ナレッジ

第9章 紛争解決メカニズム

The new transfer pricing landscape
新たな移転価格の展望(全9章)
-BEPSに伴う変化への実務ガイダンス-

OECDは、2015年10月5日にBEPS行動14の最終報告として「効果的な紛争解決メカニズムの策定(Making Dispute Resolution Mechanisms More Effective)」を公表した。行動14は税務当局に向けた内容ではあるが、納税者側も、租税条約を通じた迅速な紛争の解決および二重課税案件の減少を可能にするという点で、この行動により大きな恩恵を受け得るものと考えられる。(The new transfer pricing landscape:第9章)

はじめに


OECDは、2015年10月5日にBEPS行動14の最終報告として「効果的な紛争解決メカニズムの策定(Making Dispute Resolution Mechanisms More Effective)」を公表した。行動14は、各国が相互協議を通じて租税条約上の紛争を解決する上での障害(多くの租税条約に仲裁条項が含まれていないこと、相互協議や仲裁の申立てが特定の状況下で拒否される可能性があること等)に対処するための解決策を打ち立てることを目的としている。行動14は税務当局に向けた内容ではあるが、納税者側も、租税条約を通じた迅速な紛争の解決および二重課税案件の減少を可能にするという点で、この行動により大きな恩恵を受け得るものと考えられる。

行動14は、行動15「二国間条約の改訂のための多国間協定の策定」に言及している。行動15は、行動14で提言されている内容の実施において、非常に重要なものとなると考えられる。強制的で拘束力のある仲裁協定を含むと見られる多国間協定の交渉には、近時アメリカが参加を表明している。

ミニマムスタンダードおよびベストプラクティス

紛争解決に関するガイドラインには、「ミニマムスタンダード」、すなわち、効果的かつ効率的な相互協議を妨げる障害を解消するための具体的な対応策について記載された紛争解決に係る要件の実施に関する各国のコミットメントが含まれている。その具体的な対応策として、OECDモデル租税条約に関する説明および場合によってはOECDモデル租税条約への修正案が含まれる。その他のOECDモデル租税条約のコメンタリーに関する修正案は、最終報告の結論を反映するため次回のOECDモデル租税条約草案の一部として更新される予定である。

紛争解決に関する最終報告には、相互協議を通じた条約関連の紛争の解決を妨げる障害への対応策の一部は、ミニマムスタンダードの一部ではなくベストプラクティスとして提示されることが適切である、という各国の合意が反映されている。その理由は次の2点である。まず、ミニマムスタンダードの構成要素とは異なり、これらのベストプラクティスは容易にモニタリングや評価を行うことができない主観的または質的な特性を持っていること、およびすべてのOECD加盟国およびG20諸国が現段階でこれらにコミットする意向を示しているわけではないことが挙げられる。ベストプラクティスは必須条件ではなく、各国が採用を検討すべき示唆という位置付けである。

紛争解決に関する最終報告には、各国の税務当局にミニマムスタンダードおよび多くのベストプラクティスの導入を促すことになるであろう相互審査プロセスが含まれており、初回の審査は2017年末までに公表される予定である。OECDは、過去に透明性および租税情報交換協定に係るネットワークに関連した相互モニタリングプログラムで成功を収めており、この紛争解決に関する各国での法律および実務の公表が有効な執行メカニズムとなることを意図している。

ミニマムスタンダード

ミニマムスタンダードには、迅速、効果的かつ効率的な租税条約上の紛争の解決を徹底するための具体的な対策が含まれる。ミニマムスタンダードは、以下三つの体系だった原則を採択している。

1.   各国は、相互協議に関する条約上の義務を誠意をもって履行すること、および相互協議が迅速に解決されることを保証すべきである。

ガイドラインでは、OECDモデル租税条約第25条に規定されている紛争解決メカニズムは、租税条約締結の際に締約国が負う義務の不可欠かつ最も重要な部分を構成しているとしており、したがって租税条約第25条の文言のとおり、納税者に相互協議申請の機会を与えることを含め、締約国は誠意をもってこれを履行する必要があると述べている。ガイドラインでは、税務当局が国内法もしくは条約上の条約濫用防止ルールを適用する場合でも、条約濫用防止ルールの適用が条約に沿ったものであるかを判断するため、納税者は相互協議申請の権利を有するべきであることを強調している。

