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移転価格文書化ルールの新要素、バリュードライバーと無形資産の関係

『国税速報』平成28年8月8日号

BEPS 行動13を受けて、平成28年度の税制改正を経て制定された本邦移転価格文書化規則で作成が義務化されたマスターファイルにも「当該多国籍企業グループの更生会社等の売上、収入その他収益の重要な源泉」、すなわち、OECD 新移転価格ガイドラインにいう「バリュードライバー」を記載することとなっています。(『国税速報』平成28年8月8日号)

【疑問相談】移転価格税制

「移転価格文書化ルールの新要素、バリュードライバーと無形資産の関係」

Question:
弊社はITサービス事業を展開しています。一般的な製造販売業とは異なり、特許や技術ノウハウを所有しているわけではありません。一方で、平成28年度税制改正に基づく新たな文書化規則においては、マスターファイル上で「収益の重要な源泉」について記載することが要求されています。
この情報はどのような目的に使用され、最終的にどのような内容を記載すればよいのか、またマスターファイルやローカルファイルで記載することになる「重要な無形資産」とはどのような関連性を持つのか、実務面で特に留意すべき点があれば教えてください。

Answer:
移転価格対応が必要となる多国籍企業グループの事業活動において、事業上の利益を創出するような重要なバリュードライバーをどのように認識するかが、その後の重要な無形資産に関する記載やローカルファイルを組み立てる上で重要な最初の検討ステップとなり得ますので、入念な検討を行うことが推奨されます。

【解説】

BEPS 行動13を受けて、平成28年度の税制改正を経て制定された本邦移転価格文書化規則で作成が義務化されたマスターファイルにも「当該多国籍企業グループの更生会社等の売上、収入その他収益の重要な源泉」、すなわち、OECD 新移転価格ガイドラインにいう「バリュードライバー」注1を記載することとなっています。実務上、多国籍企業グループの無形資産は、少なくとも事業上の利益を創出する重要なバリュードライバー群に含まれることになるものと考えられます。つまり、「バリュードライバー」の中から、移転価格上の「多国籍企業グループにおける無形資産」を選定し定義していくことを移転価格文書化のプロセスを通じて求められていると解釈することができ、BEPS の議論の経緯から見ても、各国税務当局が税務調査等の初期段階において最も確認を求める重要情報の一つと考えられます。

注1 BEPS行動計画13最終成果物レポートにおいては、「Important drivers」と表記されています。

一方で、BEPS 行動計画8「無形資産に係る移転価格ルールの策定」により改訂された新OECD 移転価格ガイドライン第6章によれば、移転価格上の無形資産は、いわゆる会計上の無形資産の概念でも、法人税上で認識される無形資産に限られるものでもない(パラ6.7)とされており、会計税務上の概念よりも幅広い概念であることが示されています。

マスターファイルでは、「バリュードライバー」に続いて、「特定多国籍企業グループの無形資産の研究開発、所有及び使用に関する包括的な戦略の概要」並びに「特定多国籍企業グループの研究開発と無形資産に関連する取引に係る対価の額の設定の方針(すなわち、移転価格ポリシー)の概要」を説明することが要求されており、いずれの企業の移転価格実務担当者も無形資産の議論を避けて通ることができない構成になっています。つまり、バリュードライバーはマスターファイルの後段で記載する重要な無形資産を包括する概念と捉えられるため、両者の記載内容には一定の関連性および整合性が必要であり、バリュードライバーとして記載する内容はマスターファイル上で無形資産として記載する内容の妥当性を方向付ける重要なパートとなります。

さらに、平成28年6月に国税庁より公表された「独立企業価格を算定するために必要と認められる書類(ローカルファイル)作成に当たっての例示集」においても、施行規則第22条の10第1 項第1 号ハに該当する「(中略)法人または当該法人に係る国外関連者が当該国外関連取引において使用した無形固定資産その他無形資産の内容を記載した書類」の提出を行う際に、国外関連取引を行うに当たり法人または国外関連者が使用した無形資産について記載することとされており、さらに、国外関連取引を行う法人が所得の源泉となると認められる無形資産(重要な無形資産)に該当する場合には、そのように判断した理由を合わせて記載する必要があることが、移転価格事務運営指針の事例集上で参照される事例番号とともに示されており、この記載部分との整合性も図られる必要があるといえます。

したがって、多国籍企業グループの一連の事業の流れ(サプライチェーン)の中から、重要な価値創造に係る活動の実態を的確に把握した上で、利益の源泉となる重要なバリュードライバーを客観的に特定するためには、移転価格分析のフレームワークに関する知識に加え、事業に関する客観的かつ深い知識や洞察眼、現場感覚等が総合的に要請されることになります。

