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APIエコノミー

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日本の視点:企業の競争力の源泉となるAPIマネジメント力

APIエコノミーとは何か

API(Application Programming Interface)という言葉自体は特段新しいものではなく、ITに携わっている人であれば以前から耳にしたことはあるはずだ。元々は「アプリケーションやシステムをつなぐためのインターフェイス」という技術的な意味に過ぎなかった用語だが、APIを通じて既存のサービスやデータがつながることで、新たな経済圏である「APIエコノミー」を構築するという文脈で、現在改めて注目されている。

2016年時点でIBMは、2018年のAPI関連市場規模は2.2兆ドルに達すると予測した1。この規模の大きさは、APIが単なるシステムをつなぐ役割にとどまらず、異なるビジネスをつなぐためのインターフェイスとして機能し、新たなビジネスやサービスが生まれて市場が拡大するという観点に基づいたものであると捉えられる。

APIエコノミーの代表事例としては、配車アプリのUberが挙げられる。Uberのサービスは、地図情報であればGoogle Map、利用者へのメッセージングはTwillio、決済はBrainTreeといったように、外部のサービスをAPIでつなぐことで実現されている。APIを活用することで、世の中にあるニーズとシーズの流れを掴んでモノ・ヒト・場所を素早く「つなぎ込み」、想像し得なかったスケールでマッチングして破壊的なビジネスを生み出したのである。AirBnBなども同様の事例であり、APIを通じて既存の成熟した技術を「使いこなし」、機動力をもった経営を実現するユニコーン企業によって、既に我々が意識しないうちにAPIの作り出すサービスの恩恵は世界に広がりつつある。

一方大手企業側も、もはや自社のみでサービスやUXの全てを開発・提供することは難しく、自社の技術をオープンAPIとして公開し、「使いこなされる」ことで、APIエコシステムの中で情報の流れを掴むポジションをとることが強みになるというポイントに気づき始めている。

このAPIを「使いこなす力」と同時に「使いこなされる力」を「APIマネジメント力」と定義する。それを徹底的に磨き上げることが、今後の企業の競争力の源泉となるだろう。APIを駆使して経営の機動力を上げること、そして、情報の流れを掴み、価値に変えるエコシステムの要となることが、企業経営の要諦となる可能性を秘めている。本稿ではこの考え方を念頭に置いたうえで、日本におけるAPIエコノミーの現状と、企業に求められる取り組みについて考えてみたい。

日本におけるAPIエコノミーの現状

グローバルトレンドでは、APIの重要性や可能性についての議論が大きなうねりを生み、実際にユニコーン企業によるAPIエコノミーの構築事例が生まれている一方で、日本市場が同様の環境にあるとは現状では言い難い。近年ようやく日本でも、金融業界において改正銀行法の施行と共にOpen APIの議論が巻き起こっており、その他自動車や通信業などの業界においてもリーディング企業を中心にAPIエコノミーへの対応を始めているが、APIを活用したマネタイズや収益化が進んでいるといった声はなかなか聞こえてこない。

一方で日本においても、スタートアップ企業や開発者のコミュニティでは当たり前のようにAPIの開発/利用およびそれに基づいたサービス開発が行われており、APIハッカソンなどを通じた技術者の交流なども活発である。

この点を踏まえると、開発者の現場と(特に大企業における)ビジネスレイヤーとの間に大きなギャップが存在しているのではないかと考えられる。開発の現場だけではなく、ビジネスの現場においてもAPIの重要性が認知され、ギャップが埋まらない限りは、日本におけるAPIエコノミーの活性化やそれに伴うビジネスやイノベーションの創出、ひいては機動力を持った経営の実現は困難であろう。

APIに対する期待―新しいビジネスの創出

新しいビジネス創出のイネーブラーとしてAPIに期待し、企業内に眠る既存の情報資産をAPI化することで、何らかの価値創出につなげるための取り組みを進めている企業は増えてきている。そのあり方は実に様々で、企業全体としてAPI戦略を十分な時間をかけて立案し、それをもって具体的なAPIの設計や公開を進めていく企業もあれば、とにかく実践を重んじて、まずはAPI公開を優先する企業も存在する。以下では、ビジネスの現場においてAPIに対する期待とともに、推進する上で陥りがちな罠、およびマーケットプレイスの重要性の高まりといった観点から考察したい。

陥りがちな罠と解決策

APIに関する取り組みを進めるにあたっては、いくつもの陥りがちな罠が存在する。例えば、明確な個別ニーズに細かく応えるAPIを作り込み、結果として全く汎用性のないAPIが開発・公開されることが挙げられる。このような粒度の細かいAPIを開発すること自体に意味がないわけではないが、個別のニーズに応えすぎることで、結果的に似たような機能をもったAPIが複数公開されるような事態に陥ってしまう。

また別の観点では、「開発者が何らかの形で使ってくれるだろう」という幻想に捉われ、とにかく多くのAPIを開発・公開してしまう場合もある。しかしながら、目的を明確にせずに公開されたAPIは、情報の洪水の中に埋もれ、見つけられることもなく沈んでいってしまうことになりかねない。事実、公開されているAPIのトラフィックの90%は、TwitterやGoogle、FacebookといったAPI公開企業の上位2割程度によって占められているという。