各国は平均24カ月以内で相互協議を解決するよう尽力すべきであり、またそのターゲットの達成に向けた各国の進捗は、合意された報告の枠組みに従い、準備された統計値に基づき定期的にレビューを受けることになろう。

2.   各国は、行政手続が租税条約上の紛争の回避および迅速な解決を促進させることを保証すべきである。

ガイドラインでは、権限ある当局が、条約規定について客観的な見解を持ち、それらを各納税者の個別案件の事実や状況に対し公平かつ一貫性のある方法で適用するという自らの義務を十分かつ効果的に遂行できる環境を保証するためには、適切な行政手続および実務慣行が重要であるとしている。このミニマムスタンダードの構成要素は、相互協議プロセスの透明性、税務執行の内部業務、また権限ある当局の機能に関連する、相互協議を通した紛争の回避または迅速な解決に関する多くのさまざまな障害に取り組むことを目的にしている。例えばガイドラインでは、各国の相互協議担当者が、当該案件の課税を実施した税務担当者の同意や指示を受けることなく、適用される租税条約の規定に従って相互協議案件を解決する権限を持つことを各国が保証すべきであると推奨している。

さらにガイドラインでは、各国は、更正を継続した金額や税収を維持したことに基づく業績評価指標により、権限ある当局や相互協議担当者を評価すべきではないとも述べている。より適切な業績評価指標としては、相互協議を解決した件数や、相互協議の解決までに要した時間等が考えられる。

3.   各国は、適格な納税者が相互協議を申請できることを保証すべきである。

ガイドラインは、納税者がより相互協議を容易に申請できるよう、モデル租税条約第25条の内容について多数の修正を提言している。例えば、源泉課税を受けた場合、相互協議の申請先を限定しない(居住地国・源泉地国のいずれでも良いとする)、もしくはそういった条項の変更がないのであれば、相互協議の申請を受けた居住地国政府から源泉地国政府に行政上通知するシステムを導入する等である。

適格な納税者が相互協議を申請できるようにするため、ガイドラインは、相互協議申立書とともに納税者に提出を求める具体的な資料および情報を各国の発行する相互協議ガイドラインにおいて特定することを、とりわけ推奨している。各国は、納税者がここで要求された情報を提供した場合、不十分な情報が提供されたとの理由で相互協議申立てを制限すべきではない。また各国は、国内法の期間制限により、権限ある当局による相互協議の実施が妨げられることがないよう保証するための措置を導入すべきである。

ベストプラクティス

行動14で求められている業務は、ミニマムスタンダードの三原則に関連する多くのベストプラクティスを明らかにしている。これらのベストプラクティス(ミニマムスタンダードの一部ではない)は、各国に以下の事項の実施を推奨している。

  • 二国間事前確認(APA)プログラム
  • 特定の場合および最初の課税後において、納税者が申請する事業年度において繰り返し発生している問題に関して、相互協議を通して、将来年分を含む複数年にわたる問題の解決を求めることを認めるための適切な手続
  • 相互協議が継続されている期間、税金の徴収を一時的に停止するための適切な基準。税金徴収の一時的な停止に関しては、最低でも、国内の行政手続もしくは司法救済を求める者に対して適用する場合と同じ条件を適用すべきである
  • 税務調査担当者に、相互協議の手続および国家間の更正を行うことにより生じる帰結を認識させるための適切な研修プログラム
  • 相互協議の手段をとることを促進する適切な手続
  • 納税者発信の調整に関して相互協議申請を認める手続

各国は、相互協議と、国内法における行政救済や司法救済との関係に関し、自国で公表する相互協議ガイドラインにおいて説明すべきである。これら公の相互協議ガイドラインでは特に、相互協議において権限ある当局が自国内の判決に従うよう法的な拘束を受けるものとするのか、もしくは権限ある当局が行政上の方針または慣例として自国内の判決から逸脱できないのかという点に焦点を当てる必要がある。

モニタリングメカニズムの概観

行動14に関するガイドラインは、ミニマムスタンダードに盛り込まれた要求事項が効果的に充足されているかどうかを確認するため、ミニマムスタンダードの実施状況は相互モニタリングメカニズムによって評価されるべきであるという合意を反映している。相互モニタリングメカニズムは強固な執行手段ではないようにも見えるが、モニタリングシステムの実施により、税務当局がミニマムスタンダードをより迅速かつ効果的に採用することが期待されている。

