2030年に大人になる子どもたちへ―「わたし、地球」開発ストーリー

  • Digital Organization
2022/2/8

株式会社今治.夢スポーツ、株式会社サンリオ、そしてデロイト デジタルの異色ともいえるコラボレーションが、ショートムービー「わたし、地球」で実現した。これは、今治. 夢スポーツとデロイト トーマツ グループが共同で制作した小学生向けの環境教育冊子「わたし、地球」を、ハローキティ主演で映像化することで、なぜSDGsに取り組む必要があるのかを考えるきっかけになることを目指す取り組みだ。3社に共通するのは、持続可能な社会や次世代人材育成への思いである。今回は、「わたし、地球」が誕生するまでのストーリーを3社の対談を通じてご紹介したい。

持続可能な社会に向けた共通のパーパスのもと、制作がスタート

ショートムービー「わたし、地球」は、ハローキティが地球さんと出会い、地球が生まれてからの46億年の歩み、たくさんの生き物が命のバトンをつないで生命が循環していく様子、そして人類誕生以降に起きた劇的な変化を考える動画で、小学生に「未来のためにどうすればいいか」を考えるきっかけになればという思いを込めて制作された。サッカー元日本代表監督で、環境教育に長年携わっている岡田武史氏が代表取締役会長を務める株式会社今治.夢スポーツとデロイト トーマツ グループが共同制作した環境教育冊子「わたし、地球」がベースになっている作品だ。

このショートムービーは、昨年6月に開催された米国アカデミー賞公認・アジア最大級の国際短編映画祭、ショートショート フィルムフェスティバル & アジア2021の一環で、企業や広告会社が制作したブランディングを目的としたショートフィルムの祭典「BRANDED SHORTS 2021」での上映を皮切りに、誰もが視聴できるようWeb上で公開している。

今回のコラボレーションが実現した背景には、各社の持続可能な社会や次世代人材育成への思い、2030年の達成を目標としたSDGsの取り組みという共通点がある。今回の取り組みを推進した、株式会社今治.夢スポーツ 執行役員 / パートナーシップグループ長 氏家翔太氏、株式会社サンリオ CMO / マーケティング本部長 木村真琴氏、そしてデロイト トーマツ コンサルティング合同会社 / デロイト デジタル ディレクター 河野慎哉の対談を通じて、誕生までのストーリーやこれからの展望について紹介したい。

――まずは、持続可能な社会や次世代人材育成、SDGsについて、今治.夢スポーツ、サンリオではこれまでどのような形で関わってこられたのかをお聞かせください

氏家:今治.夢スポーツでは、「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する」という経営理念を掲げています。事業のひとつとして「FC今治」というプロサッカーチームを運営していますが、この理念のもと、そのほかに教育事業や健康事業、地方創生事業なども行っています。

氏家 翔太氏 | Mr. Shota Ujiie

株式会社今治.夢スポーツ
執行役員 (パートナーシップ・アースランド担当)

環境教育として「しまなみアースランド」という公園の指定管理をしており、そこで今治市教育委員会と連携して小学校5年生向けに環境教育プログラムを行ったり、未就学児向けの自然体験プログラムmoriccoを行ったりしています。参加した子どもたちはプログラムを受けたあとには「環境を意識しよう」「自然を大切にしよう」と思ってくれるのですが、その日限りの体験となってしまい、なかなかその思いが継続されたり定着したりするということが難しいという課題を抱えていました。

では、継続的に環境について意識したり、振り返ったりできるようにするためにはどうしたらいいのだろうと考えた結果、「絵本」を作ったらいいのではないかと考えました。そうすれば、プログラムに参加したときだけではなく、後からも振り返ることもできるし、親御さんと読んだりして一緒に環境について話すきっかけにすることができる。以前からパートナーとして応援してもらっているデロイト トーマツ グループにこの企画についてお話したところ、共感いただき、「一緒に作ろう」ということで環境冊子「わたし、地球」の制作プロジェクトが発足しました。

しまなみアースランド 「地球の道」

46憶年の地球の歴史を460mの距離に置き換え、“地球”と“生物の誕生と進化”の物語をたどりながら、未来について考える環境教育プログラムだ。

木村:私がサンリオに入社したのは、約3年ほど前ですが、最初の課題が「ハローキティの次の活躍の場をどう創造するか」ということでした。キティちゃんはかわいいキャラクターとしてよく知られていますが、ブランドとしてのパーソナリティや提供価値を改めて見直してみようと。そこで、ハローキティの誕生から続く物語や、サンリオピューロランド・ハーモニーランドでの活躍、スタッフがハローキティに寄せる思いを徹底的に調べていきわかったことは、キティちゃんが「思いやりの体現者」であるということでした。