自動車産業や製薬業等の主要な製造業においては、移転価格税制上の無形資産について、従来から具体的な分析のフレームワークがある程度確立されているため、伝統的かつ典型的なビジネスモデルを継続して運用している場合は、記載の難易度はそれほど高くないと考えられます。

また、典型的なビジネスモデルを運用してきた多国籍企業グループにおいても、時間経過とともに、研究開発拠点を海外にも展開して共同開発を行うようになった場合や、無形資産のライセンスや譲渡取引を伴う取引が発生する場合、金融取引を行うキャッシュボックスやグローバル・トレーディング・スキームを導入した場合等は、従来の理解に基づく記載が正しいか再検討することが求められます。

一方で、IT 産業やコンテンツ産業、サービス業等では、企業ごとに事業戦略や経営手法そのものがユニークかつ差別的である場合が多く、画一的なサプライチェーンや分析フレームワークが存在しない傾向にあります。したがって、他の移転価格上の論点との整合性も含めた無形資産やバリュードライバーの記載方法に関する難易度は高くなりがちです。

本解説では、移転価格上の無形資産やバリュードライバーの把握が比較的難しい2つの業界における分析アプローチを例示します。

事例1 IT業界

IT 業界と一口にいっても様々な業態を持ったプレーヤーが存在していますが、例えば、よりサービス業に特化した例として、インターネット上のウェブサイトを媒体として、eコマースやポータルサービス事業を行う多国籍企業グループにとっては、どのようなアプローチを用いて無形資産を記載することになるでしょうか。

一般的な製造業と異なり、技術上の特許や製造ノウハウ等がそもそも存在しないか、限定的である場合も多いようです。確かに、潜在的な同業種の比較対象企業を俯瞰しても、主としてサービスに従事するIT 企業において新技術の開発活動等を内部で独自に行っている事例は限られています。個々の事業の流れや活動内容に注目すると、業界内の他社においても日常的かつ一般的に行われている事業活動(プラットフォーム作成やウェブサイトの構築はいずれの企業も行う)が多く、既存のIT 関連技術を活用している、あるいは、専門スキルを持ったアウトソース先に外注して作らせる事業形態を採用する企業も散見され、結果として、重要な無形資産を見いだないという悩ましい状況に直面する例もあります。

しかし、こうした事例の場合、事業全体のサプライチェーンの一側面にのみ注目し、特定の技術やノウハウを部分的に切り出してバリュードライバーを見いだそうとするステレオタイプなアプローチに依拠すると、移転価格分析上の重要な要素を見落としたまま文書化を進めてしまう恐れもあります。つまり、先述のとおり、重要な無形資産として個々に認識できる対象範囲は広く、例えば、ユーザーリスト、商標、ブランド認知度のようなマーケティング関連の無形資産からビジネスモデル、創業者等一個人のタレント、成功体験等まで、単独では評価が非常に困難な無形資産の存在が際限なく挙げられるためです。

例えば、経済的価値の評価が非常に困難な事業上の要素を安易に無形資産として文書に記載すると、ローカルファイルにおいて無形資産の価値評価方法を客観的かつ合理的に移転価格文書上に示すことができない、あるいは、開発関連で拠出した費用のみに依拠した信性に欠ける経済分析を提示せざるを得なくなるおそれもあります注2。結果的に、移転価格上の無形資産に係るポリシーや最適な移転価格算定方法の説明に支障を来す、あるいは、実務上大きな事務負担になることが容易に想像されます(また、各国における税務リスクの予見性を確保することができず、二重課税リスクを高めてしまうこととなるのは言うまでもありません。)。

注2 OECD 移転価格ガイドラインにおいても、無形資産の構築や維持のために負担される費用の金額と貢献度との間には必然的なつながりがあるわけではなく、例えば、研究開発費のすべてが無形資産の構築に貢献しているわけではない点が指摘されています(パラ6.11、6.27等)。

この例では、企業が提供するサービスの目的や企画・アイデアを含むビジネスモデルそのものを無形資産として捉えることも一つの有効なアプローチとなります。その場合の無形資産の性質は、特定の製品・サービスに対する付加価値を創出しているというよりは、より高次の無形資産として事業上のサプライチェーン全体に密接不可分に関与しており、事業価値全体の向上に貢献していると整理するほうが、当該業界の事業特性をより的確に捉えていて、マスターファイルの後段やローカルファイルの各分析との整合性を確保しやすくなる場合があります。