当該ガイドラインでは、モニタリングメカニズムの概要が明らかにされている。すべてのOECD加盟国、G20およびミニマムスタンダードを表明した国・地域は、自らのミニマムスタンダードに関する審査を受けることとなる(各国・地域の租税条約や、国内法および規則によって規定される法の枠組み、各国・地域における相互協議プログラムガイドラインおよび実際のミニマムスタンダードの実施に関する評価を含む)。相互モニタリングプロセスの主要な成果物は報告書形式となることが見込まれる。当該報告書では、現状存在する長所・課題が特定・記載されるとともに、審査対象国・地域における、当該課題への対処方法の提言も記載される予定である。

強制的で拘束力のある相互協議仲裁へのコミット

OECD加盟国およびG20諸国は、特にアメリカが強く望んできた、相互協議事案の解決を確実にするためのメカニズムとしての仲裁の採用について合意するには至っていない。最終報告では、20カ国が強制的で拘束力のある仲裁を採用し実施することにコミットしたと示された一方で、当該20カ国の間でも、その規定の範囲について異なる見解を示していることが分かる。なお20カ国とは、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、日本、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、スロベニア、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリスおよびアメリカである。OECDに寄せられた報告によると、これら20カ国は2013年末において未解決の相互協議件数のうち、90%以上の案件に関与している。ただし、これらOECDに寄せられた報告には、近年移転価格税制の執行が増加している多くの発展途上国(OECD非加盟国)が含まれていないことに留意する必要がある。強制的で拘束力のある相互協議の仲裁条項に関する検討は今後、BEPS行動15において想定される多国間協定の議論の一部として進展していくであろう。

多国間協定

BEPS行動15は、BEPSプロジェクトの過程で進展した租税条約の措置を効率的に実施し、3,000以上の租税条約に係る既存の国際ネットワークでの再交渉の必要性をなくすため、多国間協定の交渉において既存の租税条約を改正するよう要求している。多国間協定を開発するための特別グループの専門家による初会合は2015年11月5日より開始されており、2016年中に作業を終了し多国間協定を策定するという意欲的なスケジュールを見込んでいる。これまでに90カ国がこの協議への参加を表明しており、当初は参加を拒否していたアメリカも、現在では参加意欲を示している。

多国間協定にあっては、適用可能な部分における強制的で拘束力のある仲裁を含む相互協議の変更を含むものと見込まれている。

すべての国が多国間協定のすべての局面に参加することを想定しているわけではない。例えば、一部の国々が、双方居住者の枠組みや条約濫用の課題に対応する条項を含めるよう自国の租税条約を改正しようとする一方、他方の国々は、現在の租税条約でそれらの課題は適切にカバーされていると信じていたり、もしくは、単にこのような条項を租税条約に含めることを拒否する可能性もある。

多国間相互協議および仲裁条項は、移転価格の論争への対処として特に関係が深い。世界各国での強制的な仲裁条項の経験については公表されていないが、アメリカでは強制的な仲裁条項が相互協議の迅速な解決に一定の貢献を見せているようである。

結論

BEPSに関するOECDやG20による行動の一般的な結論、および特にリスクと無形資産における新たなルールにより、事実認定調査の重要性・必要性が高まっている。過去の事例を見ても、事実の解釈に依存する税法は、納税者と税務当局の間での論争件数を増加させる傾向があるといえる。このような状況において、紛争解決のガイドラインは相互協議を改善するために、税務当局と納税者にとって歓迎されるロードマップとなるはずである。膨大な取扱い件数や人的リソース不足によるプレッシャーにさらされている多くの国では、当該ガイドラインは直接的なプロセスの手助けにはならないだろう。しかし、当該ガイドラインが、相互審査システムとともに、各国において効果的かつ効率的な相互協議のために必要とされる人的リソースを充てることを促すものとなることが期待される。これにより、ビジネスの確実性および予見可能性を確かなものにするという最終目標を達成する、相互協議の本質的な改善につながるであろ

 

関連サービス

サービスのご案内

経済の国際化に伴い国外関連者との取引はますます複雑となり、その内容も有形資産から無形資産やサービス取引へと拡大しています。また「移転価格税制」が全世界的に適用強化の傾向にある中で、デロイト トーマツ グループは企業が海外ビジネス戦略の目的を遂行しつつ、各国の移転価格税制を遵守し、移転価格更正リスクや対応コストを低減するためのコンサルティングサービスを提供します。

お役に立ちましたか?