それを具現化するには、まずは社会に貢献する活動に取り組むべきだと考えました。世界中の人たちが平和で仲良くできることを願い、まずは2018年9月から自身のYouTubeチャンネル「HELLO KITTY CHANNEL(ハローキティチャンネル)」を通じて、SDGsのゴールに向かって日本で活動している人たちを応援する活動に取り組んできました。
さらに、2019年には国連との協働企画「#HelloGlobalGoals」により、活動の場を世界に広げて、様々な社会課題に取り組む方々と会い、SDGsを達成するための取り組みを紹介しています。

――これまでキティちゃんが積み重ねてきた「思いやり」ブランドがあるからこそ、国連との取り組みも実現できたのですよね

木村:企業としても60年という歴史を持っている強さはありますよね。ハローキティは今までに、ユニセフと一緒に活動していたり、外務省や公的機関ともご一緒したり。大阪万博のときは、大阪万博の万博誘致特使として活躍したこともありました。

またハローキティには既存のファンの方々のコミュニティがあり、そこがパワーの源になって、さまざまなフィールドで拡散したり、「そうだ、そうだ」と支援したりしていただけるのも強みですね。

木村 真琴氏 | Mr. Makoto Kimura

株式会社サンリオ
CMO / マーケティング本部長

2030年に大人になる子どもたちのパーセプションチェンジを目指して

――今回「わたし、地球」をショートムービーとして映像化するきっかけは何だったのでしょうか

河野:米国アカデミー賞公認・アジア最大級の国際短編映画祭、ショートショート フィルムフェスティバル & アジア2021で、作品を上映するチャンスをいただくことができました。この映画祭なら、世界に向けて発信することができる。このチャンスを活かすためにどのようなコンテンツを発信すべかを考えました。

デロイト デジタルでは、デジタルやテクノロジーを扱う人間の倫理観や価値観といった羅針盤が重要だと考えています。人間社会における公平性を担保し、SDGsの目標を達成するために、早稲田大学グローバル科学知融合研究所と一緒に児童労働に焦点をあてた小学生向けの教材開発にも取り組んでいるのですが、その中で出てきた課題が、「小学生の教育現場でどのように SDGsの意義や重要性を伝えていけば良いかわからない」ということ。現場で苦労されていると聞き、約10年後、2030年に成人する子どもたちのパーセプションチェンジを起こせるような教材を動画で作ってみようということになりました。

ストーリーについては、今治.夢スポーツさんと作った環境冊子「わたし、地球」が適切だと感じました。地球の過去を振り返りながら、地球環境について考えていくという物語だからです。
しかし、SDGsの話は、どうしても敷居が高く感じられてしまう。どうしたらいいかと考えていた矢先にサンリオさんが参加してくださることになり、一気に道が拓けました。キティちゃんは世界的に有名なキャラクターですから、力を借りられるということはとても大きい。もちろんキティちゃんは、先行してSDGsの活動をしているわけですから、その実績も実力もある。

そこから「わたし、地球」にキティちゃんが加わり、地球さんと対話するというストーリーを考えました。キティちゃんと一緒に「地球からみんなのことはこう見えているんだよ」という話を聞いた子どもたちは、今の地球の状況を客観視できるようになり、「いま、自分は何をしなければならないのか」ということを考えたり、そのきっかけが得られるのではないかと思ったのです。

河野 慎哉 | Shinya Kawano

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
Deloitte Digital ディレクター

氏家:今回、デロイト デジタルさんから「環境冊子を動画にしませんか」というお話をいただきましたが、それはより多くの人に我々のメッセージを届けられるということにほかなりません。そこで「ぜひやらせてください」ということになりました。

このプロジェクトに参加することで、私たち発信で届けられるところだけではなく、たとえばキティちゃんのファンの方にも届けられる。きっかけは「キティちゃんが好きだから」だけでもいい。その人たちがちょっとでも環境について考えてもらえるようになったとしたら、こんなに素晴らしいことはない。全く違うイメージから広げられるのは非常にありがたいと思いました。

木村:「ハローキティ」としては、SDGsについてあまり知らない方々に、どのようにその大切さを伝えていくかがミッションでした。小難しい話になってしまうと、興味を持ってもらえない。しかし、今治.夢スポーツさんは、教育事業やコンテンツを持っておられる。お互いの目的やさらなる価値を創出するために足りないものが一致していたというのが大きかったですね。

