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音声コンテンツ

TMT Predictions 2020

オーディオブックやポッドキャストはニッチな位置づけを超えて成長し、独自の市場としての地位を確立しつつある。日本でも音声を扱うコンテンツサービスは徐々に広がりを見せており、従来のラジオ事業者だけでなく様々なプレイヤーが音声コンテンツの開発・制作や配信に関与する傾向がみられる。

グローバル版:オーディオブックとポッドキャストの隆盛

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The ears have it: The rise of audiobooks and podcasting

音声コンテンツ(TMT Predictions 2020 グローバル版)【PDF, 535KB】

日本の視点:海外の音声コンテンツの盛り上がりは日本にも訪れるのか

音声コンテンツの強み

グローバル版ではポッドキャストやオーディオブックに代表される音声コンテンツ市場の拡大について取り上げられているが、日本で「いまポッドキャストが流行っている」と聞いて、ピンとくる人は少ないかもしれない。本稿では、特に日本で現在業界の動きが活発なポッドキャストを中心に、音声コンテンツ市場について考察する。

グローバル版によると、スマートスピーカーの普及や、ワイヤレスイヤホン/ヘッドフォンの利用者数増加、オーディオブックのサブスクリプションサービスの普及といった音声コンテンツを消費する環境が整ったことで、ポッドキャスト市場は30%の成長率で伸長すると予測されている1。消費環境が整う中で、なぜ音声コンテンツが注目されているのだろうか。動画やテキストとは異なる音声コンテンツの強みには、以下の点が挙げられる。

まず、音声のみで情報を届けるため、マルチタスクで情報を仕入れることができる。ワイヤレスイヤホンで通勤・通学中にコンテンツを聴取する人が増えたり、スマートスピーカーで家事をしながら聴く人が増えたりと、デバイスやサービスの普及とともに、これまでリーチできていなかった隙間時間に音声コンテンツを楽しむ人が増えていると考えられる。

また、聞き手と話し手のつながりが強くなる点が音声メディアの特徴である。例えば、The New York Timesなどの海外の新聞社が配信するポッドキャストコンテンツでは、実際に記事を執筆した記者が登場して内容を解説するため、リスナーは直接記者の話を聞いたような感覚になり、リスナー・読者とのエンゲージメント強化につながっている2

最後に、制作コストが安価な点も特徴である。音声コンテンツはマイク一本で収録でき編集も容易なため、動画に比べると圧倒的に制作コストが安い。いわばスマートフォンひとつあればポッドキャストを始めることができる状況のため、素人からプロまで幅広いクリエイターによって様々なコンテンツが制作・配信されている。

海外における音声コンテンツを取り巻く動き

これらの音声コンテンツの強みを背景に、特に欧米では玉石混交のコンテンツがポッドキャストで配信される中で、ここ数年の盛り上がりの契機となった事例が、2014年に米国でリリースされた番組「Serial」の大ヒットである。この事例によってポッドキャストが何百万~何千万ものユーザーを集めることができ、広告市場が成立することが証明された。これがきっかけとなり、多くの品質の高いポッドキャストが制作され、リスナーを集める循環ができたと言える。

今では、欧米を中心に様々な企業が独自のポッドキャスト番組を配信しており、特に新聞社や出版社などのメディア企業が、独自の音声コンテンツの配信によって広告収入やサブスクリプション会員の獲得に成功している。

2006年に立ち上がったThe New York Timesのポッドキャスト「The Daily」は他社に先駆けた事例で、一日に200万人の聴取者を獲得している3。The New York Timesでは、特定のポッドキャスト番組を有料会員のみ先行で聞けるようにするなど、メリットを提示することでサブスクリプション契約数の拡大を試みている。また英国では、Guardianがポッドキャストで配信するニュース番組「Today in Focus」が人気を博しており、新たな広告収入の確保と、本紙の有料会員契約数の増加につながっている4。この事例は、ポッドキャスト番組のファンになったリスナーを、番組内で流す有料会員登録の案内によってサブスクリプション契約に誘導している形式である。

新聞社が主にニュースやドキュメンタリー番組を配信している一方、ポッドキャスト専門の制作会社が制作するフィクション・オーディオドラマも人気が高い。さらにポッドキャストの人気作品が映像化されるなど、IPを活用してマルチメディア展開されるケースも増えてきている。例えば、ポッドキャスト制作会社のGimlet Mediaが制作したオーディオドラマ「Homecoming」のJulia Roberts主演によるAmazon Prime Videoでのドラマ化5、ポッドキャスト制作会社Wondery制作の「Dirty John」の有料TVチャンネルのBravo(米NBCUniversal傘下)でのドラマ化6など、事例については枚挙にいとまがない。

