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TMT Predictions 2019

日本の視点:ロボティクスオートメーションの進化

ロボティクスブーム

先進国を中心とした人口高齢化や若年労働力不足、新興国での賃金上昇など、製造業が直面している環境変化と、AI、IoT、ビッグデータやブロックチェーンなどのデジタル技術の革新を背景に、1980年のロボット普及元年から1991年までの産業用ロボットの普及、2000年頃のソニーのaiboやホンダのASIMOなどのサービスロボットの登場に続く、新たなロボティクスブームがかつてない規模で起こっている。特に産業用ロボット、センサ、制御システムなどを活用した生産工程の自動化が加速している。

製造業の生産工程は産業用ロボット等によって既にほとんどの部分が自動化されているというイメージを持っている読者もいるかも知れない。しかし自動化先進国である日本の製造業においても、自動化されているのは溶接や塗装などの「加工工程」が中心であって、組立や搬送工程ではまだまだ人間の介在が必要となっているのが現実である。デロイトでも、日本の製造業全体における生産工程の自動化率は現状でも50%に達していないと見ている。

その中で従来から自動化を進めていた自動車などの業種に加え、三品業界(食品・医薬品・化粧品)などの新たな業種や中小企業において、加工や搬送工程にまで拡大する形で生産工程の自動化が広がろうとしている。この動きを受けてファナックや安川電機をはじめとする日本企業が高い世界シェアを有する産業用ロボット(Industrial Robotics)の需要は国・地域問わず今後大きく拡大すると考えられる。産業用ロボットの世界市場は2016年から2023年にかけて年平均9%程度成長し、2023年には1,000億ドルに迫る市場規模に達すると予測される。(図表1)

図表1 産業用ロボット市場規模推移と予測

図表1 産業用ロボット市場規模推移と予測
出所:各種調査データを基にデロイト トーマツ コンサルティング合同会社作成

スマートファクトリーとスマートマニュファクチュアリング

スマートファクトリーとは、AI、IoT、ビッグデータ、デジタルツインや3Dプリンタなどのデジタル技術とロボティクスが融合することで、生産工程だけでなく、工場全体の自動化(部品の積み下ろしから完成品の積み込みの自動化+オペレーション/アセット最適化)までを実現する概念である。さらにその対象範囲を工場からバリューチェーン全体のE2E(End to End)まで広げたものがスマートマニュファクチュアリングである。(図表2)

図表2 スマートファクトリーとスマートマニュファクチュアリングの概念

出所:デロイト トーマツ コンサルティング合同会社作成

スマートファクトリー・スマートマニュファクチュアリングという新たな考え方における付加価値の源泉は、ネットワークに接続された全ての設備・機器・システムから発生するデータの活用である。それは「モノ」(従来型の工場装置)から「コト」(データ)への経営資源のシフトを意味し、企業にはデータを駆使した新たなビジネスモデルの構築が求められるようになりつつある。

こうした中、ドイツの「Industrie4.0」、米国の「Industrial Internet」、中国の「中国製造2025」や日本の「Connected Industries」など、自国製造業の競争力強化に向けた取り組みが注目されている。特に、一人っ子政策の余波による労働人口減少や、経済発展に伴う労働者賃金の上昇、労働争議増加など多くの問題を抱える中国では、中国政府自らが旗振り役となり、労働集約型から産業用ロボットやAIなどの先端技術の導入による技術集約型への中国製造業のシフトを推進しており、生産工程の自動化が急速に進んでいる。これは日本の産業用ロボットメーカーにとって大きな事業機会となっている。

しかしながら、中国政府は「中国製造2025」の最終目標の一つに「産業用ロボットの国産化」1を挙げている。2016年8月に中国の美的集団(Midea Group)がドイツKUKA社を買収する2など技術の内製化の動きは加速している。現状、日本の産業用ロボットメーカーは高い世界シェアを誇っているが、より高い自動化ステージを目指して努力する必要がある。(図表3)

図表3 製造業における自動化のステージ

出所:デロイト トーマツ コンサルティング合同会社作成

このように競争環境が変化し続ける中で、日本の製造業をはじめとするプレイヤーが国際的な競争優位性をさらに強化していくためには、ロボティクスをどのように活用できるだろうか。以下、デロイトが予測するロボティクス技術ロードマップの技術トレンドの観点から、ロボティクス活用の可能性について考察する。(図表4)

図表4 ロボティクス分野の技術ロードマップ

出所:デロイト トーマツ コンサルティング合同会社作成

ロボティクス分野の技術ロードマップ

2016年~2019年:ロボット活用シーンの拡張

産業用ロボットは、自動車の溶接用途を皮切りに、エレクトロニクス(電気・電子デバイス)、金属、機械業界を中心に利用されてきたが、メカトロニクス技術だけでなく、画像認識やAIなどのデジタル技術の進歩によって、これまで自動化が難しいと考えられていた業界(三品業界や製造業以外では物流業界など)や工程でのロボットの利用シーンが拡大している。

特に2010年代後半は、協調ロボット3(使用条件に基づいて適切に利用することで、安全柵などで囲うことなく人間のすぐ側で利用できる)の登場により、ロボットの用途拡大、低価格化が進んで活用シーンが広がった。さらにディープラーニングや音声・画像認識技術を使うことでロボット作業が知能化・自律化していることも市場成長のドライバーとなっている。

この動きに合わせて日本の産業用ロボットメーカーは、販売代理店を含め営業体制を強化する傾向にあり、商社およびロボット システム インテグレーター(SIer)とのパートナーシップを強化して新規需要の獲得に注力しており、産業用ロボット市場の拡大要因の一つになっている。

