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第6章 低付加価値グループ内役務提供

The new transfer pricing landscape
新たな移転価格の展望(全9章)
-BEPSに伴う変化への実務ガイダンス-

「低付加価値グループ内役務提供:移転価格ガイドライン第7章の改訂」では、納税者が低付加価値グループ内役務提供について文書を作成するにあたって簡素化されたアプローチを選択する場合には、グループ内の法人から享受する特定の便益を詳細に記述するのではなく、特定のカテゴリーに該当する役務による便益をグループ内の法人より享受していることを示すのみで足りるとしている。(The new transfer pricing landscape:第6章)

はじめに

本社およびシェアードサービスセンターが行うグループ内の業務支援に係る対価は、一般的に当該業務支援に要した費用を配賦基準に基づきグループ内の各法人へ配賦した上で、その費用自体、あるいは、費用にマークアップを付加したコストプラス法に基づき設定されている。世界中の税務当局は、過剰なマネジメントフィーや本社費用配賦によりMNEグループが税源を浸食する可能性を引き合いに出して、このようにして配賦された費用についての疑念を表明してきた。現行のガイドラインの下では、税務当局がMNEグループに対し、グループの各法人が享受する便益について、大規模に行うことが現実的ではないかもしれないほどの厳密さで証明することを求める可能性があり、もし解決策を見いだせなければ、納税者は損金否認や相互協議の申立て、あるいは二重課税に直面することになるかもしれない。

OECDによるBEPSプロジェクト行動8~10「移転価格の結果と価値創造の一致」の最終報告書では、「低付加価値グループ内役務提供:移転価格ガイドライン第7章の改訂」のセクションが設けられている。本ガイドラインでは、低付加価値の役務提供が行われる場合に、役務提供対価の支払の必要性について決定(便益テスト)、および、独立企業間の対価を算出するための、選択的かつ簡素化されたアプローチを導入している。

既存のガイドラインとは異なり、新ガイドラインでは、納税者が低付加価値グループ内役務提供について文書を作成するにあたって簡素化されたアプローチを選択する場合には、グループ内の法人から享受する特定の便益を詳細に記述するのではなく、特定のカテゴリーに該当する役務による便益をグループ内の法人より享受していることを示すのみで足りるとしている。各国の税務当局が簡素化アプローチを導入すれば、低付加価値グループ内役務提供に係る文書作成に当たり納税者の負担を軽減する可能性がある。

最終報告書では、BEPSプロジェクトに参画する国々が実施に向けた二つのステップによるアプローチに合意したことが示されている。まず第1のステップとして、2017年までに多くの国で選択適用が認められる簡素化アプローチを各国の国内法に導入する。次に第2のステップとして、グループ内での管理費用や本社費用の回収に大きな懸念を示す国については、一定の閾値の設定とともに、閾値を超過する場合に、税務当局が便益の検証方法を含む詳細な移転価格分析を要請することを可能にする指針を導入することを認める。閾値の設定方法やその他実施に係る論点については、引き続き検討作業が行われ2016年末までには完了することが予定されている。

簡素化アプローチ

以下のすべての条件に当てはまる役務提供は、簡素化アプローチを適用することができる。

  • 支援的な性質の活動である
  • MNEグループの主たる事業を構成する活動ではない(すなわち、収益を生み出す活動、あるいは、MNEグループの経済的に重要な活動に貢献する活動ではない)
  • 独自かつ価値ある無形資産の使用を必要とせず、また、独自かつ価値ある無形資産の創出につながらない活動である
  • 役務提供者が相当程度または重要なリスクを負担する、あるいは管理する活動ではなく、また、役務提供者にとって重要なリスクを新たに生じさせる活動ではない

新たなガイダンスでは、簡素化アプローチの適用に当てはまらない活動の例として、研究開発活動や製造活動、販売活動、マーケティング活動、金融取引、調査、採取等が挙げられている。また、経営幹部により提供される役務についても除外されている。このことは、企業が全本社費用をベースに単純に簡素化アプローチを適用することはできず、むしろ反対に、企業は簡素化アプローチの適用に当てはまるグループの費用を特定しなければならないことを示している。

また、新たなガイダンスでは、簡素化アプローチの適用が当てはまる可能性がある活動として、米国の移転価格税制の下でサービスコスト法の適用対象となる役務提供と類似する活動である、例えば、会計および監査、人事、事業上の規制に関連する業務、社内外のコミュニケーション、IT、法務、税務補助、総務および事務補助等の活動が具体的に例示されている。

簡素化アプローチが適用される活動について、独立企業原則にのっとった役務提供対価は以下のステップに基づき算定されることとなる。

  • ステップ1: 低付加価値役務提供に該当する活動のカテゴリーごとに、役務提供者のみが便益を享受する活動の費用は除いた上で、年間単位でプールされる費用の額を集計する。プールされた費用のうち、パススルーコストについては特定する必要がある
  • ステップ2: グループ内の一つの拠点のみに提供される役務に係る費用は除外する
  • ステップ3: 集計された費用について、収益や資産の額、従業員数やITのユーザー数等、簡素化アプローチにおける配賦基準を用いて、グループ内の各法人へ配賦する(配賦基準については、各カテゴリーの役務提供により、各受益者が享受すると考えられる便益を合理的に反映可能な要素を選択する必要がある)
  • ステップ4: 配賦された費用に対し5%のマークアップを付加する。当該マークアップについては、ベンチマークスタディに基づき証明される必要はない
  • ステップ5: グループ内の各法人が支払うべき正味の対価を算出する
  • ステップ6: 当該対価を裏付ける簡易な文書を準備する

