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中国の通信環境

TMT Predictions 2019

グローバル版:世界最先端のインフラとデジタルビジネス

・日本版抄訳(日本語)

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 China, by design: World-leading connectivity nurtures new digital business models

 

日本の視点:日本企業から見る中国データ経済圏の位置付け

グローバル版本編は、中国の5G投資やBATを中心とした中国データビジネス強化がよりダイナミックに進展する可能性について言及している。一方、本稿では中国におけるデータビジネスの発展が、グローバルでデータビジネス展開を志す日本企業にとってどのような機会をもたらすかについて考察したい。まずは前提条件として、グローバルのデータビジネスを取り巻く環境変化について考察を進めたい。

データエコノミーのブロック経済化の進行

既知の通り、データ活用ビジネスはグローバルベースで急激に普及しており、GAFAを中心とした米系企業や先進ベンチャーが、グレートファイアウォールを敷いている中国を除いたグローバル市場を席捲し、データ寡占を強めている。EUでは、消費者のプライバシー問題解決や租税回避への対策、今後のデータエコノミーの米国一極化の回避の動きも加速している。すでに昨年からGDPR(General Data Protection Regulation)が施行され1、2019年1月21日にはGoogleに5,000万ドル(約62億円)の制裁金が課される2などの動きが進んでいる。

一方、米国では、機密情報・技術情報流出による安全保障リスクへの対策として、2018年8月13日に成立した2019会計年度の国防権限法に米国技術の流出防止を念頭に置いたルールが定められた3。具体的には、輸出管理改革法(ECRA)として、外国投資リスク審査近代化法(FIRRMA)と合わせた形で輸出規制強化の条項が国防権限法に盛り込まれている。これにより、2019年8月から米政府機関によるファーウェイやZTE、監視カメラ大手など中国5社からの製品調達が禁止され、2020年8月からは5社の製品を使う企業との取引も打ち切ることが決定した4。この動きに日本やオーストラリアが呼応しており、EUは経済性と政治判断の間で揺れ動いている。

上記の動きや中国のグレートファイアウォールを勘案すると、個人情報の取り扱いについて対極的な志向を持つEUと中国、個人情報の取り扱いを企業に任せる米という3地域を軸としたデータエコノミーのブロック化が進むと考える。

このシナリオ下において、「国家としての日本はどのデータエコノミーに属するか?」「第四極を形成すべきか?」を論点とした政策検討が必要になる。一方で、グローバル市場での収益最大化を求められる日本企業は、データビジネスのグローバル成長戦略策定の前提条件として認識しておく必要があるだろう。

中国のインフラ投資の加速と日本における減速の可能性

近年、中国の通信インフラへの設備投資が進んでおり、都市部を中心に携帯ブロードバンド網の普及が進む中、世界でも最多のスマホユーザーを抱えるに至っている。今後その取り組みが加速すること、その通信インフラを基盤とした認証・与信・決済・EC・シェアリングサービスや、IoTやAI、VR/ARといった先進技術を活用したビジネスへの取組が加速する見込みであることは、グローバル版本編の記載の通りである。

一方日本では、総務省や各キャリアの努力もあり、4Gの普及率は単位人口あたり・単位面積あたりの両面で主要国の中で最高水準であり5、ブロードバンド先進国として位置付けられている。日本ではすでに動画配信・音楽配信といったコンテンツビジネスやSNS等のサービスがいつでもどこでも利用可能な環境を実現しており、5Gに関しても社会課題解決に向け積極的な投資や産業界との共創により積極的に推進することを各キャリアが発表している。しかし、携帯料金の値下げ問題による、5G網構築に向けた投資抑制によるエリア展開の減速リスクと、5G基盤上でのIoT・AI等を活用したサービスの立ち上がり・拡大速度の抑制リスクが懸念されている。

上記の環境変化から、5Gの利用環境が充実しより多くのユーザーが5Gを利用することで、中国のIoTやAIを始めとした技術の成熟度が増し、相対的にポジションが高まる可能性が高い。

日本企業における中国データ経済圏の位置付け

「データエコノミーのブロック経済化」「中国インフラの投資加速」を勘案すると、日本企業にとって中国は、独自の文化・力学を持つため参入のハードルもあるものの、巨大な経済規模を持ち今後の成長可能性が高い魅力的な市場に見える。

