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ローカル5G

TMT Predictions 2020

5Gの商用化が2020年春に始まるなか、工場・物流倉庫・医療機関等の限定された範囲内で自営の5G環境を構築するローカル5Gが脚光を浴びている。5Gのインパクトとして、「大容量・高速通信」「超低遅延」「同時多接続」等の機能面が着目されやすいが、5G時代の本質的な変化は「ネットワークのソフトウエア化とオープン化」にある。

グローバル版:企業ネットワークの無線化

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Private 5G networks: Enterprise untethered

ローカル5G(TMT Predictions 2020 グローバル版)【PDF, 516KB】

日本の視点:ネットワークのオープン化時代を見据えたローカル5Gへの向き合い方

ローカル5Gとは何か?

5Gの商用化が2020年春に始まるなか、工場・物流倉庫・医療機関等の限定された範囲内で自営の5G環境を構築するローカル5Gが脚光を浴びている。

グローバルではHuawei・Ericsson・Nokia等の通信機器ベンダー、Deutsche Telekom等の通信キャリアに加え、Bosch・Mercedes-Benz等の各産業のキープレイヤーが参入を表明する等事業化に向けた動きが活性化している。日本では総務省が2019年12月に「ローカル5Gに関わるガイドライン案」を策定する等1、ドイツと並び制度整備で先行しており、NTT・KDDI等の通信キャリアに加え、東芝・NEC・富士通・京セラ・パナソニック等大手機器メーカーの新規参入が相次いでいる2 3

従来は次世代通信技術のメリットを享受するには通信キャリアのエリア整備を待つ必要があったが、企業・自治体等が主体となり建物・敷地内といった限定的なエリアで自営5Gネットワークを構築することで、5Gを利用したアプリケーションの早期立ち上げの実現が期待されている。

通信技術の進化とローカル5Gの提供価値

従来は、通信規格の進化とともに技術的な視点では“非連続な進化”が起こる一方、大規模な設備投資を伴うため経済合理性が担保しやすい人口密度が高い都市部から段階的にエリア化されるため、普及は“連続的変化”になるのが通信サービスの特性であった。つまり、技術は非連続、普及は連続的変化として展開してきたと言うことができる。これには4Gまでの成長ドライバーはB2Cであったことが大きく寄与している。

一方、5Gでは自動運転・遠隔手術・ロボットの自動操縦等のB2B領域が成長領域として着目されており、通信業界(Horizontal)と各産業セクター(Vertical)間での協業によるエコシステム構築やユースケース創出の取り組みが進んでいる。そのため、従来の“連続的な”普及とは異なる進展となっている。

グローバル版本編でも着目されている工場・物流倉庫・港湾等の領域は、人口密度の高い都市部から離れた場所も多く、従来通信キャリアにとってエリア化の優先順位が低い領域であったが、5Gのユースケースの早期立ち上げを目的としたローカル5Gの実証実験が活発に進んでいる。

ローカル5Gの代表的なユースケースとしては、グローバル版本編でも言及されている製造工場のスマート化が挙げられる。製造業では消費者ニーズの多様化に伴い、多品種少量生産を実現する柔軟な生産モデル構築が経営課題となっている。こうしたニーズへの対応は、少品種大量生産向けの産業用ロボットや自動化設備のみでは実現困難であり、人との協働作業を可能にする協働ロボットやAGV・AMR4等の自律型移動ロボットを活用した高度な自動化と柔軟性を両立した生産システムの構築が実現要件となっている。

例えば、Mercedes-BenzはEricssonとパートナーシップを締結し、次世代型工場の「Factory 56」においてローカル5Gの採用を表明している。Factory 56では単なる自動化のみでなく、製造関連データの統合・一元化、予兆保全によるダウンタイムの最小化、XR技術を活用したワーカーへの教育プログラム提供、部品データの統合によるサプライチェーン高度化等のバリューチェーン全体の効率化を志向している5。こうしたユースケースの実現には従来、有線LAN・Wi-Fi等の工場内での複雑な通信環境が高度な自動化のボトルネックとなっていたが、ローカル5Gの活用により高速通信に加え、通信インフラの一元化やワイヤレス化が実現可能となる点がメリットと捉えられている。

ローカル5Gへの向き合い方

実証実験やルール整備が進む一方で、ローカル5Gには事業性の視点で多くの課題が残っている。ローカル5Gの運営には自前でのネットワーク構築が必要であり、基地局設置・対応端末の購入・既存システムとの連携を含むシステム構築等の一定の投資が必要である。またネットワークの監視・保守等の体制構築や運用コストも生じるため、非通信事業者にとって導入のハードルは決して低くない。実際にローカル5Gのコスト目安として1プロジェクト当たり数千万~数億円の投資規模になるという見込みが日本の通信機器メーカーからも提示されている6。通信事業者による4G/5Gの商用サービスはB2B/B2C関わらず不特定多数のユーザーからマネタイズ可能であるが、これと比較するとローカル5Gでは基本的に特定のユースケースの収益増加やコスト削減を原資に投資回収を行う必要があるため、投資対効果の実証は大きな課題となる。