2018年~2021年:ロボット管理・導入の簡素化

2019年からは、ロボットのリモートメンテナンスとリモートセットアップへの対応が進み、ロボット管理・導入の簡素化が加速するフェーズになる。現状ではロボットに複雑な動作を記憶させるティーチング作業には専門的な知識と膨大な工数が必要とされており、SIerの専任エンジニアへの依存状況が続いている。これを受けてロボットベンチャー企業やAIベンチャー企業はティーチングレスの観点から事業拡大を目論んでいる。ティーチングレスが実用化されれば、SIerのビジネスモデルは大きな転換を求められることになるだろう。

2020年~:ロボットの無人化

2020年以降に起こると想定されるのが、人間によるロボットの設定や調整が不要になる「ロボットの無人化」である。クラウドロボティクス(ロボットの遠隔群制御)によって、全ての産業用ロボットは超高速大容量ネットワークに接続される。それぞれのロボットのデータはクラウド上に集約され、AIや分析アルゴリズムによって学習された結果がモジュールとしてロボットに配信され続けることで、熟練した人間と同じように、見て、聞いて、感じて、リアルタイムに判断して、必要な作業を自ら考え実施できるようになることが想定される。

中長期的な対応

2020年代に入ると「ロボットの無人化」が実現するフェーズになり、産業用ロボットメーカーも製造業等のユーザーも、ロボティクス技術の進化に応じた対応が求められるようになると考えられる。このフェーズでは、工場全体のオペレーションの完全自動化の実現に向けた動きが本格化するとともに、一部の先進企業ではその動きをバリューチェーン全体に展開することが想定される。

工場の完全自動化

「より安く、より良いものを、より早く、より安全につくる」ことは製造業の価値創造の原点であり、人間の関与を排除した工場の完全自動化の構想は多く見られる。しかしながら現状の取り組みの多くは生産工程の自動化が中心であり、工場のオペレーション全体を自動化するための変種変量生産や需要予測による生産調整への対応といった「最適化」にまでは踏み込めていない。

工場のオペレーション全体を完全自動化するには、超高速大容量ネットワークに接続された産業用ロボットが、人間と同じように見て、聞いて、感じ、リアルタイムに判断したうえで必要な作業を自ら考えて実行すること(「自律化」)が必要となると考えられ、その実現にはロボティクスに搭載される知能と制御技術の高度化が不可欠となる。

では、工場の完全自動化を実現するロボティクスのあるべき姿とは何か。デロイトでは、産業用ロボット(地上層)とエッジ(低空層)とクラウド(上空層)が一体となって有機的に人間と同じように行動することであると考えている。工場にある産業用ロボットはセンサから収集した様々なデータを元に周辺環境を認知し、エッジAIが即座に必要な動作を自ら考えて実行する。それと同時に、ネットワークに接続された産業用ロボットの全てのデータはクラウド上で集約される。クラウドAIや分析アルゴリズムによって学習された結果がモジュールとして産業用ロボットに配信され、そのモジュールをプログラムに適用することで、産業用ロボットが成長する。このサイクルを繰り返すことで、さまざまな業界の製造企業において蓄積されてきた生産技術やそれに基づくロボットの活用ノウハウが産業用ロボットに実装され、2030年頃にはロボティクスによる工場の完全自動化が実現できるだろう。

デロイトでも、クライアントや有識者との議論の中で、工場の完全自動化に対する否定的な意見を耳にすることは少なくない。しかしながら、ロボティクスを活用した物流倉庫の完全自動化は既に実現されており4、デジタル技術を寡占してきた一部のIT企業が、自動化が進む製造業にまで事業領域を広げてきているのである。例えば、クラウドプラットフォームやIoTプラットフォームを展開しているアマゾンウェブサービス(AWS)は、クラウドへのデータアップロードに抵抗のある製造業での事業拡大を目的としてエッジプラットフォーム(AWS Greengrass)を投入し、事業領域をエッジにまで広げている5。さらには、AWSの製造業ユーザーと連携して、彼らの保有する生産技術を活用したアプリケーションやサービス開発にも注力しているのである。

AWSのようなIT企業が製造業を破壊するのが先か、それとも日本の製造業がデジタル技術を取り入れてロボティクスによる工場の完全自動化を実現するのが先かと考えると、残された時間は決して多くないのではないか。技術の進歩によって競争環境が常に変化していく中で、企業が生き残り、持続的な成長を続けるには、その変化に即応することが求められている。日本の製造業のプレイヤーが持続的な成長を可能とするには、デジタル化された生産技術やオペレーションなどの知見・ノウハウをロボティクスと融合させることで工場の完全自動化を実現し、需要地生産に対応し得る競争優位性の構築が必要である。

 

筆者

髙木 良一 Takagi, Ryoichi
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
シニアコンサルタント
大手電機メーカーを経て現職。総合電機・重電・電子デバイス産業における、事業戦略、新規サービス・商品開発、先端技術による業務改革等のプロジェクトに従事。IoT/AIやロボティクスなどのデジタル先端技術分野を強みとしている。

 

【参考資料】

1. 中国製造2025とは 重点10分野と23品目に力, 日本経済新聞, 2018/12/7: https://www.nikkei.com/article/DGXKZO38656320X01C18A2EA2000/
2. 中国企業に買われたKUKA、その戦略とは, 日経XTECH, 2016/9/28:https://tech.nikkeibp.co.jp/dm/atcl/column/15/335160/092700016/
3. 国際安全規格「ISO 10218-1」に適合し、規定の作業空間において作業者(ヒト)と直接的に協調を行うよう設計された産業用ロボット
4. 株式会社Mujin:https://www.mujin.co.jp/case/jdcom.html
5. AWSとAzureのエッジコンピューティング戦略, businessnetwork.jp, 2018/11/19:https://businessnetwork.jp/Detail/tabid/65/artid/6412/Default.aspx

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