河野:今治.夢スポーツさんのコンテンツとキティちゃんという2つの要素があれば、子どもたちはキティちゃんを通じて、地球さんの疑似体験ができ、気づきを得られるという青写真が描けました。あとは我々デロイト デジタルが、デジタルの力を使って動画というクリエイティブなものを作っていけばいい。そういったことを今治.夢スポーツさんとサンリオさんにお話したところ、皆さんに賛同いただくことができた。そこから今回のプロジェクトが始まったのです。

――実際に3社での共同プロジェクトを通じて、感じたことや気づきはありましたか

河野:ゴールが映画祭ですから、自ずと期日が決まっていて、約2ヶ月後という短期間で制作しなければなりませんでした。しかしこれが追い風となり、3社がお互いの利害関係を超えて猪突猛進でそのゴールに向かっていくことができました。

氏家:共同制作をする上で、3社ともSDGs に取り組む必要性を感じており、主体的な行動に繋げて次世代を育成するという観点で意見が一致していた点も大きかったですね。つまり、パーパスがあっていたということ。これがとても重要でした。

河野:「わたし、地球」は今治.夢スポーツさんが作った環境冊子でしたが、そのまま映像化できたわけではなく、いろんな人の想いや試行錯誤があって世に送り出すことができました。絵本だけだとわからない部分についても、制作サイドの方と話すことで発見できたのは大きな収穫でした。

木村:どうやって作っていくかというところは、いろいろありましたね。単にキティが現実の世界で本を読み聞かせするだけだとおもしろくない。原作の世界観のなかで、キティがどんな風に入っていけばいいか。それをしっかり考えながら実現していくというアプローチが、とてもクリエイティブでした。

この動画をみるとわかるのですが、はじめはハローキティのアニメはなく実写なんです。実は、そこにも強いこだわりがありました。実写の世界と、キティの2Dキャラの世界が見事に融合していく。

河野:このリアルとバーチャルのハイブリッドには、サンリオさんのこだわりが感じられました。キティちゃんの世界観と絵本をどうやって表現するかというところに、サンリオさんのプロフェッショナリズムを感じました。そして、なんといっても、やはりサンリオさん、キティちゃんのブランド力です。世の中の認識を変えるために何が一番効果的なのかということを考えると、世界中の誰もが知っていて、世界観がすでにいろんな人と共有されている「キティちゃん」というキャラクターの力、価値というものが絶対に必要でした。制作を通じて、改めてそのパワーを感じました。

氏家:地球というキャラクターも大切です。私たちは、地球さんは「酸いも甘いも知り尽くした大人の女性」としてキャラクター設定をしました。何にも動じることなくなんでも受け入れる。「わたし、地球」の中で、地球自身は自分の意見を主張しないんですよね。地球として生まれて、地球の中でいろんなことが起きた。隕石が降ってきたり、暑くなったり寒くなったり、人が生まれて環境が破壊されたりということもある。きっと痛かったり辛かったりすると思うのですが、それについてなにも言わず、あるがまま受け入れていく。この地球さんというキャラクターの魅力も大きかったと思います。

――完成した作品を見た人から、どのような反響がありましたか

氏家:子どもたちはとても興味を持ってくれましたし、サッカーを見に来てくれているファンの方々にも「あれを見たよ」と言われました。これまで「アースランドは散歩する公園」という認識を持っていた方にもこの動画を見て「そういうことを伝えようとしていたんですね」とわかってもらえたりしました。

こういった活動を知ることで、多くの人に環境問題やSDGsに関心を持ってもらえるようになればいいですよね。これから社会が大きく変わらなければいけないのですが、その最初のドミノを倒せたという手応えは感じています。

河野:デロイト デジタルでは、デジタルを使って新たな価値を生み出すという活動を目指していました。今回の活動を通じて、我々が主体になってクリエイティブな作品を作るという新たな価値提供ができたということが一番大きかったと感じています。この活動を通していろんなハードルがあり、それを関係者の皆さんと一緒に解決する過程で新しい発見や学びがありました。

キティちゃんは、誕生から約45年間、愛されてきたキャラクターです。長い歴史のなかで培われたさまざまな知財の世界があり、世界的に高いブランド価値がある。そんなキティちゃんと一緒に活動させていただいたこと、とてもいい勉強になりました。社内でも「どうやってやったの?」とよく聞かれました(笑)。

