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広告型動画配信 日本の視点 (2)

TMT Predictions 2020

番組のインターネット配信等新しい動画配信のモデルに合わせて、視聴計測指標を業界全体で確立する動きはまだ発展途上の段階にある。新たな産業を確立させ、媒体価値を高めるためにも適正な評価指標の確立が急務と言える。

グローバル版:先行するアジアを米国も追うか?

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Ad-supported video: Will the United States follow Asia’s lead?

広告型動画配信(TMT Predictions 2020 グローバル版)【PDF, 1200KB】

日本の視点:メディアメジャメントのトレンド

動画メディアにおける広告効果指標再設計の必要性 

前項「放送事業者による動画配信プラットフォーム」での考察の通り、動画視聴形態が多様化する中で、国内で動画配信事業を実施するメディア事業者には、インターネット配信事業におけるマネタイズの強化によって事業モデルを確立させ、プラットフォーマーとしての事業基盤を盤石なものに進化させていくことが求められている。

一方で、新たな動画配信のモデルに合わせて、媒体価値を適正に評価する手法をはじめとした視聴計測指標を業界全体で確立する動きはまだ発展途上の段階にある。特にサブスクリプション収入によらない放送事業者などにおいては、番組のインターネット配信における広告モデルの確立は、新たな産業を確立させる意味で欠かせないものであり、媒体価値を高めるためにも適正な評価指標の確立が急務と言える。

従来、テレビ放送におけるコンテンツおよび広告効果の評価は、世帯/個人視聴率やGRP1といった「どれだけの世帯数/人数にどれだけの回数接触できたか」という考え方を指標として運用されてきた。一方インターネットメディアでは、通信のインタラクティブ性によりユーザーの行動を捉えることが可能となり、クリック数やページのスクロールといった、従来のメディアとは異なる指標が用いられるようになった。こうした流れはインターネット配信においても同様で、動画の再生と停止、再生完了率とスキップ率のように、視聴時の利用者の行動そのものを計測し、分析することができる。さらにオンラインでは、コンバージョンの計測によって広告から購買行動までの動きのトラッキングや、ビッグデータをもとにした利用者の属性分析が可能になっている。つまり、単に「接触した人数/回数」にとどまらず、広告出稿した際の直接的な効果の計測や、ターゲット消費者の分析など、様々なデータをもとにしたキャンペーン設計の可能性が広がり、それが媒体価値の向上につながっているのである。

広告モデルによってインターネット配信を事業化して進める上では、こうした背景を理解しつつ、媒体価値を広告クライアントに説明できる指標を確立させていく必要があろう。

日本においても、2020年は放送とインターネット配信の一体化=放送・通信の融合が加速する年となることが見込まれる。これまでは、放送・インターネットといった伝送路ごとに基本的には別個のメディアとして異なるコンテンツが配信されており、広告効果の指標を統合する必要性はそれほど高くなかった。放送と通信が融合し、放送と通信で番組の同時再送信が行われるようになる中では、媒体価値を計測する指標のあり方についての課題はこれまでとは違ったものになってくる。そこで本稿では、世界的に見ても高まりつつあるこうした課題について、その対応事例とともに考察していきたい。

動画メディアの視聴環境の変化と課題

テクノロジーの発達による通信の高速化やデバイスの高性能化により、消費者はオンライン上の多様な動画コンテンツを様々なシーン・デバイスで視聴することが可能になっている。放送局もテレビ放送向けのコンテンツをオンラインでも視聴できるサービスの提供を段階的に進めている。かつては「テレビ放送を受信・視聴するためのモノ」であった「テレビ」も、OTTセットトップボックスやスマートテレビの普及によって、各種ネットコンテンツを容易に視聴することができるディスプレイへと変化しつつある。こうしたサービス・デバイス両面の進化により、視聴者はメディアやデバイスに縛られることなく、シームレスに動画コンテンツを視聴することが可能となっている。

