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第7章 費用分担取極め

The new transfer pricing landscape
新たな移転価格の展望(全9章)
-BEPSに伴う変化への実務ガイダンス-

2015年10月5日に公表されたOECDの新しい移転価格ガイドラインでは、費用分担取極め(Cost Contribution Arrangement:CCA)に資金を拠出する参加者に対し、より多くの実態を備え、多くの場合においてCCAへの貢献を評価する方法の変更を必要とするような指針が示された。新ガイドラインが、CCAに対する管理上の関与の増大および広範囲に及ぶモニタリングを求めていると考える企業もあるであろう。(The new transfer pricing landscape:第7章)

はじめに

費用分担取極め(Cost Contribution Arrangement:以下「CCA」)とは、その取極め参加者たちが行う貢献によってもたらされる便益を各々公平に獲得できるという想定のもと、(1)有形または無形資産の開発、生産や取得、あるいは(2)サービスの実施のために行う貢献や関連するリスクを参加者が分担するための契約上の取極めのことである。

2015年10月5日に公表されたOECDの新しい移転価格ガイドラインでは、CCAに資金を拠出する参加者に対し、より多くの実態を備え、多くの場合においてCCAへの貢献を評価する方法の変更を必要とするような指針が示された。新ガイドラインが、CCAに対する管理上の関与の増大および広範囲に及ぶモニタリングを求めていると考える企業もあるであろう。

CCAの最終指針は以前公表されたドラフト案から幾分変更されている。貢献を決定するために費用を用いることの有効性、管理や実態の要件および金融リターンの要件等、議論の的となる点について若干の修正が加わったものの、その大部分はドラフト案で示されたものと整合している。本稿では、新CCAガイドラインの概要、ドラフト案から変更された点のまとめおよびCCAの導入を検討している多国籍企業にとって実務的に考慮すべき点を指摘している。

ガイドラインの概要

新ガイドラインでは、資産開発CCAとサービスCCAの両方を対象としている。資産開発CCAとサービスCCAの主な違いは、予測便益のタイミングと引き受けるリスクの水準に関するものである。資産開発CCAは一般的に現在および将来の便益を実現することが期待されている一方で、サービスCCAは現在の便益を実現することが期待されている。資産開発CCAは一般的にサービスCCAと比べてより大きなリスクを伴う。OECD移転価格ガイドライン第8章での議論の大部分はより複雑な資産開発CCAに焦点を当てており、サービスCCAには限られたコメントのみが提供されている。

新ガイドラインは、(1)CCAとそれに類似した属性を持つその他の取引を考えるとき、取引実態と分析評価の間に一貫性があること、(2) CCAに関連するか否かにかかわらず、無形資産に関する価格設定と価値評価に係る指針を整合させること、および、(3) CCAに関連するか否かにかかわらず、Development(開発)、Enhancement(改良)、Maintenance(維持)、Protection(保護)、Exploitation(活用)機能(以下:「DEMPE機能」)の評価に一貫性を持たせることを目的としている。結果として、CCAに関する章では、契約(第1章D節)、リスク(第1章D節)、無形資産の移転(第6章)資金提供リスク(第6章)、便益のあるサービスの識別(第7章)、および文書化要件(第5章)に関する経済的に関連する特徴についての分析に関して共通のフレームワークを確保するため、これらの個別の章への参照がなされている。第8章における新たなガイドラインでは、複数の取引を行い、共有便益が生まれるCCAが導入される際の追加的な指針が示されている。

CCAの正確な認定

CCAは引き続き契約上の形式よりも取極めの実態に基づき評価される。したがって、取引の記述が契約上の取極めに示される経済的に関連するリスク、責任の分担や便益の分割から始まるとしても、最終的にはCCA参加者の実際のリスク、責任および予測便益のみが貢献の評価に関係があるといえる。つまり、実務上の観点において、CCAの参加者は、変化する事業上のニーズや機会に基づいて、必要に応じてCCAを適宜維持および更新する必要がある。

CCAとして認められる基準

貢献は予測便益を反映すること、およびCCA参加者すべてがCCAの目的から得られる便益を享受することに関して合理的な期待を持つという、CCAの根本的な要件は変わっていない。しかし、新ガイドラインの下では、参加者すべてが取極めから生じるリスクをコントロールし、リスクを引き受ける財務能力を持ち、CCAの導入段階でCCAの成果物に対して、明らかな利害関係を持つ必要がある。CCAがこれら条件を満たさない場合、取極めは税務当局により資金提供取引として再構築されるかもしれないし、また、極端な場合においては、否認されるかもしれない。実務上は、全体的に見てCCAが商業上の合理性を欠く場合に限り、否認されるであろう。