類似の既存技術としてプライベートLTEが存在するが、海外での事例はあるものの7、国内では技術制約やコスト課題からブレイクスルーには至っていないのが実情である。

ローカル5Gは現状では実証実験を通じたユースケース創出を主目的として考えるべきで、経済性を厳密に問われるステージではないが、IoTビジネスにおいて数年前より多くのPoCが繰り返されたのち、期待したほどの成果が挙げられず現状収益面で苦しんでいるのと同様の構図が繰り返される可能性があり、技術検証のみでなく投資対効果の実証や新たな事業モデルの確立に早期に取り組むことが肝要である。

ではどのような展開シナリオを見据えてローカル5Gに取り組むべきであろうか。5Gによるネットワークのソフトウエア化・オープン化時代に向けたテストベッドとして捉えるべきというのが筆者の見解である。

ローカル5G(TMT Predictions 2020 日本版)【PDF, 528KB】
図表1 モバイルネットワークの進化とキラーアプリケーション
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5Gによるビジネスモデルの変化

また、5Gのインパクトとして「大容量・高速通信」「超低遅延」「同時多接続」等の機能面が着目されやすいが、5G時代の本質的な変化は「ネットワークのソフトウエア化とオープン化」にあると考える。

ソフトウエア化の観点ではNFV(Network Function Virtualization)やSDN(Software Defined Network)に代表される仮想化技術の進化と5Gの技術特性の組み合わせにより、ネットワークのパーソナライズ化が実現する点が大きな変化となる。従来モバイルネットワークは顧客ニーズに関わらず均一的なサービスを提供し、品質に責任を持たない「ベストエフォート型」が原則であった。2021年以降に商用化が見込まれる5Gフェーズ2では「大容量・高速通信」「超低遅延」「同時多接続」等の特性をソフトウエア制御で組み合わせて提供し、顧客のニーズに最適化したネットワークサービス提供が可能となる8。実現手段として仮想ネットワークをソフトウエアで柔軟に構築する技術としてネットワークスライシングが注目されており、従来取り組み途上であったネットワーク運用自動化やアナリティクス等、いわゆる「ネットワーク領域のAI」の普及ドライバーとなると想定される。この領域は通信・非通信プレイヤーともに今後の投資領域として注目すべき領域と考える。

オープン化の観点では、従来通信キャリアや通信機器ベンダーの垂直統合モデルで提供されていた通信サービスのオープン化が進展し、End-to-Endでのビジネスモデル構築が進むと想定される。IoTの世界ではハードウエア・ソフトウエア・サービスをソリューションとしてパッケージ化し、サブスクリプション型や成果報酬型で収益を得るビジネスモデルが増加している一方、通信サービスは従来通り通信キャリアから請求するパターンが主流となっており、通信レイヤーのみ分断されている状況にある。今後は通信業界(Horizontal)と各産業セクター(Vertical)間の協業を通じてソリューションパッケージに通信サービスを組み込むことで、デバイス・通信・サービスまで一貫したEnd-To-Endのサービス提供が増えることが想定される。

5G商用化を迎え、5Gのユースケース探索は一巡感があり、夢のようなユースケースを追い求めるフェーズは終わりに近づいている。これからはソリューショントータルでの提供価値の明確化とEnd-to-Endのビジネスモデル構築等の実用的な価値が求められるフェーズに入り、ローカル5Gをきっかけとして、いかに早期に短期の事業性と中長期の拡張性を両立した事業モデルを構築するかが競争力を左右することになるであろう。

筆者

越智 隆之 Ochi, Takayuki

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社

シニアマネジャー

大手通信キャリアの海外M&A部門を経て現職。電機メーカー・医療機器メーカー・デバイスメーカーを中心に新規事業戦略立案、組織・人事戦略・M&Aプロジェクト等に従事。特にクロスボーダー案件に強み。

1. 総務省,「ローカル5G導入に関するガイドライン」,2019/12/17: https://www.soumu.go.jp/main_content/000659870.pdf

2. 各社HPより

3. 総務省, op.cit.; 総務省ガイドラインではNTTドコモ、ソフトバンク、KDDIなどの全国MNO事業者はローカル5Gの免許を取得することは当分の間できないとされている。

4. AGV(Automated Guided Vehicle)・AMR(Autonomous Mobile Robot)

5. Ericsson and Telefonica to make 5G car manufacturing a reality for Mercedes-Benz, Ericsson, 2019/6/27:
https://www.ericsson.com/en/news/2019/6/mercedes-benz-ericsson-and-telefonica-5g-car-manufacturing

"Factory 56". Mercedes-Benz Cars increases flexibility and efficiencyin operation, Daimler, 2020/3/4 アクセス: https://www.daimler.com/innovation/production/factory-56.html

6. ローカル5Gが新たなバズワードに、製造業はその可能性を生かせるのか, MONOist, 2020/1/8:
https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/2001/08/news039_2.html

7. プライベートLTE 空港から工場、防災、スタジアムまで広がる活用シーン “Wi-Fi超え”の企業無線,『月刊テレコミュニケーション」, 2018年5月号

8. 5Gは3段階で進化する ポテンシャル発揮は2023年から, 『月刊テレコミュニケーション』,2020年1月号

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