前述のような陥穽を避けるためにも、APIは1つの製品として扱われるべき、という考え方が広まりつつある。ものづくりにおいても、使われるかどうかわからないものをとにかくたくさん作るということは考えにくく、個別のニーズに特化しすぎた製品を作るということも通常はないはずだ。APIにおいても同様に、ユーザー(開発者)の声を聞きつつも、過剰に個別のニーズに特化しすぎることなく、バランスを見極めながら、開発を行うことが重要である。また、APIをソフトウエア製品としてリリースした後も、その使われ方や開発者からの要望などについてデータを収集し、フィードバックループを回しながら育てていくことで、製品としてのAPIのライフサイクルを管理することが必要になってくるだろう。

APIマーケットプレイスの重要性

APIを技術のためのものにとどめず、ビジネスのためのものに引き上げるためには、APIによって享受できるメリットと対価を見える化する必要も出てくる。その観点から、提供側が自社のAPIを公開し、ユーザー(開発者)がAPIを検索・利用・管理できる「場」として、APIを流通させるマーケットプレイスの重要性が高まってくると考えられる。様々なAPIを取りそろえたマーケットプレイスが機能することで、APIの流通が活性化されて開発のライフサイクルが加速し、新しいデジタルビジネス/サービスの創出に結びつくだろう。

企業が自社のAPIを公開するためだけでなく、外部のAPIを活用する場合にも考慮せねばならないことは多い。よくある事例としては、各事業部門が個別に外部のAPIを契約し、典型的なシャドーITとして埋もれてしまい、追跡不能な状態に陥ることが挙げられる。APIマーケットプレイスはこのような課題を乗り越えるためにも機能し、例えば各APIとの契約を一元的に管理、可視化する、といったことが可能になる。このようなAPI流通が加速する素地はすでに日本においても整いつつある。楽天は、米国においてAPIマーケットプレイス「RapidAPI」を提供しているR Software, Inc.社と提携し、2018年7月からAPIマーケットプレイス「Rakuten RapidAPI」の運営を始めている2。その他にも、日本ローカルのAPIマーケットプレイスではAPIbankが2018年3月からβ版を公開し、8月に本格運用を開始している3

企業内におけるAPIマーケットプレイスの位置づけ

これらの企業のサービスは、主にAPIの外部への公開と流通を目的としたものであるが、APIを社内で流通させる場合においても同様のソリューションの重要性が高まってくると考えられる。企業内でのAPI流通環境を整える過程では、社内のIT資産や情報資産の再利用性が高まり、従来情報を生む機能を持たなかった部門でも新しいユースケースを作り出す、といったことが可能となる。そのためには前提として、社内にどういったIT・情報資産が存在するのかを棚卸し、簡単にアクセス・利用できる環境を提供するとともに、それぞれがどのような使われ方をしているのかを可視化しなければならない。この際、単純に社内のアセットの一覧と利用状況を可視化するだけでも、利用要望の強い情報資産やデータが何なのかが明らかになり、製品やサービスのライフサイクルを管理する上で重要なインプットとなるだろう。これはつまり、APIマーケットプレイスと同等のものを社内において立ち上げ、運用を行うということである。

これらを実現するのは、APIポータルやAPIゲートウェイと呼ばれる技術だが、その設計は実は意外と難しい。なぜならAPIには複数のレイヤーが存在し、提供者/開発者/ビジネスユーザーという立場の違いによって必要とする情報が異なるからである。

特定のシステムやデータにアクセスするためのData APIやSystem APIと呼ばれるようなレイヤーにおける情報は開発者にとってはもちろん重要である。しかし一方でビジネスユーザーにとっては、詳細な技術要件等の情報は粒度が細かすぎるため、理解できない、もしくはする必要がないということになる。そのため企業内でAPIの流通を促す際にも、開発者向けの情報提供のポータルとビジネスユーザー向けのポータルは分ける、などの工夫が必要になってくる。

特に開発者向けのポータルにおいては、開発者が開発を行いやすい環境を提供するために、実運用に資する環境整備が求められる。具体的には、セルフサービスで開発環境やAPIそのものを利用することができるような仕組みを提供し、自律的なプラットフォームとして運用できる形態を検討する必要がある。

実運用に際して考えなければならないことは非常に多岐に渡るが、社内APIマーケットプレイスを適切に運用することによって、APIのライフサイクル管理に関する経験やノウハウを蓄積でき、それを活かして外部のAPI マーケットプレイスとの接続が容易になるはずである。社内でのAPI 流通において意識しなければならないことと、社外にそのAPIを流通させていく時に意識しなければならないことは、結果として同様の内容になるからである。

APIのもう一つの側面:企業内のデジタルトランスフォーメーション

APIのもう1つの注目すべき側面は、レガシーシステムのモダナイズである。経済産業省の「デジタルトランスフォーメーションを推進するための ガイドライン」4では、レガシーシステムの残存が日本企業の競争力の拡大のための大きな足かせになっているという危機感が示されている。先程述べたような社内における情報資産のAPI対応を進めることは、結果として企業全体のデジタルトランスフォーメーションの推進につながると考えられる。その意味で社内のAPI流通環境整備は、企業競争力の面でも非常に重要な論点になると位置付けられる。

