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BEPS 行動8~10における低付加価値グループ内役務に係る新しいガイダンス

『国税速報』平成28年5月30日号

多国籍企業(Multinational Enterprise:「MNE」)グループの中核事業を支援するために提供される低付加価値役務に係る費用は、MNE グループメンバーで負担が行われるべきという前提に簡易アプローチが立脚しており、一定の条件を充足することで、納税者および税務当局の両者に効率性と透明性をもたらすものと期待されます。(『国税速報』平成28年5月30日号)

【疑問相談】国際課税

「BEPS 行動8~10における低付加価値グループ内役務に係る新しいガイダンス」

Question:
弊社はアジアを中心に海外展開を行っており、海外子会社に対する支援・管理業務が増加している状況にあります。海外子会社に対する支援・管理に係る費用を請求しようと考えていますが、昨今、BEPSの議論が話題に上がることが多くなっています。このBEPSの議論が現在弊社が検討している海外子会社への請求へどのような影響を与えるのか教えてください。

Answer:
BEPS の議論の中で新たに設けられた低付加価値グループ内役務(以下「低付加価値役務」といいます。)に係るガイダンスがあります。貴社が検討をしている本社費用の請求に関連性を有するもので、このガイダンスに従って検討することにより、貴社が抱えている課題の整理が可能と考えます。ただし、このガイダンスは、まだ概念的なもので、導入に当たり多くの課題が山積しているのも事実です。

【解説】

1. 背景

BEPSプロジェクトの最終報告書が2015年10月5日に公表され、今までの移転価格ガイドライン第7章「グループ内役務提供取引に対する特別の配慮」に一部改正が行われたのと同時に、新たに低付加価値役務の簡易アプローチに係るガイダンスが加えられました。これはマネジメントフィーや本社経費の配賦等による税源浸食の問題と多国籍企業(Multinational Enterprise:以下「MNE」)グループが適正にグループ内役務提供に係る請求を行えるよう、バランスをとることを目的としたものとなります。

この低付加価値役務に係る簡易アプローチ(以下「簡易アプローチ」)ですが、現行の本邦移転価格税制における移転価格事務運営要領2―10(以下「2―10」)に規定されている「本来の業務に付随した役務」に類似するものです。国際的なガイダンスは、今回が初めてとなり、2018年までにより多くの国および地域の同意を取り付けることを目指し、2016年末までに導入に係る制限等のガイドラインを策定するとしています。

2. 概略

MNEグループの中核事業を支援するために提供される低付加価値役務に係る費用は、MNEグループメンバーで負担が行われるべきという前提に簡易アプローチが立脚しており、一定の条件を充足することで、納税者および税務当局の両者に効率性と透明性をもたらすものと期待されます。

ガイダンスの最大のポイントは、ガイダンスに基づき簡易アプローチを低付加価値役務に適用した場合には、独立企業原則を充足したものとみなし、一般的に実施されるべき便益テスト、ベンチマーキング分析等が不要もしくは簡素化され、納税者の負担を軽減する配慮がなされているところです。

ガイダンスで求めている文書化要件を満たせば、納税者は低付加価値役務のカテゴリーを記載したインボイスを毎年準備することにより、請求額の妥当性を証明するのに十分となります。

3. 解説

① 低付加価値役務の定義

簡易アプローチの適用を前提とする低付加価値役務とは、以下に該当する役務をいいます。

  • 支援的性質を有する役務
  • MNEグループの中核事業に該当しない役務(収益を生み出す役務、MNEグループの重要な事業活動に貢献する役務ではない)
  • ユニークかつ価値ある無形資産の使用を必要とせず、またこのような無形資産の創出につながらない役務
  • 重大なリスクを負担もしくは管理を役務提供者に強いることがなく、また役務提供により重大なリスクを役務提供者に生じさせることがない役務

低付加価値役務に該当する役務の具体例として、ガイダンスでは、会計および監査、売掛金・買掛金の管理、人事、事業上の規制に関連する業務、社内外のコミュニケーション、IT、法務、税務補助、総務・事務補助等を挙げています。一方で、低付加価値役務に該当しない役務として、MNEグループの中核事業に該当する役務、製造、製造に関連する調達、販売、マーケティングおよび流通、金融取引、天然資源の採取、開発および加工、保険・再保険、上級管理者による役務を挙げています。