複数のメディアとデバイスで動画コンテンツが視聴可能となったことで、動画コンテンツの視聴機会は広がっている一方で、コンテンツの視聴人数の把握は困難になりつつある。例えば、テレビでコンテンツを視聴していた視聴者が同じコンテンツの続きをスマートフォンで視聴をするという場面を考えてみよう。サブスクリプション型の事業であればログインIDに紐付けることで、一貫した計測が可能である。一方広告型の事業でログインIDなどによる個人の識別を行わずに計測すると、デバイスを横断した視聴者の視聴数は、実際には一人の視聴であってもデバイスごとに複数回カウントされてしまう。広告モデルで展開する事業者にとっては「1コンテンツあたりの正確な視聴者人数の計測」は案外難しいのである。このように、デバイスをまたがる視聴者に関して、ユーザーごとの視聴行動・履歴を正確に捕捉できていないということは、「接触した人数/回数」=視聴率がわからないにも等しく、大きな課題となってくる。

この状況について広告を出稿する側の視点で見てみると、クロスデバイスでの視聴者の視聴実態を加味した統合的なプランニングが困難である、ということを意味する。この点は、広告プランニングの観点で重要な課題として顕在化しつつある。同一の動画コンテンツがテレビ放送とインターネット配信の双方で提供され、消費者がメディアやデバイスの垣根を超えて視聴できる実態を踏まえると、従来型の認知=テレビ、刈り取り=ネットといった、視聴デバイスとメディア種別に縛られたメディアプランニング手法では不十分になってきているのである。

このようにメディアごとに異なる指標により評価が行われ、消費者がどのようにデバイス横断で視聴しているかの実態を把握することが難しい状況においては、クロスデバイスでの広告効果の把握やPDCAサイクルの実現は困難だ。こうした課題を克服する形での統合的な計測の実現は、世界的にも課題であると捉えられており、様々な取り組みが行われている。

クロスメディアメジャメントの取り組み

ここで、欧米で進みつつある、動画コンテンツのクロスメディア化に対応した視聴計測の例を見ておきたい。

英国のTV視聴動向調査団体であるBARB2では、デバイスを横断した視聴数計測を行う「Project Dovetail3」を2015年に発足させた。Project Dovetailでは、通信ログをもとに各デバイスの動画視聴状況を計測するルーターメーターと呼ばれる機器をモニター対象世帯に設置し、テレビ、PC、タブレット、スマートフォンそれぞれでの動画視聴計測を行っている。

2020年1月にはそのデータをもとに推計し算出した、デバイス間重複無しの視聴者数と視聴時間のレポートの提供を開始した4。今後さらに、英国の調査会社Kantarと連携し、ルーターメーターの設置世帯を増やし計測精度の向上を目指す計画を発表している5。2022年以降はこれまでの調査方法から、ルーターメーターのデータをもとにしたレポーティングへの完全移行を目指しており6、ベンチマークしていくべき先行した取り組みの一つといえる。

米国のメディア調査会社の監査等を行う業界団体MRC(Media Rating Council)7においても、クロスメディアでの計測手法の検討を進めている。現状ではまだ、各評価指標の用語の定義や、調査手法のガイドライン等の検討段階であるが、今後はメディアや広告会社とともに、調査・検証を進め、評価指標の設計が進んでいくと考えられる。

このように英国、米国では中立的な立場の団体が指標の整備を進めているのに対して、日本国内では、広告代理店や調査会社が各社独自に、クロスメディアでの視聴計測や評価指標を設計しているのが現状である。つまり各社それぞれが、独自に自社の調査パネルや会員制サービスのデータをもとにした推計や個人の視聴データの紐づけ等に取り組んでいる段階にある。一方で、指標設計の確立や計測の適正性確保といった業界を横断する標準化に向けて、計測手法、推計ロジック、指標の評価のあり方などの論点を詰めるといったところにまでは至っていない。

評価指標の整備・新たな評価指標整備の必要性

市場の過渡期である現在、各社が競い合い評価指標の計測手法や推計ロジックを高度化させていくことは有用である一方で、指標の基準が個社ごとにバラバラである状況が継続すると、広告取引等におけるメディア、広告主、広告会社の3者の取引の公平性や正確性、ビジネスの効率が低下することが懸念される。ネット広告で話題となったアドフラウドの問題の覆轍に陥らないことを前提に置きつつ、特に以下3つの観点での対応が求められることになるだろう。

