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低軌道衛星

TMT Predictions 2020

低軌道通信衛星コンステレーションの登場により、従来の静止軌道を活用した衛星通信と比べ、「より低コストで」「高速、かつ低遅延(レイテンシ)な衛星通信サービスが」「より広範囲に」実現する可能性が開かれつつある。

グローバル版:衛星コンステレーションによるブロードバンドサービス

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High speed from low orbit: A broadband revolution or a bunch of space junk?

低軌道衛星(TMT Predictions 2020 グローバル版)【PDF, 641KB】

日本の視点:メガコンステレーション時代における日本企業の戦い方

グローバル版本編でも触れられているとおり、低軌道通信衛星コンステレーションの登場により、従来の静止軌道を活用した衛星通信と比べ、「より低コストで」「高速、かつ低遅延(レイテンシ)な衛星通信サービスが」「より広範囲に」実現する可能性が開かれつつある。低軌道通信衛星コンステレーションの概念自体は決して新しいものではないものの、ここにきてグローバルの各プレイヤーによって競うように計画が発表されている背景には、小型衛星の開発・製造コスト・打上げコストの低廉化と、IoT技術の発展等に伴う通信需要の増大化・多様化が相まって、コンステレーション構築の費用対効果が民間ビジネスとして妥当な水準と判断されるようになってきたことが挙げられよう。

2019年からはOneWebやSpaceXなどによって実際の衛星打上げが始まり、コンステレーション計画が構想段階から実行段階へとシフトしつつある中、日本ではこれらのプレイヤーのようにコンステレーション構築そのものに取り組む事業者は未だ現れていない。モバイルサービスを提供する楽天がAST & Scienceと1、また、従来から静止軌道を活用した衛星通信事業を展開しているスカパーJSATがLeoSatと2、それぞれ出資及び戦略的業務提携の関係を構築するなど、同分野への参入の動きは着実に進んでいる。

このような動きはあるものの、グローバルの新興プレイヤーによって牽引されているコンステレーション計画が果たして本当に実現するのか、商用ベースで持続的なサービスは展開され得るのか、といった点において不確実性は高く、まだ様子見といったスタンスをとっている企業も多いだろう。

本稿では、本格的なメガコンステレーション時代の到来に備え、日本企業がどのようにこのトレンドをビジネスチャンスに変えていけるのか、OneWeb、SpaceXなどの先行プレイヤーからみたときのデマンド(需要)サイド・サプライ(供給)サイドという2つの視点から考察してみたい。

デマンド(需要)サイドからのアプローチ

OneWebやSpaceXといったコンステレーション事業者の観点からデマンド(需要)サイドを見たときに、エンドユーザーに至るまでにどのようなプレイヤーが介在するビジネスモデルとなるのか、またそもそもどのようなユースケースでの需要があり得るか、といったところが論点となる。

本編でも触れられているとおり、低軌道コンステレーションを活用した衛星ブロードバンドにおけるビジネモデルは未だ不透明なところが多い。しかしこの領域における技術革新が、5Gと同様にこれまでの通信利用の幅を大幅に拡張し得ると考えた場合、「B2B2X」のビジネスモデルが参考になると考えられる。これは、通信事業者(B)が、大規模な顧客基盤を有する異業種企業や自治体等(B)をパートナー企業にしながら、エンドユーザーである企業や個人(X)へソリューションを提供するというモデルである。このモデルの特徴は、通信事業者の提供価値がインフラの提供に留まらず、パートナー企業を媒介して収集したエンドユーザーのデータの解析に基づくサービス開発・マーケティング支援にまで拡張していく点にある。このビジネスモデルを前提とした場合、頭のBにあたる通信事業者の役割を直接OneWeb、SpaceXのようなコンステレーション事業者自身が担うというシナリオも考え得るが、日本では既に成熟した通信キャリアが全国的なサービス基盤を構築しており、既に一部で衛星通信サービスも実施していることから3、これらのキャリアがコンステレーション事業者から通信回線の提供を受ける形で事業展開を実施していくといった方向性が自然であろう。つまりは、コンステレーション事業者(OneWeb, SpaceX等)⇒国内通信キャリア(NTTドコモ、ソフトバンク等)⇒顧客基盤を有する企業・自治体等のパートナー企業⇒エンドユーザーといった形の、いわば「B2B2B2X」のモデルが成立するのではないか、という仮説である。

