ビジネスに必要不可欠となったAPI

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ビジネスに必要不可欠となったAPI

IT領域からビジネス領域へ

アプリケーションプログラミングインターフェース(API)は、システムとソリューションの橋渡しを実現してきたが、近年、各企業はAPIに新たな可能性を見出し始めている。APIの利用によって、IT投資のROIが向上するだけでなく、その利用者に対して一連のデータ、トランザクション、および製品を利用するための構成要素を提供することが可能であり、このトレンドが加速するにつれて、APIは、契約、価格設定、サービス、およびマーケティングといった分野におけるデジタル革新の重要な柱となり得る。

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>> API imperative <<

Tech Trends 2018 | Deloitte Insights

日本のコンサルタントの見解

APIとは

APIという言葉は、テクノロジー活用における時代の流れや環境による技術の違いにより、微妙に異なった意味を持って使われてきている。このため、「API」という言葉を使う時に想像される機能や活用場面のイメージは、経験や立場などにより、若干の差があると感じる。

最近のテクノロジーに関する書籍や雑誌などでは、多くのクラウドサービスで利用されている「API」が話題として取り上げられている。AIサービスや携帯写真をクラウドストレージに自動的に格納するサービス、住所を入れて検索すると地図上にポイントを表示するクラウドマップサービスが代表的なものである。ここでいう「API」は、ソフトウエアの詳細を知らなくてもサービス機能を使うことができる「Web API」を指しており、クラウドコンピューティングを実現する上で欠かせない技術要素となっている。

クラウドコンピューティングを支えるAPI

クラウドコンピューティングにおいて、リソースの取得や環境の設定、インスタンスの操作、状態の監視をいつでも自由に行えることは、システムの開発や運用においては、なくてはならない仕組みである。IaaS(Infrastructure as a Service)では、すでに標準的な仕組みとしてWeb APIを使ってサービス機能を実行することが可能となっており、インスタンスの設定、リソースの効率性確保、高稼働率を維持するための可用性確保、障害時に迅速に対応するための保守性確保、ネットワーク設定、状態監視に至るまでの機能が網羅されている。

Web APIのメッセージ交換方式には大きく二つ、SOAP(Simple Object Access Protocol)とREST(Representational State Transfer)がある。SOAPは業界団体で仕様が設計され、複雑なビジネスロジックもWebサービスとして制御できる仕組みになっており、実行はXML形式のデータで行われる。一方RESTは、HTTPメソッドの仕様に沿って考えられたシンプルな制御が特徴であり、実行に必要な情報のやりとりは、JSONやXML形式のデータで行われる。最近はクラウドの標準的なAPI設計手法としてRESTが多く利用されている。

このような技術要素や考え方を組合わせて、インターネット上でURIをベースにHTTPメソッド(GET、POST、DELETE、PUT、PATCHなど)を使ったWebサービス、他のアプリケーションやWebサービスから利用するための仕様や規格としてWeb APIは整備されてきた。APIリファレンスを基にサービスコンポーネントプログラムにサービスAPIを組み込むことで、既存の開発ソフトウエアに、他のWebサービスで提供されている高度なサービス機能、コントロールおよびデータを最小コストで簡単に取り込むことができる。また、無償・有償による機能の違いは存在するが、Web APIによってもたらされる高度な機能を利用することで、ユーザは既存の開発ソフトウエアに付加価値をつけることが可能となり、新しいサービスコンポーネントや新しいサービスアプリケーションの開発ができるようになる。今後、APIを他社に公開することで、他社のサービスと組合わせた業種横断の新規ビジネスの創造が図られ、こうした新規ビジネスを中心とするエコシステム(生態系)が形成されることが期待される。