コントロール

ガイドラインでは、CCA参加者は「(1)CCAに参加することによって生じるリスクを負担する機会の引受け、回避、または低減に関する意思決定を行う能力を有し、かつ当該意思決定機能を実際に果たし、かつ(2)機会に関連するリスクに対応するか否か、および、どのように対応するかに関する意思決定を行う能力を有しかつ当該意思決定機能を実際に果たしていなければならない」と記載されている。これは、CCAへの参加に伴うリスクを分析し、参加の是非について知見に基づいた意思決定を行える人材を、CCAの参加者それぞれが有している必要があることを意味していると解釈できる。参加者はリスク低減に係る日常的な活動を実施する必要はないものの、少なくとも、リスク低減の意思決定に関する的確なアドバイスをもらうための契約を第三者と結ぶ能力、および委託に基づき第三者によって行われるリスク低減活動の方針を決定する能力を有している必要がある。

すべてのCCA参加者が開発リスクのコントロールをしなくてはならないという要件は難しい課題となる。現行のCCAの多くにおいては、一つの参加者が主に開発の責任を負い、CCAの技術的な方針やプロセスをコントロールしている。研究開発部隊を管理する参加者は、その他のCCA参加者からのインプットや相談を求めることなく、技術的な方針に関する戦略的な意思決定を行い、部隊を率いるのが典型的である。一方で、新ガイドラインはすべてのCCA参加者から開発に関する積極的な助言を要求している。これは特に、すべてのCCA参加者が技術的な面で経験豊かな人材を有していなければ、即時に実行または実現することは難しいと考えられる。

資金提供のリターン

CCAの参加者はCCAに付随するリスクを引き受けるための財務能力を有するべきである。したがって、CCA参加に伴う財務的なコミットメントとリスクに、参加者の資本、負債および期待収益(収益を得るタイミングを含む)が整合している必要がある。もし、あるCCAの参加者の役割が、主にいわゆるキャッシュボックス参加者と呼ばれるような資金提供であれば、新ガイドラインでは、当該参加者がCCAで開発される無形資産のDEMPE機能に関するリスクを管理しコントロールしていない限りはCCAからのリターンが限定される。もし、CCAの参加者が資金提供に関するリスクをコントロールしている場合(いわゆる“スマート”キャッシュボックス)、そのリターンはCCAに投下された資金に対して事前に決められたリスク調整後のリターンに限定される。この場合のリターンはCCAに関連した資金の機会費用や代替投資を行ったとした場合の予測リターンを反映するべきである。そうしたリターンとは、その企業や業界の加重平均資本コストであるかもしれない。もし、資金提供者がリスクの管理やコントロールを行わないのであれば(いわゆる“愚かな”キャッシュボックス)、資金提供者はリスクを伴う投資を行う参加者とはなり得ず、そのリターンはリスクフリーリターンに限定されるだろう。

予測便益

CCAによる予測便益は、CCA導入時に予測に基づき各参加者に関し決定される必要がある。新ガイドラインによれば、一般かつ広範に適用される基準として、CCAの参加者は「後知恵を用いることなしに参加者によって合理的に予見可能なすべての出来事を考慮し、独立した企業であれば類似の環境下で受け入れたであろう予測かどうか」決めるべきである。この基準は、定性的で主観的でもあることを踏まえると、従うには困難が伴う基準である。実際には、参加者はその他の事業計画のために用いた正式な事業予測や主要なマクロおよび産業経済指標を考慮しつつ、そうしたものがどのように同期間の予測や会社全体の業績と相関するのかを考慮するだろう。

CCAの導入時に特定した期待利益はCCAの期間を通じて実際に実現した利益とはかけ離れているかもしれない。新ガイドラインは、税務当局にとっても収益予測を作成するために用いられた前提を検証することは容易でないことを認識している。これらの問題は、予測便益が実績となるのに数年先だってCCA関連活動を始めるような場合に、より深刻になる可能性がある。その結果、新ガイドラインは、便益の相対的な持ち分を変化させるような環境の変化を反映させるために、CCAの各参加者が行う貢献の割合を定期的に再評価し、再評価時点以降の貢献割合について可能な調整を加えるよう推奨している。もし、CCAにおける貢献が第6章の4.D節で議論されている「評価の難しい無形資産(Hard-to-Value Intangibles)」を含むのであれば、それらの規定はCCAにおける貢献にも適用される。

