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無形資産取引を行う企業グループに対するBEPS最終報告書の影響

『国税速報』平成28年1月25日号

BEPS 行動計画8「無形資産」については、2015年10月6日に最終報告書(2015 Deliverable)の一編として、その他の行動計画9及び10と統合される形で公表されました。BEPS 行動計画8―10の成果物「Aligning Transfer Pricing Outcomes with Value Creation」は、OECD 移転価格ガイドライン第6章の改訂版としての位置付けを有しており、2014年9月16日に公表された中間報告書(2014 Deliverable)において未確定であった無形資産に関する議論の多くの部分が明確化されています。(『国税速報』平成28年1月25日号)

【疑問相談】国際課税

「無形資産取引を行う企業グループに対するBEPS 最終報告書の影響」

Question:
弊社はグループ内で無形資産に関する関連者間取引が数多く実施されています。無形資産に関するBEPSの行動計画8について最終報告書が発表されましたが、ディスカッションドラフトに対するパブリックコメントを受けて、最終的にどのような内容が確定したのでしょうか?また、今後の移転価格対応の実務面で特に留意すべき点はありますか?

Answer:
BEPS の行動計画8「無形資産」の最終報告書には、今後の移転価格文書化対応や税務調査において必要あるいは重要な影響を持ちうる基本的概念や事例等が確定されています。各国税務当局の動向と合わせて、十分な理解とそれに基づいた移転価格対応上の検討が求められます。

【解説】

1. 中間報告で未確定だった重要論点

BEPS 行動計画8「無形資産」については、2015年10月6日に最終報告書(2015Deliverable)の一編として、その他の行動計画9及び10と統合される形で公表されました。BEPS 行動計画8―10の成果物「Aligning Transfer Pricing Outcomes with Value Creation」は、OECD 移転価格ガイドライン第6章の改訂版としての位置付けを有しており、2014年9月16日に公表された中間報告書(2014 Deliverable)において未確定であった無形資産に関する議論の多くの部分が明確化されています。

2014 Deliverable公表時点における無形資産関連の議論で、未確定部分として残されていた重要な論点については下記のとおりとなっています。

(1) 「利益分割法の適用に関する記述」

利益分割法の使用に関するBEPS 成果物の公表は2016年以降に改めて延期されています。

(2) 「取引時点で評価が極めて困難である場合の独立企業原則に関する特別ルールの策定に関する記述」

納税者が無形資産取引を行う際に、事前の価格設定の根拠となる価値評価を合理的かつ詳細な分析方法に基づいて実施することができない場合、当該無形資産に係る移転価格設定の妥当性を証明するために、当該無形資産を用いて事業を行った結果得られた各種証拠に基づいて事後評価を行ってもよいこととしました。これは、「所得相応性基準」と言われる概念を一定程度取り入れたものといえますが、一方で、OECD は本ルールに関して、除外規定や許容される誤差の範囲についても規定しており、納税者と税務当局の双方の立場がバランスするよう一定の配慮を示しています。例えば、事後検証の結果が事前予測に基づく取引価格と大きくかい離した場合でも、納税者が、その原因が予測不可能な事象に基づくものであったことを十分に説明する場合は適用除外となることや、事前予測と事後の検証結果との相違が20%までであれば許容範囲内とすること、事後検証にあたって遡及する期間を5年間とすることとされています。

(3) 「無形資産に係る収益の帰属等(第6章B節全体)」

BEPS 行動計画8―10の最終報告書において非常に多用されている特徴的なキーワードとして、「無形資産の開発・改良・維持・保護及び活用(development, enhancement,maintenance, protection,and exploitation of intangibles)」(以下、「DEMPE」)があります。従来のOECD 移転価格ガイドラインのディスカッションドラフトにおいても見られる用語(ただし、活用(exploitation)は含まれていなかった)ですが、今回改訂された第6章B節とその事例群においても一貫して採用されている基本概念であり、関連議論を行う際のスターティングポイントとなっています。

2. 移転価格ガイドラインにおける無形資産の定義

OECD 移転価格ガイドライン第6章A節では無形資産の定義について記載されていますが、その無形資産から生じる経済的利益をグループ企業間でどのように配分するべきかという根本的課題に対する回答を導く際に、当該DEMPE 機能及び関連するリスクをグループ企業間でどのように配分されているかという観点から紐解くアプローチが記載されています。