また、大手コンテンツホルダーもポッドキャスト強化を進めている。米Sony Musicはポッドキャスト事業の新会社を立ち上げて人材を集めている7。米Marvelは、自社作品のキャラクターのWolverineやBlack Widowが出演するオリジナルのポッドキャスト番組を制作し、インターネットラジオサービスのPandora(衛星ラジオSiriusXM傘下)で独占配信している8。今後もこのような形で、制作費がかからない音声メディアで試験的にコンテンツを配信し、人気が出たものを映像へと展開するテストマーケティング的な使い方も増えていくだろう。

Spotifyによるポッドキャスト制作会社のGimlet Mediaの買収9が昨年注目を集めたように、音声コンテンツの人気と相まって、大手配信プラットフォームによるコンテンツの囲い込みも進んでいる。ポッドキャストに注力しているSpotifyは、2020年2月にはスポーツ関連のポッドキャスト制作に強いThe Ringerも買収した10。Appleも独占契約を結ぶ目的で複数のポッドキャスト制作会社へ接触していると一部メディアで報道されている11。実際、Gimlet Media CEOのAlex Blumberg氏へのインタビューによると、ポッドキャストにおいてIPの取り合いが始まっているという12。今後、大手プラットフォーマーを中心とした品質の高いコンテンツの取り合いはさらに激しくなると考えられる。特に音楽配信プラットフォーマーにおいては、既存の楽曲の配信だけではサービス間の差別化が難しいため、ポッドキャスト等を利用したオリジナルコンテンツのラインナップを揃え、顧客を獲得するという動画配信プラットフォームと同様の試みが加速していくだろう。

これらの例からは、ポッドキャストがユーザーと投資を集めつつあることが見て取れる。しかし現状では未だ、マネタイズの方法は十分には確立されていない。書籍などの活字メディアを音声化したオーディオブックの場合は、作品の単品販売やサブスクリプションによる収益化が基本となっているが、無料で品質の高いコンテンツがあふれているポッドキャストにおいては、広告・サブスクリプション・イベント・マーチャンダイジング・寄付など、多様な方法での収益化が試されている段階にある。米国では、サブスクリプションによるユーザー課金形式でポッドキャストを配信するLuminary13やStitcher14といったベンチャー企業が事業を展開しており、投資家からの資金を集めている。Spotify等の大手プラットフォーマーが音声コンテンツを囲い込もうとする中、ポッドキャストに特化した配信プラットフォームのビジネスが成立するかにも注目が集まっている。

日本における音声コンテンツを取り巻く動き

海外での音声コンテンツ市場の盛り上がりを受けて、日本でも関連したニュースが一部のテクノロジーやマーケティング関連のソースで話題になることはあるものの、現状ではまだプレイヤーの大きな動きは見られない。

日本の配信プラットフォームの動向を見てみると、Spotify等のグローバル大手プラットフォーマーが、日本でも徐々に独自のポッドキャストコンテンツをリリースしている。日本の事業者ではradikoが音声コンテンツのプラットフォーマーとして存在しているが、ラジオ放送のサイマル・タイムフリー配信を進めているのみで、現状では大きな変化は見られない。Voicy15やRadiotalk16といった新興の音声コンテンツ配信プラットフォームにおいては、資金調達や大手企業との提携などが進み成長傾向にあるものの、リスナーは一部のアーリーアダプターにとどまり、マスへの浸透はこれからの状況にある。

とはいえ、音声を扱うコンテンツサービスは広がりを見せている。ピースオブケイク社が運営するコンテンツプラットフォーム「note」でも音声コンテンツの有料販売の仕組みを導入17したほか、「audiobook.jp」でもオーディオブックだけでなくポッドキャストを有料配信できるようになった18。ECサイト「Stores.jp」で音声コンテンツを販売するクリエイターも存在しており19、楽曲の利用環境は未だに整っていないものの、音声コンテンツを配信する土壌は出来つつあると言える。

一方、コンテンツ制作側の動きとしては、TBSラジオがAudioMovieRという新たなブランドを掲げ、映画原作の「The Guilty」や人気ドラマ「半沢直樹」を原作にした音声コンテンツを投入し、品質の高いコンテンツの配信に取り組んでいる20。業界を盛り上げる動きとして、ニッポン放送が企画し、Spotifyが協賛する「Japan Podcast Award」も立ち上がった21。市場規模に目を向けると、ネットオリジナルの音声コンテンツ市場は2017年で82億円と推計されており22、今後も拡大すると考えられる。また、AmazonのAudibleなどのオーディオブックサービスも聴取できるコンテンツが充実してきたことで、日本ではなじみが薄かったオーディオブック市場も2024年には260億円規模まで拡大すると予測されている23

