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平成28年度税制改正における新移転価格文書化制度のポイント

『国税速報』平成28年5月23日号

2015年10月にOECDからBEPSプロジェクト行動13の最終報告書が公表されたことを受けて、日本では措法66条の4、措令39条の12および措規22条の10を改正するとともに、措法66条の4の4および5、措令39条の12の4、措規22条の10の4および5を追加するなどして、新たな移転価格文書化制度を創設しました。(『国税速報』平成28年5月23日号)

【疑問相談】移転価格税制

「平成28年度税制改正における新移転価格文書化制度のポイント」

Question:
BEPSプロジェクトの最終報告書を受けて、日本でも移転価格文書化に関する新たな法令が導入されたことは認識しているのですが、具体的にどのような点が従来の制度と異なるのでしょうか。また、企業として実務上特に押さえておくべきポイントはどのような点でしょうか。

Answer:
日本における新たな移転価格文書化制度は、平成28年度税制改正に盛り込まれ、平成28年4月1日を施行日とする「所得税法等の一部を改正する法律」等により具体化されました。改正内容は、基本的にOECD移転価格ガイドライン第5章の改訂版と位置付けられるBEPS プロジェクト行動13の最終報告書と足並みを揃えたものとなっており、特にローカルファイル(移転価格文書は独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類として財務省令で定めるもの)・国別報告事項・マスターファイル(事業概況報告事項)からなる「三層構造の移転価格文書化」の制度が導入された点は、従来の我が国の移転価格文書化制度と大きく異なる点であるといえます。

実務上の論点は多岐にわたりますが、新たな文書化制度への対応に当たっては各文書の概要、適用時期、提出ないし作成・取得・保存の期限、提出方法、担保策といった点を把握しておくことが重要であると考えられます。

【解説】

1. 背景

2015年10月にOECD からBEPS プロジェクト行動13の最終報告書が公表されたことを受けて、日本では措法66条の4、措令39条の12および措規22条の10を改正するとともに、措法66条の4の4および5、措令39条の12の4、措規22条の10の4および5を追加するなどして、新たな移転価格文書化制度を創設しました。

行動13は多国籍企業による租税回避を防止するため、多国籍企業に一定の情報開示を求めることによって、税務当局がその活動やタックス・プランニングの実態の把握に関する透明性の向上を図るための勧告をまとめたものであるといわれていますが、我が国の文書化制度も同様の趣旨で整備されたものと考えられます。

2. 各移転価格文書の概要

(1) ローカルファイル

日本では平成28年度税制改正前から「独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類」が規定され、いわば間接的な形で文書化制度が設けられていましたが、平成28年度税制改正により、国外関連取引を行った法人については、OECDの最終報告書のローカルファイルに相当する文書を申告期限までに作成または取得及び保存する義務(同時文書化義務)が直接課されることになりました(措法66の4 ⑥、措令39の12、措規22の10等)。これらの書類の提出を求められた場合、45日以内の指定日までに提出する必要があります。ただし、前事業年度において一の国外関連者との間で行った国外関連取引が取引金額50億円未満、かつ無形資産取引金額3億円未満である場合には、当該一の国外関連者との間で行った取引(同時文書化免除国外関連取引)については、同時文書化義務が免除されることになっています。

一方、税務当局より同時文書化対象国外関連取引について独立企業間価格を算定するために重要と認められる書類(ローカルファイルの基礎となる事項・関連する事項を記載した書類等)を求められた場合や、同時文書化免除国外関連取引について独立企業間価格を算定するために重要と認められる書類(ローカルファイルに相当する書類、その基礎・関連事項等)の提出を求められた場合には、その日から60日以内で指定される期限までに提出する必要があります。

以上を整理すると下表のとおりとなります。

国外関連取引

対象文書

申告期限までの作成・取得義務

提出期限

同時文書化対象
国外関連取引

独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類

あり

45日以内の指定日

独立企業間価格を算定するために重要と認められる書類

なし

60日以内の指定日

同時文書化免除
国外関連取引

独立企業間価格を算定するために重要と認められる書類

なし

60日以内の指定日


ローカルファイルは個々の国外関連取引に関する詳細情報を提供するものと位置付けられ、記載項目については、措規22条の10の改正を通して従来よりも広範かつ具体的になっています。改正内容は、基本的にOECDの最終報告書別添2を慮したものになっていますが、一部変更されています。

(2)  国別報告事項

国別報告事項は、税務当局がハイレベルな移転価格リスク評価を行うための情報(主に定量的なデータ)をまとめたもので、直前会計年度の総収入金額が1,000億円以上ある多国籍企業グループ(特定多国籍企業グループ)の最終親会社等または代理親会社等である内国法人(一部例外あり)に対して新たに提出義務が課されることとなりました(措法66の4の4、措令39の12の4、措規22の10の4等)。

具体的な記載事項は措規22条の10の4第1項に規定されており、基本的に、OECD が最終報告書別添3に掲げた項目が反映されたものとなっています。

(3) マスターファイル

マスターファイルは、税務当局が重要な移転価格リスクを特定できるように、グループ全体の組織や事業の概要等について記載するもので、特定多国籍企業グループの構成会社等である内国法人または恒久的施設を有する外国法人に対して新たに提出義務が課されることとなりました。

具体的な記載事項は措規22条の10の5第1項に規定されており、基本的に、OECD 最終報告書別添1に掲げた項目が反映されたものとなっています(措法66の4の5、措規22の10の5等)。

3. 実務上のポイント

実務上の論点は多岐にわたりますが、基本的なポイントまとめると以下の表のとおりとなります。

 

適用時期

提出ないし作成等の期限

提出方法

担保策

言語

ローカルファイル

2017年4月1日以降開始する各事業年度分

作成・取得期限 → 確定申告期限

保存年限 → 原則7年間(国内保存)

書面(電磁的記録を含む)

推定課税・同業者調査

指定なし

国別報告事項

2016年4月1日以降開始する最終親会社等の各会計年度分

提出期限 → 最終親会社等の各会計年度終了の日の翌日から1年以内

e-Tax

30万円以下の罰金

英語

マスターファイル

2016年4月1日以降開始する最終親会社等の各会計年度分

提出期限 → 最終親会社等の各会計年度終了の日の翌日から1年以内

e-Tax

30万円以下の罰金

英語または日本語

 

4. おわりに

上述のとおり、我が国の移転価格文書化制度は大幅に改訂・強化されたことから、多くの多国籍企業においては、移転価格管理・対応に関する新たな取組みが必要になるものと思われます。

特に一定の規模を有する多国籍企業にあっては、新たに国別報告事項とマスターファイルの提出義務が課されたことから、各文書の整備は言うまでもなく、各文書間の整合性や国外関連者が作成した移転価格文書等との整合性等についても配慮する必要が生じることから、今後は親会社主導の移転価格管理が一層重要性を増していくものと考えられます。

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※本記事は、一般財団法人大蔵財務協会の許可を得て当法人のウェブサイトに掲載したものにつき、無断転載を禁じます。

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