① 中立性と公平性を保つ環境整備

評価指標の定義の統一をはじめ、数値の計測方法やレポーティングに際するテクノロジー活用による正確性の担保、改ざんへの対策を進めていくことが必要である。業界内に閉じず他業界の指標設計や技術活用、監査等のノウハウも取り入れ、中立性と公平性を兼ね備えた市場環境整備に取り組むことこそが、指標の信頼性の向上につながり、業界の発展に寄与すると考えられる。

② 視聴質の評価

視聴環境の違いをとらえ視聴評価に加味する形での、視聴質の評価も今後重要となる。これまでも視聴質測定の必要性については議論されてきたが、視聴デバイスの多様化と、それにともなう視聴環境の多様化によってより一層必要性が増している。

現在の視聴評価では、コンテンツがテレビやスマートフォンで表示されていれば、すべて同価値の「視聴数=1」としてカウントしているが、例えば、同一のコンテンツであってもテレビの大きな画面での視聴と、スマートフォンの小さな画面での視聴では、視聴者のコンテンツに対する注視の度合いや、コンテンツの与えるインパクトは大きく異なると考えられる。また、同じスマートフォンでの視聴であっても、自宅でリラックスしながら見ている時と、移動中の隙間時間に寸暇を惜しんで見ているときでは、視聴者の集中度は大きく異なることは明らかである。こういった視聴環境やシーンの違いによって生じるコンテンツの影響度の違いは、広告訴求等の観点で非常に大きな差異として現れると考えられる。

すでにテレビ視聴においては、センサ等を用いた視聴態度の計測の取り組みが進められている。例えば、TVISION INSIGHTS社8はTV前にセンサデバイスを設置して視聴者の状態をモニタリングし、何人で視聴しているか、視線はTVに向けられているか等を計測しレポーティングを行っている。センサデバイスの設置世帯数等はまだ少なく発展途上であるものの、TV前の視聴者の状況を計測するには正確性の高い手法であると考えられ、今後指標の一つとしてこのような形式で測定されたデータが利用される機会は増えていくだろう。また、こうしたデータ取得においてはプライバシーへの十分な配慮が必要であり、モニター対象者との手続きやデータの管理のあり方の確立を図っていくことが必要である。

③ 視聴行動ログなどのデータ利活用

5Gの普及に伴って大容量かつ低遅延のコンテンツ配信が可能になることで、AR/VRのような新たなコンテンツ形態の普及や、より双方向性の強いコンテンツ配信も可能となり、これまで以上に視聴者の視聴時の行動をデジタルデータとしてメディアが取得できる機会は増加する。例えば、AR/VR視聴時の視点の移動ログや、5G回線を利用した多視点動画の配信時の視点の切り替えといった動作ログ、低遅延性を利用した視聴者参加型コンテンツによる視聴者のインタラクション等、視聴者から能動的に行われる様々な行動ログデータがコンテンツ配信と同時に蓄積されていくことになる。

膨大なデータを単に蓄積し数値化すること自体が目的化してしまわないよう、各メディアにとっては、データ分析の手法を具体的に検討し、事業運営につなげていくことが今後ますます重要になっていく。インターネットメディアにおける広告ビジネスでは、こうしたデータ利活用による広告効果の測定と運用が媒体価値の向上に寄与し、市場規模の拡大につながってきた。新たに動画配信の領域にも事業を広げつつある放送事業者などが、インターネットにおいても媒体価値を向上させ、事業成長につなげていくためには、従来までのビジネスとは違う観点でのデータ分析が求められるであろう。例えば広告効果の評価においては、広告主や広告会社が何を求めているのかという具体的なニーズを踏まえ、データを分析、加工することで目的に合ったレポートを提示できる体制を整える必要がある。自社内でのコンテンツ開発・制作においても同様に、KPIとして設定する指標を検討し、データをもとに計測・反映する仕組みの設計が求められるようになるだろう。これまで以上にメディア事業においてデータの活用が重視されるようになり、データを活用した指標設計とそのために必要な分析基盤等の整備も必須になると想定される。