② 便益テスト

一般的にグループ内役務提供が独立企業原則に則って実施されているか否かは、便益テストに基づき判断が行われます。便益テストとは、提供される役務が経済的または商業的価値を有するものか、第三者であれば対価を支払うものかについて察を加え、役務の有償性を確認するものです。しかしながら、低付加価値役務の性質を加味した場合、有償性の判断が非常に難しく、仮に有償性を確認できたとしても、多大な労力を必要とするかもしれません。したがって、簡易アプローチを選択したMNEグループは、ガイダンスに基づき低付加価値役務を提供するようであれば、便益テストを充足するものとして、税務当局がむやみに便益テストに係る審査を控えるべきと述べています。

③ 費用の決定

簡易アプローチにおける役務費用の計算および配賦は、以下のとおり実施されることが記載されています。

  • ステップ1(役務費用の集計):低付加価値役務を提供するすべてのMNEメンバー企業において発生した当該役務に係る一事業年度の費用を役務カテゴリー別に集計します。集計される費用には、役務提供に要した直接費および間接費に加え、関連性を有する一般管理費が含められます。なお、パススルーコスト、株主活動等の役務提供者のみが便益を得る活動に係る費用は除くこととしています。
  • ステップ2(費用の選別):単一のメンバー企業にのみ提供される役務の費用を集計された費用から除外します。ただし、役務提供者が自身に対しても単一のメンバー企業に提供する役務と同種のサービスを提供している場合には、係る費用は集計から除かないとしています。
  • ステップ3(費用の配賦):集計された費用を各役務の受益者に配賦します。簡易アプローチで採用されるべき配賦基準は、役務の性格や役務受領者が得る便益等を反映したものでなければならないとしながらも、多くのケースにおいて、売上高基準を用いることになる可能性を明示しています。また一度採用した配賦基準は、毎年継続して使用し、同じカテゴリーに分類される役務に対して一貫して使用されなければならないとしています。

④ 適用されるマークアップ率

簡易アプローチを選択した場合、役務費用(パススルーコストを除く)に一定のマークアップが付加されるべきとしています。適用されるマークアップ率は、低付加価値役務のカテゴリーにかかわらず5%とされています。この際、通常であれば求められるベンチマーキング分析は不要になります。
また上述のステップ2において除かれた単一のメンバー企業にのみ提供される役務についても同様のマークアップ率が適用されることになります。

⑤ 簡易アプローチに係る制限

簡易アプローチが税源浸食とバランスをとれるよう適切な基準値を用いて、簡易アプローチの乱用を防ぐ配慮が行われています。例えば、役務受領者における一定の財務比率(総費用もしくは売上高に対する比率等)やグループ全体の売上高に対する役務費用の比率等により適切な基準値を設け、当該適正な基準値を超えた場合に税務当局が簡易アプローチを認める義務を負わないとする案がまとめられています。

⑥ 求められる情報・文書

MNEグループが簡易アプローチを採用した場合には、以下の情報・文書を準備する必要があります。

  • 役務の概要、役務の受益者、低付加価値役務に該当することの合理性、役務提供を行うことの合理性、役務の実際便益および期待便益、採用した配賦基準および当該配賦基準の妥当性、適用したマークアップ率
  • 契約書もしくは合意書および当該契約書もしくは合意書に係る変更点(契約書もしくは合意書は、対象企業、役務の特性、役務提供の条件等をまとめた同時文書の形態でもよい)
  • すべての役務カテゴリーおよび関連する費用の詳細、適用したマークアップ、集計された費用の決定等を表した計算および説明文書
  • 採用した配賦基準の使用方法がわかる計算

この情報・文書は、当局の要求に応じて、MNEグループのすべての法人において、提出できるようにしておく必要があります。

4. まとめ

最終報告書に新たに設けられた低付加価値役務の簡易アプローチが実際に導入されることになれば、貴社が検討されているような海外子会社に対する支援・管理に係る本社費用の配賦を行う際、プロセスを簡素化させ、一定の範囲で透明性および予測可能性が確保されることになります。しかしながら、簡易アプローチの導入は、各国の税務当局がどのようにこのガイダンスをそれぞれの国内法に取り入れていくのかが焦点となります。特にアジアの発展途上国等は、これまでマネジメントフィーや本社経費の配賦等については否定的な態度を示していただけに、その対処に注目が集まるところです。

日本においては、2―10の規定内容とマークアップの付加を除き、おおむね一致していますが、簡易アプローチを導入するか否かは現時点において明確になっていません。

簡易アプローチの採用可能性については、今後の簡易アプローチに係る制限等をOECDがどのように形作るか、さらに各国税制にどのように反映されるかに注視していく必要があります。

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※本記事は、一般財団法人大蔵財務協会の許可を得て当法人のウェブサイトに掲載したものにつき、無断転載を禁じます。

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