最終報告書では、低付加価値グループ内役務提供の本質にかんがみると、役務提供に係る一般的なガイダンスに基づく対価についての文書を準備することは、困難であったり、あるいは、その対価の金額に見合わない労力の要求につながる可能性があると述べている。

このような理由から、新しいガイダンスではガイダンスの中で示されている文書作成上の要件を満たしているのであれば、税務当局は(簡素化アプローチが適用されている場合に)、便益の内容について精査することや異議を唱えることは慎むべきであると述べている。

納税者については、以下の文書を保持していることが要求される。

  • 提供される役務が低付加価値グループ内役務提供のどのカテゴリーに該当するかの記述
 - 各カテゴリーの役務提供について、簡素化アプローチを適用することの合理的な理由
 - 当該MNEの事業の背景から、役務提供を行うことの合理性
 - 各カテゴリーの役務提供により供与されるであろう便益に係る記述
Ÿ - 選択された配賦基準に係る記述と選択理由の合理的な説明
Ÿ - 適用するマークアップの確認
  • 役務提供の取決めに係る書面や契約書
  • 役務の全カテゴリーについての詳細な一覧や該当費用の金額を含む、対象費用総額の算出方法が分かる計算過程
  • 各配賦基準の適用方法が分かる計算過程

新しいガイダンスでは、上記の情報が税務当局へ提示できるように準備されている場合には、役務提供のカテゴリーを記述した年1回の1枚の請求書で役務提供対価の裏付けとしては十分であり、(連絡や報告等の)それ以外の証憑は要求されるべきではないと述べている。

シェアードサービスセンター

新しいガイダンスでは、シェアードサービスセンター、あるいは、本社により提供される低付加価値役務提供を区別していない。

そのため、最終報告書にて示されている勧告は、シェアードサービスセンターにより提供されるグループ内の役務提供にも等しく適用されるものと考えられる。

費用分担契約

費用分担契約(Cost Contribution Arrangement:以下「CCA」)に係るガイダンスの事例2では、低付加価値役務提供をグループ内で分担する異なるアプローチが掲載されている。CCAの要件を満たす場合には、別途分担されているシェアードサービスセンターの費用を除き、管理費用や本社費用を、マークアップを付加しない実費に基づき分担することが可能な場合がある。本事例は、3%あるいは5%の独立企業間でのマークアップを適用する役務提供については、低付加価値役務提供に該当することを示している。

CCAに一つ難点があるとするならば、CCAの参加者は、簡素化された便益テストを行うことはできず、また提供する役務が各参加者に便益を供与することを示すことが依然として要求されていることである。

考察

簡素化アプローチは、低付加価値役務提供により供与される便益や配賦基準の合理性、適用するマークアップを裏付けるためにMNEが費やす時間や労力を軽減する可能性がある。MNEにとって簡素化アプローチが選択肢の一つとなるか否かは、全世界の税務当局がどのように、またどの程度、当該ガイダンスを履行するか次第である。

役務提供者の所在国であることの多い先進国では、簡素化アプローチは広く導入される可能性が高いと考えられる。簡素化アプローチは概して、各対象法人へ便益を供与する役務提供の詳細を示すための証憑を保持する本社の負担を軽減し、また紛争を減少させる可能性がある。

米国のMNEにとっては、基本的なアプローチは米国の移転価格税制の下でのサービスコスト法と大筋で一致しており、米国規則ではマークアップの付加を求めていない。今回米国がマークアップの付加を求めるようにルールを変更するか否かは、現時点では明らかではない。

役務提供の受益者やシェアードサービスの取決め上の役務提供者であることの多い途上国へ及ぼす影響については不透明である。多くの途上国は、管理費用や本社費用に基づき提供される役務は、現地の市場との関連性が薄く、また当該役務提供の費用は現地の役務提供者の費用を上回っていると主張している。これらの国々は、今回のガイダンスは役務提供の費用が一定の閾値を超えない場合に限定すべきであるとの要求を行ってきた。今回のガイダンスにより簡素化できるか否かは、こうした閾値の設定やその執行次第であり、2016年に決定される予定である。また、多くの途上国は、より安価な人件費やその他費用を活用するシェアードサービスセンターの所在国である。これまで途上国は、対象費用に付加するマークアップについて、市場特有の利益が考慮されるべきであると主張することがあった。これらの国々が、ガイダンスの中で対価として想定している5%のマークアップを受け入れるか否かは、現時点では明らかではない。

結論

低付加価値役務提供に係る今回のガイダンスは、グループ内での管理費用や本社費用の対価設定方針や文書作成の要件を簡素化し、また紛争を減少させる可能性があるものと考えられる。しかしながら、MNEが簡素化された方法を適用するためには、グループ内役務提供の対象法人の所在国において、当該ルールが導入および適用される必要がある。各国が設定する役務提供対価額に係る閾値を満たすことを理由に当該ルールを実施しないことがどの程度容易になるのか、あるいは、当該ルールにおいて示されている対象費用に付加するマークアップが十分でないとして当該ルールを実施しないことがあるのか、依然として不明である。

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