具体的には、B章パラ6.32において、「機能分析により問題となっている関連する無形資産を特定しなければならず、さらに当該無形資産が検討中の取引の中で、グループ企業間における無形資産のDEMPE に関わる機能・リスク・使用資産がどのように価値の創造に貢献しているか、また、当該無形資産が他の無形資産や有形資産あるいは事業活動とどのように複合して価値を創造しているかを特定しなければならない。」とされており、移転価格実務面でもDEMPE に係る関連者間の機能・リスク配分と収益の帰属の関係についてより一層の配慮が求められる形になります。

上記のアプローチについては、BEPS行動計画8―10の最終報告書の各事例において、より具体的な解説がなされています。例えば、【事例4】では、ある無形資産(パテント)を親会社が子会社Sに独立企業間価格で譲渡したケースで、子会社Sがその無形資産のポートフォリオに関連するすべての実質的マネジメントを行っていた場合が想定されています。この事例では、これを数年後に非関連者への譲渡売却した子会社Sが、外部要因により当該無形資産の価値が著しく増加していたため、大幅な譲渡収益を獲得していますが、結論として、当該譲渡益を稼得する権利を有するのは子会社Sとされています。また、【事例5】では、逆に、外部要因により当該無形資産の価値が著しく減少していた他は事例4と同等の場合が想定されていますが、この場合は、子会社Sに当該損失が帰属するとの考え方が示されています。

一方で、【事例3】(ディスカッションドラフトでは未定稿扱いだったものの、今回の最終報告書で確定した)では、事例4と同様のケースで、子会社Sの機能・リスクが無形資産管理サービス機能に過ぎないと判断される場合を扱っています。この場合、子会社Sに無形資産管理サービス機能に係る独立企業報酬が帰属するべきではあるものの、残る当該無形資産売却からの譲渡収益(以下「残余譲渡収益」)を稼得する権利を有するのは親会社となる(譲渡損失の場合も同様と推測される)ことが示されています。これは、親会社が名目的に関連子会社に無形資産を譲渡して数年経っても、子会社がDEMPE に関する活動を一切行っていないと税務当局に判断された場合は、この事実の認定により、譲渡収益の大部分が親会社に帰属するよう事後的に再配分することが求められるとの考え方が示されています。

3. 実務における判断

上記の事例3のように、「子会社Sの役割が無形資産管理サービスに限定される」、あるいは、「その無形資産のポートフォリオに関連するすべての実質的マネジメントを行っている」との判断が明確にできる場合はよいとしても、実務の場面では、グループ内のいずれかのメンバーが、無形資産から創出される残余譲渡収益を稼得する権利を持つには、どの程度の機能・リスクや資産負担をカバーすることが要件となるのか、それは具体的にどのように判断するのか、等の問題に直面することが想定されます。これらの論点について最終報告書においても具体的かつ明確なアプローチは記載されておらず、個々の事案によっても多様に変化するものとしています。(パラ6.55等)。重要な機能の一部については大まかなレベルの例示がある(パラ6.56)ものの、納税者にとっては、実務対応上の判断を困難にする可能性が高くなっています。また、各国税務当局間で解釈や判断が分かれる場面もえられるため、当面は、各国税務当局の法整備の最新動向や税務調査等の実務慣行を個別に慮した対応も求められると思われます。

また、実務上しばしば見られる事業形態として、DEMPE 活動をグループ内のメンバー間に外注あるいは分散している状況もえられますが、このような場合の移転価格分析アプローチについて、最終報告書のパラ6.57では利益分割法(TransactionalProfit Split Method)や評価テクニックを使用して報酬を適正に配分する必要性について言及しています。(前述のとおり、今後公表が予定されている利益分割法の適用に関する追加ガイダンスに委ねられることになります。)しかしながら、国によっては利益分割法による移転価格分析を従来許容してこなかった税務当局も事実上存在しており、今回のBEPS 成果物を受けてどのような対応の変化が期待できるかも未知数とえられますので、当面は潜在的な移転価格リスクや議論が生じやすいスキームを採用する場合には、上記の各論点に関する十分な留意と入念な事前検討が必要と考えられます。

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