実際にこのようなビジネスモデルが構築されていくためには、どの分野で低軌道衛星通信サービスのユースケースを見出すことができるかが焦点になる。本編で触れられていたような大規模なデジタル・デバイドが課題とされているアフリカや北極圏諸国に比べると、高度に有線・無線の地上通信網が張り巡らされている日本では、衛星通信へのニーズはどうしても限定的にならざるを得ないだろう。

しかしながら、政府が掲げる「Society 5.0」(人口減少・高齢化、エネルギー・環境制約などの社会課題解決のためにデジタル技術が最大限活用されている社会)の実現に向け、あらゆるモノがインターネットへ接続されていく“Connected Industries”の考え方が普及する中で、これまでも衛星通信が広く活用されていた海上通信の分野のみならず、地上通信網がリーチできていない領域における通信需要が増加していく可能性は十分にある。例えば、今後ますます活用が広がっていくであろうドローンや、将来的に新たなモビリティとしての社会実装が期待される「空飛ぶクルマ」(自律飛行可能な小型の電動垂直離着陸機)などにおいては、地上通信が届かない空域での飛行制御を実現するために衛星通信が活用される可能性があるだろう。またリアルタイム性が増すため、今でも衛星通信回線の主な用途となっている災害時の音声通話やメール等のデータ通信のバックアップのみならず、平常時でも5G回線の利用が想定される自律走行車両や遠隔医療システムのバックアップにまで活用用途を広げられる余地はあり得る。実際に、情報通信研究機構(NICT)を中心として衛星通信と5G/Beyond 5Gの連携に向けた検討が進められている4。さらには、「課題先進国」と言われる日本において、通信事業者と共に様々な業種の企業・自治体等がパートナーシップを組み、様々な社会課題を解決する手段として衛星通信のユースケースが広がっていくこと、また将来的にはこれらの取組から生まれるソリューション・パッケージが他国へ輸出されることも期待できよう。

サプライ(供給)サイドからのアプローチ

ここまでは低軌道衛星通信の利用側に着目してきたが、もう1つの視点として、日本企業が低軌道衛星コンステレーションを構築・運用していく上でOneWeb, SpaceXといった企業が必要とするモノ・サービスを提供するといったビジネスシナリオの可能性についても考えてみよう。

日本は、衛星・ロケット・地上通信設備、及びそのコンポーネントの開発・製造から衛星打上げ・運用に至るまでフルセットで対応可能な企業群を擁している世界でも数少ない国であり、従来は官公需依存の色が濃かったものの、近年のグローバルレベルにおける宇宙利用の拡大のトレンドに対応し、政府方針としてグローバル市場を含む民間市場への進出が強く推進されている5。特に、2018年からは宇宙産業分野における市場活性化を目的として5年間で1,000億円規模のリスクマネー供給を行う施策が実行に移される中6、小型衛星の開発・製造や小型ロケットの開発・製造・打上げを行うスタートアップが増え始めている。

また、ソニーがJAXAと共同で小型衛星向けの光通信モジュール開発に着手する7など、従来は宇宙産業のメインプレイヤーではなかったメーカーが参入の動きをみせている。これらの新規参入プレイヤーの特徴は、家電等の民生分野で使用されている技術を宇宙分野へ転用していることであり、宇宙機器に求められる信頼性をクリアすることができれば、転用元の製品のものづくりのアセットを活かした大量生産の可能性が開かれるだろう。

さらに、要素技術面では、NTTがJAXAと連携して地上と宇宙をシームレスにつなぐ超高速大容量でセキュアな光・無線通信インフラの実現に向けた共同研究を開始しており8、これらの成果も今後構築されていくコンステレーションへフィードバックされていくことが期待される。