今後の展望

日本でも従来のラジオ事業者だけでなく様々なプレイヤーが音声コンテンツの開発・制作や配信に関与するようになり、市場開拓を狙う動きがみられる中で、今後具体的にどのような変化が起きていくのだろうか。欧米と比較して極端にラジオ聴取の比率が低い日本において24、海外の音声コンテンツの人気の高まりを受け、日本での普及を促すドライバーとしては以下の3つがあると考える。

まずは、プロによる品質の高い音声コンテンツが制作されることである。今後日本でも起きうる流れとしてはまず、大手配信プラットフォーマーによる日本向けコンテンツの制作・配信事例が増加することが想定される。例えば、海外でヒットしたオーディオドラマや、長尺ドキュメンタリーの邦訳版が制作・配信されるかもしれない。ドキュメンタリーを日本語訳し、どのように音声で表現するかはひと工夫必要であるが、コンテンツの下地があるため一から作品を制作するよりもプロセスが容易になる場合も多いと考えられ、事例が増加する可能性がある。もちろん日本のオリジナルコンテンツのリリースにも期待したい。加えて、The New York TimesやGuardianの成功を参考に、日本においても出版社や新聞社による多様なポッドキャストコンテンツ配信が増加する可能性がある。通勤や家事の隙間時間に情報を得ることができ、時間の制約が無く深い内容が伝えられる音声コンテンツのメリットは、ニュースコンテンツとの親和性が高い。すでに新聞社等が取り組んでいる記事を読み上げる形式のポッドキャストだけではなく、実際に取材を担当した記者がニュースを解説したり、臨場感のある取材の音声を利用したりと、独自性のある内容にコンテンツを拡充することで、聴取層拡大のきっかけになるかもしれない。もちろん、音声領域を主戦場とするラジオ局や音声ベンチャーによる音声コンテンツの制作・配信も引き続き拡大していくと考えられる。既存の制作力を生かし、さらに新しい発想でのヒットコンテンツが生まれることにも期待したい。

2つ目は、音声コンテンツの特性をマーケティングやブランディングに活用するプレイヤーの出現である。ポッドキャストは、マスに対して刺激を与えて認知を得るような大規模・瞬間的なマーケティングというよりも、ブランドのストーリーを語り掛けて共感を得るタイプの企業にとって有用である。例えば、主にミレニアル世代をターゲットにしたD2C(Direct to Consumer)ブランドは、ブランドコミュニケーションにポッドキャストを活用している。スーツケースのD2Cブランド「Away」は、彼らが提示する「旅」をコンセプトにしたブランドの世界観をポッドキャストで提示している。伝統的なブランドでも、例えばCOACHが若者をエンパワーメントすることをテーマにしたポッドキャスト「Dream It
Real」を配信している25。日本においても、ブランドのビジョンや世界観を伝えて共感を得るようなマーケティングが普及するなか、ポッドキャストを上手く活用する企業が出現するだろう。

最後は、人々が音声コンテンツを聴取できる環境整備が進むことである。日本でもスマートスピーカー、ワイヤレスイヤホンといった端末が更に普及し、Googleが検索結果にポッドキャストを表示するようになったように、コンテンツにたどり着きやすい導線が整備されることで、ユーザーの“耳”に触れる機会が増えるだろう。

大手プラットフォーマーやコンテンツ企業によって質の高いコンテンツが提供され、日本でも「Serial」のような爆発的なヒットが発生すると、日本における音声コンテンツ市場が活性化するだろう。音声コンテンツ自体への課金による市場拡大はもちろんのこと、企業が自社のブランディングや宣伝に音声コンテンツを利用する傾向が活発化し、音声市場がさらに拡大する可能性がある。市場に資金が流入することで、さらに多くの良質なコンテンツが作られる、というプラスのサイクルで市場が発展していくという期待も高まる。日本において2020年が音声コンテンツ元年になり、このような新しい経済圏とビジネスチャンスが生まれるのか、大手プラットフォーマー、音声ベンチャー、新聞社やラジオ局といったメディア企業の動向を注視したい。

音声コンテンツ(TMT Predictions 2020 日本版)【PDF, 470KB】

筆者

佐室 奈々 Samuro, Nana

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社

アソシエイトディレクター

企業のデジタルメディア活用やネットビジネス展開支援を多く手掛ける。特にネット系メディア企業、広告代理店、媒体社等の事業戦略、M&A戦略、海外展開支援等に強み。

1. TMT Predictions 2020「音声コンテンツ グローバル版:オーディオブックとポッドキャストの隆盛」参照(P47~)

2. NYT の人気 ポッドキャスト、「グローバル」路線に舵切り:ブレグジットを皮切りに, DIGIDAY, 2019/6/28: https://digiday.jp/publishers/the-new-york-times-daily-news-podcast-hones-in-on-europe/