一人ひとりの行動変容が未来を変革する

――今後の展開として、どのようなことを検討されていますか。たとえば今回、英語バージョンを出されるとのことですが

河野:多くの人に理解してもらうということが重要ですから、英語バージョンは必要です。今回の動画は、子どもたちがSDGsを理解するきっかけになると信じています。この動画はYouTube にも公開しているので、そこに英語版があれば、日本だけでなく世界の子どもたちが理解するきっかけが得られる。これは大きいと思います。

しかし、動画を見ただけでは具体的な行動に繋がるとは限りません。その感想を誰かに話すことで、自分ごと化したり、フィードバックを得られたり、次のアクションを一緒に起こしたりと、具体的な行動への発展を期待しています。新型コロナウイルスの収束状況を見ながら、そういう場を動画などのデジタルだけでなくリアルな世界で提供することも考えています。

たとえば、先日は今治.夢スポーツさんが、しまなみアースランドで作品のこの動画の上映会と共に、SDGsを考えるワークショップを開催されたそうです。そうすると、その動画を見た感想を話していくなかで、自分たちは何かできるのかというアクションに繋がっていきます。今後は、こうしたリアルな世界に橋渡しをして、浸透させたり、アクションに繋げたりするための活動をしていきたいですね。

氏家:環境教育プログラムをやっても点で終わってしまうことがあるので、それを線や面にしていきたいという思いから、ワークショップと動画視聴を一緒に行うイベントを企画しました。これからも、そういったワークショップを増やしていけたらと思っています。「動画を見ておしまい」ではなく、見た後に何を思ったか、どうしようと思ったかについて話し合う場を作る。思ったことを言葉にすると、その人の中に課題や意識が定着していくと思っています。

僕たちは環境教育プログラムやっていますが、上映会を通じて小学生だけではなく大人もコミュニケーションをとることが大事だと思いました。そういった思いを言語化できるような機会を増やしていきたい。上映していくことでこれまで興味がなかった方にも興味を持ってもらえる。それを展開していくことで、最終的には僕たちの手を離れていくでしょう。実はそれがとても大事で、動画を見て、誰かに話をして、さらに上映会に来てくれたり、ウェブで動画を見る人が増えてくれたりしたら、それが一番ですよね。ワークショップのように、環境教育を次世代に伝えるためのノウハウがあるのであれば、僕らが持っているノウハウも世の中にどんどん出していきたいと思います。

木村:デロイト デジタルさんの今後の展開にも、ぜひ参加していきたい。イベントや場所を用意すれば、それがニュースに流れるかもしれません。そういうリードを用意していったほうがいい。「これはキティちゃんの動画だけど、地球のことをきちんと考えようというメッセージが詰まっているんですよ」ということが、ちゃんと理解できるようにしておいたほうがいい。今後はそういう部分で貢献していきたいですね。

地球のため、持続可能な社会のため、子どもたちのためという3社の思いが結実したショートムービー「わたし、地球」の制作プロジェクト。さまざまなハードルにぶつかっても、お互いにアイディアを出し合い、なぜ今このシーンなのか、なぜここに行き着いたのかを一緒に考えて解決し、新たな価値を創出する。そのプロセス自体も、SDGs のあり方を体現していると言えるのではないだろうか。一人ひとりの行動変容が、未来の変革につながる。今治.夢スポーツ、サンリオ、デロイト デジタルは今回の取り組みのほか、それぞれの活動を通じて持続可能な社会の構築に向けた幅広い取り組みを今後も推進していく。

ショートムービー「わたし、地球」プロジェクトメンバー

写真左から、株式会社今治.夢スポーツ 執行役員(パートナーシップ・アースランド担当)氏家 翔太氏、パートナーシップグループ 迫田 和佳子氏、株式会社サンリオ CMO / マーケティング本部長 木村 真琴氏、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 Deloitte Digital スペシャリスト 若林理紗、Deloitte Digital ディレクター 河野 慎哉

<関連リンク>
ショートムービー「わたし、地球」(日本語バージョン)
ショートムービー「わたし、地球」(英語バージョン)
デロイト トーマツ、FC今治とともに環境教育冊子「わたし、地球」を発行

PROFESSIONAL

  • 河野 慎哉

    デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 Deloitte Digital ディレクター

    外資系コンサルティング会社、自動運転用AIソフトウェア企業COOを経て現職。カスタマー・マーケティング領域においてデジタル技術やデータ活用による顧客対応力強化さらには顧客起点の経営改革に従事。Deloitte Digitalメンバーとしてデジタル時代の次世代人材育成を早稲田大学グローバル科学知融合研究所と推進

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