CCAにおける貢献の評価

新ガイドラインは、既存の有形・無形資産、あるいはCCAの枠組み下で現時点で行われている開発役務によるものかを問わず、すべての貢献は、OECDガイドラインの第1章から3章および6章に記載されている具体的な指針や評価方法を用いて、それが拠出・提供された時点において評価される必要があることを明確にしている。資産開発CCAの場合、貢献とは研究開発やマーケティングのような役務の提供や、有形資産や無形資産の拠出を含む可能性がある。新ガイドラインが明確にした重要な点は、(CCA導入時点で)既になされた貢献の価値は、その貢献が開発活動と関連して将来的に生み出すと期待されている価値に基づいて評価されるとしたことである。これは、CCA導入以前に既に構築された無形資産がCCAに対して拠出された際には、相乗効果による価値という要素を評価において取り込む必要があり得ることを示唆している。一方で、CCA導入後に行われる貢献はその機能の価値に基づいて評価されるべきで、CCAや開発中の無形資産を背景とした潜在的な価値に基づいて評価されるものではない。

新ガイドラインでは、費用は、それが役務(または機能の)提供に対する独立企業間価格であるとみなされない限り、もしくはマークアップの徴収をせずに、その役務(または機能の)提供の価値による既存の貢献としてマークアップを計算して含めない限り、価値の概算として認められない。したがって、あるCCA参加者によって行われる研究開発役務や管理役務は、CCA進行中の貢献として、費用よりはむしろ機能の価値に基づき記録されるべきである。例えば、CCAが二者により構成されると仮定する。参加者Aは研究開発活動を行い、費用は100を費やしているが、その価値は(その活動単独で評価して)コストプラスで20%とする。参加者BはITの開発活動を行い、費用は100を費やし、その価値は(その活動単独で評価して)コストプラスで10%とする。もしCCAの各参加者がそれぞれ2,000の便益を期待したとすると、貢献価値の50%である[(120+110)×50%=115]の各参加者への配分がCCAには反映されるべきであり、補償支払として参加者Bから参加者Aに対して5が支払われるべきである。以前のCCAの規則では、各参加者による100の費用による貢献として計算されることが許容されていたため、予測便益との均整を実現するための調整はこの例では必要ではなかった。

もし、CCA参加者が管理上の簡便さのために費用を配分することを選択する場合、(CCA導入時点で)既になされたCCAに対する貢献(役務に関連した独立企業間マークアップの現在価値、つまりCCAに資源を提供することを事前にコミットしたことによる機会費用に等しくなる)として定められ、説明されなくてはならない。しかし、新ガイドラインは貢献の価値と費用の差異が相対的に重要でない場合の例外を挙げている。そうした環境下では、費用がCCA導入後の貢献の相対的な価値を測る実務的な手段として使用できるとしている。

以前のガイドラインと整合するように、新ガイドラインはCCA活動に限定的、かつ直接関連する費用に加え、CCA活動をサポートする費用(間接費)も同様に費用に含めるべきとしている。間接費は家賃、情報システムの使用料や管理サポート費用も含まれる可能性がある。これらのサポート費用は会計基準に規定される会計上の取扱いを考慮して、商業上妥当な方法でCCAの費用プールに配分されなくてはならない。間接費の配分は、CCA参加者所在国の会計基準がそれぞれ大きく異なる場合に、いくつかの課題をもたらすかもしれない。

費用における予算vs実績

上述のような、費用をCCA進行中の貢献の価値の決定に用いることが許容される状況で、どのような要因が予算の策定において考慮されるか、および実際の費用に影響を与える予測不能な状況にどのように対処するかについて参加者間で合意があるのであれば、参加者は一般的に予算上の費用を用いるものと考えられる。一方で、新ガイドラインは、「現状の貢献を測る上での適当な基準が費用であるといえる場合、実績費用を基準として用いることで十分だろう」とも述べている。