レガシーシステムのAPI対応における課題

一言に既存システムをマイクロサービス化/API化するといっても、システムの大規模な改修が伴う場合、その実行は容易ではない。取りうるアプローチとしては、まずは必要とされるユースケースに基づいて、既存システムとの間にAPIを設ける。そうすることで、レガシーシステムとの結合度を下げ、要求の変更に対して影響をおよぼす範囲を限定的にする。その結果、インテグレーション時における負荷を低減すると共に、フィードバックループを回しながらシステムのモダナイズを進めていくといった方法を採用することが望ましいだろう。

このようなAPI化を支える開発プラットフォームの裏側では、スケーラビリティを確保するためのコンテナ技術(個々のアプリケーションの専用区画をOS上に作成する仮想化技術)や、システムを疎結合に保ちながら開発のスピードを高めるためのマイクロサービスアーキテクチャ(小規模なサービスを自律的に協調・動作させることでアプリケーションを構成する設計思想)を支える基盤を整備する必要がある。これらはこのプラットフォームを形成する根幹のコンポーネントとなってくる。この構成を目利きして、機動的に組み替えていくアーキテクトの能力が非常に重要になるため、対応できる社内体制の構築や人材の育成・確保が求められる。

一方で、社内でシステム間連携やインテグレーションを支える基盤については、ビジネスオーナーが明確でない、といった理由で投資がなかなか社内で承認されず、ITコストが高くなる原因として槍玉にあげられることも多い。しかし長い目でみるとシステムの再利用性を高め、技術的負債を減らすことに繋がるという観点で、組織的な戦略に基づいたリソース投下のコンセンサスを得ることが重要になる。社内で経営層のコミットメントを得ることができれば、API活用を起点したデジタルトランスフォーメーションの取り組みを進めていくことが可能になるだろう。

企業の競争力の源泉としてAPIマネジメント力を強化すべし

冒頭で述べたように、これからの企業には、外部のAPIを使いこなす力と、自社の公開するAPIを外部に使ってもらう(使いこなされる)力を身に着けることが求められている。このAPIマネジメント力が企業の競争力の源泉となり、社外と連携した形での新しい価値の創造と、企業内部のデジタルトランスフォーメーションの推進という2つの方向性が開けてくるはずだ。

しかしながら、その実現のためには高いエンジニアリングスキルが求められる。APIを利用した新しい価値創出はAgilityの獲得とイノベーションの挑戦であるし、既存システムにおけるAPI活用は技術的負債との戦いだ。

企業においてデジタル技術を活用する際に、表層的な導入にとどまらず、ビジネスのより深い根幹の部分にまでその効果を浸透させ、デジタル時代に求められる競争力を獲得するためには、APIを起点に着実な能力強化を図っていくことが近道となるはずである。その実現のためには、以下の3段階のステップが必要になると考えられる。

企業内における情報資産/システムのAPI化と流通の促進

API管理のケイパビリティの獲得・強化(内製化)

外部のエコシステムとの接続と新しい価値創出

テクノロジーはビジネスの実現のための手段であり、APIはテクノロジーをビジネスに適用しやすい形で提供するものである。APIの利活用を通じてビジネスとITが一体となることで、企業のAgilityが上がっていく。その運用においては、これまでのようにIT施策を外部ベンダーに任せきりにするのではなく、企業自らが実行主体となり、社内全体でアセットを共有し、流通を促すことが求められてくる。

このサイクルを加速し、新しい企業の競争力を獲得するためには、社内外において技術や情報資産が流通する「場」=マーケットプレイスに参加し、研鑽を重ねる以外に方法はない。今、求められていることは、APIエコノミーの礎となる「場」に一歩踏み出す行動力なのだ。

 

筆者

中村 旭 Nakamura, Akira
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
マネジャー
米国系IT企業のコンサルティング部門を経て、現職。デジタル戦略の策定だけでなく、マーケティングや新規事業創出とそれを支えるデジタル組織のあり方、および変革そのものの実行支援までを含めた、End to Endでのデジタル変革に関する支援を実施。

 

【参考資料】

1. IBM, アプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)管理ソリューションのリーダーに選出, IBM, 2016/12/2: https://www-03.ibm.com/press/jp/ja/pressrelease/51171.wss
2. 楽天、「RapidAPI」を提供する米国R Software社と 独占的戦略パートナー契約を締結, 楽天株式会社, 2018/7/11: https://corp.rakuten.co.jp/news/press/2018/0711_01.html
3. 日本初のAPI取引所「APIbank.jp」が本運用を開始 -登録APIが1,000APIを突破!, AOSテクノロジーズ株式会社, 2018/8/7: https://blog.apibank.jp/whatsnew_20180807/
4. デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン (DX 推進ガイドライン) Ver. 1.0, 経済産業省, 2018/12: https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181212004/20181212004-1.pdf

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