APIの普及

Web APIの価値が高まってきた2006年、Twitter社がAPIを使った新しい操作性のクライアント、投稿の分析機能、ボットを使った機械的な処理によるメッセージ投稿機能など便利な機能を開発したことで利用者を増大させ、ネット市場の中核となるソーシャルメディアクラウドサービスとして位置づけられるようになった。これによりTwitter社には人と情報が集まり、同社を中心とする巨大なエコシステムが形成され、クラウドサービスに付加価値が与えられることになった。現在でもTwitter社では、無償の標準APIや有償のエンタープライズAPI、プレミアムAPIの提供を続けている。
この他にも、AWSのProduct Advertising API、Google DevelopersのAdWords API、IBM社のWatson APIなど、多くのAPIが必要とされる仕様に基づき自由に利用できる形態で提供されている。これらAPIの普及によって、Twitter社の成功のようにAPIの公開が企業やサービスの価値に直接的に影響をおよぼす結果につながることとなり、企業の収益を大きく左右する重要な戦略として位置づけられるまでになった。

また、APIを前提としたサービスも多くなってきている。iPhone、android携帯電話端末やiPadに代表されるタブレット端末のアプリケーションもWeb APIを使ったサービスである。これらのサービスは、すべてが公開APIではないものの、アプリケーションとWeb APIが疎結合されたWebシステムとして構成されており、携帯電話端末やタブレット端末などのデバイスをサービス展開の中核としてとらえているクラウドサービス事業者は、それぞれのデバイスに合わせたAPIを提供している。

日本におけるAPIの動向

日本国内においては、ここ3年の金融庁の動きに後押しされて、APIを使った戦略が推し進められている。2015年にFinTechに関する一元的な情報の窓口として「FinTechサポートデスク」が設置され、2016年、2017年と2年続けて銀行法の改正が行われた。オープンイノベーションを支える中核としてオープンAPIの導入が強く推進され、政府の未来投資会議において2017年6月に発表された「未来投資戦略2017」では、2020年6月までにメガバンクや地銀など80行以上の銀行でオープンAPIの導入を目指すというKPIが設定された。この会議において、FinTechは、次のように定義された。

「日本の目指すべき社会像は、利用者の安全・安心が確保されることを前提として、ブロックチェーンなどの先進技術を活用するFinTech企業や金融機関などが、オープン API などを通じて連携・協働しつつ、利用者のために次々と競争的にサービスを提供、キャッシュレス決済を広く浸透することである。」

実運用の段階では、金融業界を中心とするエコシステムを形成するためには、スタートアップ企業の取り扱いやシステムのセキュリティ、法制度などの運用上の課題解決が必要となる。多くの銀行のオープンAPIを早期に提供する環境が整備できれば、他の諸外国よりも先んじてFinTechを推進できる社会インフラの構築ができると期待される。

金融以外の業界でも、さまざまなAPIを使った新しいビジネスへの取組みが提案されている。トヨタ自動車のオープンインベーションプロジェクト「TOYOTA NEXT」では、革新的なテクノロジーやサービスを持つ企業、ベンチャーおよび研究機関と共同で、トヨタ社が持つ資産とAPIを組合わせることによって実現する未来のモビリティ社会の創造が検討されている。これは、クルマに乗っている時以外でもトヨタ社と人がつながる「 人を中心とした」さまざまなサービスを実現するための取組みでもある。その他、ヤフー社の商用サービスのAPIを利用したIoTプロダクト、Webサービスをつなげるプラットフォームサービスである「my Things」の取組み、天気や公共機関サービスのAPI、情報提供サービスのAPIとアプリケーション提供など、すでに多くのAPIが公開され、規模の大小を問わず、エコシステムの形成が進んでいる。

APIによる新たなビジネスの創造

従来、APIは社内システムにおけるデータ連携ツールとして使われてきた。クラウドビジネスの発展に伴い、クラウド事業会社がサービスとして外部に公開してAPIの持つサービス機能をユーザが自由に使えるようにすることで、改革を導き出す起爆剤となった。業種・業界の障壁を越えて新たな経済圏を構築するビジネス連携ハブ機能として、各企業はAPIに大きな期待を寄せている。さまざまな企業がAPIを公開することで、他企業のサービスやデータを組み込んだ新たなサービス構築や業務提携によるビジネスの促進を図ることが可能となり、自社の事業領域以外でのビジネスの立ち上げや協業によるクライアント獲得につなげることができると考えられる。

