業戦略、多国籍企業のグループシナジー等を含め、価値創造に貢献するすべての要因を特定すべきである。また、選定された移転価格算定方法や、その際に比較可能性分析に基づいて行われるあらゆる調整についても、無形資産やルーティン機能のみならず、価値創造に実質的に貢献するすべての要素を考慮したものとするべきであろう。

新ガイドラインは、無形資産の移転については、具体的な事実関係によって、OECDが定める五つの移転価格算定方法のうちいずれかが最も適切な移転価格算定方法となり得るとしている。とはいえ、新ガイドラインは、再販売価格基準法(RP法)および取引単位営業利益法(TNMM)といった片面検証の方法は、すべての残余利益が無形資産の所有者に配分されることを想定する手法であること等から、一般的に無形資産取引の検証に当たって信頼性の高い方法ではないという点についても留意を促している。さらに新ガイドラインは、無形資産の開発費用と開発された無形資産の価値もしくは移転価格との間にはほとんど相関性がないことから、無形資産の開発費用に基づいて無形資産の価値を計算しようとする移転価格算定方法は一般的に推奨されないものとして扱っている。以上の文脈を踏まえ、新ガイドラインでは、一つ以上の無形資産の移転が伴う事案において最も有効となり得る移転価格算定方法はCUP法と取引単位利益分割法であり、また評価手法も有効なツールとなり得ると結論付けている。

とはいえ、新ガイドラインは上述のとおり比較可能性について高い基準を設定していることから、実務上CUP法の適用は困難であると考えられる(近い時期に非関連企業から買収を行った場合、適切な内部CUPが存在する場合、同一の結果をもたらす無形資産の選択肢が複数存在する場合を除く)。

新ガイドラインは、CUP法を適用できない場合に、利益分割法は、開発された無形資産の評価をする際の信頼性の高い算定方法になり得ることを示唆している。ただし、上記のとおり、利益分割法の適用に関する指針は2016年または2017年まで延期されている。

さらに新ガイドラインは、無形資産の独立企業間価格を算定する際には、DCF法等、いわゆるインカムアプローチに基づく方法を含む評価手法が適用可能であるかもしれないとしている。また、新ガイドラインは、DCF法の適用の指針にも言及している。評価手法の適用に当たっては、その分析の基礎となる前提条件を検討することが不可欠となるが、新ガイドラインは、特に以下の項目について考慮すべきとしている。

  • 財務予測の正確性
  • 成長率に関する仮定
  • 割引率
  • 無形資産の耐用年数および継続価値
  • 税務に関する仮定
  • 支払方法

今後の影響

多くの場合、新ガイドラインは、企業のマーケティングや技術に関する重要な無形資産の開発や活用に関して、どのように価値が創造されているのかといった点について極めて深く理解しておくことを企業に求めることとなる。今後企業は、無形資産取引に伴う具体的なリスクを特定することや組織内で当該リスクを管理している者を特定することに特段の注意を傾けなければならない。

ある企業が、単に関連者と契約しているだけの場合、開発プロセスの管理監督を実施し得る本質的な機能を果たさずに知的財産開発を請け負い、資金提供者に生じるすべての残余利益を獲得することはもはや不可能といえるのかもしれない。これは、自社の適格な人材または彼らが管理するほかの人材がそのような機能・能力を有しているという実績を示すことができることを意味すると言える。これらのルールを遵守することは、重要な機能がいくつものグループ内企業に割り当てられているような複雑な構造を持つ企業にとっては特に困難を伴うこととなるだろう。その他にも、特定の管理機能を果たすための人員の異動が必要とされたり、特定の管理機能に人員を追加的に配置する措置が必要となる可能性がある。

新ガイドラインとその事例は、無形資産によるリターンの主なドライバーは、一連の個別取引とひとまとめの無形資産であることを前提としている。しかし、多くの実例では、企業が複数の無形資産を保有していたり、種類が異なる無形資産とのシナジー効果により無形資産の価値が生み出されるような場合もある。上記のような場合において、すべての無形資産を対象とせず、一部の無形資産に関する開発活動について期待されるリターンのみを算定することは、難しい問題となる。

また、実務的な問題として、重要なリスクや機能について同時に文書化しておくことと、リスクや機能を担い、また管理している企業を特定しておくことも必要となるだろう。新ガイドラインでは、開発活動の開始前に、また何らかの枠組みが構築される前に、上記のような分析を実施しておくことが求められている。多くの例において、各社が事前にどのような予測を立てていたのかを評価し、またリスクを負い、その管理を行っていたかのが誰であったのかといった点について、数年後に税務当局から質問を受けた段階で正確に特定することは非常に困難だろう。このように考えると、多くの場合において、重要な無形資産構築活動の状況をリアルタイムで把握するために必要な情報を有していない企業には大きな管理上の負荷がかかることになるものと考えられる。

最終報告書は、複数の企業が共同で価値ある無形資産の構築に貢献している場合において、当該無形資産から生じたリターンを各社の間でどのように配分するかについては、ほとんど指針を示していない。また、新ガイドラインにある事例は極めて単純化されたものであるといえる。例えば、一方の企業が重要なリスクや活動を担い、あるいは管理を行っており、他方の企業が単純にサービス収入か融資に対するリターンのみを収受しているという事例が用意されている。しかし、仮にそうであったとしても、企業として、どの事業体が最も価値創造に貢献しているかを特定するという大きな課題と潜在的な論点に直面することになる可能性は否めない。

結論

無形資産に関するOECD移転価格ガイドライン第6章の改訂は、第1章の改訂とともに、移転価格の結果と価値創造を一致させるというOECDとG20の目標を明確にすることに成功しているといえよう。OECDとG20は、資金は潤沢であるにもかかわらず最小限の機能しか有していない事業体(キャッシュボックス)が無形資産の開発、改良、維持、保護、活用により生じた残余利益を獲得することを防止するという目標を達することになるだろう。

新ガイドラインは、知的財産の移転価格設定について文書化を行うために、更に多くのリソースを費やすことを企業に求めることとなると解される。しかし、たとえ綿密な評価を行ったとしても、新ガイドラインは、無形資産から生じるリターンの適切な配分について、長期に渡る論争の火種を増加させることになるだろう。そのため、多くの企業は、無形資産に関する論争を解決するための二重課税排除に向け、多大な時間を要することになりかねない相互協議実施が必要になるだろうことを認識しているものと考えられる。

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