こうした分析を通じて、高度化する広告クライアントのマーケティングキャンペーンマネジメントに貢献することが、広告型で行われる動画配信の価値を高めることにつながっていくはずである。

最後に

2020年は放送・通信の融合が加速する節目の年となるだろう。これは、各事業者のビジネス戦略の転換と再定義が必要となってきている、ということを意味している。

日本の2019年の媒体別広告費ではインターネット広告費がテレビ広告費を超えるなど9、市場規模の面から見てもテレビ放送からインターネットへのメディア消費の逆転が進みつつある。とはいえ、当然テレビ広告の価値がなくなったわけではない。

広告モデルのメディア事業には、サービスやコンテンツの充実だけではマネタイズを図ることができず、集めたリーチを何らかの「指標」として提示し、それを通じて総合的に収益を獲得するという二面市場の構造を持つという大きな特徴がある。これまで既存のメディア事業者は、テクノロジーの進化や視聴者のデジタル化へ追従するかたちで配信の伝送路を拡張させる、という方法でビジネスモデルを対応させてきたが、通信・放送の融合が本格始動する中で、この二面市場に対応する形での指標運用がより明確に求められることになるだろう。

本稿で見てきた放送・ネットのクロスメジャメントの取り組みは、放送・ネット双方に事業・コンテンツ展開するからこそ高められる媒体やコンテンツの価値を指標値化しようとする試みであると言える。確かにサービス面でのデジタルへの対応は急務である。だがそれは単に、コンテンツ配信方法のデジタル対応や、指標計測ツールのデジタル化だけを指しているわけではない。これまでの考察のとおり、データやテクノロジーの活用を通じ、事業環境や技術変化に対応し、媒体価値と訴求力を高めビジネスの成長につなげていく検討が必要である。

放送・通信融合時代のメディア産業を形成する際には、変化を続ける市場環境の中においても、媒体価値を訴求できる指標設計を行うこと、媒体価値を高めるためのデータ分析を行うこと、さらにはそれらを活用したビジネスモデルの再設計が今まさに求められているのである。

メディアメジャメントのトレンド(TMT Predictions 2020 日本版)【PDF, 470KB】

筆者

三ツ井 淳 Mitsui, Jun

デロイト トーマツコンサルティング合同会社

シニアマネジャー

 グローバルSIer、グローバルコンサルティングファーム数社を経て現職。通信・メディア業界を中心に新規事業戦略立案、新規ビジネスモデル検討・事業立ち上げ支援、デジタルマーケティング等の領域において先進的なテーマのコンサルティングを多数提供。

 

北村 慶介 Kitamura, Keisuke

デロイト トーマツコンサルティング合同会社

マネジャー

 デジタルエージェンシー、外資系コンサルティングファームを経て現職。テクノロジー知見を活かした、新規事業戦略策定、マーケティング・ブランド戦略策定を業界横断で幅広く支援、近年は通信・メディア業界へフォーカス。

1. GRP=Gross Rating Point(延べ視聴率); ひとつの広告に接した視聴者の割合と接触した回数を表す指標であり、接触率(リーチ)×平均接触回数によって算定される。例えば毎分視聴率が1%の番組に1本のテレビ広告を出稿した場合、1GRPとなる

2. BARB(Broadcasters Audience Research Board), 2020/3/19アクセス: https://www.barb.co.uk/

3. BARB, “Project Dovetail”, 2020/3/19アクセス: https://www.barb.co.uk/project-dovetail/

4. BARB, “Weekly viewing summary (from Jan 2020)” , 2020/3/19アクセス: 
https://www.barb.co.uk/viewing-data/weekly-viewing-summary-new/

5. BARB commissions Kantar to install router meters into panel, BARB, 2019/6/11:  https://www.barb.co.uk/news/barb-commissions-kantar-to-install-router-meters-into-panel/

6. Ibid.

7. MRC(Media Rating Council): http://mediaratingcouncil.org/

8. TV INSIGHTS株式会社, 2020/3/19アクセス: https://tvisioninsights.co.jp/

9. 2019年 日本の広告費,株式会社電通, 2020/3/11: 
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2020/0311-010027.html

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