調整的支払

新ガイドラインでは、もし各参加者が行う貢献の価値が予測便益の割合と整合すれば、そのCCAは独立企業原則に沿っていると述べられている。もし、貢献が実際の便益と大幅にかい離していたり、または予測便益の再評価が実施される場合には、各参加者の貢献の水準を正すために調整的支払を行うことが要求される。CCAは契約書において、こうした状況下で調整的支払を行うとする要件を含むべきである。

新ガイドラインは、もし参加者による貢献が行われたときにその価値が誤って評価されていたり、CCAの予測便益が誤って評価されていたりすると税務当局が判断した場合に、税務当局が調整的支払を要求する可能性についても言及している。これらの調整的支払は、CCA参加者の判断によるものか、税務当局の判断によるものかにかかわらず、支払側の参加者の貢献の追加として扱われ、受取側の参加者の貢献の減少として扱われる。調整的支払の性質や税務上の取扱いは各国の税法に従って決定される。

新ガイドラインは、実務でこれらのルールがどのように適用されるかについて、いくつかの疑問を生じさせる。例えば、新ガイドラインは、CCAの貢献はそれが行われた時の便益の割合と一致している必要があるとし、予測便益と実際の便益の差異に基づく貢献の変更は(遡及的ではなく)将来を見通した形で行われなくてはならないとしている。そのため、将来に行われる貢献は期間中すべての貢献を考慮しなければならないことになる。そうすると、将来の貢献はそれが行われた時の便益の割合と必ずしも整合しなくなることになる。

バイインおよびバイアウト支払

新ガイドラインはCCAの参加者に変更があったときに生じるバイインおよびバイアウト支払の税務上の取扱いおよびその評価に関して旧ガイドラインから変更していない。バイイン支払の額は、新しい参加者がCCAにもたらす資産の価値とCCAから受け取るはずの期待便益の割合を考慮しながら、新しい参加者が得る無形資産および有形資産の持ち分の価値に基づく。新しい参加者がCCAに貢献を行う場合、バイイン支払の価値は当該貢献と相殺される。同様のルールが参加者のバイアウトにも適用される。

文書化要件

新ガイドラインは第5章で詳述されている文書化規定を参照しながら、CCAに関連して具備すべき文書の詳細を示している。文書化については従前のガイドラインと大部分で整合しており、米国の費用分担に係る文書化要件とも相当程度一致している。

新ガイドラインはCCAの導入初期に備えることが望ましい文書のリストと、CCA期間を通じて保存しておくことが有益であろう情報のリストも含んでいる。後者のリストには取極めの変更、予測便益を決めるために用いられた財務予測と実際の便益との間の比較、CCA活動により発生した年間費用や、これに関連してCCAに対する各参加者の貢献の形式と価値、各参加者の貢献分を決定するための方法などが挙げられている。

今後の影響

CCAに関する新ガイドラインは従前のCCAに関するガイドラインを大部分踏襲している。しかしながら、ルールに関する数少ない幾つかの変更によって、CCA参加者は重大な課題に直面する可能性が高い。特に、新たな実態とコントロールに関する要件や、既存および現在の貢献の評価基準に費用を採用することへの制限の導入、資金調達についてリスクの大小も踏まえた説明の必要性、予測便益を決定するための厳格なプロセスを構成する要素に関して限定的でしかない指針、ならびに予測と実際の便益の差異を埋めるための調整を伴う定期的な再評価に関する規定をCCAは含むとの想定、これらすべては新規CCAの展開、または既存CCAの維持に重大な実務上の課題を提示することだろう。

結論

CCAに関する新ガイドラインは、第1章で示された取引とリスクに係る正確な認定の変更、および第6章で示された無形資産に関する変更に関して用いられた基本原則を採用している。各国は現在これらのガイドラインを精査し、どのように導入するかを検討している。現在既存のCCAを管理している企業にとって一つの大きな問題は、新ガイドラインを導入する国々が、特に費用ベースの貢献やコントロールの要件など、(今回の新ガイドラインの導入によって大きな影響が出うる)微妙な領域に関して、既存のCCAに配慮したルールを設けるかである。もし、そうしたルールを設けない、もしくは設けたとしても相互に整合しないならば、既存のCCAを有する多国籍企業は、CCAへの影響を税務管轄ごとに見定め、必要と思われる構造的な変更の内容を定めるために、こうしたルールを注意深く確認する必要があるだろう。

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