企業は、自社のビジネスの戦略に基づくさまざまな動機でAPIの公開に取組み、ビジネスの成長や現行のパートナーおよび新たなパートナーを含めたビジネス連携体制を構築しようとしている。

しかし、APIの公開には、システム要件の対応だけでなく、何を、誰に、どのような目的で、といった要因に応じた公開範囲の設定やセキュリティ方式の検討、また、法的要件への対応も必要となる。戦略に基づいた公開条件や公開範囲ごとに期待できる効果と収益、実際に取り組む場合に顕在化する課題についても整理・検討した上で、APIの利用方法ならびに公開方法を決定していく必要がある。

デジタルビジネスに必要不可欠なAPI

モバイル、IoT、FinTechなどの新しいテクノロジーの活用により、人・デバイス・企業を結び付けたビジネスの価値創造が図られ、デジタルビジネスの取組みが進んでいる。APIの利用に大きな変化をもたらした要因の一つが新しいテクノロジーの活用による環境の広がりであり、今やデジタルビジネスに不可欠な技術としてAPIは位置づけられている。テクニカル面だけを考えれば、APIを使わずに、バックエンドのシステムにアクセスし、必要なデータの連携や外部へ公開することは可能である。しかし、エンタープライズレベルのシステム活用においては、誰が、どのデータに、どのような経路からアクセスしたのかをしっかりと把握するための、アクセスコントロールができなければセキュリティの確保ができない。このようなアクセス制御やセキュリティの観点からは、APIを利用せずにエンタープライズシステムを運用することは実質不可能である。API技術を利用することで、企業のデータガバナンスを十分に保ちながらアクセスコントロールやセキュリティを確保し、必要なデータを適切な相手に適切なタイミングで提供することが可能となる。

最後に

APIの公開を行うことで、企業は自社のサービスを多くのユーザに展開することができる。APIの公開は、一見すると、自社のサービスの競争の源泉となる情報や仕組みを他社に公開してしまう結果につながると危惧されるが、見方を変えれば、他社の情報や仕組みを活用することで、自社だけでは想像もつかないような付加価値を生み出し、自社のサービスの価値や質を上げてくれる可能性がある。重要なことは、APIをただ単に公開するのではなく、公開するAPIの機能を多くのユーザが、さまざまな形で活用できる環境を整備することである。そのためには、機能の独自性、簡易的な活用、活用上のリスク低減などに配慮してAPIを公開することが必要であり、さまざまなサービス機能を安全に提供することで、ビジネスの拡大や新しいビジネスモデルの構築を図ることができ、ビジネス戦略の成功と企業の競争力を強く後押しすることになるだろう。

日本国内においては、独自性の高いクラウドサービスや世界中からアクセスされるクラウドサービスが少ないこともあり、現時点ではマーケットを牽引できるAPIが少ない。しかし、行政も含め国内におけるAPIに対する期待は大きくなりつつあり、コネクテッドカーといった自動車業界の新しい取組みやIoTにおけるデバイスコントロールといった業界を超えた取組みなど、APIの活用は水面下では活発に動き始めている。今後、国内においてもAPIの活用が促進され、企業間における付加価値の高い情報の発信やサービスの活用により、新たなビジネスの創出が実現されるであろう。

ビジネスに不可欠となったAPI(全文) Tech Trends 2018 〔PDF, 2.98MB〕

執筆者

須田 義孝 シニアマネジャー

大手通信キャリア、大手ソフトウエアメーカー、外資系・日系コンサルティングファームなどを経て現職に従事する。主にテクノロジー分野を中心に基幹業務システム設計、ミドルウエア・インフラストラクチャ等の設計等に関わり活動している。

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