3. NYタイムズのポッドキャストリスナーは毎日200万人, TechCrunch, 2019/4/30: https://jp.techcrunch.com/2019/04/30/2019-04-29-nyts-the-daily-now-reaches-2-million-listeners-per-day/

4. How The Guardian is making podcasts pay off, DIGIDAY,2019/3/12: https://digiday.com/media/guardian-making-podcasts-pay-off/

5. In the race to turn podcasts into TV shows, the podcasts are winning, THE VERGE, 2019/1/7: https://www.theverge.com/2019/1/7/18172268/podcasts-optioned-tv-adaptation-welcome-to-night-vale-homecoming-lore-justin-mcelroy-jeffrey-cranor

6. Bravo Will Reportedly Turn the Dirty John Podcast Into a Scripted Drama Anthology, VULTURE, 2018/1/29: https://www.vulture.com/2018/01/bravo-to-turn-dirty-john-podcast-into-a-drama-anthology.html

7. SONY MUSIC ENTERTAINMENT ANNOUNCES STRATEGIC INVESTMENT IN LEADING PODCAST PRODUCTION COMPANY NEON HUM, Sony Music, 2019/12/12: https://www.sonymusic.com/sonymusic/sony-music-entertainment-announces-strategic-investment-in-leading-podcast-production-company-neon-hum/

8. Marvel to launch podcasts featuring Black Widow, Star-Lord, Wolverine and more, Los Angeles Times, 2019/10/22: https://www.latimes.com/entertainment-arts/business/story/2019-10-22/marvel-podcasts-siriusxm-pandora-black-widow-star-lord

9. Spotify Announces Strategic Acquisitions to Accelerate Growth in Podcasting,  Spotify, 2019/2/6: https://investors.spotify.com/financials/press-release-details/2019/Spotify-Announces-Strategic-Acquisitions-to-Accelerate-Growth-in-Podcasting/default.aspx

10. Spotify is buying The Ringer to boost its sports podcast content, TechCrunch, 2020/2/5: https://techcrunch.com/2020/02/05/spotify-is-buying-the-ringer-to-boost-its-sports-podcast-content/

11. Apple Plans to Bankroll Original Podcasts to Fend Off Rivals, Bloomberg, 2019/7/17: https://www.bloomberg.com/news/articles/2019-07-16/apple-plans-to-bankroll-original-podcasts-to-fend-off-rivals

12. なぜ映像の全盛期に、音声がこんなにバズるのか, NewsPicks, 2020/1/19: https://newspicks.com/news/4551206/body/?ref=user_9696

13. Luminary,2020/2/20時点アクセス:https://luminarypodcasts.com/

14. Stitcher, 2020/2/20時点アクセス:https://www.stitcher.com/

15. Voicy, 2020/2/20時点アクセス: https://voicy.jp/

16. Radiotalk, 2020/2/20時点アクセス: https://radiotalk.jp/

17. 音声記事を有料販売する, noteヘルプセンター, 2020/2/20時点アクセス: https://note.pieceofcake.help/hc/ja/articles/360010319414

18. audiobook.jpがポッドキャスト配信者のマネタイズを支援、「課金システム」を提供開始, TechCrunch, 2019/8/1: https://jp.techcrunch.com/2019/08/01/audiobook-podcast/

19. ネットショップでダウンロード販売(デジタルコンテンツ販売)をするならSTORES.jp, STORES MAGAZINE,2017/1/27: https://officialmag.stores.jp/entry/2017/01/27/170000

20. AudioMovie, 2020/2/20時点アクセス: https://audiomovie.jp/

21. JAPAN PODCAST AWARDS, 2020/2/20時点アクセス: https://www.japanpodcastawards.com/

22. 総務省, 「令和元年版情報通信白書」,2019: https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r01/pdf/index.html

23. オーディオブック市場 2024年に 260 億円規模に, 株式会社日本能率協会総合研究所, 2020/1/9: http://search01.jmar.co.jp/static/mdbds/user/pdf/release_20200109.pdf

24. デロイトトーマツ,「TMT Predictions 2019:ラジオ」, 2019/4: 
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/technology-media-and-telecommunications/articles/et/tmt-predictions-2019-radio.html

25. 佐々木康裕 ,『D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略』, NewsPicksパブリッシング, 2020

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