このように、日本においては小型衛星分野における様々な生産・技術基盤が存在しており、コンステレーション構築のために今後大量の衛星製造・打上げが必要とされる中で、メガコンステレーションのサプライチェーンの中で日本企業が活躍する余地も出てくるだろう。

さらには、本編でも指摘されている通り、今後メガコンステレーションが広がっていく過程でスペースデブリ問題が更に深刻度を増すと考えられる中、JAXAと共同でデブリ除去実験に乗り出しているアストロスケール9のようなスタートアップの存在感も増していくと考えられる。

おわりに

ここまでの考察にて、低軌道衛星コンステレーションを活用した衛星ブロードバンドサービスが今後実現していく中で、やや楽観的ではあるものの、様々な領域にて日本企業が活躍できる可能性を示してきた。他方、低軌道衛星コンステレーション構築を巡る市場の動きはまだ不確実性を残しつつも、変化のスピードは目まぐるしい。このような状況において、ビジネスリスクを可能な限り軽減しつつ、将来の果実を得るための種まきを着実に行っていくためには、個社単独での活動というよりは、他社との緩やかな業務提携や、政府支援プログラムへの参画などを通じたPoC/実証実験機会の獲得が現実的と考えられる。

来るべきメガコンステレーション時代において、日本企業が存在感を示すことができるかは、これから数年以内のアクションにかかっている。

低軌道衛星(TMT Predictions 2020 日本版)【PDF, 477KB】

筆者

谷本 浩隆 Tanimoto, Hirotaka

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社

シニアマネジャー 

約10年にわたり、一貫して航空宇宙・防衛分野の民間企業・官公庁をクライアントとして、中長期戦略策定、オペレーション改善、サプライチェーン効率化等の領域におけるコンサルティングサービスを提供。近年は、New Technologyを起点とした新規事業開発に関するプロジェクトを多くリードしている。

 

石塚 永稔 Ishizuka, Noritoshi

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社

マネジャー

新卒入社以来、一貫して航空宇宙・防衛分野の民間企業・官公庁へのコンサルティングに従事。新規事業検討を得意領域とし、社会トレンド分析・ビジネスシナリオ作成、事業計画策定、M&A戦略、PoC等のプロジェクトマネジメント支援含め多くの案件実績有。近年は、特に宇宙分野に注力している。

1. 楽天、米AST &Science社へ出資し、戦略的パートナーシップを締結, 楽天株式会社, 2020/3/3: https://corp.rakuten.co.jp/news/press/2020/0303_02.html

2. 低軌道衛星通信事業者LeoSat Enterprises社との戦略的パートナーシップと出資への合意について, スカパーJSAT株式会社, 2017/5/11 : https://www.jsat.net/common/pdf/news/news_2017_0511_jp.pdf

3. NTTドコモ・KDDI・ソフトバンク 各社ウェブサイトより

4. 国立研究開発法人情報通信研究機構,「衛星通信と5G/Beyond 5Gの連携に関する検討会」報告書, 2020/2: https://www2.nict.go.jp/wireless/sat5g-scl.html

5. 内閣府宇宙政策委員会,「宇宙産業ビジョン 2030」, 2017/5/29: https://www8.cao.go.jp/space/vision/mbrlistsitu.pdf

6. 宇宙ベンチャー育成のための新たな支援パッケージ, 内閣府、総務省、外務省、文部科学省、経済産業省, 2018/3/20: https://www8.cao.go.jp/space/policy/pdf/package.pdf

7. 宇宙で輝けCDの光、ソニー 衛星通信に新手法, 日本経済新聞, 2018/5/17: https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30590650W8A510C1XY0000/

8. NTTとJAXA、地上と宇宙をシームレスにつなぐ超高速大容量でセキュアな光・無線通信インフラの実現に向けた共同研究を開始, 日本電信電話株式会社・国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 2019/11/5: https://www.ntt.co.jp/news2019/1911/191105c.html

9. アストロスケール、JAXAと組み大型宇宙ごみ除去へ, 日本経済新聞, 2020/1/31: https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55103650R30C20A1XY0000/

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