一方、グローバルマーケットにおける中国の位置付けを意識して見ると、「次のディスラプターを知るためのタイムマシン」「グローバル展開のβテストの場」「グローバル戦略人材育成の場」という側面もあると考えられる。今後グローバル市場での成功を志向する日本企業においては、市場としてだけではなく、これらの側面にも目を向け、今後の成長戦略に取り込むことを志向すべきである。

次のディスラプターを知るためのタイムマシンとして

従来、米国をベンチマークし時間差で日本に取り入れる手法は、タイムマシン経営と呼ばれ、日本における重要なITサービスを生み出すことに寄与してきた。今後の日本市場でタイムマシン経営を継続するためには、米だけではなく中国のビジネスを参考にすることが重要と考える。

前述の5Gに対する投資に加え、「中国製造2025」「互聯網+(インターネットプラス)」といった政策主導の投資が更に進むと、中国を起点に新たなビジネスが生みだされていく可能性は高く、中国は日本で適用可能なITサービスのベンチマークの対象になり得ると考える。

ただし、日本と中国では、ユーザーおよびサービスプロバイダ双方のセキュリティ感度や、起点としてのレガシーインフラの有無、人口規模の違いに起因するスケーラビリティ、個人所得の差といった違いがある。そのため、中国で成立しているサービスがそのまま日本で成立するわけではなく、彼我の置かれている環境の違いを十分に勘案した上で、日本の社会課題解決にカスタマイズすることがタイムマシン経営成功の要諦となる。

近年中国で爆発的に普及したQR決済が、日本向けにカスタマイズされ日本国内で徐々に存在感を高めているのも、中国で勃興したビジネスを日本向けにカスタマイズできた一例である。近年日本で広まっているQR決済は、日本市場の実態に合わせクレジットカード等の既存決済と紐づけ利用者のスムーズな加入を促すとともに、スマホを決済端末とすることで小規模店舗の電子決済導入のハードルを下げ、決済市場におけるポジションを高めている。

グローバル展開のβテストの場として

新たなサービスへの受容性が高く、大規模都市を数多く有するという側面から、中国は先進ビジネスをグローバル展開する際のβテストの場としても魅力的である。

その理由の1点目は、比較的自由にサービスを展開しやすいことである。本編にもある通り、中国の消費者はグローバルで見ても新たなサービスへの受容性が高い。また、数多くの大規模都市があるため、全国でサービスを提供せずとも、大量のデータを取得しAIを学習させることが可能である。中国全土でサービスを提供しようと考えると、各省における免許の取得が必要なためサービスインにかかる時間は長くなるが、省や都市単位での導入であれば比較的早期に事業展開することが可能である。加えて、個人情報の利活用という観点でも、欧米に比べて利活用が容易であることも挙げられる。

2点目として、中国が今後の世界経済の成長を支えるアジアやアフリカへの展開のリトマス試験紙として機能しやすい地域であることが挙げられる。これらの地域と中国には、レガシーが少なく新たなサービスの立ち上げを阻害する要因が少ない、低所得層~高所得層が幅広く存在する、個人情報に対する意識が先進国と比べると低い、求められるサービスレベルが相対的に高くなく投資負担も大きくない、といった環境の類似性がある。

3点目として、中国がアジアやアフリカへの展開への橋頭堡になり得ることである。一帯一路構想により中国は新興国に対し積極的な投資を進め、経済関係の強化を図っている。それによって、中国からの商品・サービス輸出の増加や、文化的な影響力が高まり、中国で実績を持つサービスが普及しやすくなると考えられる。

中国をβテストの場として活用するにあたって、留意が必要なポイントにも言及しておきたい。中国では「中国製造2025」「互聯網+」等、自国の産業強化を推進している。このような環境下での日本企業単独の実証の立ち上げは、政府や省の了承を得るタイミングで頓挫しやすい。これを回避するためには、中国系企業と組むことが必須となる。ただし、グローバル市場では競合にも提携先にもなり得るため、組むべき地域・双方独立してビジネスを展開していく地域を見極めた上で、どのようにWin-Winの関係を築くかについて検討が必要である。

