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英国における税務戦略等、税務情報の開示による日系企業への影響

『国税速報』平成28年11月28日号

英国では、平成28年9月15日以降に開始する会計年度において、企業の英国における税務戦略について、ウェブサイト上で公表することが義務付けられました。英国に子会社等を持つ日系企業においても適用対象の条件を満たしている場合は適用されます。(『国税速報』平成28年11月28日号)

【疑問相談】移転価格税制

「英国における税務戦略等、税務情報の開示による日系企業への影響」

Question:
 
平成28年9月に英国において、企業の税務戦略の開示に関する法案が発効されましたが、当該法案に関する概要について教えてください。また、この英国における動きの他に、欧州連合(以下EU)における国別報告書の開示等、各国で企業の税務情報の開示の動きがあると聞いていますが、これらの動きが日系企業に与える影響および留意点等も併せてお願いします。

Answer:
 
英国では、平成28年9月15日以降に開始する会計年度において、企業の英国における税務戦略について、ウェブサイト上で公表することが義務付けられました。英国に子会社等を持つ日系企業においても適用対象の条件を満たしている場合は適用されます。このような企業の税務情報に係る開示要請は、今後ますます各国で強まると考えられることから、日系企業としても英国だけの問題とせずに企業グループ全体での対応が望ましいと考えます。

【解説】

1. 制度の概要

(1) 背景

平成28年の9月に、英国歳入税関庁(以下HM Revenue and Customs :HMRC)は、財政法案(以下FinanceBill)Clause149およびSchedule19に規定されている、企業の税務戦略公表義務に関するガイダンスを公表し、英国内に所在する企業の税務戦略を開示するよう定めました。

(2) 概要

対象となる英国の企業は、英国における税務戦略(Tax strategy)について、平成28年9月15日(2016(平成28年)Finance Billが法制化された日)以後に開始する会計年度末までに、企業のウェブサイト等のインターネット上に公表することを義務付けられました(以下の各項目の説明は概要であるため、詳細については原文をご参照ください)。

(3) 適用対象

本法案が適用されるのは、下記項目のすべてを満たす企業とされています。

  • 英国内に所在する企業
  • 以下どちらかを満たす企業
    ・売上高が2億ポンド超
    ・総資産が20億ポンド超

上記の条件を満たさなくても、一定のパートナーシップ等や、全世界の総収入が7億5,000万ユーロを超え、かつBase Erosion and Profit Shifting(以下BEPS)への対策として経済協力開発機構(OECD)が公表した行動計画のうち、税務当局がハイレベルな移転価格リスク評価を行うための情報(主に定量的情報)をまとめた国別報告書の提出義務がある企業等が本法案の主な対象とされています。

(4) 開示項目

開示する内容およびポイントは下記のとおりです。

1)タックスプランニングに対するグループの姿勢(英国税務に関するものに限る)

  • 記載事項

企業としてのタックスプランニングに対するアプローチや、タックスプランニングを行うことの動機、外部のアドバイザーの起用方針といった内容。

  • 背景・ポイント

HMRC は、企業のタックスプランニングへの役員等の関与を期待しているとえられ、役員会の場での判断の基準や許容されるリスク水準に係る指標等があると望ましいと考えられます。

2)グループが許容可能な英国税務に関するリスクの範囲

  • 記載事項

許容可能な税務リスクに係る社内のガバナンス制度の説明や、その制度がステークホルダーによって受ける影響の説明。

  • 背景・ポイント

企業として取り得る税務リスクに係るポリシーと、実際のリスクに係る情報を収集し、評価できる体制が企業に求められています。

3)HMRC との関係に関するグループのアプローチ

  • 記載事項

税務上の論点に係るHMRC との接し方に関する説明。

  • 背景・ポイント

HMRC との関係に関して、誠実な対応が求められるのは当然のことながら、本開示の内容が株主を含めた様々なステークホルダーの目に留まる可能性を考えると、企業として不服のあるHMRC の決定内容に対しては、異議申立て等を含めた適切な対応を取る旨の記載検討も必要になると考えます。