つまり、最初から既存の概念で個々に無形資産を特定していくのではなく、ビジネスモデルの根幹を企画・構築する活動やその経済的価値をより高める活動の範囲およびリスクを負ってそれらの活動を行う拠点はどこかという視点で、実態に沿って事実関係を整理し、そこから無形資産の定義や範囲を絞り込んでいくという分析アプローチが有効になるケースは確実に存在すると思われます。従来の移転価格文書以上に、事業に関する専門知識や知見等を通じてロジカルな説明を行うことが求められることになる理由の一つがここにあります。

事例2 コンテンツ業界

コンテンツ業界も様々な事業形態が混在しており、事業形態やバリュードライバーの捉え方も一様でないという特徴があります。例えば、近年グローバルな事業展開が著しいゲーム業界では、従来の家庭用ゲームハードウェアを媒体としたゲームソフトウェア製品のサプライチェーンとオンラインネットワークを介して配信するゲームコンテンツのサプライチェーンとでは、その開発スキームや販売経路が大きく異なっており、収益構造やリスクの所在・配分状況も一括にまとめて分析をすると移転価格分析の妥当性を著しく歪めてしまうおそれがあります。

例えば、オンラインを通じて配信されるゲームコンテンツの場合、ローカル市場の嗜好や特性に応じた追加コンテンツ開発やイベント運営等が重要なバリュードライバーとなることがあり、その活動を行う拠点は各市場に分散される傾向にあります。逆に、世界市場に同時配信されるタイプのゲームタイトルの場合は、当該追加開発を行う拠点が一カ所に集約されて行われる場合もあり、個別の判断が必要になることも多いといえます。

また、ゲーム業界におけるプレーヤーも様々であるため、同業界における多国籍企業グループの事業上のポジショニングについても十分に把握しておく必要があります。

例えば、その多国籍企業グループが、ゲーム製品の企画開発能力に強み、つまり、バリュードライバーを見出している開発会社なのか、あるいは、数あるゲームタイトル候補の中から成功する可能性の高いものを発掘・選定し、市場における認知度や期待感を高めるための仕掛けを行い、爆発的な売上を誘発することに長けたマーケティング会社(パブリッシャー)なのかでは、バリュードライバーや無形資産の対象となり得るものが大きく異なることは想像に難くありません。

例えば、後者のゲームパブリッシャーの例ですが、多国籍企業グループ内の販売子会社が、特定のローカル市場における製品認知度や期待感を高めるためにリスクを負ってマーケティング費用を支出しているとしたら、それはバリュードライバーあるいは無形資産を構築する活動として利益分割法の適用対象になる可能性を示唆することになります。しかし、この説明が正しいか否かは、潜在的比較対象企業における機能・リスク配分状況との比較結果等にも左右されることになります。

この事例からは、販売子会社のマーケティング活動を無形資産(バリュードライバー)の構築に関連する活動とするか、ルーティン機能として整理するべきかは、事業に関する専門知識や知見等に加えて、経済分析における比較対象企業の機能リスクプロファイルの側面からも影響を受け得ることがうかがえます。つまり、移転価格実務においては、分析の初期段階で既成概念に基づいて無形資産の定義を固定してしまうアプローチは適切でなく、事業実態を正確に把握する一方でその他の移転価格分析上との整合性を慮しながら、バリュードライバーや無形資産の記載内容を微調整するアプローチのほうが有効となる場合も十分に考えられるということになります。

まとめ

グローバルに事業展開を行う上場企業ともなれば、確立されたビジネスモデルと収益の源泉となるバリュードライバーが必ず存在しているといっても過言ではありません。上記二つの業界の事例では、ユニークな分析例を示しましたが、それ以外の業界においてもバリュードライバーや重要な無形資産が上手く特定できない場合は、無形資産の既成概念に捉われず、事業実態を丁寧かつ的確に捉え、バリュードライバーおよび重要な無形資産を再定義し、移転価格文書上に表現することは、多国籍企業グループ間での利益配分状況が独立企業原則に照らして適切であることを示す上での有効なアプローチになり得ます。この点は、OECD 新移転価格ガイドラインの根底にある基本概念でもあり、今後も各国税務当局が様々な視点で注目してくる重要論点の一つとなることが予想されますので、文書化の際には骨太な説明ロジックを構築できるよう入念な検討を行うことが推奨されます。

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※本記事は、一般財団法人大蔵財務協会の許可を得て当法人のウェブサイトに掲載したものにつき、無断転載を禁じます。

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デロイト トーマツ グループは、デロイトネットワークの移転価格チームと連携を取り、各国の税制に沿った移転価格文書化(ドキュメンテーション)作成をサポートします。また、OECDが展開するBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトにおける「新移転価格文書化規定」にも対応した、グローバル移転価格文書化のサポートを行います。

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