グローバル戦略人材育成の場として

前述の通り、多くのインターネットユーザーが存在し、大量に収集されるデータやAIを用いた先進的なサービスを生み出す場として、中国市場は高い可能性を有する。このような市場においては、中長期的には先進技術に精通した人材が集まり育成されるため、人材獲得の場としての期待が集まる。ただし、現状の中国においては、先進技術人材の供給が需要を満たしておらず、シリコンバレーで中国系企業が技術人材を採用する等、国を跨いだ人材獲得合戦が進んでおり、短期的に技術人材を獲得する場にはなりにくい。

一方、人材育成の場として中国に目を向けると景色は変わってくる。今後グローバルで普及するビジネスを展開するには、先進的な地域で立ち上げたサービスを基に、各国の法制度や消費者に合わせてローカライズしながら展開することが必要である。この様なビジネス展開を進めるには先進地域のビジネスノウハウを移植する人材が必要になるが、βテストの場である中国でビジネスを企画し、立ち上げ、拡大させた経験を持つ人材はこの目的に最適である。このような人材を中国市場の現地人材としてではなく、グローバルでのビジネス展開における戦略的なコア人材として位置付け、その経験を活用するべきである。

現在、日本企業においても中国に本社機能やR&D機能を設置する例は増えているが、動きの速い中国市場に対応するのが精一杯であり、本社主導のグローバルビジネス展開に活用できている例は少ない。また、中国人材における日本企業の人気は低く離職率も高いため、ノウハウや人脈を蓄積するためにも、人材を確保するための魅力的なポスト・報酬等も含む人事制度の検討が必要になる。このような環境下でグローバル戦略人材を育成するには、効果・費用・リスクの観点で、繊細な手綱さばきが要求される。

今後の日本企業に求められる姿勢

本稿ではデータエコノミーのブロック経済化や中国における5G投資の加速といった環境変化シナリオに基づいて考察を進めたが、前提となる環境変化は、今後の米中関係や経済情勢等の環境変化によるボラティリティが高いため、継続的に動向を注視しなければならない。また、中国だけでなく、インドやASEAN、アフリカといった、人口増加・経済成長が期待され、かつイノベーションを起こしやすい環境である地域の急成長による相対的なポジションの変化もドライバーとして捉えるべきであろう。

このような環境において、日本企業には政治・経済等の環境変化と影響を見据えた上で、中国のデータエコノミーに柔軟に対応できる状態を作り上げなければならない。そのためには、経営陣には市場に参入する/しないという2極化した意思決定ではなく、時々刻々と変わる状況に応じて柔軟に変更するという心づもりが必要であり、組織を柔軟に動かすための組織・制度を整備することが求められる。

 

筆者

越智 公央 Ochi, Kimio
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
シニアマネジャー
通信・IT・テクノロジー企業の担当として、事業戦略、新規事業開発、M&A、マーケティング、海外展開等、幅広いテーマのプロジェクトを手掛ける。近年はAI、IoT、5G等のテクノロジーを活用した新規事業開発をテーマとしたプロジェクトを手掛けている。

 

【参考資料】

1. GDPRとは 個人データ、EUが米IT念頭に厳格ルール, 日本経済新聞, 2018/11/6: https://www.nikkei.com/article/DGXKZO37404370W8A101C1EA2000/
2. グーグルに制裁金62億円 仏当局、個人情報取得めぐり, 日本経済新聞, 2019/1/22: https://www.nikkei.com/article/DGXMZO40295080S9A120C1000000/
3. 国防権限法とは 対中強硬策 多く盛り込む, 日本経済新聞, 2019/1/11: https://www.nikkei.com/article/DGXKZO39893360R10C19A1EA2000/
4. 米の技術流出規制一段と 中国念頭、日本の輸出にも網, 日本経済新聞, 2019/1/11: https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39890530Q9A110C1MM8000/?n_cid=DSREA001
5. 5G:今後10年のビジネスをリードするチャンス, デロイトトーマツ, 2018/9: https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/technology-media-and-telecommunications/articles/com/5g-deployment.html

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