4)英国税務に関するリスクマネジメントおよびガバナンス体制に関する英国グループのアプローチ

  • 記載事項

企業規模や事業の複雑性、事業の変革に起因する税務リスクの特定と、その管理方法や当該税務リスク管理における役員の関与等の記載。

  • 背景・ポイント

リスクマネジメントおよびガバナンス面でも、上記⑴と同様に役員の関与・コミットメントが期待されていることから、適切なレベルのマネジメントの関与とそのマネジメント・ガバナンスのプロセスの確立が必要とされます。

(5) 公表場所

税務戦略を開示する際の公表場所については、企業のウェブサイト上(英国に所在する当該企業またはグループのグローバルのウェブサイト)に最低1年間は公表するものとされています。ただし、財務報告書等に当該内容について公表する必要はないとされます。

(6) 今後の予定

上述のとおり、本制度は平成28年9月15日に発行され、対象となる企業においては平成28年9月15日以後に開始する会計年度末日までに税務戦略の公表が求められています。例えば、3月末決算かつ本制度の対象となる企業については、平成29年4月1日に開始する会計年度より、当該期末である平成30年3月31日までに上記項目に関して、外部に公表する必要があります。

(7) 罰則規定

本税務戦略の開示には、罰則規定が定められており、会計年度末までに公表されない等の場合には7,500ポンドの罰金が課され、その後、公表されるまで同様の罰金が累積することになっています。

2. EU他の開示の動き

英国以外の税務情報の開示の動きとしては、平成28年4月にEU において、連結純売上高が7億5,000万ユーロ超の多国籍企業について、BEPS で規定されている国別報告書の内容(事業活動、従業員数、純売上高、税引前利益または税引前損失、当期の発生税額、納税額、留保利益等)を自社のウェブサイト上等で国別に公表することを義務付ける案が発表されています。

また、EU 域内のフランスにおいても、連結売上高が7億5,000万ユーロ以上(今後は当該金額基準の引下げを検討)の多国籍企業に対して、国別報告書とほぼ同様の内容に関する情報の国別の公表を義務付ける法案が現在検討されています。

3. 日系企業への影響および留意点

HMRC による税務戦略の開示に係る記載要件は詳細なものではないため、企業グループの裁量の余地が大きいと考えられます。このため、その内容に関して、簡便かつ一般的な内容とすることも可能だと考えます。しかし、そのような記載がHMRCによって適切でないと判断されることで、企業側の税務対応の姿勢に疑念を持たれ、結果としてHMRC との関係が悪化することは、英国で事業を行う企業として避けるべきことと考えます。

また、上述のように、BEPS の流れを受けたEU における国別報告書の開示等、企業の税務情報の開示の動きは、不可逆的に英国・EU 以外でも今後も続くと考えられます。このような動きは、企業側の行き過ぎた節税対策の抑止力となるとともに、企業の税務戦略・ポリシーの透明性を高め、税務当局と企業間の関係を改善し、税務管理水準の高い企業に対しては、税務コンプライアンスに係る負担を軽減する等のメリットが用意されることもあります。

このような背景から、企業側には、開示の方向性に適切に対応する必要性・メリットがあると考えますが、ここでの対応の際には、開示義務が導入された国だけの対応では十分ではなく、企業グループ全体での対応が必要になります。仮に、グローバルの税務ポリシーが存在しない、または税務管理に係るプロセスは存在するとしても役員レベルの関与がないといった企業においては、まずは自社におけるグローバルの税務ポリシーや税務管理に係るプロセスを見直した上で、必要に応じて新たに設定を行ったり、適宜修正を行う等の対応が望ましいと考えます。

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※本記事は、一般財団法人大蔵財務協会の許可を得て当法人のウェブサイトに掲載したものにつき、無断転載を禁じます。

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